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アウトルーラーズ『チート家族の異世界英雄譚』  作者: 煉獄
一章【はるばる来たぜ異世界】
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四面楚歌と突破口

「アタシのとか、零葉の「永劫(えいごう)」、姉様(ねえさま)の「黒椿(くろつばき)」みたいに武器や物に魔術式を組み込む技術とか、召喚術なんてのはあの世界だと限られた魔導技師(プログラマー)とか魔導召喚士(サマナー)しか出来ない結構高難度の魔法のはずなんだけど、この魔法陣はその倍以上複雑になってるわ」


「確かにあっちじゃ見た事もない魔法陣だな。こんなことあっちで出来るのか?」


男が百葉によって殴り飛ばされた後、狩葉は先程までゴーレムだった瓦礫の山を物珍しそうに漁っていた。

そして今はもう何の意味も持たなくなった魔法陣の一部を残骸の中から見つけ出して破片の一つ一つ、一文字一文字を興味深そうに観察しながら地面に並べ直す。

狩葉は戦闘だけでなく魔法知識の分野に関しても詳しい。

元いた世界では主に斬葉と零葉が現場に向かうため、狩葉はサポートに回って、ターゲットの使用する魔法や魔法陣の解析や対抗策を立てることを行っている。

そんな彼女に零葉が元の世界でも同じ事が再現可能かを尋ねる。


「不可能ではない。とだけ言っておこうかしら、でもこの世界に存在する精霊の1立方メートル四方の含有量(がんゆうりょう)が格段に多いのよ。例えば、ゴーレムを異世界からの召喚術じゃなくて、創造するとなると…ここでは1平方メートル程度で済む魔法陣がだいたい25倍くらいのサイズになるわね」


「つまり、精霊の濃度がこっちの世界は向こうの25倍ってことか」


「単純に解釈するならそゆこと。しかもこっちの世界の面白いのは生きてる精霊をベースにその集合体で生き物を作り上げてるってところ。」


すると狩葉は何やら小型の機械を取り出し周囲に向けて翳す。

それは空気中に存在する一定範囲内の精霊の量を調べる計器で、結果向こうの世界で魔術によって生命体を創り出すことはほぼ不可能であるという結論に至った。


「元の世界じゃ生きてる精霊は貴重な資源扱いだから精霊の亡骸、精骸(せいがい)を使うわけだけど」


「複数人なら巨大なゴーレムや複数の魔物の創造が実現可能だとしても、もしもあっちでそんなサイズの魔法陣を単独で運用できるとしたら…」


「アタシでも成功するかどうか怪しいくらいだけど呪創主(クリエイター)ならほぼ100%可能でしょうね、癪だけど。うー…アイツの名前出しただけで蕁麻疹(じんましん)が出そう…」


そして、零葉が唯一実現可能として思い浮かんだ人物の名を口にしようとした瞬間、狩葉が心から嫌そうな表情を浮かべて吐き捨てるように呼ぶ。

呪創主と呼んだ人物と浅からぬ因縁を持っている狩葉はその人物がよっぽど嫌いなのか、指がその名を吐き出させた喉を掻き毟るが如くワナワナと動く。


「ところでこれからどうするの?きっとあの人、すぐに仲間を増やして攻めて来るわよ?」


「確かに気絶させたから遅かれ早かれ来るだろうけど…ってもしかして」


「そうなのよ、いつの間にか居なくなってたのよねー。逃げ足は一級品、国際A級犯罪者のそれにも負けず劣らぬの素早さだわ」


「うわー…気付かなかった。本当にまた来るつもりなのかしら?最初から最後まで面倒くさいおっさんね」


男を殴り飛ばした張本人である百葉は大歓迎だと言わんばかりに期待に目を輝かせながらこれからの対応をどうするか意見を求める。

そこで狩葉はようやくイライラが治まったのか、大きく息を吐きながら男が倒れているはずの方へ目を向けて初めて違和感に気付く。

百葉は既に気付いていたらしく呆れた様子で男の倒れていた場所を横目で見るが、そこには誰もいなかった。

狩葉は、戦った後の倒した敵、その管理の杜撰(ずさん)さと、男が再度襲撃してきたと仮定した際の性懲りのなさに呆れて嘆息しつつ、ダルそうな表情でうへぇと舌を出しながら呟く。


「とりあえず、移動する?」


「そうは言うけど、この世界がどんな土地なのか分からない上に、地図も無いし、逃げ場も無いんじゃ、留まって迎え撃つしかなくね?」


「でもそれじゃジリ貧も良いとこよ?」


「貴方達はあの男の言葉を何も聞いてなかったのですか?」


先ほど言ったように敵がもう一度襲撃してくる可能性がある以上、同じ場所に留まり続けるのは得策ではないと判断した百葉が移動を提案するが、行く当てがない以前に、この世界の情報が全く無いため零葉がその提案を却下する。

ここでようやく、沈黙を貫いていた斬葉が呆れたようにため息をつくと、2人の話に割り込んだ。



「彼は私達のコトを人類(ヒューマン)と呼んでいたんですよ?つまり、人数の多少に関わらずも私達以外の人間がこの世界に存在しているということ。それが分かっただけでもあの人の襲撃はムダでは無かったということです。まずはどうにか一番近い人間の街や村を探し、そこで改めて今後の方針を練るべきではないでしょうか?」


「確かに斬ちゃんの言う通りね、何で忘れてたのかしら。問題点として挙げるなら斬ちゃんの言う街、もしくは村の場所ね」


「むしろ異世界に来て考えるべき優先事項としては自分と同じ種族もしくは意思疎通の可能な生き物が存在しているのか、というところが真っ先にきてもおかしくないと思いますが…。とりあえず、後者の問題については次の来訪者に聞いてみるとしましょう」


百葉の関心した言葉に、斬葉はその考えに行き着くのは当然だと言わんばかりの様子で皮肉混じりに答える。


「では現在地の把握から始めましょう。現状で出来ることとしてはこれが精一杯なのが歯痒いですが。零葉、手近な背の高い木の上から周囲の様子を見てきてください」


「了解」


斬葉の指示に零葉は短く返答するとあっという間に木の頂上まで登って行き、周囲を見渡した。

そこからの景色はある意味では案の定とも言える光景が広がっていた。


「零葉~何か見えた~?」


「見えんのはどこまでも続く緑と、遠くに壁みたいにバカ高い山くらいしか。しかもそれが囲むみたいにあるからもしかしたらこの森全部がアイツらの土地なのかもしれないな」


下の方から狩葉の声が聞こえ、零葉も彼女に聞こえるくらいの声で返事をする。

ある程度の最悪の状況を想定していたとはいえ、手詰まりにも等しい言葉を実際に聞くと相当精神的にクるものがあるのか、ガックリと肩を落とす狩葉は落胆した様子をチラつかせながら斬葉に周囲の状況を整理して伝える。


「姉様…言葉通り、八方塞がりのようです…ここは山で隔離されるように他の土地との境界があるみたいで…」


「つまり、ここは盆地のほぼ中心ですか…さすがに困り…もしかしてアレは…。零葉!」


「はいっ!?」


思考に耽ったままでどこまでも澄み渡る空を眺める斬葉だったが、雲一つない綺麗な青空、その中に"あるもの"を見つけて零葉に向かって彼女らしからぬ大声を出す。

それと同時に、傍にいた百葉の手をいきなり掴んで、人間の物理法則を無視したスピードで零葉のいる木に向かって突っ込むと、そのままの勢いで垂直に駆け登り始めた。


「へっ!?何事ですか⁉︎」


斬葉の突然の行動の意図が掴めず、零葉は自分が何かしでかしたのかと慌てふためく。

が、次の瞬間、全速力で迫ってきつつ周囲をキョロキョロと見回す斬葉が飛ばした指示でハッと我に返る。


「零葉、貴方が今向いている方向から私を永劫で二時の方角、射出角82度の方向に打ち上げてください。続けてお母様も同じ方向に」


「わっ、分かりました!!」


斬葉から出された突然の要求に焦りながらも冷静に対処し、的確に彼女と続けざまに百葉を「永劫」の刀身、その刃の無く平たい(とい)の部分で器用に彼女たちを乗せて空に向けて打ち上げる零葉。

その角度は斬葉の要望通り寸分も違うことなく完璧なものだった。

そして2人が飛び去る間際、百葉が涙目ながらも物凄い恨めしそうな顔で零葉を睨んでいたのだが、彼女の苦手なものを彼が思い出した頃には時既に遅く、2人は天高く舞い上がっていった。


「やっべー…母さんスゲェ顔してた…ぶっ飛ばされるかもなー…」



「にゃあぁぁぁぁっ!?斬ちゃん、お母さんはこれからどうしたら良いのぉ!?」


零葉に打ち上げられ、飛行しながら涙目でパニック状態の百葉はどうしたら良いのか分からず、手足をばたつかせて斬葉に向かって叫ぶ。

実のところ百葉は高い所が大嫌いなのである。

彼女は観覧車やフリーフォールは勿論のこと、飛行機に乗ることすら嫌がる極度の高所恐怖症なのであるが、そんな人間が生身で空を飛ぶなど正気の沙汰ではないのは容易に想像がつくであろう。


「現状を打破できそうな面白い玩具を見つけました。ですから少しばかり、お母様の力をお貸し願いたいと」


そんな状況の中、斬葉が百葉に向かって頼み事をした。

普通の人間が聞けばいきなり何を言っているのか理解できない呑気な一言である。

しかし、この家族は他者からの頼み事を「依頼」として考えており、「依頼」は彼らの日常を非日常へ切り替えるためのスイッチのようなものなのである。

そしてそれは百葉とて例外ではなく、娘である以前に、自分に頼み事をしてきた相手=依頼人として斬葉を認識した百葉の表情は瞬く間に一変する。

その表情はまさに飢えた獣の様な獰猛さを感じさせる不気味な笑み。

現役時代、最恐と謳われ「魔猫女帝(まびょうじょてい)」と呼ばれた、母親の仮面を脱ぎ捨てた暗殺者としての彼女の本当の姿だった。


(きる)、このアタシを大嫌いなこんなところにまで連れて来る必要がある頼み事なんだよな?そうじゃなかったらその喉笛、噛み千切ってやるからな」


「やっぱりお母様のその表情…私、惚れ惚れしますわ。勿論、お母様にしか出来ない荒技です。私をその剛腕でそのままの方角、射出角47度で飛ばしてください」


百葉はキレた時より遥かに恐ろしい、目を合わせれば氷水に浸かったような感覚に陥るほどの冷酷な眼差しで斬葉を睨む。

その視線は、魔殺家の歴史で最狂とまで謳われる斬葉ですら、スイッチが入り仕事モードへと変貌した百葉の挙動一つ一つに僅かな恐怖と興奮を感じながら、言葉一つにさえ細心の注意を払いながら選ぶ。

斬葉は彼女の視線を受けてゾクゾクッと背筋を震わせながら、零葉と同様に百葉にも方角と角度の指定をする。


「その先に何があるか知らねーが、今はお前の指示に従ってやる。その代わりその玩具とやら、確実に手に入れてこい」


「勿論です。私の辞書に失敗の二文字は存在していませんから」


ようやく、零葉に飛ばされた際の勢いが重力に負けてきたのか徐々にだが、減速しはじめる。

それにつれて斬葉との距離は百葉が手を伸ばせば届く程になり、斬葉の足の裏に照準を合わせ、右手を後ろに引き、左腕を前に突き出す。

そして指定された方角と角度にチラッと視線を送ると、斬葉を武術の八卦(はっけい)のような動きで押し出すように腕を突き出した。

それと同時に左腕を後ろに勢い良く突き出すことで反発を相殺し、小柄な百葉が斬葉の体格に負けることなく彼女を空へと押し上げる。

彼女の強力な腕力によって一瞬で斬葉は加速し、再び更なる天空へと舞い上がっていった。

物理法則の概念などどこへやら、しかしそんなデタラメさも彼らが「理外者(アウトルーラー)」と呼ばれる由縁なのである。

そして、理外者たちの中でも魔殺の名を持つ人間は、彼らの元いた世界でも屈指の実力を持ち、彼ら一人一人の存在そのものが一つの災害や兵器と並ぶ程に危険視されているほどなのである。


「お母様ありがとうございました。では空の旅を引き続きお楽しみください」


「それは構わねーけど、こっからアタシはどーすりゃいいんだ?」


役目をしっかり果たしてくれた母に向けて、斬葉は労いの言葉をかけ飛び去る。

そんな彼女を見送った百葉はというとムムムと唸って自分のいる場所とこれから確実に起こるであろう現象を考えて呟く。

しかし、こんな空の真っ只中でその呟きを聞いてくれる者などいるはずも無く、遠くからドラゴンの咆哮だけが帰ってきた。

そして数秒の間は空中で停止した後、ゆっくりと下降を始める。


「そりゃ、落ちるしかあとは無いわな。でも下さえ見なきゃ問題ないだろ…落ちたとこで死ぬ高さでもないし、体感的には80mいかないくらいだな。とはいえ斬のヤツはどうするつもりなんだ?」


そう言いながら空中で胡座をかく百葉は人間なら余裕で地面にペシャンコになる高さだというのに至って冷静なまま落下速度を上げていく。

しかし、彼女にとって今一番気がかりなのは斬葉はどうやって下に戻ってくるかということだった。


「あー納得したわ。あんなとこに湖か…アイツあそこに落ちるつもりだな。地上に戻ったら2人連れて迎えに行ってやるか」


暫く斬葉の飛んで行った方向の地表を眺めていたが、その近くに小さな湖を見つけた百葉は、最終的に斬葉が落ちる場所を理解しながら重力に従って落ちていくのであった。

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