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拝啓 新規様

 目を開けると既に周りの風景は変わり辺りは真っ暗だ。

「帰ってきたか……」

 周りが真っ暗で何も見えない、上空には星空がみえるマルが見え事からマンホールの底と思う。

 餞別で貰った袋を背負い。段差をよじ登りながら、あの世界の事を思うと涙が出てくる。

「しかし、あの爺さんもこんなもんくれてどーすんだ、骨董屋にでも売れって事か?」

「あれ?森??」

「これってもしかして最初の森か?」

 頭を出して周りを見ても、学校も道路も科学的な光も一切見えない。

「いやーまいったな~、帰れないんじゃしょうがない。うんうん」

 顔がにや付いてるのは、またエイミーに会えると思うと自然に笑ってしまう。

 説得されて帰ることになったが、一人になると疑問が残る。

 取りあえず帰れなかった事は残念と思うが、帰っても何も無い人生なら、多少危険でも好きな人がいる世界のほうがいいんじゃないかと。

 戻った所で、冴えない、稼いでるわけでもし、特技もない、そんな俺にホの字の女の子。容姿端麗にしかもちょっとエロイ。そんな子を探せと言われても同探せと言うんだ。

 両親、友達と死に別れになってしまうけど俺とエイミー。子供は一人でベスと一緒に遊ぶ、そんな世界があってもいいんじゃないか。

 途方にくれながら一人悶々と考え出す。夜の風がほてった頭を冷やしてくれる。

 どうせならこっちに骨を埋めてしまおう。そう決心して周りを見渡す。

「最初の森で合っていれば確かこっちに川があるはずだから、とりあえずベスに会いにい……」

 突如暗闇から向かってくる黒い影。三メートル以上はあるのだろうか。

「クマ!?クマよりもでかいか」

 妙な分析をしつつその影を見守る。赤い目が光、右腕を大きく広げる。

「やばっ」

 とっさに左側に逃げる。

「うっ……」

 避けきれなかったらしく右腕を掠ったらしい。思わず尻餅をつく。

 影は両手を広げてくる。右腕から血が流れているのが自分でも解かる。

 『生き残る為には、どんな場面でも目を閉じたらダメ。』エイミーの言葉と共に影を見る俺。

 影が両手を振りかざしてくるのがスローモーションで見える、俺に剣技があればあの腕なら切れそうだなーと、他人事みたいに見えてくる。

 この世界で骨を埋めると決心したとたんに、俺の一生は終わりそうだ。そんな事を考える。

 頭上をいきなりの何かか飛来する、と同時に炸裂音が数発。影の振りかざすはずの腕が逆向きに曲がる。

 さらに炸裂音。顔らしき所に炸裂したのが、返り血が俺にかかる。

 『拳銃?』言葉ではだせない疑問呆然とする。

 

「君!大丈夫か!?」

 走ってくる青年をみて安心したのが、右腕が焼けるように熱い。

 助かった安堵に意識が回る。

「おい、しっかりしろ!傷があるのか……おい」

 何が大丈夫かわからないけど『大丈夫ですから』と答える前に俺の意識はぷっつり切れた。


 『もう馬鹿ね、こんな怪我をして』

 そんな事を言い上半身半裸のエイミーが腕に寄り添ってくる。

 『約束』

 上目遣いに俺をみる。

 両肩を掴み顔に唇を持っていく俺。

 『あわてない。まずは元気になるお薬の見ましょう』

 そんな事しなくても、俺はいつだって元気百倍勇気リンリンだ。

 叫ぶまもなく漏斗で口に注がれる謎の液体、そんなの持ってましたっけ……

 

「う~ん……」

「お。気がついたかい?」

 薄めを開けて椅子に座っている人を見る。

 痩せてはいるが筋肉質の男が見える。

「貴方は。いっつた……」

 右腕を動かそうとすると痛みが走る。

「まだ無理をしてはダメだ、熱が下がったばっかりだからね。どんな事情があるかわからないけど、とりあえず傷を癒す事だ」

「僕はあっちに居るから何かあったらこのベルを鳴らしてくれ」

 部屋を出る男を見送って、一人ベッドの中で考える。

 あの時、助けてもらった時のは魔法じゃない……おそらく銃だ。

 この人達が協会に戦争を仕掛けてる集団か、早くエイミー達に知らせないと。でも、どうやって。

 俺が協会の人に知り合いが居るって知られたら今度こそ殺されてしまうんじゃないだろうか。

 軽くノックの音が聞こえる。

「は~い、起きてる~?あの人から気が付いたって聞いて食事持ってきたわよ~」

 黒いショートカットで薄手の服に大きなお胸、瞳は黄金色。

「あらあら~こんなおばさんに見とれちゃった~」

「あらあら、でも残念ね~これでも旦那と子供も居るのよ~」

 ころころと笑う姿がとても美しい。

「そんな暗い顔しないの。傷が治って行くあてが無ければ、ここに居ればいいわ」

「そしたら、『あそこの夫人はツバメを咥え込んでる』って噂になるかしら?あらあら、どうしましょう」

「はい、あ~んして。麦粥よ」

 おかゆを入れたスプーンを差し出してくれる女性。

「俺。じ……自分で食べれます」

「そう?右手使えないでしょ?」

 『ミラーすまないが手伝ってくれ~』先ほどの男の声が扉の向こうから聞こえる。

「もう、折角若い男といるのにね~」

 相槌を求められても困る。

 文句も言いつつ笑顔で席を立つ女性、ミラーというのだろうか?

 なれない左手でお粥を食べきり、静かに横になる。 

「何かどっと疲れた……」 

 静に眼を閉じると睡魔が襲ってきた。


 翌朝になるとすっかり元気になってきた。

 ミラーに『朝食を一緒にいかが?』と言われ食堂にいく。

 食堂では既に昨夜の男が笑顔で迎えてくれる。

 今日の天気から妻の料理は美味しいぞ。と惚気られ話題が尽きない。

「そういえば君の右腕も骨には異常はないらしく傷跡が残るが暫くすれば動かせるだろう」

「遅くなってすみません。助けてもらって有難うございます」

「いやいや良いんだよ」

「そうね、夕食を取りに行くって出てったら、男の子連れてくるんですもの、とうとうソッチに目覚めたのかと思ったわ」

 ころころと笑うミラー。

「改めて、自己紹介はしてなかったな。僕は斉藤 真一。んでこっちが妻のミラーようこそ、速見 時貞君」

「悪いけど、荷物は改めさせてもらったよ。学生書があったからね」

「斉藤って。まさか」

「うんうん、僕も移転者なんだ」

「荷物を見る限り転移したばかりに見えたけど。旅道具が入った袋など、同じ転移者同士助けあれば言いなと思うんだ。良ければ訳を聞かせてほしいな」

 穏やかな顔で見守る二人。

 決して悪い人達には見えないけど、拳銃の事もある。

 俺は話せる範囲でぽつぽつと話すのであった。

 

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