拝啓 冒険者見習い
「帰れないの!?」
小部屋に響く悲痛な声。
俺がいるのは居間。昨日夕食を頂いた場所だ。
俺がクナイをみて思わず『かえりた…クナイ』と言ってから30分はたった。
目の前にいるエイミーとベスが申し訳なさそうな顔をしている。
「いや~だってね。トッキーも、ねぇ」
エイミーの声を聴き、思わずベスのほうに向きなおす。
悪いと思ったのが俺を泣きそうになり、謝りだす。
「…………ごめんなさい……」
「ん~~可愛いベスは悪くないのよ。トッキーが帰りたくないっていったのは本当なんだし」
「まー確かに俺も悪いんだけど」
「ね、ほら。トッキーもああいってるし」
「んでエイミー……俺が帰る魔法とかもうないの?」
「この契約を無効にする手続きならあるんだけど……」
「んじゃそれを」
「もう、最後まで話を聞く!魔法協会までいって解除の魔法をかけないとダメなのよ、片道ニヶ月」
「げ……」
申し訳なさそうにいうエイミー。
二ヶ月って、あっちじゃ普通に行方不明で事件になるし、留年じゃねーか。
心の中で同級生が高笑いしながら先輩になっていく姿が様々と浮かぶ。
「私達だけならもっと速いんだけど、本人もいるのよね。ああいう本部って」
「何処も彼処もお役所仕事かよ!」
「……そういうこと……」
「私達の落ち度でもあるし、本部まで行くなら勿論護衛と案内で付いてくわ」
「……ついてく……」
テーブルを両手で叩き、此方に身を乗り出して言ってくれるエイミー。
思わず目頭が熱くなる。
と、ともに、視線が服の隙間の小高い丘へ向かう。
あ、みえ……
殺気を感じて、視線を上げると可愛い顔をした鬼が木の器を振りかぶっていた。
「真面目な話をしてるのに」
頭にコブを作った俺はエイミーとベスとこれからの事について話していた。
「まず最初にベスはお留守番」
泣きそうになるベス
「無言で訴えない。村に魔女が居なくなったら村が困るでしょ」
「何で困るんだ?」
「いい、トッキー簡単にいうと、魔力を持った人間が、村を様々な外敵から襲われないように守ってるの。それが居なくなると、わかるよね」
「村が魔物に襲われるっと」
「良く出来ました」
「……でも……ん……わかった。ねーさまの分まで守る……」
「んー可愛い!頬擦りしちゃお」
頬擦りしてるエイミーを見つつ質問してみる。
「ベスだけで村って守れるのか?」
「もちろんよ、戦闘術に関しては私より上よ。村中心までいけば戦える人も多いしそれに関しては大丈夫よ」
「問題はトッキー貴方よ。正直に答えてね」
「俺?」
「馬は乗れる?」
「乗れません」
「剣は使える?」
「使えません」
「手裏剣は使える?」
「投げた事ありません」
「格闘技は出来る?」
「出来る体に見えますか?出来ません」
「医療や傷は治せる?」
「添え木程度なら」
「20キロの荷物をもって走れる?」
「2時間も歩ければいいほうと思う」
「…………」
「…………」
「ま……魔法は使える?」
半端やけになっているのだろう、出来ない事が分り切っている事まで聴いてくる。
「使えない」
重苦しい空気の中でベスだけは普通のようだ
「……ねえさま。とっきーを埋めちゃおう……問題……かいけつ」
「それもいいわね……」
「まって!見捨てないで! 」
必死になってすがりつく、そもそも現代日本人に馬術が得意で剣や格闘技もできて医療に精通してどんな荷物も持って走れる奴の方がおかしい。
「冗談に決まってるじゃない」
冗談にしては二人とも目が本気に見えるんですけど。
「馬は乗りながら覚えるとして、明日から一週間基礎を練習しましょう」
「直ぐ出発は……」
「無理。いくら私が付いていくからといって、何かあるかわからない。自分の身は自分で守るぐらいじゃないと、万が一があるわ」
「それに……」
「ん?それに……?」
「それに、こんな形になったけど折角出会えたんですもの。トッキーには死んでほしくないわ」
顔を紅潮しながらいうエイミーをみて彼女いない暦十二年。惚れてしまうやろー!と思いながら質問する。
「俺に惚れた?」
その日俺の頭に今日二度目のたんこぶが出来た。
その日の昼から俺の稽古は始まった。まずは子供達に混じって短剣、ショートソード。その練習からはじまった。
ゲームで見るショートソードはロングソード系よりも弱く殺傷能力もないか、実際は違った。
1日目の昼は木の人形に棒を叩く練習、夕方には小学生ぐらいの子供に混じりながら刺し方などを教わった。
「あ~あ。ゲームなら旅立ちは直ぐなのになー、これはきつい」
「そういえば昔一週間で勇者に仕立て上げる漫画あったな」
「ぼやかないで俺も頑張るか、二人とも親身にしてくれるし」
二人はというと、エイミーは麓の町にある長老の家に行って挨拶。
ベスのほうは携帯保存食などを作ってくれてる。
子供達も数時間一緒にいるだけで仲間扱いをしてくれた。子供って素直だ。
特に俺をおっさん呼ばわりしてくる子供が剣の構え方などを熱心に教えてくれた。
2日目にはロングソードを試したけど、あまりの重さに断念。
お昼になろうかという時に。エイミーに誘われ一緒に麓の町まで行き、俺に合う革の鎧を見てもらう。
「いやぁ、トッキー案外鎧が似合うね~。冒険者みたいだよ」
「そっかなー」
満更でもない顔で答える俺。褒められれば嬉しいもんだ。
道具やでの帰りに店主にエイミーに見えないように笑顔で親指を立てられた俺は無言で親指で返した。
どうも町では俺の事が噂になっているのか皆みてくる。
しってかしらないかはわからないか、それにまったく触れてこないエイミー。
帰り際の町外れ、思い切って聞いてみる。
「なぁエイミー」
「なーに?」
「俺の事町で噂になってる?」
「まぁね。私の事も入ってるけど」
「どんな?」
「ん~北の魔女、転移者と駆け落ち。転移者を食べ、永遠の若さ。魔女を手玉に取る男。姉妹の三角関係。魔女と恋人。守護騎士の転移。勇者の末裔などなどなど」
「ゴシップじゃねーか」
「町の人も憎んで言ってるわけじゃないし、殆どの人は好意を持ってくれてるわ」
「でもさ~酷くない?」
微笑ながらいうエイミーを見て言葉が止まってしまう。
「ここ最近は何処も嫌な事が多いからね」
「多かれ少なかれこんな田舎でも人は死んだわ、それを防ぐために同じ力を持った私達や貴方みたいな人がいるのよ」
「俺?」
「そう。成り行きでここに居る時貞だけど何か意味があるのかなって思うのよ。普通に考えてあんな事故はおきるわけないし」
「私達姉妹は両親が居ないのよ。ただ、力だけはあった」
「力を持つ者と持たない者の差は中々埋まらないわ、家にきてる子供達だって両親が居ない子ばっかり」
「両親がいる子供は北の魔女の所には行かせないわ。例外もあるけどね」
たんたんと喋るエイミーに何も言えなく付いていく。
もうすぐ家が見えてくると。エイミーが振り返る
「はい。そんな顔しないの。難しい話はおっしっまっい。さっきの噂話だけど、一つぐらいは本当かもね」
「え!」
「さ~て、今日の修行はまだ続くわよ~トッキーには辛いかな~」
質問には答えてくれなく話しをするエイミー。
「おう!期待にこたえる様にドンとこいだ!」
その夜は酷かった、ベスが用意した野うさぎを生きたまま殺して料理するという手順を見せてもらった。
『明日は……君のばん……』そう言われた俺はあのつぶらな瞳にうなされた。
お肉は美味しかったです。




