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アウトルーラーズ『チート家族の異世界英雄譚』  作者: 煉獄
一章【はるばる来たぜ異世界】
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さっそく異世界で大暴れです

魔殺流拳闘術(まあやめりゅうけんとうじゅつ)弐式(にしき) 葛花火(かずらはなび)!喧嘩売っておいてこの程度なのか化け物ども、アタシの本気はまだまだこんなもんじゃねーぞ!参式(さんしき) 焔竜胆(ほむらりんどう)!」


軽快なフットワークで化け物との間合いをあっという間に詰めた百葉。

その華奢な外見からは想像もつかない渾身の右ストレートは、正面からまともに受けた化け物の頭部が飴細工のようにグニャリと陥没、爆発四散し無惨な肉片へと形を変えるほど。

続けざまに迫ってきた化け物には強烈な旋風脚を叩き込み、その身体を横腹から二つ折りにしながら軽々と吹き飛ばす。


黒椿(くろつばき)…参乃型、魂冥三世(こんめいさんぜ)!一気に片付けます…伍乃型、万刺招来(ばんししょうらい)空罪滅牙(くうざいめつが)!」


斬葉も母と競うように、漆黒の刀身をもつ彼女の愛刀「黒椿」を鋭く抜き放つとそこから生じた剣圧によって彼女に向かって飛び掛ってきていた化け物の急所を的確に抉り取って吹き飛ばし、返す刀で間髪入れず放った次の一撃であっという間に化け物の半数近くを切り刻んだ。

数分後、残ったのは異様なまでの静けさと化け物だったものたちの山積みになった残骸、その中心地に佇む魔殺家最強の2人だった。


「この程度とは拍子抜けです。もっと頑丈な玩具は無いのですか?」


「あースッキリしたー」


そして、完全に殲滅したのを確認した斬葉が黒椿にべっとりと付いた化け物の血を布で拭う。

そして、返り血で真っ赤に染まった姿のまま、物足りなさげな様子で化け物の残骸を眺めて呟く。

彼女と共に暴れていた百葉はというと、同じように返り血に染まりながらもすっかりいつも通りの様子に戻ってニコニコと笑っていた。

その姿から元いた世界では「血化粧の黒姫」の二つ名を持ち、理外者(アウトルーラー)や犯罪者では知らぬ者はいない程で恐怖の象徴ともされている斬葉。

かたや、現役時代には裏の世界で彼女の名を知らぬ者はいないほどの超がつくほどの有名人、しなやかながらも鋭く強烈な一撃にて標的を(ことごと)く蹂躙する姿から「魔猫女帝」と呼ばれていた百葉。

そんな2人にあっという間に蹴散らされた化け物、斬葉がその一匹の屍を軽く蹴飛ばすとその姿を観察する。


「胴体の方には首輪がついていますし、飼い犬でしょうね。まぁ、犬かどうかはさて置いて、どんなバカな飼い主なんですかね…相手の力量も分からないまま数で押し切ろうなどと考える辺り、策略も特に練ることのない脳筋馬鹿なのでしょうね」


彼女はそのまま短く息を吐き、怪物の頭部を蹴り飛ばして無造作に地面に転がす。

そうしてから化け物の屍の上に座った斬葉を眺めながら零葉は頭を掻いて悪態をつく。


「ったく…何だってんだよ…異世界に飛ばされたと思ったら、いきなり怪物に襲われるとか…」


「はぁ…今日からテストだったのに…このまま帰れなかったら今期の単位殆ど落としちゃう…」


そんな零葉の横で元いた世界での予定を思い返しながら乾き切った笑い声を上げながら半泣き状態の何とも気の毒な狩葉。

そんな彼女の肩を、何気無く空を見上げていた百葉が嬉々とした様子で叩く。


「ねえねえ、狩ちゃん。上見て、上」


「何、お母さん…単位でも降ってきてくれ…た…の?」


狩葉はすっかり意気消沈した様子のまま暗い声色で笑いどころに困る冗談を交えながら母の指差す先を見上げる。

そんな彼女の目に飛び込んできた光景にそのまま固まって口をあんぐりと開けて絶句するしかなかった。


「2人揃って口開けたまま何見てんだ…よ…って、はぁ!?」


そんな2人の様子を見て、零葉も空を見上げると、狩葉同様に開いた口が塞がらなくなった。

そこにあったのは…

島。

彼らの目に映ったのは空飛ぶ島だった。

その周囲の澄み渡る大空にはお決まりのように真紅の鱗を纏ったドラゴンや、零葉たちの世界では見たこともないような巨大な怪鳥が飛び回っていて、時折火を吹いたり、けたたましい鳴き声を上げていた。


「マジかよ…」


「本当に異世界に来ちゃったんだ…」


「侵入者発見…排除スル」


この世界の異質さに呆気に取られる零葉と狩葉だったが突如、斬葉の座っていた方から無機質な機械音声のようなものを耳にしたと同時に、ガコッという硬い物が何かに勢いよくぶつかる音とゴキッという骨の折れるような嫌な音が混じった鈍い音が耳に届く。

異常事態に気付いた零葉たちがすぐに視線を戻した時には、斬葉の身体が物凄い勢いで家を囲うブロック塀に激突する。

塀はその凄まじい衝撃によって破壊され、斬葉はその瓦礫に埋れてしまっていた。

そして零葉たちが視線を戻すと、怪物の屍の山の向こうに巨大な岩石の巨人、ゴーレムが佇んでいた。


「今度はゴーレムかよ…ホント、次から次へとファンタジーなバケモノしか出てこねーな…つーか、異世界なんだしこのくらい普通か」


「まったく…見回りをさせていたハウンドが帰ってこないと思ったら侵入者にやられたのか…しかも、よりによって人類(ヒューマン)如きにとは…」


そう言ってゴーレムの影から現れたのは2メートル以上はあろうかという体躯をし、筋骨隆々の褐色の肌に幾つもの傷を持つ男だった。

男は零葉たちと男の足元に転がる化け物たちを見て短く嘆息する。


「アンタ…誰だ…」


零葉は身構えてゴーレムの背後から現れた褐色の男を睨んだ。

男は零葉を一瞥すると、鼻で笑いながら質問を返す。


「それは儂のセリフだ、貴様ら、ここが我々、森精族(エルフィー)の長年に渡り守護する神聖な土地と知って家を建てたのか?」


「エルフィー…って何だ?」


男を眺めてみると、耳が長く陽の光に照らされ輝いているプラチナブロンドの髪、おとぎ話に出てくるエルフによく似ていた。

しかし、本で見たエルフのような温厚さは微塵もなく、寧ろ敵意を剥き出しにして零葉たちを睨みつけていた。

そんな男の敵意に対しても零葉は怯むことなく「建ててたら何だってんだよ。罰でも受けさせるってか?」

と言い放って、男に向けて闘争心剥き出しで睨み返して拳を握る。

男はそんな零葉の放つ殺気に気付いたのか忌々しそうに舌打ちするとゴーレムに指示を出す為に魔法陣を展開する。


「即刻立ち退きを求める」


男が展開した魔法陣に魔力を込めると、それに反応したゴーレムが零葉の方へと顔の無い頭を向ける。


「いきなりアタシの家族ぶん殴っておいて、はいそうですか、すぐに出ていきますー。って答えると思ってるの?」


男の勝手で一方的な要求に、怒りが臨界点に達したのか、普段は温厚な狩葉でさえも表情こそ崩さないが、零葉に匹敵するほどの…否、それ以上の殺気を放ちながら静かに男に問う。


「ふん、人類如きに謝罪するなど森精族の恥晒しも同然。無知は罪だ、ゴーレムに侵入者は即刻排除と指示してあるからな。それを知らずにここに来た貴様らが悪いに決まっているだろう。そもそも、こんなところに人類が来ることなど想定されてなどいない、ゆえにゴーレムには力の制限など掛けずに見回りさせているのだ」


狩葉の問いに男は鼻を鳴らして答える。

この世界では自分たちより遥かに能力で劣る人間を下等な存在として見下しているためからか、上からの目線で言っていた。

「勝手に家を建てた貴様らに非がある」

男はそう言い放ってゴーレムを(けしか)ける。

森精族の持つ兵器の中でも1位2位を争うほどの危険度を誇るゴーレムを持つ男には圧倒的な力の差という余裕があったが、そんな絶対的優位に立っている状況にも関わらず、2人と会話した男には妙な違和感が生じていた。

そして男は違和感の正体を身を以て知ることになる。


「その必要はありませんよ。ところで、岩ってことはそれなりに頑丈ですよね?」


ガゴンッという岩の砕ける音と共に、ゴーレムが数メートル後方に砂煙を上げながら吹き飛ばされる。

突然の出来事に余裕を見せていた男の表情は一瞬にして引き攣る。


「ゴーレムが吹き飛ばされただと?魔法…いやそうじゃない…だが、そんな事を魔法無しで出来るなど、巨人族(ギガンタス)レベルの怪力でなければ不可能だぞ!そもそも貴様…何故生きている!」


「残念でしたね。あんな泥人形の拳ごときに殺されるほど私はヤワではないので」


そして、先程までゴーレムが立っていた場所にいたのは、数刻前に確かにその拳によって吹き飛ばされて絶命したと思われていた斬葉が薄ら笑いを浮かべながらコキッコキッと首を鳴らしていた。

しかし、彼女自身まったくの無傷というワケではなく、身体のあちらこちらから(おびただ)しい量の出血して、その流れ出した己の血によって全身を真紅に染めた痛々しい姿だった。


「ゴーレムの一撃をマトモに受けて死なない…ましてや、立ち上がれるヒューマンなどいるわけが…」


不測の事態に男は零葉達に対して抱くものを焦りから恐怖へと変えて青ざめた表情を浮かべる。

そこで男は気付く、ゴーレムに彼女が殴り飛ばされた後、家族が怒りはしたが彼女に対して泣いたり喚いたりする様子が一切無かったこと。

何より、彼女が死んだとは自分以外誰一人として口にしていなかったことに。


「何事にも例外というものは存在するんですよ?まぁ、私達を甘く見たのが運の尽き…ですが、折角なのでチャンスを差し上げます。そこの泥人形と共に大人しく帰るか、死ぬか。まぁ、私としては、どちらもあまりオススメしませんけどね。話を聞くに貴方はここの守護を任された立場、それが人類に返り討ちにされた上に、すごすごと無傷で帰ったとなれば…後は言わなくても分かりますよね?」


そう言う斬葉は、頭や口から血を流しながらも、零葉や狩葉ですら滅多に見ない純粋な、それでいて凶悪な笑顔を浮かべて男とゴーレムを見やる。

その笑顔は自棄でも自意識過剰でもなく、余裕。

本物の強者の持つ余裕の笑み、それは身内である零葉と狩葉さえ寒気を覚えるほどの恐ろしいものだった。

そして男も彼女の笑顔を見て、全身が冷水を浴びせられたかのように震え出す。

まさに蛇に睨まれた蛙、自分が蛇であったどころか、最初から立場など何一つ変わらず彼らが捕食者、自分が獲物であったことに気付き、一瞬にして男の体中から血の気が引いていった。

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