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拝啓 さよならはいいません。

 エイミー達3人は朝から何か話している。

「私はこの子を送った後に月の丘亭にいるから連絡を頂戴」

「なら俺達は一度荷物を受け渡した後にそっちにいくとするか。俺達としても十年前の戦争は二度とごめんだしな」

「依頼は依頼だからな」

「変な所で真面目ねー」

 呆れた声で返事をするエイミー。

「金がほしい!それに、アイツにもちゃんとした墓に入って貰いたいからな」

 チラっと馬車のほうをみるゲオルク。

「そうね」

「まずは飯にしないか?僕も彼もお腹が減っているだけど」

 俺へ視線を投げかけご飯の支度をする。

 途中捕虜を見に馬車を覗くと、血走った目で此方を見ている襲撃者がいた。

 それを報告すると『死んでくれたほうが良かったが、生きてるなら、使い道はある』ゲオルクが答えてくれた。

 

 二人旅から四人旅たす捕虜と遺体付きになった俺達は敵の追撃も無くなんなくラクザッツアへ付いた。

「ここから見えるあの建物が本部よ」

 そう教えてくれる先には赤い屋根の三階建ての割と小さな建物だった。

「案外小さいんだね」

 大きなお城や塔などをイメージしてた俺にとっては小さな雑居ビルにしか見えない

「分散してるからだろ、襲われた時に困るから」

「あら、良く知ってるわね。昔は秘密だったのに」

「流石に分散してある場所までは知らないが、今は有名だよ」

 ルーペントが詳しく説明してくれる。


 いざ門を抜け街に入ると凄い人々だ。

 魔道協会があるせいなのか街に活気がある。

 『迷子にならないように手を組みましょうか~』との提案に『子供じゃないんだからと』顔を赤くして断る俺。

 相思相愛とわかったとたんに以前よりも本気なのかからかってるのかわからない行動をしてくる。

 その関係も後数時間で終わってしまう。

 俺の考えがわかったのが寂しい顔をするので、そっと手を握ると、腕に寄り添うエイミー。

 街の人々はそんな俺達をみても何も言わない。平和な日常に戦争なんて持ち込むなんてダメだ。

 そうは思っても俺は外部の人間、何もできないんだよなぁ。 


 協会の受付でゲオルク達や馬車と別れる。

 一方は集配課へ、俺達は解除課へ。

「しっかし、どこもこういう施設ってからんね」

「なっがいのよね。向こうでもそうなの?」

「うん。たらい回しにされた挙句に次の日になる」

 受付で名前を呼ばれるまで座っている俺達。

「約束。できなかったね」

 不意にエイミーが喋る。

「あの状態じゃな~」

「これも運命だったのかな、そうだトッキー腕一本置いて行ってよ。そしたら私寂しくないしそれ抱いて寝るわ」

「俺が困るわ!」

「二本あるから一本おいていってもいいのね~。冗談に決まってるじゃないのよね~」

 見えない相手に喋りかけるように愚痴を言う。冗談に見えないんですけど。

「あら、名前を呼ばれたみたい行くわよ」

 手を引っ張られて受付に行く。

 

「あ~~解除の手続きだって?何の解除?あん?契約?」

「それじゃ身分証明とこっちにサイン。あと少量でいいから血をこのマルの中にたらしてね~」

 俺達の目の前ではやる気なさそうな職員が説明をしている。

「あんた字かけないの?横の彼女はかける?ふーん」

「んじゃ、彼女書いといて」

「しっかし、字も覚えないのに女作る事だけは覚えるんだな~いや~最近の若い奴は怖い怖い」

「身分も無いくせに、何魔法に失敗してるんだが、これだから田舎物は」

 オイお前聞こえないように喋ってるつもりでワザと聞かせてるだろう。

 俺が字が書けないのをみて、軽蔑し薄く笑いながら証明書をみてる。いや、見てたというべきか。

「失礼ですか、貴女はマニホマのエイミーさんですか?」

「職業は魔女と……」 

「そう、書いてるじゃない。字読めないの?」

 態度を改める職員に、俺が笑われた腹いせなのかそっけなく答えるエイミー。

「申し訳ありませんでした。お連れ様と知らなかったばかりに。直ぐ上の者を呼んで来ますので」

「別に呼ばなくてもいいわ、ただ。以前は身分に関係なくとても親切な協会だったはずなのに、残念ですわ」

 微笑が氷のようで怖い。

「いや、これにはわけがありましてね~」

「はんこ」

「え?」

「判子押してくださるかしら、私の持ってきた田舎臭い紙に協会の高貴な判子を押してくださるでしょうか?」

「は!ただいま、直ぐに!」

 職員が判子を押したとたんに紙が光る。

「さ、終ったので次へいきましょう。田舎臭い匂いが染み付いたら大変ですしね」

 俺の腕を掴みさっさと歩くエイミー。後ろでは先ほどの職員が直立不動でお辞儀をしている。

「え?もう終ったの?」

「うん」

「判子押すだけ?」

「そう」

 俺の半月の旅が僅か数分で終る。お正月の福袋で2日前から並んで、全部同じタイトルの旧型ゲームソフトが入っていた気分に陥る。

「に、しても。エイミーは実は偉いんだね」

「実は偉いのよ、崇めない」

 褒められて気分が良いらしい。にこにこ顔だ。でも、直ぐに真剣な顔になる。

「さ、ここが転移課よ」

「人いないね」

「そんなしょっちゅう転移する人なんて居ないからよ」

「そっか」

 突然抱きしめてくる。

 俺も男だ、抱きしめ返す。顔と顔の距離が近い。

「貴方は割りと良い男なんだから、戻ったら可愛い彼女でも見つけなさい」 

「そして、幸せになり。この世界の事は忘れなさい」

「忘れるっても出来ないよ」

「時が立つ度に辛い事もよい事も思い出に変わるのよ。そして薄れてゆく」

「出来るわよ、私が惚れた男だもん」

 目を閉じて此方を向いてる。

 俺も目を閉じそっと重ねあう。

 いつまでもこのままで居たい。

 

「………………」

「もう、いいかの?」

 

 突然の声に物凄い勢いで離れる俺。

 声のほうにはよぼよぼの初老の爺さんが困った顔で立っていた。

「アルムお爺様!」

「北の魔女が男を連れ込んだと聞いてな、よぼよぼのワシがどれどれと」

「見に来たまでまではよかったが、手塩にかけた孫娘が男とチューしてる。殺してやろうかと思ったわい。ま、お前さんの顔をみて納得したわい」

 言葉とは裏腹に、しわしわの顔にニカッと笑う。

「紹介するわね、協会会長をするアルムお爺様よ、そしてこっちがさっきまで恋人だった時貞。彼を送りにきたのよ」

「ほっほっほ、そうかえそうかえ、送る先は地獄がいいかの?」

 やばいこの爺さん本気だぞ。

 

 前回よりも大きな部屋に通されると、そこには既に魔方陣が引いてある。

 俺はというと学生服に着替え、持ち物も全て交換した。

 半月前の姉妹とのやり取りが思い出される。今回は窓も完全に閉じてあるし邪魔になるようなものは何もない。

 

 前回と違うのはベスの代わりに爺さんが書類を書いてる所だろう。


「汝、我が世界へ誘う者か?」

 エイミーが真剣な目で問いかけてくる。

 俺も腹をくくらないといけないらしい。

「帰ります」

 書類を持っている爺さんがなにやら書いている。

 魔方陣が虹色に輝く。

 エイミーを見ると少し泣いているのか。

 そんな姿を見て俺も泣きそうになる。

 不意に爺さん、アルムが話しかけてきた。

「餞別に伝言じゃ、諦めるな」

 ポンっと一つの皮袋を投げてきた、キャッチしたとたんに世界が歪む。

 全てが黒く見えたときには俺の意識は無かったのであった。


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