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拝啓 後始末

 大勢の人間が山を駆け上ってくる音が聞こえる。

 俺は斉藤さんとミラーの為になれない手つきで穴を掘る。

 斉藤さんの遺体は森の中で木に寄り添っていた、ミラーがそこに連れて行ったんだろう。

「敵か……」

 こんな事をした奴らが憎いが、いくら強くなったからと言って多人数に勝てる気はしない。

「こうなったら、一人でも多く倒して散りますか」

 何故か笑いが出る。

 地面に突き刺した剣を抜きそっと物陰に隠れる。

 数人の兵士が辺りを見回し、その後ろから俺の知ってる爺さんの顔を見つけたのでった。

「あーあー、速見君。速水時貞君はいるかねー」

 数十人の兵士を引き連れ先頭に立つ爺さんは大きな声で俺を呼んでた。

「協会の爺さん!」

「本当に此処にいるとはな、ワシはお前さんに会うのは初めてじゃが、お前さんはワシを知っているのだろう?」

 俺は急いで爺さんの前に進んだ。

 爺さんはミラーの遺体の前で黙祷をしている、俺もその場で立ち尽くす。

「さて、お前さんが速水時貞で間違いないな」

 質問というよりは答えあわせをしてる感じだ。

「実話な、未来のワシから手紙が届いた。この場所にいるお前さんを助けてやってくれと」

 俺達二人の周りでは爺さんの連れてきた人達が生存者を探している。

「して、その手紙に関しては色々相談したいが、なんせ時間がない」

 はっとして上空を見る。

「ここら一体は古代竜に焼き尽くされるらかの」

「一班生存者確認できません」

「二班も確認できません。地下より荷物を発見回収しました」

「三班森の入り口で冒険者風の男を発見しました、救助に当ります」

 次々に報告される。

「よし、ワシの個人的な作戦も終った!志願してくれた者に感謝をする。緊急撤退開始」

 アルムの爺さんが兵士を見送った後にミラーの頭をそっとなでる。 

「まったく頑固な娘じゃったわい」

 俺に餞別でくれた同じ短剣を手にとり髪を一握り切る。隣の斉藤さんの髪も続けて切る。

「骨は持っていけそうにもないからの~」

 泣きそうな顔で喋る爺さん。

「さて、ワシらも逃げるぞ。お前さんが未来でワシをみてるんだ」

「ワシは生き残るが、お前はわからん。はよ行くぞ」

 さっさと先にいく爺さんを追いかける。一度だけ振り返り『行って来ます』と呟いた。

  

 森の入口には個室タイプの馬車が用意されていた。

「こちらへ!」

 数人の兵士に進められ俺と一緒に馬車に乗り込む爺さん。

 馬車の中は二人っきりだ。

「いやいやここ最近は驚きの嵐だわい」

 俺のほうに両手をだし指を折りながら説明してくれる。

「長年家を出て行った娘が帰ってきたと思ったら妊娠していた。と思ったら既に孫を産んでいた」

 いきなり二本の指を折る

「旦那は移転者でプーだった。職に就いたと思ったら謎の組織のリーダーなっていて協会と手を組みたいと言って来た」

 さらに三本を折り、既に五本だ。

「娘のほうは、二人目の孫を産んだら『あとはよろしく』で出て行くしの」

 六本目。

「協会内で義息子が作った武器が貴族側に横流しされていると手紙で知って七本目」

「次に来た手紙には、未来のワシからの手紙。内容は言わずもなが」

「娘夫婦の死、街の崩壊。未来の組織図。街が崩壊した時に出会うであろう孫娘の恋人の回収。その恋人を未来に帰す願い」

「ありゃ十本越えちまったわい」

「わし一体どうしたらいいと思う?しかも後半はこの数ヶ月の間じゃよ?六十年ぐらい寿命縮んだわい」

 悲しそうな顔をして問いかけてくる。

 何年生きるつもりなんた、しかし、なんていって良いか言葉が出ない。

 『ご愁傷様です』なんてかけたら馬車から落とされるだろう。

「も……問題を一つ一つ解決していくしか」

「うんうん。そうじゃの」

「残った問題は少しじゃ。既に貴族側に貴族側に付いた協会内部の奴は既に捕まえた。街の崩壊に当って救助隊を組み少しでも助けに回った。それでも時間がまったくないんじゃがの」

「未来のワシからの手紙で、指定された場所にいくと。可愛い娘夫婦は死んでるし、可愛い可愛い孫に未来から恋人がそこにいるから保護してやってくれって、孫はまだ十歳に二歳だぞ!まぁこれも今終ったわい」

「ワシの苦労も少しは知ってほしいんじゃ」

 優しい眼をして最後に俺を見詰めてくる。

「娘と義息子が選んだ男だワシも手を助けるわい」

 並走している兵士に窓を叩かれる。

「アムル様!東の上空に雲が集まってます」

「こりゃ予想より速い全部隊に連絡すんだ、撤退を急げ!」

「は!」

 窓を閉め離れていく兵士。

 心配する俺の顔を見て微笑む。

「古代竜はな、破壊ももたらすか再生も司るのよ。召喚した奴がどちらを目的で出したかはわからんがな。しかし、それほどの魔力をもっていてもったいない事じゃ」

「あの!俺にも何かできる事は?」

 真向かいにすわっているアルム爺さんに聞いてみる。

「ワシらに今できる事は終った」

「お前さんも少し休め。酷い顔をしてるぞ」

 アムル爺さんは馬車に椅子に横になり始めた。

 この数日の緊張の糸が切れたのか、疲労と睡魔が一気に襲う。

 初めて人を切ったのを思い出すと震えもくる。

 これで俺も立派な殺人者か……ため息ににも似た息を吐きながら意識がなくなっていくのであった。

 

 協会本部に着いた俺は、2日ほど寝込んで居た。

 起きた後にアルム爺さんに呼び出される。

「さて、お前さんを未来に返す方法なんだが、手紙には一切書いてない」

「未来ではお前さんが既に死んでる可能性もあるのー」

「今の時代に人間を過去や未来に一瞬で飛ばす方法はない。お前さんが過去に来たのも、そもそもこの世界に来た事が奇跡に近いもんじゃ」

「んな、馬鹿な!帰るときの魔法はあるのに」

 アムル爺さんは感心しながら口を開く。

「そうじゃ、あれはそれほど完成されていないのじゃ。対象者が帰ると行ったときの思いが関係あるからの」

「この世界に情がわくほど帰りにくくなるんじゃよ」

「そう……だったんだ……」

「まぁ未来に行くだけならない事もない、付いて来い」

 アムル爺さんの後に続き厳重に警備された建物に行く。

 建物の中も槍をもった兵士などが扉の前にいる。

「ここから地下に入るからきーつけてな」

「えっと……どこまで?」

「良いから黙って付いて来い。もう少し先じゃ」

 もう少し先といいながら既に数百メートルは進んでる。

「ここじゃここじゃ」

 お札が張ってある扉の前に付く。

 ペリっとお札を剥し先に入っていくアムル爺さん。

「ほれ、はよせんか」

「は……はい」

 お化けでも出そうな雰囲気にびびりながら入る。

「そこの箱を手に持ってあっちを向いて中を覗いてくれ。そこに未来に帰るアイテムがある。ワシの言うとおりにしなさい」

「はぁ、危険はないんですか?」

「ない!」

 『ワシにはな』続けて喋る呟きは俺には聞こえなかった。

 言われた通りに棚から小さな箱手に取り、中を覗いてみる。

 黒い球体が幾つも見える。良く見えないので覗いてみるも黒豆にしか見えない。

 つまんでみようと思ったら怒られた。

「こら、中を触るな。もういいじゃろ箱を閉じてしまってくれ」

 なにやら解からないまま言われたとおりにする。

「後はそこに寝るだけじゃ」

「ここ!?床です……よ?」

 足元を見ると、俺の足の先が色が変わってる。石のようだ。

「バジリスクの眼じゃ瞬間性はないがあと数分もすれば全部石になるだじゃろう」

「え!え!なんで?ちょっとまって、動かないし」

「なーに十年ぐらい石になっておけば、眼が覚めたら未来じゃよ」

「ただし、その間に壊れたり。うっかりワシが死んだり解除し忘れたらこのままじゃのー」

 洒落にならない事を言ってくる。

「まってまって」

 動こうとしても既に腰まで石になってきた。

「ほれ、早く寝ないからたったままになったわい、あんまり動くと倒れて粉々になるぞ」

 ニヤニヤ顔のアルム爺さんに言われてピタっと止まる体。

「それじゃワシは戻るとするかの、これでも紛争回復に忙しいんじゃ」

 扉を閉めるときに大声しゃべってるのが聞こえる。

「いやー良かった良かった。これで可愛い孫娘に付くハエが処分できたワイ」

 バタンと扉が閉まり、暗闇になる室内で俺は叫ぶのだった。

「まってってばーーーーーーーーー」

 


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