表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

拝啓 レベル上げ

「すると、時貞君はこの世界に来て、帰る事にした時不慮の事故で失敗。魔道協会本部で送ってもらう時に送ってくれた魔法使いの女性に恋をし、傷が治りしだい会いに行きたい。と」

 朝食後、俺の説明で半信半疑な眼を向ける斉藤さんミラーさん。なんで斉藤さんだけさん付けなのか、同じ日本人として何故か当たり前な気がするからである。

「ロマンチックね~おばさんどうしようかしら~困ったわ~」

「何もミラが困る事ではないだろ」

「しかし、協会は数日前からちょっとした事件で厳重警備で人が入れないんだ。君が言う女性も協会内に居ると思う。仮に君が今いっても入れるがどうか解からない」

「それに、数ヶ月、もしかしたら数年は封鎖する話だからね。あそこは鉄壁の要塞だから」

「まじですか」

 脳裏にエイミーと知り合った時間は短いが二人の顔が浮かぶ。

 封鎖するって事はエイミーは大丈夫なんだろうか、偉い人と知り合いっぽいし平気ならいいんだけど。

「うん。納得したかな?」

「そうだ森、マニホマの町に知り合いがいるんですけど、そこに行きたいんですか行けますか?」

「マホニマ?森って何処の?」

「えっと、北です。最初北の森に居たらしいんです」

 俺の声を聞いたミラーが素早く地図を広げてくる。

「僕達が今居るのはここ東の端、ロナスアの街。君がいた森はさらに東の森だね」

「そして中央にあるのが協会本部、そこから北の森に行くまでは、そのマニホマって町は聞いた事がないんだ」

  ちらりとミラーのほうを見る斉藤さん。アイコンタクトで返すミラー。

「ごめんなさい。私も聞いた事がないわ」

「いや、でも俺が居たのは隠れ里でもなかったしう~ん」

 二人を見ると嘘を言ってるようにも見えない。

「傷が治ったら行って見たいと思います」

「一人でかい?」

「はい!」

 元気良く返事をする。

「最近は色々物騒でね、旅も危険だ」

「このまま君を行かせたら、町に着く前に天国に着くよ」

「あらあら、看病して助けた命も無駄になっちゃうわね~」

「肉付きはいいんだけど、ちょっと頼りないわね~」

 ミラーが聞いてくる。

「乗馬は?」

「少し」

「護身術や剣の腕前の自信は?」

「ウサギを捌くぐらいなら」

「魔力はあると思うけど魔法はどうかしら?」

「魔力はあるらしいですけど、使えません」

 デジャブを感じる質問攻め。

 困った顔をして斉藤さんのほうに顔を向けるミラー。

「時貞君の荷物に金貨十枚と短剣。簡易傷薬などが入っていたよ、旅の路銀はいいとして」

「どうだろう、旅になれる様に鍛えるついでにちょっと手伝って見ないか?同じ転移者、いや日本人として」

「協会のほうは知り合いがいるから、何か変わったら直ぐ知らせよう。時間はかかると思うがなんとか入れるように頼んでみるよ」 

 同じ日本人として。脅し、いや決まり手というのだろうか。そういわれると断るのが難しい。

 実際、協会へいっても入れない。さらに、このままマホニマの街の場所までいこうとしても生きてはいけないだろう。

 俺は『宜しくお願いします。』と頭を下げたのであった。

「よし、まずは治療だ。直ったら旅が出来るように鍛えなおそう」


 それから腕が治ってからは忙しかった。

 斉藤さんは重要な人らしく。『社長ってのはもっと暇なもんだとおもったけどね』といい馬にのって家を出る。

 俺はというと、連日、午前はひたすらに基礎体力をつける。午後はミラーさんに真剣での修行を付けて貰う。

 『最初は木剣からだろ。』と言ってくれた斉藤さん。『あらあらでも。木剣じゃ訓練しても危機感がないわ、直ぐにでも強くなりたいのよね。』とミラーに言われると、『はい』と頷く以外にない。

「あの人、剣のほうはダメなのよね~」

「夜の剣は強いのに」

「私に一本取れたら旦那に内緒で抜いて上げるわよ」

 セクハラをかましながら稽古をつけてくれるが、眼は笑っていない。

 此方がいくら攻撃しても当る要素すらない。

 そりゃそうだ。剣道部員でも何でもなかったんだもん。

 直りかけてる腕や太もも、肩などに薄い傷が付いていく。

 そんな素人の俺でも投げないのは、やっぱ本気で鍛えてくれる二人、それに早くエイミー達に会いたいってのが一番なのだろう。

「あら、筋はいいわ。眼をつぶらないのはいいことね、でも」

 突如目の前が閃光に光る。

「うわ!」

 魔法でも使ったのだろう、あまりの眩しさに剣を落とし両目を手で覆う。

「開けっ放しもダメね、気配を読まないと」

「暗くなったので今日はおしまい」

「あの人も帰ってくるし、夕飯の支度にいきましょう」

 

 夕食をしながら三人で談笑をする。

「ミラーの剣は凄いだろ、僕も魔物に襲われてね助けてもらった口なんだ」

「へぇーでも魔法も使えますよね」

「あら。魔法は魔力があったからね。あるものは何でも使うわ、でも剣術は好き、剣は努力した分強くなるのが面白かったのよ」

「でも、どちらもある程度の才能がないとダメなのは悲しいのよね」

「で、ミラー先生からみて時貞君は才能あるかな?」

「短期間の割には筋はいいわ、すぐ貴方より強くなるわよ」

「なんて行っても若いし、惚れちゃいそうよ」

「まいったなー。これじゃ僕が仕事に言ってる間に寝取られそうだ」

「あらあら、そしたらお父様の所へ言って、娘に報告しに行かないとね。『パパはママに捨てられた~』って」

 きわどい夫婦の会話をしているか、どちらも穏やかな顔をしている。

 お互いを信頼しているのだろう。

「それじゃ、僕は浮気されないように明日から数日間は一つ僕も得意技を教えようかな」

「あら、向こう、大丈夫なの?」

 心配そうな顔をしているミラー。

「最悪なのは間違いないが、明日明後日で直ぐ衝突する事もないだろう」

「さ、今夜はもう寝ようか」


 慣れてきたとは言え体中が痛くて寝れない、筋肉痛に喘ぎながらベッドから出る。

 部屋の空気と気分を入れ替える為に窓を開ける

「エイミー今どうしてるかな」

 窓を開けて外を見ると斉藤さんが遠くに座っていた。

 開ける音に気が付いたのか、こちらに手を招いてくる。

 小屋からそっと抜け出し斉藤さんの所へ行く。

「やぁ、星が綺麗な夜だねー」

「はぁ」

「煙草ですか?」

「ん、これ。妻が妊娠してから家では吸わないようにしてるのさ、時貞君もそのうちわかるよ」

「はぁ」 

 曖昧に頷くしかない。

「この世界はね、ちょっと不条理なんだよ。中世に似てるかな、一部力あるものが街を支配している現状」

「この世界に初めて来た時、親切にしてくれた家族が居てね。言葉や文字もそこで教えてもらったんだ」

 遠い眼をしている斉藤さん。

「ある時、そこの子供が熱を出してね。看病をしたんだけどなかなか下がらないんだ、薬は領地主が買占めしてる事がわかったんだ」

「勿論直ぐ頼みにいったよ、そしたらそこの領主は『高価な薬をただで与えるわけにはいかん。代わりに東の魔物の首を取って来い』ってね」

「僕は剣はまるっきりダメだったからね、近隣の人に頼みに回る係り。子供の父親は周りの引き止めを聞かずに森の中。近隣の人が自警団が組み、森へ行ったら病気の子の父親は魔物の首をもって死んでたよ」

「僕はその首を持って領地主の所にいったんだけどね『そんな約束はしておらん』と言われ追い返されて。隣の家の人が慌てて僕を呼んでさ、家に帰ると子供も死んで奥さんも首を吊ってたよ」

「そこからさ、勿論民衆は領地主を恨む、そこで僕に『民衆を惑わした罪』で国外退去。逆らうとこうなりますよって見本だね」

「退去というなの死刑先刻を受けた僕は、森の中に縛られ置いてぼり、魔物が出てきてこんにちわって所でミラーが通りかかって助けてくれたのさ」

 月明かりは明るいのに対して重く暗い話。

「僕は何とかして階級制度を壊したかったのさ、異世界の坂本竜馬!いざいかん!」

 最後は俺に微笑みながら喋ってくれる。

「何故俺にそんな話を……」

「それに、坂本竜馬って途中で死ぬじゃないですか。子供いるんでしょ?」

「はっはっは、そうだね。死んだら可愛い子供にも会えないからね。今ならあの時の両親の気持ちが凄い解かるよ」

「何故か、君には、時貞君には知って貰いたかったんだ」

「おっと、煙草が切れたか。つき合わせて悪かったね。先に戻るよ」

 斉藤さんの背中を見送り俺も星空をみながら考える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ