拝啓 助けたい
「あらあら、孫にも衣装ね」
俺の旅姿を見て感心するミラー。
隣では馬に異常ががないか確認をしてくれてる斉藤さんがいる。
「うん、馬のほうは大丈夫みたいだ。いつでもいけるよ」
「有難うございます」
「手順はわかってるね、メツナの街の預かり所にこの鍵を渡せば親書を渡してくれる。それをもって協会へ向かってくれ」
「わかりました」
「終ったら直ぐ戻ってきます」
俺の事場に驚く二人。
「時貞君、君戻ってくるつもりかい?」
「いや、だって。届けました。って確認しないと」
「協会に恋人がいるんじゃなかったのかい?」
「いや、そうなんだけど」
「そうだな行きは、なるべく急いで行ってくれ、帰りは君の彼女と一緒にでも来てくれればいいよ」
「あらあら、その時はお赤飯炊きましょうか」
「あの!」
「ん?なんだい?」
「この銃貰ってもいいんですか?」
「ああ、それの事か、君本人しか打てないし。あ、予備の弾渡さないとな」
急いで倉庫に向かう斉藤さん。
俺の腰にはミラーの剣がついている。
斉藤さんが消えたあとミラーに向きなおして聞いてみる。
「いくら勝負に勝ったからといってこの剣も……」
「えー、あとあげれるのは私の勝負下着しかないわー」
「箪笥を荒らされた時に見られた黒いスケスケしかないわー」
業とらしく大きな声で言うミラー。
「まってまって。聞こえる。聞こえるから」
「貰います。あり難く使わせてもらいます」
「下着を?」
「剣です!」
「よろしい」
勝ち誇ったようなミラーを見てると笑いが出る。
斉藤さんも予備の弾を持って走ってくる。
「旅の途中は自分自身しか頼るものが居ないが、時貞君なら大丈夫だろう」
「では、行ってきます」
二人に見送られながら馬を走らせる。
前回と違い馬に乗せられてるわけじゃなく、今回は自分で操っている。風が気持ちいい。
鍛えてもらったおかげが、スピードにも恐怖心を感じない。
真剣で修行してたのに比べると全然だ。
数日野宿をし最初の街で宿を取り、食事をしに町へ出る。
「地図ではタマツミの街になってるから、メツナの街は隣か」
街の中をみると胡散臭い奴らが、いかにも追いはぎしてるって奴らがゴロゴロしている。
話しかけても『ここはタマツナの街だよ』なんて事は喋ってくれなさそう。
美味しい匂いがする食堂に入り、受付で女の子のウエイトレスに案内される。
「本日のお勧めってあるかな、それを一つ」
女の子にこっそりチップを握らせる。ミラーから教わった渡世術の一つだ。
驚いた顔をしながら、元気よく注文を飛ばす。
料理を運んでくれた時に隣に座り喋ってくれる。
「お客さん、旅の人?」
「ああ、ちょっとメツナの街まで仕事でね」
「へー最近は物騒すぎるもんね。私達も数日中に引っ越すんだ」
「そうなの?」
辺りをキョロキョロ見回しそっと耳打ちしてくれる。
「ほらムルドンの街で評議会と貴族の小競り合いあったじゃない?ここも巻き込まれそうなのよ」
「街も貴族に雇われた、ならず者や召喚士までいるわ」
「こら!ナン!サボるな!」
「は~い」
父親なのだろう厨房から怖い顔をて娘を怒鳴る。
何かかひっかかりながらも、食事を取る。
斉藤さんの事だ親書の中身は戦いを回避する要請に違いない。
俺が遅れれば遅れるほど戦火が大規模になる可能性が高いのを実感する。
「これは宿に泊まってる場合じゃないな……」
食事をしっかりとって急いで宿に戻り馬を借りてすぐ出発をする。
メツナの街に着いたときにはもう夕方に近かった。
街の人に預かり所を聞き駆け込む姿をみて店主も驚いただろう。
「すみません、これ。ハァハァ……これ出せば荷物を受け取れると聞いて」
「おう、兄ちゃんちょっと落ち着け。どれどれ」
「ん、間違いない店のもんだ。ちょっとまってろ」
奥から小さな包みを持ってくる。
「えーっと32411」
「鍵と間違いないか確かめてくれ」
「間違いないです」
荷物をしっかり受け取った俺はすぐさま外に出た。
親書を確かめる為にベンチで包みを開ける。
入って居たのは日本語で書かれた俺への手紙2通、協会証明書さらに数十枚の金貨だった。
『親愛なる速水時貞君へこの手紙が読まれない事を祈る』
出だしで書かれた文字を眼で追う。
『信じられない事で僕も驚いているが、君の鞄に僕達夫婦あての手紙が入っていたんだ、当てぬしは協会長アルム、妻の父であって、僕から見たら義父だね。今の時代ではまだ会長では無いはずだ。』
『君が二度目の転移で飛んだ先は最初の世界より約十年前、何故こうなったのかは解からない。しかし手紙には今後起こりうるであろう戦いと、君を一人前の戦士にしてほしいと書かれていたんだよ。』
『勿論僕達は半信半疑さ、でも一緒に入っていた短剣は世界に一本しかないはずの妻の宝物だったんだよ。』
『半信半疑ながら手紙の通りに君を鍛える事にした、すぐさま義父に手紙を送り魔道協会のほうでも武力派を抑えるために力を貸してほしいとお願いをしてきた。そして最悪の場合も想定して準備をしてもらってるはずだ』
『勿論僕達はいいが、周りの人を不幸にはしたくない戦いが起こりそうになる前に街に避難勧告を出してもらうつもりだ。』
『この手紙を見たと言う事は未来からの手紙通りに最悪の事態が起こったと思う。少ないが金貨を同封したので少しでも遠くに逃げなさい。』
もう1枚の手紙を読む。こちらは日本語が全部ひらがなで書かれる。
『むすめを、えいみーをよろしくね。みらいのむすこへ』
いつの夜だろう、エイミーが語る十数年前の彼の昔話を思い出す。
必要以上に鍛えてくれる夫婦。けして外部の情報を俺に教えないようにしてきた二人。
それでも、実の子のように接してくれた優しさ。
あの夫婦は自分達の未来を知っていたんだ、知っていて突き進んだ信念、未来への思い。
両目から涙が落ち始める。
まて、昔話の最後はどうなった、考えてる途中に雑音が入る。
「おい聞いたかよ。ムルドンの貴族とうとう傭兵を雇って評議会を潰すらしいぜ、リーダーを殺せば懸賞金までだしてるらしいぞ」
「たー馬鹿だねーリーダー殺したら残った奴らが立ち上がるだろうに、それにお前その情報ちょっと古いぞ」
「傭兵を集めて居たのはもう二週間も前だぜ」
その話を喋っていた二人に詰め寄る。
「その話本当ですか!」
「なんだ兄ちゃん、鼻水まみれじゃねーか。きったねーな」
「お願いします、その話って!そうだ。お金ならあります。教えてください」
ポケットに入ってる金貨を無造作に掴み相手の手に乗せる。
もう一人の男は俺のほうを見て、指で頭をくるくるまわしてる。
「二週間も前らしいが、噂は本当だぜ今頃はムルドンは戦火かもしれんな」
急いで立ち去る俺を見ながら、後ろでは唖然とした顔の二人がいる。
思い出せ!昔話の最後はどうだった!確か『古代竜は見るもの全てを焼き尽くしてくれました』だ。
そうだ!古代竜を見たって話しはまだ聞かない。
まだ二人を助けるチャンスだってあるはずだ。
急いで馬を頼みに厩舎へ飛び込む。
星空の光のした馬を走らせる。馬には悪いが今は直ぐにでも戻りたい。
タマツナ街道で逃げる人々と遭遇する。
「あ、おきゃくさーん」
馬で向かってくる俺をみて叫ぶ少女。
急停止して振り返る。
「あ、ごめーん急いでた」
シュンとする少女をみる。
「あ、君はウエイトレスの」
「そうそう、可愛いから覚えてくれてた?」
「私達西に逃げるんだけど、お兄さんは戻るの?」
「ああ、大切な人達がムルドンに居るんだ!」
馬上から大声をかける。
少女は曇った顔になると、後ろから厨房にいたおやじさんが出てきた。
「兄さん悪い事は言わないムルドンには行かないほうが良い、悪いが手遅れだ家の来た客がムルドンで火柱を見たって言ってた、それでうちも逃げる事にした」
静に語るおやじさんと目線が会う。
「ちっ、数秒まて!」
おやじさんは荷台から一本のビンを投げてよこす。
「うちで一番高い酒だ!悪いと思ったら後で代金をもってこい!」
「ありがとう!」
ビンをキャッチしてすぐさま走る。
「タマツナの街を抜けるより森にある道を通ったほうがムルドンへの近道だ!」
後ろで大声で叫ぶおやじに手を上げて答える。
「だってよ、もうひと踏ん張り頼む」
貰った酒を一口含み馬にも少しかけてやる。
森を抜ける頃には既に辺りは暗くなっていた。
暗いはずなのにムルドンの街はあちらこちらから出る炎でまるで昼間のように明るい。
あちらこちらの家が焼け落ちている、道の端には黒こげた遺体も見える。
魔物の死体も見える。中心部のほうでは人の気配も感じる。
「なんで……二人が望んでたたのはこんな世界じゃなかったはずだ……」
丘の上で何かか光る。
「っ!家のほう、まだ二人は生きてる!」
火の手の多い町を迂回しながら丘へ登る。
下から駆け上がる俺の姿を見て、数人が剣や斧をもってにやついている。
この街を……この街をこんな事にした奴らだろう。
俺は怒りに任せて叫ぶ。
「どけえええええええええええええええ」
ミラーからもらった剣を使い切り付け走りぬけていく。おそらく致命傷だ。
人を切った感想もなにも浮かんでこない。
小屋に進むほど死体の数が増えている。ミラーと斉藤さんが応戦したのだろう。
「ミラーどこだ!斉藤さーん。助けにきたー!」
叫びながら馬から降りる。
森の奥から斬撃音が聞こえてくる。
「むこうか!」
急いで走ると向こうに座っているミラー目掛けて剣を振りかざす男が見えた。
「おい!こっちだ!」
大声で呼ばれて一瞬止まる男目掛けて銃弾を全部打ちまくる。
倒れた男を無視しミラーに駆け寄る。
倒れるミラーを慌てて抱き抱える。
「ミラー!大丈夫か」
「もう、これが平気そうに見えるならそこらの死体も全員元気ね」
あちらこちらに傷が見え、太ももから赤い血が滲んでいる。
足も折れているのが木を当ててあり。
指も良く見ると少ない。
「う……でも、助かる助けるから!」
「そうだ斉藤さんは?」
静に首をふるミラー
「私をかばって……ダメだったわ、弱いのに意地張っちゃって……」
「あら、最初は勝ってたのよ。でも、あいつら負けると解かったとたんにモンスターまで召喚したの」
「もう、後はご覧のありさま。山賊紛いの冒険者達は全てを奪って破壊していきました」
遠くを見るように喋りだす。
「ダメだ!そうだ傷薬あるんだ飲んで!」
またも首を振る。
「もう手遅れ、そうだ。あの人最後に言ってたわ。『自分が死んでも良い方向に世界が進むなら本望だった』ってね」
「俺が!俺がこの時代にきたのに何も出来ない!助けてもらったのに!」
「馬鹿ね」
この数日で涙はもうでないと思ったが、ミラーの体が冷たくなっていく涙が止まらない。
「私達はどんな状況でも精一杯生きたわ、さぁおいで子守唄を歌ってあげる」
俺の首に手を回し反対に抱きかかえるように歌ってくれる。
俺はミラーの心音が消えてからもずっと抱き抱えて居たのであった。




