取り巻きCと紅はこべ 下
取り巻きC・エリアル視点
エリアル高等部二年秋
前話続きにつき未読の方はそちらからどうぞ
「笑って、良いのですよ」
「似合っているわよ?」
仮装姿のわたしを見て絶句したツェリは、ぶす、とした顔で言ったわたしへそう答えた。
「嘘おっしゃい。どうせ似合いませんよ」
「いえ、本当に似合っているわよ?予想外だったから驚いただけで。よくそれを着ようと思ったわね?」
「やっぱり似合っていないのではないですか。その言葉が出ると言うことは」
ぎゅ、と拳を握り締めて、顔をしかめる。
「信じなさいよひとの言葉を。テオやヴィックにも見せたのでしょう?似合わないと言われたの?」
「まだお会いしていません」
「主催は?さすがに見せたでしょう?」
「素晴らしいと」
「褒められているじゃない」
「お世辞でしょう」
頼んだ手前貶せなかったのだろう。優しさだ。
どうせ似合わないのです……と弱々しく呟いて、わたしは廊下にうずくまった。
弱音全開からこんにちは。ドンマイ泣かないで、人生を夢、ではなくお嬢さまで生きてる取り巻きC、エリアル・サヴァンでございます。
着替えを終えて沈鬱な気持ちでサロンへ向かっていたところ、たまたまお花摘みに出ていたお嬢さまことツェリに出会って絶句されました。
柄じゃないのは、わかっているのだよ!!
深く傷付いたわたしはもう、ここで石になります。
「そんなに似合わないと思っているのに、よく着たわね本当に」
そもそも自分で決めた衣装でしょうにと、もっともなひとこと。
明らかに落ち込んでいるわたしにも容赦しない、そんなところも素敵です。
それでも顔をあげないまま、返す。
「わたしだけ、傷を負わないのは卑怯でしょう」
「傷」
「テオドアさまやクララ先輩に、あんな格好をさせておいて」
いやクララ先輩は、笑って許してくれていたけれど。
「どんな格好させたのよ」
「見てのお楽しみです」
言ってから、ぼそりと呟く。
「帰りたい」
「そこまで嫌なの」
「嫌です」
「あなたは、本当に」
呆れを顔に乗せて、ツェリがわたしの手を引く。
「変なところで律儀ね。良いわ。私が一緒にいてあげるから、サロンで大人しくしてなさいよ。校舎内にいれば、約束は果たせるのでしょう?」
「はい。ですが、」
わたしはサロンに籠るとしても、ツェリを付き合わせるわけには行かない。
「お嬢さまは、自由に回って下さい。みなさまの仮装、見たいでしょう?」
「あなたと一緒にいれば、向こうから来るわよ」
「うっ……」
やはり見せ物は避けられない運命なのだろうか。還りたい。土に。
それに、
「それでも全員は、来ないでしょう?」
いつものサロンは王太子派の縄張りだ。それでも第二王子は来るが、こんな日にまではわざわざ来ないだろう。まだ、校内を回っていた方が、でくわす可能性がある。
わたしのせいでお嬢さまの楽しみを減らすのは、本意でないのだ。
「来るわよ」
「なにを根拠に」
「あなたのその格好」
ぐっと手を引いてわたしを立たせ、ツェリが笑う。
「見ない手はないじゃない」
そこまで嫌がっているなら尚更ねと、浮かべられた笑顔は、まさに悪役令嬢!と称賛したくなるような鮮やかなものだった。
「お嬢さまが虐める……」
「似合ってるって褒めたじゃない」
「似合っていないのはわかっているのですよ」
男子に女装をさせておきながら、自分は無難な格好なんてよくないだろう。そんな、フェアプレイ精神なんて、持つものではなかった。
全力で後悔しているわたしに遠慮なく、ツェリは手を引いてずんずん歩く。
「似合っているわよ。リリアもモーナも絶対喜ぶわ。賭けても良い」
「なにを賭けますか?」
「あなた本当は言うほど堪えていないでしょう」
流し目で胡乱な視線を向けられた。
「もう開き直ろうかと」
気分は罰ゲーム女装なのだ。開き直って楽しんだ方が勝ちの気がして来た。
「あなたはそう言うひとだったわね。まあ、そうね、リリアが喜ばなかったら、」
そこでツェリは、少し言葉を躊躇った。
「今来ている縁談から、相手を選ぶわ」
そうして小声で早口に、そう呟く。
「それは」
「それくらい、リリアの反応に自信があるってことよ。それで?あなたはリリアが喜んだら、なにをしてくれるの?」
「え」
ツェリの発言が衝撃過ぎて、頭が真っ白だ。
「なにも考えていないの?それじゃあ」
わたしの驚きなんて意にも介さず、ツェリは言う。
「リリアが喜んだら撮影会よ。モーナが満足するまで撮られなさい。その顔と髪なら、どれだけ流通しても問題ないでしょう」
「それは、まあ、そうですけれど」
答えて、ふと、気付く。
「そもそもこの格好ならば、リリアが気付かない可能性も?」
「それはないわよ。気付いたじゃない、私が」
「愛ですね!」
「言ってなさい」
話している間に、いつものサロンの前。
扉の前に佇んだツェリが、ふと、首を傾げた。
「普通に戻るのも、芸がないわね?」
「いつのまにそんな、奉仕精神豊かな思考に?」
「行事は思いっきり楽しむべきって、教えたのはあなたじゃない」
言ったツェリがわたしの手から手を離し、わたしの腰を抱き寄せる。
「……いつになくでかいわねあなた」
「靴が、厚底なので」
「格好付かないじゃない。まあ良いわ」
ばーん、と音高く扉を開け放つツェリ。
「帰ったわよ手下共!さあ、新しい獲物よ!!」
朗々と宣言する姿は、まさしく女海賊そのもの。
ぽかん、とした部屋の面々のなかで、真っ先に我に返ったのはレリィだった。
「また、れりぃたちみたいな犠牲を出す気なの!?いったい誰を、って、アルねぇさま!?」
悲劇のヒロインもかくや、と言う迫真の演技は、途中でぶった切れる。
「えー!?可愛い!!なにそれ!!かわいー!!!」
きらきらした顔で、たーっと駆け寄って来た。
「エリアル!?まあ!なんて、可愛らしい!!」
続いたのは、一緒にいたリリアだ。
「御魂さま!なんて幸運を!感謝します!!」
わたしの前に立って、突然祈り出す。
「え、あの」
「賭けは、私の勝ちね」
ツェリが真横で、にんまりと嗤っていた。
「モーナ!」
「なんでしょう」
「私が賭に勝ったから、あなたは今日、エリアルの写真を撮り放題よ!思う存分撮りなさい」
「一生付いて行きます!!」
モーナさまが、くわ!と目を剥いて叫んだ。その手には早くも写真機が握られている。
「賭けって、なにしたの?」
「アルの格好を見て、リリアが喜ぶか喜ばないかで賭けたのよ」
「わたくしですか?」
「そ。喜んだでしょう?」
「はい!!」
わー、リリア、いつにない喰い付きだ。
「なんでそんな賭け?」
「エリアルが、自分の格好、似合ってないって言って譲らないから」
「こんなに似合ってるのに!?ねぇ、アリスもそう思うでしょ!?」
「え、ワタシ!?」
水を向けられたアリスが、肩を揺らしてわたしを見る。
「素直に、似合っていないと、言って良いのですよ?」
そんなアリスに苦笑を返せば、眉を寄せたアリスが答えた。
「アナタにソレが似合わないって、同じ顔のワタシにもコレが似合ってないってことじゃない」
「アリスは似合っていますよ。ちゃんと似合うように作りました」
アリスとわたしでは顔は似ているが、体型も雰囲気も違う。女性にしては長身で、どちらかと言えば華奢ではあるものの、アリスはわたしより肉付きが良いし仕草も女性らしい。サヴァン家の血筋が出て年齢が低く見える顔立ちなので、子供服に違和感はない。
「それなら、あなたにだって似合うでしょう?」
「普段、男装のわたしに、この格好が?」
アリスの服は子供服なので、フリルやリボンで飾っている。色はサヴァンなので黒が主だが、ところどころ白い布を使っているし、真鍮の釦をアクセントにしているので、可愛らしくまとまっている。
対するわたしは、と言えば。
「とっっっっても!お似合いです!!」
「わ」
がし、とリリアに腕を掴まれて、驚く。
「そうよ。似合ってるわ、アルねぇさま」
「リリア、レリィ」
みんな優しいなあ。
苦笑して、自分の身体を見下ろす。
肌は見せられない。色は黒。コルセットで蜂のように締めた腰もない。
"男装の"エリアル・サヴァンに求められた、"女装"。
ならば、と。
普段通り身体を補正したまま、ただフリルとレースを盛りに盛った衣装を作った。
あえて身体を寸胴に、まるで赤子のように見せる、胸下切り替えのワンピース。レースの詰め襟は細かなフリルで縁取られ、ボリュームのあるクラヴァットで飾られている。膝下丈のスカートは、裾周りにフリルを何段も重ねられ、ふわりと傘のように広がる。袖もフリルとリボンで飾られた姫袖に、手元はレースの手袋。足元は、リボンとレースのフリルで飾られた靴下と、厚底のストラップシューズ。
子供服よりさらに幼い、ベビードレスのような服だ。
頭にも、フリルとレースとリボンで飾られた、ベビーボンネット。さすがに短髪は似合わないので、絹鼠色の巻毛の鬘をかぶっている。
服の色が白なら愛らしかっただろうけれど、残念ながら全身余すところなく黒だ。色味の違いや生地の違いで、同じ黒でも表情を出してはいるけれど。
前世で言うならゴスロリファッションだけれど、この世界にその言葉はない。
ただ、貴族の子女向けの愛玩人形はあるので、動く人形の仮装には、見えているだろう。
顔もがっつりお化粧をして、お人形顔を造っている。いつもより二回りほどは、目が大きく見えているのではないだろうか。
女でないのに女装は、趣味でもない限り辛い。同じように、その年齢を過ぎてからの幼い服は、なかなかに辛いものがある。
似た辛さを味わうことで、溜飲を下げて貰おうと思っての選択だ。
普段の理想の貴公子と言う評を、面白くなく思っている層も、この惨事を見れば胸がすくだろう。
と、軽く考えていたのだが、いざ袖を通すと思った以上に羞恥心を掻き立てられる。まして、見るひと見るひと絶句したりぎょっとしたり呆然としたりするものだから、余計だ。
思った以上に、大惨事なのだろう。見苦しいものを見せてしまって、申し訳ない。
依頼主たちもあんなに涙目で、震える声でお似合いですありがとうございますと言っていた。望む出来ではなかったのに、頑張ってお世辞を言ってくれたのだろう。
「リリアとオーリィに言われても、信じないのね」
「みなさまお優しいので」
「本当に」
ため息を吐き、わたしを奥のソファに引き連れながら、ツェリが言う。
「よくそこまで嫌な格好を自分からしたわね」
「もう少し、ましかと思っていたのですが、みなさまの反応がひどくて」
「あなたなんで変なところで鈍いのよ」
「にぶ……?」
なんでもないわと言い放ち、ツェリがわたしをソファに引き倒す。
「いいから今日は、ここで私の財宝役をやってなさい。誰にも渡さないんだから」
「あなたに奪われるなら、喜んで」
「言ってなさい」
わたしが座れば、立ったツェリよりも頭は低くなる。
指先でわたしの顎をすくって、ツェリは悪そうに微笑んだ。
「良い子だから、私を怒らせないことね。この私を怒らせようものなら、いつだって、あなたなんて壊して海に捨てられるのよ」
「海賊と、お人形、良い……!」
「姉上、落ち着いて下さい」
凄い勢いで写真機のシャッターを切るモーナさまを、いつの間に来ていたのか、シスター姿のケヴィンさまがなだめている。
「あら、ケヴィン、可愛い」
「オーレリアも似合っていますよ。アリスも、可愛いですね」
さらりと褒め合うケヴィンさまとレリィを見て、アリスがこちらに目を向ける。
「本当に、女装させたの」
そんなに、どん引いた目を向けないで欲しい。
「ワタシの衣装は、まだ大人しいですよ」
ケヴィンさまが苦笑して、片手でスカートを広げて見せる。普通に立っていると目立たないが、ケヴィンさまのスカートは片側にがっつりスリットが入っていて、動くと下に重ねた真っ白シフォンのプリーツスカートが覗く。
「それで……?」
「ええ。これで」
「ケヴィンさま、そのようなことを思っていたのですか?」
着替え場所では、とくになにも言っていなかったのに。
「ああ、文句があるわけではありません。みなさまお似合いでしたし、ワタシにも、似合うものを選んで下さったんでしょう?」
「もちろんです。みなさまに似合う衣装を考えました!わたし自身のもの以外は」
「ケヴィンは全員見たの?」
ツェリがケヴィンに目を向けて問う。わたしの座るソファの肘掛けに腰掛けて脚を組む姿は、堂に入った海賊船長振りだ。
「アル先輩だけまだでしたが、今見たので、そうですね。みなさま、綺麗でした」
「えー!ケヴィンだけずるい!!誰がいちばん凄かった?」
「そうですねぇ……」
うーんと首を傾げたケヴィンさまが、わたしを見下ろして笑う。
「どなたも綺麗な衣装でしたが、個人的に、興味深かったのは、キューバー先輩、でしょうか」
「ラースさま、ですか?」
興味が引かれたように、リリアが話に加わる。
「ええ。アクス先輩もですが、見慣れない服装でしたので」
「テオはここに来るでしょうけれど、ラースは」
「第二王子が連れて来たら来るわね」
レリィの言葉に、その場を天使が通り過ぎた。
「確かに、第二王子殿下がこちらにやって来ることはありますが」
リリアが取りなすように口火を切る。
「今日はどうでしょう?だって、女装をしていらっしゃるのでしょう?」
「来ないと」
レリィが肩をすくめてツェリを見る。
「ツェリの衣装が見られないじゃない」
「っ、なんで私!?」
「さあ、どうしてかしらあ?」
か、と顔を赤らめて叫ぶツェリに、大袈裟に空惚けたレリィが話は終わりとばかりにわたしの手を取った。
「お人形、ってことは、レリィのお友達よね?今日はずっと一緒に、」
「アル、ここにいるか?」
「お邪魔するよ」
コンコン、と扉を叩いて入って来たのは、テオドアさまとヴィクトリカ殿下。
「テオ!遊ばれたわね」
「っ、ツェリだって良い勝負だろう」
「ヴィック綺麗ね!テオも!でもそれ、寒くないの?」
それ、とレリィが指差すのに合わせて、ついテオドアさまの割れた腹筋を見てしまった令嬢たちが、かあっと顔を赤らめて目を背ける。うん。騎士科だとたまに上裸で水掛け合っていたりするけれど、普通科だとそんなことないものね。見慣れないよね。
「まだ秋だしそこまでじゃない。それよりアルは?いないのか?」
「え?」
きょとん、としたレリィの目が、わたしに向かう。
「テオ、エリアル嬢ならそこにいるだろう」
そんなレリィの視線を追ってわずかに目を見開いてから、ヴィクトリカ殿下がわたしを指差した。
「そこ……?」
こちらを向いて、首を傾げるテオドアさま。
わたしだと気付かないのは、リリアではなくテオドアさまらしい。
「珍しい格好だけれど、そう言う服もよく似合うね、エリアル嬢」
そんなテオドアさまをよそに、微笑んでわたしへ歩み寄って来るヴィクトリカ殿下。
そんなことを気にする方でもないが、周囲にいつもの面子だけではないので、立ち上がって礼を取る。
「お褒めに預かり光栄です、ヴィクトリカ殿下」
「えっ、あ、アル、なのか!?」
ぎょっとしたテオドア殿下は、身長で気付いたのだろうか。
ぽかん、として、まじまじとわたしを見つめる。
「ええ。似合わない格好で、驚かれ、」
「似合ってる!!いや、俺としては普段のアルの方がアルらしくて好きだが、それも「テオ」」
バタタッと駆け寄って来たテオドアさまを片手で制して、ヴィクトリカ殿下が告げる。
「伝言があって、エリアル嬢を探していたのだろう?」
「っ、アル!」
「はい、なんでしょう」
誰からの伝言だろう。
「クララ先輩が探してる。約束してたんだろう」
「クララ先輩……?あ!」
そう言えばハロウィーンは一緒にと約束していたのだった。あまりに似合わない自分の仮装の衝撃で、すっかり忘れていた。
「忘れていました。いけない、申し訳ありませんみなさま、先約がありましたのでわたしは、」
「いたっ!」
「に゛っ」
突然、グンッと持ち上がる身体。
なーつごんにゃー状態に掲げられ、ぎょっとして振り向けば愛らしい衣装で雄々しい身体を包んだ、
「クララ先輩」
「お前約束忘れただろー!来ねぇから探したぜー」
「すみません、うっかり」
「菓子は?」
「用意してあります」
「ならよし!」
ニッと笑ったクララ先輩ことクラウス・リスト侯爵子息は、そのまま、よっとわたしを持ち替えて片腕に座らせた。視界が高い。
「んじゃ、悪ぃけどお姫さまは貰ってくな!」
「あ、クララ先輩、あれ」
このまま連れて行かれては困ると、さっきまで座っていた椅子の横、小さな机を指差す。
そこにあるのは、去年のハロウィーンでも活躍した、黒猫型のバスケットの(改)だ。
間違っても悪戯などされないよう、実は今日ずっとお供に持ち歩いていた。
「お、これが菓子か?なに用意したんだ?」
「内緒です。見てのお楽しみ」
わたしを乗せていない方の腕でバスケットを持ち上げたクララ先輩が、じゃあとっとと移動すっかーと笑う。
細かいことに拘らないこの明るさに、救われるものがどれだけいるだろう。
格好良いひとだ。衣装がディアンドルだったとしても。
バスケットをわたしに持たせると、クララ先輩はそのまま部屋を出て、のしのしと廊下を足速に進む。
誰も彼も、まず目を奪われているのは、ディアンドル姿のクララ先輩だ。そうしてぽかんとクララ先輩をみなが眺めているあいだに通り過ぎてしまうので、その腕に囚われた黒ずくめのわたしになんてさして注意は払われない。
「あの、歩きますよ?」
「慣れない靴だろ。それに」
ちらりとわたしを見たクララ先輩が、わたしにだけ聞こえるような声量で言う。
「足を止めなかったのはオレだ」
このひとは。
騎士科の先輩方は、どうしてこう、優しいのだろうか。
こういうひとに、なれたら、良かったのに。
「あと、お前の逃亡防止な。猫は逃げないように抱えとかねぇと」
「猫ではありませんし、逃亡する気は、」
「本当かあ?これ見ても?」
ゴッゴとクララ先輩に叩かれた扉は、向こうから開かれた。
「あ、見付かったんだぁ。わぁ、ふたりとも可愛いねぇ」
「るー、ちゃ、」
咄嗟に逃げようとした動きを、クララ先輩に止められる。
「ほら、必要だっただろ?逃亡防止」
わたしをがっちり押さえ付けて、部屋へと引きずり込むクララ先輩。
「うっは、すっげぇ格好」
「おいクラウス、仮にも女性にそうみだりに触れるものでは」
「運搬っすよ、運搬」
混乱する頭に、聞こえて来るのは、半年振りに聞く声ばかり。
部屋の中を、見渡せば、
「どうして、みなさま、」
扉の前にはるーちゃんこと、ブルーノ・メーベルト先輩に、ウル先輩こと、ウルリエ・プロイス先輩、ラフ先輩こと、ラファエル・アーベントロート先輩。奥にはゴッドフリート・クラウスナー先輩に、ヨハン・シュヴァイツェル伯爵子息、リカルド・ラグスター男爵子息までいる。
みな、ここにいないはずの、すでに卒業した先輩方。
「クララが、クララとアルが女装するっつーから、見に来た!」
いと爽やかな笑顔でのたまうウル先輩。クララ先輩の腕からわたしを奪い取って、高く抱き上げる。
「なんだよその髪!オレの真似っこか?なんてな!」
「ウル先輩より、暗い色でしょう。似合いますか?」
「似合う似合う!」
そんな顔で似合うと言われれば、髪だけとは言え悪い気はしない。
「ふはっ、スーも来れれば良かったのになぁ」
頭を撫でると崩れそうだからか、わたしの頬をもちりとこねて呟くウル先輩。
「仕方ないよ、祝祭は騎士も忙しくなるからねぇ」
あなたも騎士のはずですが、るーちゃん。
「わざわざ、見物に?」
「いや、仕事だ」
寄って来たラフ先輩が、手を伸ばしてそっとカツラに触れる。乱れていたらしい。
「仕事、ですか?」
「ああ。今はクルタスに王族が二人いるだろう。公爵家の息女や、妃殿下の親族もいる。ハロウィーンは部外者の立入は禁止されているとは言え、みな仮装していて侵入しやすい。警戒が必要とされた」
「でも、下手に学生が顔を知らない一般騎士を入れるとむしろ、部外者への警戒を弛めてしまいかねないだろう?かと言って、近衛を出すわけにも行かない。だから今年卒業したばかりの新人騎士と、演習合宿で交流のある騎士団の団員が、組んで対応することになった」
結果の人員が、ここにいる面々と言うことか。でも、組んで?
「今は休憩中だよぉ。もう少しで終わっちゃうところだったからぁ、エリアルが来るのが間に合って良かったぁ」
ウル先輩の腕を引いてわたしを降ろせて、ほやん、と微笑むるーちゃん。卒業しても姐さんは安定の聖女さまだ。
「ふふ。かわいいねぇ。よく似合ってるぅ」
「え、あ、えと、ありがとうゴザイマス……」
ふんわり空気をまとったまま、にこにこと褒められると、お世辞だとわかっていても照れて、
「お世辞じゃないからねぇ?」
ひぐぅ。
「普段の格好もキリッとしていて似合うし好きだけどぉ、エリアルは優しいから、こう言うふわふわした格好も似合うよぉ」
夏季休暇中に会ったときにも思ったが、るーちゃんは卒業してから背が伸びた。今はわたしが厚底だから視線が上になっているが、普段の靴なら目線が並ぶと思う。
可愛らしい身長でも格好良い姐さんから、可愛らしい身長がなくなったらただの、
「っ、褒め、ても、お菓子しか出ませんよ!」
黒猫バスケット(改)にズボッと手を突っ込んで、掴んだお菓子をズイッと突き出す。今年のお菓子はちびたい焼きだ。中身はカスタードとチョコクリームの二種類。
遠出を禁止されたのを良いことに、リムゼラの街の金物工の見習いさんに協力して貰って、型とあの生地を流し入れるやつから作った。自分用に普通の大きさのものと、大判焼きの型も作って貰った。これで大阪焼きが作れる。
「わぁお菓子だぁ。お魚?」
「褒めると魚を分けてくれるのか、猫なのに。良い子だな。可愛い可愛い」
「猫ではありません!可愛くもないです。良い子ではあります!」
「良い子は認めるんだな。可愛い」
「だから可愛くは」
「んー?可愛いから自信持てって!」
「似合わない自覚はあるのです」
たい焼きを受け取ったるーちゃんに続いて、ラフ先輩、ゴディ先輩、ウル先輩が、心得た!とばかりに口々にお世辞を口にし、たい焼きをせしめて行く。
「あ、ちょっとちょっと先輩方ー?オレが約束した菓子っすよー!」
「減るもんじゃねぇだろ。サヴァンお前、似合ってないと思って着てんのか、可愛いのに」
「いや減ってるっすよ!物理的に!確実に!!」
「ラグスター男爵子息さままでそんな」
言いながらたい焼きを渡せば、悪い笑みを返された。
「サヴァンのくれるもんは変わってるが美味いって、知ってるからな。ヨハンも貰っとけよ。せっかくだから」
「いやワタシは」
「無理に褒めなくても差し上げますから。クララ先輩、ちゃんと多めに作っています」
そもそもちびたい焼きはばら撒き用だ。クララ先輩に運搬されたお陰でまだ中等部生に声を掛けられていないから、在庫は潤沢にある。
なら良いけどさぁーと唇を尖らせるクララ先輩。
ぎゅーっと眉を寄せたシュヴァイツェル伯爵子息が、わたしに歩み寄って来る。
「はい、どう、」
ちびたい焼きを貰ってくれるのかと差し出した腕を、掴まれる。
「仮にも淑女なら褒め言葉は笑って受け取っておけ、過剰な謙遜をするなかえって見苦しい」
「あ、はい、申しわ「それから!」」
反省の言葉の途中で、カ!とさらなる叱責。
「世辞と賛辞の見分けくらい、付けられるようになっておけ。ほかはともかくアーベントロートが、心にもない褒め言葉を口に出来るわけがないだろうが!」
「え、あの、それは」
「お前は普段の自分と違って見慣れない格好だから似合わないように感じるだけで、まあ、年齢に対して幼過ぎる意匠ではあるが、仮装なら問題ない。きちんと似合っている。胸を張れとまでは言わないが、背を丸めるな、みっともない」
本当にこの方、女性だったらツンデレ悪役令嬢の素質があっただろうに。
「あり、がとう、ございます。ええと、よろしければ、どうぞ」
「また変わったものを」
「見た目だけで、味はそう奇抜ではないですよ」
なにせばら撒き用だ。
「さすがヨハンだな」
「ラフ以上にお世辞は言わないからねぇ」
「そこ、文句があるなら直接、「あの」」
この話題を長引かせると火傷する気しかしないので、口を挟む。
「演習合宿で交流のある、と言うことは、まさか」
「いや、さすがにルシフル騎士団からは来てねぇ。あんまり遠いとことかからもな。そうでなくても、祝祭は警備に駆り出されて人手不足だからな」
「それも、そうですね」
ただでさえ年始の騒動で自治座が荒れているところに、フリージンガー子爵の異動で危ういルシフル騎士団から、さすがにこれ以上戦力は削らないか。
いや、待って?
まさか、と言う目をるーちゃんに向ければ、苦笑を返される。
「お察しの通り、僕はフリージンガー隊長の補佐だよぉ。実力が折り紙付きの割に見た目がいかつくないから、ご令嬢相手でも怖がらせないだろうって」
「見た目は、そうですね!」
見た目、だけ、はね!
「クララ先輩」
「おう」
「わたしは今日の放課まで、なにがあろうと、この部屋から一歩も出ません!」
「あーまあ、がんばれよ」
学内のお遊びで終わるはずの女装企画が、まさかそんな形で外に漏れる危機を迎えるとは。
どちらにせよ写真と言う形では漏れるだろうって?写真と実物には、天と地ほども差があるからね!!
「この部屋の隅で、お人形になります!!」
フリージンガー子爵には会いたくない。絶対に、絶対にだ!
宣言すると、黒猫バスケット(改)からクララ先輩用に用意したお菓子を取り出して並べ、そのまま奥の方の、入り口から死角になる位置の椅子に陣取る。もう動かないぞ、絶対に。
「大きさが違う」
わたしが並べたたい焼きを見て、目ざとく気付くラフ先輩。
「特別製なので。中身も違いますよ」
ばら撒き用に用意した、ちびたい焼きと違い、クララ先輩と食べるために用意したのは普通の大きさのたい焼きだ。味もチョコとカスタードだけでなく、王道のつぶあんこしあんに、もちもちの求肥入りや、ホットドッグ風、お好み焼き風まで、さまざまだ。
甘いものを食べると、しょっぱいものも食べたくなるよね!え、ない?
「あ、駄目ですよ、それはクララ先輩との約束で作ったものですから」
「そーっすよ!これはオレの!先輩方はもう貰ったっしょー?それに、そろそろ休憩終わりじゃないんすかー?」
しっしと手を振るクララ先輩。強い。
「言うじゃねぇか」
「そりゃそーっすよ。良いですか?オレとアルは、これから女装を強制された傷を舐め合うんっす!部外者の、それも、仮装すらしてないヒトタチは、出てった出てった!ひと目見せてあげただけでも、感謝して下さーい」
先輩方を容赦なく追い出して、クララ先輩がこちらに駆け寄って来る。
「ごめんな」
「え?」
「まさかこんなことになると思ってなくてさー。来れないと思って自慢したのに」
なるほど。
先輩方自身も言っていた通り、祝祭に騎士の手が空くことはない。だからクララ先輩としては、実際には見られない先輩方への自慢としてわたしの女装のことを話したのだろう。だが、実際はこうして、見物に来られてしまった、と。
「クララ先輩だけのせいではありませんから」
「フリージンガー団長からは、絶対ぇ守るからな!」
「よろしくお願いします」
「ちょっと、ふたりでイチャイチャしないでくれる?」
「パスカル先輩」
先輩方に遠慮してか、遠巻きにしていた生徒たちが寄って来る。騎士科生で、わたしとも交流のある生徒ばかりだ。
騎士科の授業では関わることも多いが、こうして私的な時間に関わることは珍しく、少し新鮮に感じる。
「どうして女装ではないのですか」
「いやいや、選ばれたアルくんやクララはともかく、選ばれてないおれが女装してたら、それはそれでどうなの」
「オレとお前の友情も、その程度だったってことだな」
「だからなんでそうなるの」
苦笑いを浮かべるパスカル先輩は、首に荒縄を巻いている。服装的におそらく、大規模な叛逆陰謀事件を起こして絞首刑にされ晒された男の仮装だろう。
無難だ。とても。
わたしとクララ先輩は、こんな格好だと言うのに。
「アルくんの手作り衣装なんて、貴重だろう。喜びなよ」
「まあそれはそーだけど、それはそれとしてこれ見よがしに無難な仮装をされると不公平感がある」
「はいはい。ほら、せっかくアルくんがお菓子作って来てくれたんだから、ぷんすこしてないで笑って食べよ、って、あれ、これあったかい?作りたて?」
たい焼きの山に手を近付けたパスカル先輩が、驚いた顔になる。
「いえ、それは」
「輸送用保存袋、だろ」
クララ先輩が、黒猫バスケット(仮)を指差す。
「バスケットの中に仕込んでたんだな」
「ええ。と言っても、出来たてで入れたのはここで出す分だけですが」
クララ先輩の指摘通り、黒猫バスケット(改)の(改)部分は輸送用保存袋だ。わんちゃんが作ってくれたやつ。養殖用の型とは言えパイよりは一気に作れないものなので、保存袋に入れれば傷まないのを良いことにコツコツ作って溜め込んでいた。
みんなで食べる用は出来たてのまま入れたけれど、ばら撒き用のちびたい焼きは、すぐ食べない可能性や、チョコレート等の熱に弱いお菓子と一緒にされる可能性があるので、急冷してから入れた。
生地も工夫していて、ちびたい焼きの方は冷めても美味しいカステラ生地だ。
「そうなの?」
「この時期とは言え、傷むと危ないので。温かい方が美味しいものなので、ぜひ冷めないうちに食べてくださいね」
カステラ生地で作れば冷めても美味しいけれど、たい焼きはやっぱり焼きたての硬さとホクホクのハーモニーが良いと思う。
「いろいろ味が違うのですが、もうどれがどれだかわからなくなったので、美味しいものに当たるかは、運です!桃色の器が甘いもの、黒色の器が甘くないものなので、お好みでどうぞ」
「甘くないのもあんの?」
「甘いものを食べていると、しょっぱいものが欲しくなりませんか?」
和風の喫茶店とかだと、ぜんざいやかき氷に塩昆布が付いていたりするから、わたしだけの話ではないと思うのだけれど。
「わかる」
「わからん」
「そもそも甘いもの食べない」
心優しい先輩方が、たい焼きに手を伸ばしながら意見をくれる。
「そーゆーもんかあ」
首を傾げつつ、自分は甘いたい焼きに手を伸ばすクララ先輩。
「クララは甘いもの平気だもんね。おれは珈琲か紅茶がないと辛いな。アルくんは?何飲む?」
「えっ、あ、自分で、」
「今日はお人形なんでしょう?せっかく可愛い格好しているんだから、汚さないように座っていて。持ち寄ったから紅茶以外にも何種類かあるよ。これとか珍しいって」
「ではそれを、ありがとうございます」
「気にしないで。この男だらけのなかに来てくれたお礼だから」
にこ、と微笑んでパスカル先輩がお茶の準備を始める。なんとはなしにその後ろ姿を眺めていると、外野の会話が耳に届いた。
「あれがモテる男の対応だよ。真似出来る気がしない」
「人気あるのに女装させられない男」
「伯爵家から婿に狙われる男はこれだから」
「三男であることを各所から喜ばれる男だもんな」
「俺となにが違うんだと思う?」
「さりげない気遣いが出来てさらっと褒め言葉が言えるとこだろ」
ふむん。仕入れている情報通り、パスカル先輩はおモテになるようだ。
まあ当然だね!パスカル先輩だからね!!
「なんでお前が誇らしげなんだよ」
どや!とほくそ笑んでいたら、同じ会話が聞こえていたらしいクララ先輩が、たい焼き両手にわたしの座る椅子の肘掛けに座る。
「尊敬する先輩が認められるのは嬉しいです」
「お前が親しくしてるからってのもあるからな、パスカルがモテる理由」
「そうなのですか?」
片手のたい焼きをかじって、もぐもぐしながらクララ先輩が頷く。こくりと飲み込んで、美味いなこれ、と呟いた。
「なんかもちもちしたのが入ってる」
「あっ、求肥入りですね!当たりですよ!」
「当たり、ってことは入ってないのが多いのか?皮の硬さと、中身のもったりともちもちが、絶妙に美味いのに」
うんうん。求肥とあんこの相乗効果は偉大だよね。わかるわかる。
「もちもちのは入っていないのが普通ですから」
「へえ。ん、こっちはカスタードか。これも美味いな」
「お気に召したなら作った甲斐がありました」
「美味いよ。ありがとな。ほら、アルも食う?」
ほれ、とかじりかけを差し出されて、条件反射でかじる。
「美味いだろ?」
たい焼き独特の皮の食感。焼けた小麦粉の芳ばしい香り。ホクホクの甘いあんはなめらかなこしあん。もちもちの求肥の食感が楽しい。
美味しいか美味しくないかで言えば、当然美味しいけれど。
「いやあの、わたしが作ったので」
「美味いだろ?」
「美味しいです」
「ん!ほらこっちも」
満足げに頷いて、今度は逆の手に持つたい焼きを差し出して来る。
口に広がるカスタードのコク。あんこに次ぐ王道だ。不味いわけがない。
「美味いな!」
「はい」
「だろー!」
可愛い服で、両手にお菓子持って、満面の笑み浮かべちゃって。
「どうしてクララ先輩が、自慢げなのですか」
「可愛い後輩が優秀なのは、嬉しいからな!」
外野から、さっき聞いたような会話がまた聞こえて来る。
うん。当然、クララ先輩だってモテる。侯爵子息なので余計だ。そもそも人気がなければ、女装させられていないわけだし。
「企画の趣旨的には、籠っていたら駄目、ですよね」
「ん?べっつにいーだろ。見たきゃここ来ればいんだし」
たい焼き二匹をぺろりと平らげたクララ先輩が、あっけらかんと笑う。
「隠してねーし、立ち入り禁止にもしてねーもん。了承したのは用意された服着ることだけで、どこにいろとも練り歩けとも言われてねーし」
「それは、そうですが」
「アル迎えに行ったときに、写真も撮られたからな。あとあと売られんだろー、写真」
やっぱり売られるのか、写真。
いやでも着ぐるみと違って物珍しさもないし、去年ほどは売れないはず。
「まー、なんか言われたらアルはオレのせいにしとけよ。騎士科の集まりに連れて行かれて逃げられなかったってな。実際、抱えて運んで来たわけだし」
もしやそれも含めて、あんな乱暴なお迎えだったのだろうか。
「中等部のやつらが来ても、アルはここで座ってていーからな。せっかく可愛い服だからな。動き回って汚すな。チビの相手なんかオレらに任せとけ。な?」
な?は周りの騎士科生への呼び掛けで、たい焼きをもぐついていた騎士科生たちから、口々に了承の声が戻る。
「美味い手作り菓子のお礼代わりだからな」
「むさ苦しい騎士科の花だしな」
「クララだけだと事故だもんな」
「つかこれまじで美味い」
「うん。美味しい」
「前線は防衛しといてやる」
「お前の菓子も代わりに配っとく」
「任せとけ」
国殺しの作った見慣れないお菓子を疑いもなく食べ、国殺しのために働いてくれる、と。
「はい、アルくん」
呆然としていたわたしの手に、温かいカップが渡される。
「ありがとうございます。……美味しいです」
パスカル先輩が入れてくれたお茶は、ルイボスティのような優しい味がした。
お腹と心が温まる、優しいお茶だ。
「クララ先輩、パスカル先輩」
「ん?」
「どうかした?」
「わたし、騎士科に入って良かったです」
唐突な言葉に、大好きな先輩たちは破顔して、
「「こっちの台詞だよ」」
声を揃えて言った。
「アルくんの以外にもお菓子あるよ。なにが食べたい?」
「ほらこれ、オレのオススメなー」
にこにことわたしの左右に陣取って、クララ先輩とパスカル先輩は笑う。
「周りのことは頼れる先輩と同輩がどーにかしてやるからさー」
「今日はアルくんは、めいっぱい楽しみなよ」
ほんとに、騎士科の先輩は格好良い。
今日くらいは、お言葉に甘えても良いだろうか。
「ありがとうございます」
騎士科生は有言実行で、それからわたしは誰ひとりとして来客の相手をすることなく過ごし。
しかしひっきりなしに訪れた来客は、わたし宛にとクッキーやお菓子を奉納したらしく。
「輸送用保存袋で良かったな、それ」
「どうしてこうなったのですか」
中等部生が帰る時間には黒猫バスケット(改)の中身のちびたい焼きはすっかりなくなり、代わりに大量のクッキーといろいろなお菓子で満載になっていた。
「遠目に一目見れただけでもありがたいって」
「わたし、お寺の本尊がなにかだったでしょうか」
「オテラノホンゾン?」
「あ、いえ」
首を振り、机を見る。さすがは男子高校生の食欲か、大量に用意していたたい焼きは、すっかり食べ尽くされていた。
去年と同じく、クッキーは責任を持って自分で食べるけれど。
「クララ先輩、まだ食べられますか?」
「んー?まだいけるぜ?」
「では」
黒猫バスケット(改)のなかから、クッキー以外のお菓子を出して並べる。
「第二部と行きましょう。こんなにお菓子ばかり食べられないです。手伝って下さい」
クララ先輩が、爽やかな笑い声を上げ、その眩しい笑顔のままで頷いた。
「任せとけ」
騎士科の先輩は、ほんとうに頼りになる。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
10日って何日だっけ?1ヶ月?
お待たせして申し訳ありませんでした
一瞬このまま10月31日まで更新しない手も
あるのではないかと考えかけたのは内緒です
エリアルさんの仮装
未だにこれで良かったのか……?と
悩んでいるのですが
いかがでしたでしょうか
実は元々はラースさんが中華風で
エリアルさんが和服の予定だったのですが
作中エリアルさんが語った通り
自分だけハードルの低い服はよくないなと
一年生のときは思いっきり自分だけハードル低くしていたのですがね!あれは身内だけだったので!
次話を少し悩んでいるので
また投稿に間が開く可能性が高いです
出来るだけお待たせしないようにしたい気持ちは大いにあるのですが
遅筆な作者で申し訳ありませんが
続きも読んで頂けると嬉しいです