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アウトルーラーズ『チート家族の異世界英雄譚』  作者: 煉獄
一章【はるばる来たぜ異世界】
9/42

謎は深まるばかり?

しばらく泣き続けていた百葉(ももは)を慰めて、ようやく落ち着いた頃、斬葉(きるは)の落下予想地点である湖のある方角に向かう3人。

その道中に零葉(ぜろは)がそれとなく百葉へ、先程に関することを聞いてみる。


「ところで母さん…さっきの何…?」


「え?さっきのって?」


「だから着地した後、何があったのって聞いてるの」


零葉の質問に乗じて狩葉(かるは)も質問を投げかけるが、百葉は急に白々しくなり、「えー?なんのことー?ももは、むずかしいことわかんなーい」などと答え、そちらの方面の紳士様方が見たら、鼻血を噴き出しながらお持ち帰りしてしまいそうな可愛らしい笑顔と共に首を傾げる。

そんな露骨にとぼける百葉に対して揃って額に青筋を浮かべる零葉と狩葉だが、力ずくで聞くにしても相手は現役を退いたとはいえ自分たちの母、万に一つでも勝ち目はないことは先ほどまでの戦いを見て嫌という程思い知らされているので、抜きかけた刀を無理やり鞘に押し込める事しか出来ずに胸の奥にモヤモヤしたものを抱えたまま歩みを進めるのだった。


「「はぁ…もういいです…」」


「皆さん遅いですよ、待ちくたびれたのでこちらから来てしまいました」


そんな一行の前に現れたのは、湖に落下した代償であろう、全身がズブ濡れの斬葉だった。寝間着だった黒のパジャマは肌にピッタリと張り付き彼女の綺麗な身体のラインをこれでもかと際立たせ、ポタポタと雫が滴り落ちながら怪しく煌めく黒髪と合わさることで、何とも言えない色気を放っていた。


「あ、斬ちゃん」


「お母様、だから言ったでしょう?無傷で降りられると」


「斬ちゃん、お母さんもう二度とあんな目に遭うのはゴメンだからねぇ!本当に死んじゃうかと思ったんだからぁ〜!」


地上80mからの紐なしバンジーという鬼畜の所業めいた事をさせておきながら、むしろ無事なのが当然といった様子で百葉へと軽く声を掛けただけの斬葉に対して、百葉は本当に怖かったらしく涙目で小走りで彼女の懐に入り込むと、身長相応の長くない腕を精一杯伸ばして胸をポカポカと叩くが、狩葉よりも少しばかり豊かな斬葉の胸はその衝撃をポヨンポヨンと形を変えて吸収しているだけだった。

そんな母親の精一杯の訴えにも一切耳を貸すことなく斬葉は一貫して無事で当たり前という主張を貫いた。


「お母様であれば、あの程度の高さから落ちてもそう簡単には死にませんから安心して下さい。寧ろ私のほうがお母様の数倍危険でしたから」


「ところで、姉様…背中に背負ってるのは?」


「ん…あぁ、これですか?彼が現状を打破できそうな鍵です」


そしてここでようやく狩葉が斬葉の背負っているモノに気が付くと首を傾げて尋ねる。

すると、斬葉は忘れていたと言わんばかりに大きく首肯すると、回れ右をして3人に背負っているモノを見せた。

それは、彼女と同様にズブ濡れになり見た目は零葉と同じ年齢ほどの少年がグッタリとした様子で斬葉の背中に凭れかかっていた。

しかし、少年が人間ではないことを零葉たちはその他の身体の特徴で即座に判断することができた。

それは一対の翼。

彼の身の丈の半分以上はあるであろう、コウモリの羽のような造形をした大きな赤黒い翼が少年の肩甲骨の辺りから生え、それに加えて、爬虫類のような鱗に包まれ怪しげな光沢を帯びた尻尾も生えていた。

その姿はまさしく竜人といった様子だった。

しかし、その翼も尻尾も本体が意識を失っているためなのか、力無くダランと垂れ下がっているだけだった。

そして、少年をまじまじと観察していた零葉と狩葉と百葉だったが、少年の身体が少し震えたことで驚いて距離を取ると、その震えの原因が先ほどからズブ濡れのままだった斬葉が身震いをしたことであったと気付いた。


「さぁ、早く帰りましょう。いくら私でも風邪くらいは人並みに引きますから」


そして、斬葉は再び軽く身震いして一言そう言うと、さっさと歩き出した。

斬葉の後を慌てて追いかける一行だったが、少年があまりにも無反応であることが気になった狩葉が小声で零葉に尋ねる。


「まさかあの子死んでないよね…?」


「死んではいません。言ったはずです、彼は私達の置かれた現状を打破する鍵になるかもしれないと。その間は間違っても殺したりはしませんよ」


狩葉の言葉が聞こえていた斬葉は、肩越しに妹を見やって答える。

斬葉には聞こえないように零葉へと小さな声で質問したはずが、彼女からの返答に思わず背筋を凍らせる狩葉。

すると、何かを思い付いたのか零葉の方へ視線を向けた斬葉が口を開く。


「とりあえず、彼が目を覚ますまでは零葉の部屋のベッドに寝かせておいてください。見張りしろとは言いません、探知用の結界は張っておきます。彼が目を覚ますまでは適当に暇を潰しててくれて構いませんから」


「分かりました、でも目を覚ました途端逃げ出すことはないでしょうか?」


斬葉の提案に肯定の意を込めて頷く零葉だが、ふと疑問が浮かび彼女に質問を返す。

その辺りも斬葉は抜かり無いようであっさりとその質問に答える。


「それについては心配いりませんよ、既に彼の翼と手足にはある程度の細工をしているので…くしゅんっ…先、帰ってますから」


いい加減に冷えた身体が限界なのか小さくクシャミをしてからそう言ってスタスタと足早に家へ向かっていった。


「ようやく一段落つけそうですね。それにしても誰が私たちをここに飛ばしたのでしょうか」


あっという間に家に着いた斬葉は誰も帰ってこない内にずぶ濡れの服を洗濯機に放り込みダボダボのTシャツを一枚着ると、担いできた少年を着替えさせてからベッドに横たわらせる。

そして、浴室に向かいシャワーを浴びて軽く息を吐きながら呟く。


「だとすると、私たち家族を邪魔だと思う墜魔導士の仕業…いや…私たちのみをあちらの世界から除けたとしても代わりはいくらでもいますし…ならば逆に考えると、こちら側の何者かが私たちを呼び寄せた…?」


真剣な面持ちで考察する斬葉だったが、ふと視界の端、自分の身体が映り今度は深々と長い息を吐く。

その理由は彼女の身体に出来た無数の傷、その中でも左腕が重傷で皮膚はいたる所が裂け、多少治まってきたのだろうが先ほどの湖へのダイブで再び傷口が広がったのかポタポタと血を流していた。


「折角一ヶ月前の機関銃の銃創も目立たなくなってきたところだったのに…またあの子に無茶するなって怒られちゃうわ…」


ゴーレムからの襲撃を受けた際の斬葉の傷は常人であればとっくに死んでいたとしてもおかしくない程の重傷だが、彼女はそれをさほど気にも留めず、それどころか余程に彼女の言う「あの子」からのお説教が嫌なのか過去の依頼で受けた治りかけている右腕の銃創を指でなぞりながら口調まで変えてまで憂鬱そうにするのだった。



「それにしても姉様の行動力というかアグレッシブさは尋常じゃないよな」


斬葉がシャワーを浴びながら恋人への言い訳を考えながらブルーになっている頃、家に帰ってきた零葉が呆れ半分尊敬半分で言う。

そんな零葉を狩葉はというと横目で見ながら零葉以上に呆れた様子で大きな溜息をつく。


「そうは言うけど、任務中のアンタも姉様とドッコイよ。オペレートするこっちの身にもなって欲しいくらい自分勝手に動いてアタシが綿密に立てたプランなんてお構いなしに暴れるものね、その度に短時間でプランを一から練り直さないといけないアタシは頭をフル回転させて必死なのよ。一人でも必死なのにアンタと姉様の2人を同時にオペレートする時なんてアタシの処理能力フル稼働させても許容量(キャパ)オーバー寸前よ。そもそもね、そんな自由気ままだからアンタも姉様もアタシ以外にオペレーターが務まらないのよ。アンタたちがオペレーターの間で何て呼ばれてるか知ってる?通信士殺(オペレーターキラー)しよ?同じ魔殺の名を持つ者として恥ずかしいったらありゃしない」


「すいません…」


余程に日頃の不満が溜まっていたのか溜め息を皮切りに、怒涛の文句の濁流をなぜか斬葉に対しての不満まで零葉へとぶつけ、あまりの勢いに反論の余地もなく零葉は頭を下げた。


「ところで、お腹も空いたしおやつの時間にしない?お母さんお腹ペコペコよー」


リビングに着くなり床に突っ伏す百葉を見た狩葉は苦笑しながら賛同する。


「言いたいこと言ってスッキリしたし、確かに朝は零葉の叫び声で玄関に行ってからバタバタして半分も食べてなかったのよね。アタシもお腹空いてきたから零葉なんか作ってー」


「ったく…子どもかよ。しゃーねーな、ホットケーキでいいか?」


「いいよーホイップクリームたっぷりねー」


「そんくらい自分でやってくれ」


とても数時間前に異世界に飛ばされたとは思えないほどいつも通りの家族の様子に零葉は思わず苦笑を浮かべながらエプロンを片手にキッチンへと向かっていった。


「ところでさ、零葉はアタシたちの家がこんな世界に飛ばされたのはどういうことだと思う?」


皿に乗せられたホットケーキにシロップとホイップクリームをたっぷりかけながら狩葉がキッチンの零葉に尋ねる。


「ん?単純に言って回りくどいよな。俺たちをあの世界から遠ざけるなら亜空間にでも閉じ込めときゃいい話だし。つっても亜空間に閉じ込められたところで速攻破壊して脱出できるだろうけどな」


「前提を変えてみてはどうですか、例えばあの世界から私たちを切り離すことが目的ではないとか。要するにこちらの世界の誰かが私たちを何か理由を持って呼び寄せたと」


零葉の疑問を風呂上がりでまだ髪の濡れたままの斬葉が答える。

その斬葉の回答に狩葉がさらに疑問を重ねる。


「姉様、そうだとしても一体誰が何のために?アタシたち誰一人としてこの世界には縁も所縁(ゆかり)もないんですよ?」


斬葉の例えに首を傾げながら言う狩葉の通り彼女たちは任務などでさえこの世界には来たことはなく、大前提としての異世界への転移が容易ではない以上、その線は考えにくいものだったのである。


「そうなのですが、何か引っかかるんですよね。見落としがある気がして…零葉、ホットケーキ残しておいてください五枚ほど」


指を指定した枚数分立てると、斬葉は朝と同じように冷蔵庫から牛乳を取り出してリビングから去っていった。

斬葉からの思わぬお願いに初めはキョトンとしていた零葉だったが、すぐ苦笑して「分かりました」と斬葉の背中に向けて答える。


「兎にも角にも、まずはあの男の子が起きないことには始まらないからねー、零くんホットケーキおかわりー」


そして、相も変わらず能天気な百葉は3段重ねのホットケーキをペロリと平らげると零葉におかわりの催促をしてきた。

そんな母のブレなさに零葉と狩葉は大きくため息をつくのだった。

第1章である「魔殺さん家の日常な非日常」異世界パートはここで一旦終わりまして、次回第2章からは魔殺家の面々が元いた世界の話、時系列的には異世界に飛ばされるよりも前の話になります。

彼らの任務風景や人間関係の辺りも描けたらなと考えています。

もちろん新キャラクターなどもどんどん登場させるつもりですので良かったら次回からもお付き合いください。

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