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拝啓 それぞれの決意

 協会との連絡もつかないまま時だけが過ぎている。

 俺はというと、スペシャルメニューのお掛けで自分でも驚くほど強くなったんじゃないかと思う。

 自分の中じゃlv1の勇者がlv30になったんじゃないかと。 

 確信できないのはいまだミラーが遊びながら稽古をつけてくれるからである。

 何時もの訓練の後に汗を流しに一人井戸へ向かう。

「はぁ~勝てない」

「もうそろそろベスに会いに行きたいんだけどな~」

「そもそも、手伝いっていっても俺何一つしてないぞ」

 恩義はある。有り余って困る。

 本当は直ぐエイミーの所にいって銃を使う集団がここに居ますよーって密告しないとダメな立場だ。

 仮にエイミー達が街に乗り込んできたら、鉄格子を挟んでの対面になりかねない。

「それならまだいいほうか、最悪晒し首だな」

 呟きながら汗を流す。

「ん~ん、引き締まった良い体」

 舌をペロリとしながら背後に立つミラー。

「わっわ!」

「何!何何なんで。どうしたの」

「キノコちゃんを食べに来たのよ」

 俺の体を見、妖艶な瞳で見詰めてくる。

 キノコ!?俺の??食べる???

 俺の考えが通じたのかコクンと頷くミラー。口からは少し涎も出ている。

 これってまさか。脳内でレベルアップの音が聞こえる。

 ああ、もう小さなキノコですが美味しく頂いてください。エイミー一足先に俺はレベルアップします。

 エイミーの顔がちらつくも観念して眼をつぶるも何も来ない。

 おそるおそる眼を開けると、俺が先ほどまで座っていた椅子の下から茸の生えた木を取り出している。

「あ、そういうこと」

 お約束展開で妙に納得する。

「そう言う事よ」

「今日は茸鍋よ」

 笑顔のミラーの手には籠いっぱいの茸が盛られている。

「それに、女性と良いことするって時に彼女の名前いっちゃダメね~。罰点三」

「それじゃ先に言ってるわね~」

 スタスタと歩くミラーを見ながら俺は顔が真っ赤になった。

 俺自身はそれほど大人と思ってないが、からかいが酷い。そんな事を思いながら急いで家に向かう事にした。


 台所ではミラーが料理をしている。

「あ、斉藤さん。お帰りなさい」

「元気だったかな、ただいま」

 斉藤さんはこの所忙しいらしく朝家を出てっても数日帰らない日が多い。

 最近は暗い顔が多いのだが今日はとても青い顔している。

 一度心配になり、『俺に出来ることがあったら言ってください』と立場も忘れて言ったのだが『今は大丈夫、でも時期が来たら頼むと思う』で終ってしまった。

「あら、あなたお帰りなさい~」

 鍋を片手にテーブルに付く。

「ん~っとこれは主人の。こっちは時貞君のね」

 そういって茸を取り分ける。斉藤さんに渡した入れ物には凄い大きい形の立派な茸が器からはみ出してる。俺のは小ぶりながらも形はいいが器からははみ出してない。

「これって……」

 ミラーのほうへ顔を向けると顔がニヤニヤしている。

「せめて切って。いやダメだ切っちゃだめだ」

 斉藤さんのほうへ顔を向けると『味は良いんだ。』と苦笑しながら、手元の茸を形が解からなくなるほど細かく切っている。

「ちょっと会社の事で少し話しがあるんだ」

 そう切り出したのは斉藤さんだった。

 内心驚いた。

 この夫婦、俺の前では殆ど会社いや組織の事を話さない。拳銃何ぞ渡すくせに他の組織の人間に合わせようともしない。街へすら行くのを止められてる。

 俺のほうも最初は弾の供給元、組織の人数などを調べたかったのだが、隙がない。

 最初は監視もしくは軟禁されてるのじゃないかと思ったが俺には不自由なく暮らせるようにしてくれてる。

 そうしてる間に俺のほうも調べるのを諦め強くなる為に必死になった。

 もっとも、訓練につぐ訓練で街なぞいってられないのだが。

「俺、食べ終わるんで席外しますよ」

「いや、君にも重要な事を頼みたい。一緒に頼む」

「ミラー、とうとうダメだった」

「ほう」

 多分、『そう』と答えたかったのだろう、言葉も短く答えるミラー。

 口からは茸がはみ出ているのを美味しそうにしゃぶっている。

「そして、時貞君には一通の親書を魔道協会本部へ届けてほしい」

「しん……しょですか?」

「そう重要な事で君にしか頼めないんだ。やってくれるかな」

 テーブルに座ってお辞儀をする。

「そんなお辞儀しないでください。協会に行きたいって言ったのは俺ですし」

「俺にできる事なら何でもします」

「そうか有難う。旅の支度は4日後までに用意する」

「ほへじゃふんれんも、あしゅえもまりえ」

 ミラーはまだ茸をしゃぶってる。

「『それじゃ訓練も、明日で終ね。』と言ってるみたいだ」

 暗い顔なのだが、苦笑をし俺に微笑んでくれる。

  

 朝起きると既に斉藤さんは家にいなかった。 

 ミラーと朝食を準備をする。

 ミラーは既に森へ向かっているのだろう。自室で考える、今日は最後の訓練になる。

「貴方はもう十分強いわ、でも慢心はダメ」

「貴方の全部を受け止めてあげるから、いっぱい出しなさい」

 この人が言うと意味が違って聞こえる。

「行きます!」

 先手必勝とばかりに向かっていく。

 剣を振りかざすも空を切る。右から殺気が感じるのですぐさま右へ銃弾を放つ。

「やるぅ~」

「そりゃどうも!」

 ミラーが放つ右からの蹴りをスレスレでかわす。

 日々レベルアップのお掛けが剣の起動も詠め攻撃もかわせるようにはなってきた。

 ま、かわすだけじゃダメなんだけどね。

 

「弾切れか」

 肩で息をしながら木々に逃げ込み距離をとり弾を込める。

 既に訓練というイジメを受けてから数時間はたっているような気がする。

 相手はかなり前で剣を無造作に構えてる

 対剣士は距離をとれば少しは安全になる。

 ここから相手の手を狙って拳銃を構える。

「考えてるわね~でも、これはどうかしら」

 何か呟いてるミラー。

「やばい!魔法がくる」

 俺が拳銃を構える前に、場所はバレバレか。

 氷の固まりが飛んでくる。防いだり避けたりすると後ろからミラーが来てチェックメイトされるのが落ちた。

 俺は氷の固まりに向かって突進する。

 意外な顔しているミラーの顔が見える。

 氷を剣で弾き、勢いのままミラーに切りかかる。

「あまいわね」

 俺の剣が弾かれる。想定済み。

 俺は左手でポケットに手を突っ込み、黒いあるものをミラーに投げる。

 眼のいいミラーは良く見えるだろう。

 虚を突かれ一瞬止まるミラーの体。

「そこ!」

 右手で抜いた拳銃を両手で握り締めミラーに向けて構える。

「かっ……た?」

 ペタリと座り込むミラーは白い目で見てくる。

「これ、どこから?」

「え~っと、箪笥です」

 ミラーの手に握っているのは黒いスケスケのショーツ。

 手にした時は正直興奮した。

「ふ~ん。へー」

 声に感情がない。訓練前にこっそり持って来たものだ。

 卑怯なのは解かっていたけどこうでもしないと隙を作る間がない。

「あ~あ~とうとう傷物にされちゃった」

「ま、勝ちは勝ちよね使える物全部使ったんだし。負けを認めてあげる」

「少し休みましょう」

 声色も普通になり、ひとまず安心する。

 椅子にもどり剣の手入れをする。

「ミラーさんは、どうして斉藤さんに付いていくんですか?このままじゃ。また、大きな戦いになるのに……」

 思い切って聞いてみる。

「あら~女性の心は秘密多いのよ」

「でも、勝ったんだし教えてあげる」

「私はね、ちょっとした高貴の家で生まれたお嬢様だったのよ。周りの家は民衆は貴族の為にあるものだ!ってのが当たり前でね」

「幸いお父様は周りと違う人で、民衆の為に貴族があるって考えの人だったのよね。でも、そんな家は少数、なるべく隠して暮らしていたわ」

「ある時ね、舞踏会呼ばれていったときに、そこに小さな使用人が居たの。子供同士でその子と仲良くなったんだけど、次に行った時には貴族の気まぐれで殺されていたわ」

「直ぐ抗議したんだけどね、死んでしまった人は帰らないし。子供だから力もない」

「そこから私の剣の修行が始まったの、強くなれば民衆を導けるんじゃないかって」

「色々あって十六で家を飛び出したわ。旅をしてわかったけど、私一人じゃ人を導く事は出来なかった」

「で、そんな時にあの人に出会ったのよ」

「今の組織が危険なのはわかってる、でも。最初は民衆の為だったけど、今は子供の未来の為にあの人を守る剣になるわ」

「これでいい?」

 最後は笑顔くれるミラー。

「でも」

「眼をつぶって!」

 突然叫ばれ反射的に眼をつぶる。

 俺の顔をはさむ様に柔らかい物が当る。これって胸?

 反射的に眼をあけ体を離そうとするもがっちり掴まれてる。

「あらあら心配してくれるのね、優しい子」

「周りから見たら馬鹿みたいな事でも、私達にも信念があるのよ」

「落ち着くまでこのままで居なさい」

 暖かい胸に挟まれ静にしてるとミラーのゆっくりとした心音が聞こえる。

「はい」

 俺は素直にその言葉に従った。


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