取り巻きCと黒いアレ 問題編
取り巻きC・エリアル視点/三人称視点
Gは出て来ません←
エリアルが中等部三年のときのお話
解答編は明日投稿予定です
ごめんなさい
前後編な上にネタ回ですm(__)m
「…と言うことで、良いわね?」
「良いよ」
「良いですわ」
「恨みっこなし、だよ!」
「ああ。正々堂々行こう」
「負けませんからね」
その日、エリアル・サヴァンの預かり知らぬところで、とある会話がなされた。
至福の時を目指して戦うことを誓った彼らは、一斉に動き出す。
彼らの思惑に、エリアル・サヴァンが気付くことは、ない。
「…名前を言わずに欲しいものを伝える遊戯、ですか?」
「そう。今一番欲しいものを思い浮かべて、それについての質問に答えるんだ。嘘はだめ。勝ち負けと言うより説明力や想像力を鍛える遊戯なんだけど、なんだか面白そうでしょう?」
殿下にそう言われて、わたしは首を傾げた。
なんだか、小学校の授業とかでやりそうな遊びだな。
「頭は、使いそうですね」
「でしょう?だから、ちょっとやってみようと思って」
やるのか。
どうやら遊戯をやることになりそうだと、わたしは周囲を見回した。
会話からこんにちは、ツェリさま第一忘れずに、取り巻きCことエリアル・サヴァンです。
今日お集まりなのは、いつものごとく悪役サイドオールスターズだ。
中等部最終学年に上がったおかげで、アーサーさままで揃い踏みである。と言ってもこうして揃える状況も、残り三月足らず、わたしたちが高等部に上がるまでの限られた期間で終わってしまうが。高等部に上がれば次、アーサーさまが同じ制服を着るのは、ゲーム時空になったときだ。
遊戯をやること自体は構わないけれど、なぜ突然、と首を傾げていると、ツェリがわたしの横に立って言った。
「高等部からはまた、ともに学ぶ生徒が増えるでしょう?高等部からクルタスに来る生徒たちが、早く学院に馴染めるように、何か交流会をしようかと考えたのよ」
「で、簡単に出来て、かつ親睦も深められることがないか、いろいろ考えているところだ」
「それで、遊戯を?」
「そう。この方法なら会話せざるを得ないし、相手のことを知るきっかけにもなるでしょう?でも、うまく行かなくても困るから、とりあえず試しに私たちでやってみようと思ってね」
確かに、初等部や中等部からクルタスで友人も先輩方の知り合いも多い内部生と、高等部からクルタスに入る外部生とは、少し隔たりが出来がちなのは事実だ。
現に、中等部でも初等部上がりと中等部からの生徒で、別グループになっている場合が多い。
わたしたちの学年はツェリや殿下たちのおかげがそうひどくはないが、例えばひとつ上の学年などは完全に分断されていたと言う話だ。
はじめに交流を持つ場を作ろうとするのは、良い考えだろう。
殿下やツェリが主体になるなら、少なくとも内部生は、協力してくれるだろうし。
「良いですね。そう言うことでしたら、ご協力いたします」
「助かるよ。ありがとう」
わたしが頷くと殿下は笑顔を返し、心なしか、他の面々も…安堵?なぜだろう?
三度首を傾げかけたわたしの手を取って、オーレリアさまが微笑んだ。
「ただその場で当てるのではつまらないから、勝負しましょうよ!全員がそれぞれ欲しいものを説明して、自分以外の欲しいものを当てるの!一番多く当てられたひとが勝ちよ!」
「楽しそうですわね。でも、すぐに答えが思い付くか心配ですわ」
オーレリアさまを微笑ましく見下ろしたリリアが、思案するように呟く。
「それなら、欲しいものを考えるのは宿題にしたらどうだ?今日、説明を聞いて、そうだな…三日間答えを考えて、三日後に答え合わせをするとか」
え、これ、三日もかけるようなことじゃないと思いますけど…。
テオドアさまの意見にどん引いたのは、どうやらわたしだけのようだった。
「良いわ!そうしましょ!みんなも、それで良いわよね!」
「実際に交流会でやる場合はその場で答えることになると思うけど、まあ、今回は試しだから良いかな」
「もちろん、三日の間に追加で質問したり、お互いに相談したりはなしですよね」
「三日頂けるなら、答えも思い付けそうですわ」
マジですか…。
最後の希望と目を向けたツェリが、微笑んで口を開く。
「勝負と言うなら質問数や欲しいものの内容も揃えましょう。ひとりに対して出来る質問は二つまで。回答者は二回まで回答拒否可能、欲しいものはひと以外のものに限る、時間や無形物は却下、でどうかしら?」
ツェリも乗り気だった…。
こんなに乗り気かつ本気な面子の中で、もっと軽くやりましょうよとは言えるわけもなく、わたしは小学校の道徳の時間でやるような遊戯を、三日もかけてやることになった。
回答順はクジで決めて、わたしは最後になった。
すでに殿下、リリア、ツェリ、テオドアさま、オーレリアさまと回答を済ませ、今はアーサーさまが答えているところだ。次がわたしの回答順なのだけれど、
やっぱり、三日もいらない。
殿下は馬、リリアは花の種、ツェリは本で、テオドアさまは剣、オーレリアさまはお菓子で、アーサーさまはどうやら、手風琴が欲しいようだ。
どれも本人の人柄や、趣味を知っていれば想像できてしまうもの。
これ、知り合い同士だと難易度下がるのだな。
これでは勝負にならないのではないだろうか。
そうのんびり思ってから、自分の欲しいものについて考えていないことに気付いた。
やばい、このままだと、答えられない。
慌てて考えるが、今いちばん欲しいものはツェリの幸せで、それ以外に欲しいものなんて…。
あえて言うなら末期の和食欠乏症に陥っているのだが、あれもまた無形文化遺産だ。ものじゃない。そもそも、この世界に存在しない。
ああ、和食なんて考えたから、もう和食のことしか考えられなくなった。
辛うじて、お米はあったけれど、他が全く手には入らないのだ。
何しろ無形文化遺産に指定されるほどの個性派な食文化だ。旨味調味料なんて、探しても見付からない。ああ、黒々として愛しいアレが、せめて手に入ったら…!
「次は、アルね」
わたしが和食、特に黒いアレに意識を飛ばしている間に、とうとう順番が来てしまったらしい。
え、やばい、まだ考え付いてないって、なのにあの黒い子のことしか考えられないよもう…。
「じゃあ、私から質問しようかな。色は?」
「黒です」
あ、終わった。エリアル・サヴァン終了のお知らせ。
黒いアレに恋い焦がれるあまり、殿下の質問へ、どきっぱりと黒だと答えてしまい、焦る。
いや、待てよ…?
ないものを答えれば、答えはわからないだろう。
うまくはぐらかして回答し、貰った答えの中から適当なものを選ぶ、もしくは正解を教えない、と言う手もあるはず。
どうせ、他に思い浮かばなかったのだ。べつに他愛ないお遊びなのだし、いっそ黒いアレについていかに黒いアレだと気付かれずに回答出来るかと言う、新たな遊びにして楽しんでしまおう。
「黒ね。大きさは?」
「加工次第ですね」
「加工品、か」
殿下が考え込むが、殿下のターンはここまでだ。
バトンタッチして、次の質問者はリリアだ。
「加工品…綺麗なものでしょうか?」
「わたしは綺麗だと思います」
和食は芸術だからね。と言うか、今目の前にアレが現れたら、持てる言葉の限りを尽くして褒め称えられると思う。
「綺麗な、加工品…作るのは、難しいものですか?」
「とても難しいです」
わたしには不可能だ。作れる人は偉大。尊敬する。
リリアに代わって、次の質問者は、オーレリアさま。
「香りはあるの?」
「香りの良いものが好まれますね」
あの、食欲をそそる香りが堪らないのだ。ああ、食べたい…。
「持ち運べるもの?」
「持ち運ぶことは出来ますが、持ち歩くものではないですね」
マイマヨやマイふりかけなら聞くが、アレはさすがに持ち運ばないだろう。
ふふ。今までの質問から言って、食品だとはばれていなそうだな。
アーサーさまが難しい顔をして、質問して来る。
「何に使うものですか?」
「ひとを幸せにしてくれるものです」
はぐらかした回答だけれど、本当に、手に入ったらわたしがこの上なく幸せになれるものだ。
そして、美味しいものはひとを幸せにする。
それにしても、わたしが変なものを選んだからだろうか。
今回はみな、質問に困っているみたいだ。
「アルねぇさま自身が、使うものですか?」
「今は使っていませんが、ええ、わたしが使うものです」
手に入るならぜひとも使いたい。そして食べたい。
「今は使ってないって、持っていないものなのか?」
「似たものは持っていますし使ってもいますが、それそのものは持っていませんね」
手に入るもので同じ味を再現しようとして、無理だった。
スパイスや油、肉や野菜は豊富に手に入るのに、魚や海藻、和食系の味付け材料は、ほとんど手に入らないのだ。豆腐もないし、味噌もない。きのこと言えばマッシュルーム、魚はフライにするものだ。
恋しくなるのは豆腐に納豆、生魚に生卵、各種きのこに干物、海藻類。深刻な、旨味欠乏症に悩まされる。
貴族の学校だけあって料理は確かに高品質だけれど、違うのだ。わたしが食べたいのは、コレジャナイ!!
「手に入りにくいものなのか?高いとか?」
「…それ、質問二個だと思いますけど、まあ良いです。手に入りにくいもので、値段は詳しくありませんが、恐らくそれなりに値の張るものでしょうね」
たぶんこの世界には存在しないもので、あるとしても輸入品だろう。輸送費が馬鹿にならない。
今までの回答を振り返り、見事にわたしでも黒いアレにはたどり着けそうもない回答を返して来れたと自負する。
いったい何が欲しいのかって?当ててみてよ。
答えの当てが付いたひとはいないらしく、全員の視線が最後の質問者、ツェリに向かった。
視線を受けたツェリが、困った顔でわたしを見る。
「そうね…。加工品なら、材料は何かしら」
「材料…いくつか使われますから、その中のひとつだけでもよろしいですか?」
「ええ。それで良いわ」
材料、食品だとわかりにくい回答をするなら、
「でしたら、材料のひとつは植物ですね。木か草か、それが主な材料かは、ご想像にお任せします」
木か草かとか言いつつ、正解は種子だったりするけれど。
まあ、嘘は言っていない。
「…あなた、当てさせる気、ないでしょう」
「それが最後の質問ですか?」
「…違うわ」
ツェリの睨みに笑みを返すと、溜め息を吐かれた。
「最後の質問は、私の興味で訊くわ。もし、誰かがあなたにそれをくれたら、あなたはどんな反応をするの?」
「えっと…」
もし、貰ったのが前世なら、ラッキーくらいにしか思わないと思う。普通に、スーパーでワンコインだ。
でも、
「それは、今貰ったら、と言うことですよね?」
「そうよ。今、誰かがくれたら」
今、愛しの黒い子に恋い焦がれ、飢え渇いているときに、貰ったら、
「熱烈なハグとキスを、お見舞いしてしまいそうですね。引き換えになんでも言うことを聞く、くらいは言うでしょうし、うっかり惚れてしまうかもしれません」
うん。我ながら変態的。
ガタッ
ガチャン
げほげほっ
部屋のあちこちから動揺による粗相の音が聞こえて、ぶっちゃけ過ぎたかと慌てる。
ごめん、愛しのアレ。わたしの愛は重いみたいだ。
「あ、いや、それくらい嬉しいって話で、実際には、ちゃんと自重しますよ?親しいひとならともかく、誰彼構わずそんな蛮行は、しないです」
「親しい相手ならするのね」
「いえ、感極まって抱き付くくらいですよ」
大袈裟じゃなく、本当にそれくらいはしてしまうと思う。
それくらい、和食に飢えているのだ。
ご飯とお塩でおにぎりは作れても、海苔がない。鮭がない。梅干しがない。昆布も、おかかも、たらこもない。
白米のおにぎりに感動しつつ、焼き海苔が欲しいと泣いた。
今はエリアル・サヴァンなのに、前世の味覚に引きずられるのは良くないと思いつつ、どうしても、やっぱり恋しくなってしまう。
食にうるさい日本人だったことが、災いしているのかもしれない。
マヨネーズくらいなら自力で作れたが、和食の調味料は乾燥や熟成が必要なものが多い。そして、材料が手に入らない。もし麹菌が手に入るなら、自力で味噌を作るくらいの欠乏具合だ。
「俺やヴィックにも抱き付くのか?」
「え?いや、実際その場に立ってみなければわかりませんが、可能性は高いかと」
なんでこんなに、わたしの反応を気にするのだろう?
そんなに、変わった喜び方だろうか?
令嬢としては、少し慎みが足りないかもしれないけれど。
「…私相手に、抱き付いて喜んでくれるんだ」
「あ、申し訳ありません、失礼ですよね」
「いや?そんなに喜んでくれるなら、あげる側も嬉しいだろうね」
気持ちとしては、砂漠で水を貰うくらいの気持ちだからね。
命の恩人!くらいの喜び方はします。
でも、殿下やテオドアさまに抱き付くのは、やめた方が良いかな。不敬だし、お嬢さま方の目が怖いわ。
ツェリやリリアなら笑って許してくれるし、アーサーさまやオーレリアさまからはいまだに良く抱き付かれているから、その辺なら抱き付いて良いと思うけど。
と言ってもそもそも、黒いアレを貰うシチュエーションがあり得ないだろうけど。
「そう言って頂けるとありがたいですが、やっぱり突然抱き付くのはだめですよね。礼節をもって対応しないと」
「れりぃになら、いつでも抱き付いて良いのよ?」
「わたくしも、喜んで受け止めますわ」
オーレリアさまとリリアが、取りなしてくれる。
女の子の友情は、スキンシップ過多でも許されるから良いよね。
「私も気にしないわよ?公衆の面前で跪かれるよりマシだわ」
ツェリが言って、ぱん、と手を叩いた。
「さて、全員が質問に答えたから、今日の遊戯はここまでね。答え合わせは三日後。嘘やずるはだめよ?」
やっぱり三日かけるのか。
苦笑を漏らしつつも、反論はせずそのまま解散になった。
ひとり立ち去ったわたしは、知らなかった。
わたしを除いた悪役たちが、ひっそりと会話を交わしていたことなんて。
「ツェツィーリアさま、とんでもない発言を引き出しましたわね…」
「あら、やる気、増したでしょう?」
リリアンヌの言葉に、ツェツィーリアが笑って返す。
「黒くて良い香りがして、ひとを幸せにする加工品、ね…」
「明らかに、当てさせる気なかったな」
「良いんじゃないですか?みんなで同じものになっても、困るわけですし」
ヴィクトリカとテオドアの会話に口を挟んだアーサーが、ふと、意地の悪い笑みを浮かべる。
「正解を用意しても、ヴィックとテオは抱き付いて貰えなそうですけど」
「れりぃは抱き付いて貰えなかったら、自分から抱き付くよー!」
オーレリアが、無邪気にアーサーに抱き付く。
ねー、と笑みを交わす幼少組に、テオドアが舌打ちした。ヴィクトリカも、黒い笑みを浮かべる。
「…年下で可愛がられてるからって」
「アーサーの場合、それが許されなくなる日も近いんじゃないかい?」
「大丈夫ですよ。僕は、素直で人に触るのが好きな子って、思われてますから」
アーサーが笑顔で大人気ない嫌味を切り捨て、ツェツィーリアがとどめとばかりに言った。
「素直じゃないから、私の婚約者候補扱いだものね、テオ。殿下は王族だからって、完全に壁を作られているし。その点アーサーは、巧く取り入ってるわね、さすが私の弟、かしら?」
テオドアが、がっくりと頭を抱え、ヴィクトリカが目を逸らす。
「…っそれを、今回で挽回しようとしているんだよ」
「ええ。頑張って」
にこっと笑って言ったツェツィーリアだったが、すぐにその顔を崩して考え込んだ。
「けれど本当に、難問なのは確かね。まさかアルが、あそこまで本気で隠そうとするとは思わなかったわ」
「隠されるかも、とは、思ったのですか?」
「あの子になにが欲しいか訊くとね、必ずこう答えるの。ツェリが幸せで笑っている未来さえ手に入れば、ほかには何も要りませんって。だから欲しい“もの”に限定したのだけれど」
あんなに欲しがっているものがあることも、それを知られるのを嫌がっていることも、知らなかったわ。
「…エリアルは、あまり、多くを望まない方ですからね」
「それでも、負けるつもりはないけれど」
「あら、わたくしも、負けませんわ」
「れりぃも負けないよー!」
女子陣が、負けないと意気込みを交わし、
「…俺だって、負けるつもりはない」
「勝つのは、僕です!」
「私も、負ける気はないな」
男子陣が拳を握って気合いを入れた。
水面下で行われる戦いに、エリアルが気付くのは、三日後の話。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
黒いアレの正体と
ツェリたちの画策について
予測を立ててから
次を読んで頂けると嬉しいですー(*´∀`)