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教会

「居たぞ追えッ!」


ここは迦楼羅の国の周囲をぐるりと囲む城壁の上、見張り番の兵士に見つからないように兵士たちの巡回から少し距離を置いて魔神ヘブラムを探していた狩葉とセレネだったものの、偶然交代の為に城壁へ上がってきた別の兵士とバッタリ鉢合わせしてしまい追われてしまっていた。


「何で追っかけてくんのよ!アンタら機甲人(マキナ・ドール)が怖く無いの⁉︎」


「そこの機械人形の恐ろしさなど百も承知、それよりも家族の命を失うかもしれない恐怖の方が何百倍も恐ろしい!」


そう、本来なら太刀打ち出来るはずもない種族間の力の差を恐れもせず追い掛けてくる兵士たちは一種の狂乱状態に陥っているも同然で、流石の狩葉も顔を引き攣らせていた。


「だからアタシたちに任せろって言ってんのが分かんないの⁉︎」


「お前みたいな子どもを信用出来るわけがないだろ!」


「デスヨネー…チッ…気に食わない…」


兵士の言う通り、明らかに年若い狩葉たちが魔神を打ち倒すなどと誰も信じられるはずもなくこれ以上の説得は無意味と悟った狩葉はこの兵士たちの反応も魔神の狙いの一つなのだと気付きすっかり後手に回ってしまっていることを悔しがるように舌打ちをする。


「狩葉さま、もし許可を頂けたらすぐさま殲滅に移りますが?」


狩葉の隣を並走するセレネが戦闘の許可を求めるものの狩葉は首を横に振った。


「戦闘は出来る限り無し。セレネちゃんの魔力は有限、オマケに供給源の零葉(あのバカ)は別行動、アタシも魔力を大量に使う戦闘スタイルだからアタシから供給するのも悪手。つーわけで、お互い魔神戦まで残しておくのが賢明だと思うわ」


「成る程、承知しました」


「うん、ありがと。とはいえ後ろのアイツら何とかしないと魔神云々以前にマジで死ぬわね」


「でしたら敵性存在の足止めを…運の良いことに魔力を使わない道具が本機には内蔵されているようです」


そう言って右腕のハッチを開いたセレネが取り出したのはテトラポットを小さくして鋭くしたようなアイテム…昔ながらの足止め用の道具、そう撒菱(まきびし)である。


「ナイス!でももう少し待って…セレネちゃん近くに下に降りられる階段はある?」


「100m先に一つだけ…でもダメです、前方からも敵性存在が接近中!」


セレネが指差す先には下行きの階段の入り口が口を開けていたがその少し手前には30人ほどの兵士たちが武器を構えて迫ってきていた。

このままでは前後を兵士に取り囲まれ、既にこれ程殺気立っているのだ、捕まればタダでは済まないだろう。


「あーもう、次から次へとふざけんじゃないわよ!セレネちゃんちょっとこっち来て」


「狩葉さま何を……ッ⁉︎」


頭をガシガシと掻き毟りながらヤケクソのようにセレネを呼び寄せた狩葉はすぐに彼女を脇に抱える。

彼女の行動の意味が理解出来ずキョトンとしているセレネだったが、次の瞬間、狩葉が猛烈な勢いで走り始め、見る見るうちに前方の兵士たちとの距離が狭まってきていた。


「距離、50…30…10…接敵します!」


「セレネちゃん、しっかり掴まって絶対に口を開いちゃダメよッ!」


衝突寸前で叫ぶようにセレネへと声を掛けた狩葉は言い終えるか終えないかの内にレンガの地面が砕けるほど強く踏み抜き跳躍、予想外の行動に慌てた兵士たちが次々と頭上の狩葉たちに向けて槍やら剣やらを繰り出してくるがセレネを抱える腕とは逆の手に持った愛刀の内の一振り、紅蓮華で悉く弾き無傷のまま対岸まで飛び越え再び走り出した。

一方合流して倍の数になった兵士たちはすぐさま切り返すとまだ追い掛けてくる。


「着いた!セレネちゃん撒菱お願い!」


「はいっ!」


ほんの一瞬だけ後方を振り返った狩葉が指示を飛ばし小脇に抱えられたセレネが階段の入り口を囲むように撒菱をばら撒く。


「クソッ撒菱か!下の部隊に伝令を回せ!」


広範囲にばら撒いたため余程の跳躍力がなければ飛び越せない撒菱の海を前にして悔しそうに次の手を打つ兵士たち、一方で階段まで逃げ延びた狩葉とセレネはこれ以上の消耗を避けるべく身体強化を解除し普通の駆け足で吹き抜けのある下へと続く螺旋階段を降り始めた。


「ふぅ…当面の間は下から来るヤツらだけ警戒すれば良さそうね」


「お疲れ様です、魔力の方は大丈夫ですか?」


「ありがと、平気よ……ッ⁉︎セレネちゃん危ない!」


階段も中腹に差し掛かり追撃の気配も無いためここでようやく息を大きく吐く狩葉をセレネが労っていると突如目の前の空間が歪に捻じ曲がりそこから鎖分銅がセレネの頭部目掛けて飛び出してくる。

背後を取られていたセレネは対応が遅れてしまっていたが、向かいに居たことで察知出来た狩葉が彼女を押し退けると同時に空いている手で抜き放った蒼菫の一撃が分銅の直撃を阻む。


「痛〜ッ!どこの誰よ、出て来なさい!」


「驚きました、ワタシとヴェロニカの連携攻撃を防ぐなんて」


「まったくですわ、ワタクシとレベッカの合わせ技を初見で防げる異端者など居ないと思っていましたのに…まだまだワタクシたちも未熟というワケですわね」


不意打ちとはいえ腕が痺れるほどの一撃を繰り出した襲撃者の姿を慌てて探す狩葉たちの少し下の階に2人の少女が立っていて、少女たちは瓜二つの顔を見合わせ互いの指を絡み合わせるように繋ぐと落胆した様子で狩葉たちを見上げる。

同じ修道服を身に纏った2人の少女は遠目から見ればクローンのようにそっくりな顔立ちから一卵性の双子だというのが窺い知れるが完全に同じというわけではなく、レベッカと呼ばれたボブカットの鎖分銅を携えた少女は右目の下に泣きぼくろがあり眠そうな目つきも相まってか、武器の無骨さに似合わぬ温厚そうな印象を受けるゆったりとした口調の少女。

一方でヴェロニカと呼ばれた少女は鍵のような形の錫杖を持ち、ロングヘアーを括ることなく下ろした少しキツめの印象を受ける鋭いキツネ目が特徴で、高飛車な令嬢を彷彿とさせるのような見た目とですわ口調の少女だった。


「いやぁぁぁん!パツキン超絶美少女双子シスターとか属性盛り盛りだけどヤヴァイわ‼︎」


「狩葉さま、恐らく彼女らは敵ですよ…?」


「そんなこと分かってるけど、それと美少女が目の前にいるのは別腹よ!」


そんな2人の少女を目にした狩葉はある意味平常運転と言うべきか、その端麗な容姿に既に興奮を隠しきれずにハァハァしていた。


「イヤですわレベッカあのオバさんワタクシたちを見て息を荒くしてらしてよ?」


「オバッ…⁉︎」


「女性だからと気を許したらあの類は男のようにワタシたちのカラダを好き勝手に貪り食うに違いないです、まさにド変態の男女(おとこおんな)です」


「オトッ…⁉︎」


変態じみた挙動を見せる狩葉に当然双子のシスターが嫌悪感を丸出しにして罵倒すると、流石の狩葉もオバさん、男女呼ばわりはショックだったのか大きく蹌踉めく。


「……セレネちゃん…20歳目前ってもうオバさんなのかな…アタシって男女なのかな…」


「えっと…それは…あの…」


ガックリと項垂れた狩葉はヴェロニカとレベッカから浴びせられた罵倒をなんとか処理しようとセレネに助けを求めるそぶりを見せるが、次の瞬間尋常ではない程の負のオーラが彼女の身体から噴き出すように見え幽鬼のようにフラフラと立ち上がる。


「フフフ…パツキン超絶美少女双子シスターだからって言って良い事と悪い事の区別も付かないのかしら…えぇ、えぇ、それならば結構、大いに結構…だったら徹底的に教育もとい、調教してやるまでよ…」


「あの…狩葉さま…?」


「これでもね…自慢するワケじゃないけど大学じゃそこそこ有名な美人で通ってたのよ…そんなアタシをド変態なババアの皮被った男女呼ばわりした罪は重いぞ乳臭いガキンチョどもォォォォォッ!」


「いや、そこまで言ってませんし、自分で美人キャラ完全崩壊させてますよね⁉︎」


主人に似たのかすっかりツッコミ属性が板について来たセレネの言葉など怒髪天の狩葉に届くはずも無くまるで鬼のような形相で紅蓮華と蒼菫を鞘から抜き放つ。


「男女がキレたのです」


「怖い怖いオバさんの逆恨みほど怖いものはありませんわ」


「まだ言うワケね…オーケー、だったらめっためたにしてお姉ちゃんって呼ばせてやるわ」


「狩葉さま、目的変わってますよね?っていうか美人に有るまじき顔になってますから落ち着いてください!っていうか何ですかこのパワー⁉︎」


ブチ切れモードの狩葉を必死に引っ張って止めようとするセレネだがそんな彼女を引きずりながら歩くほどの桁外れのパワーを見せる狩葉にヒューマンである事すら疑ってしまう。

当然怒りで周りの見えていない狩葉に対して煽った張本人であるレベッカとヴェロニカは冷静に対処する。

ヴェロニカが目の前の空中に錫杖を突き出すと鍵の形をした先端が飲み込まれるように消え空間を歪める。

そこに間髪入れずレベッカの放った分銅が潜り込み狩葉の死角から分銅が飛来するが、狩葉は見もせずに紅蓮華の一振りで弾き返す。


「空間操作の類か、面倒ね」


「一度ならず二度までも、あのオバさん何者ですの⁉︎」


「まだ言うか…蒼菫、氷界一閃(ひょうかいいっせん)


狩葉の超反応に驚愕するヴェロニカに向けて蒼菫を一振りする狩葉、その斬撃は吹き抜けを超えて2つ下の階にいるはずのヴェロニカまで届く。

ここまで届くと思っていなかった遠距離武器を持たぬ相手からの攻撃にヴェロニカは更に驚愕しつつもすぐに錫杖を斬撃の向かってくる突き出し空間を歪めると斬撃が吸い込まれヴェロニカとレベッカの少し横の壁に到達し容赦無く凍り付かせる。


「さっき見た時に何となくは理解してたけど、空間操作の魔術か…意外と高度なモノ使うわね」


今の一撃を放ったことで大分冷静さを取り戻してきたのか真剣な眼差しで相手の力を分析する狩葉、一方のヴェロニカとレベッカは驚きを隠せないでいた。


「教会員でもないヒューマンが異能を使えるなんて知りませんでしたわよ?」


「それだけ世界は広いってことですね、とにかくワタシたちの任務はあの人たちを明日までに全員始末する事。それはどんな状況だろうと変わりません」


彼女たちの会話を聞いて新たな単語が出てきたことで眉を寄せる狩葉。


「教会?セレネちゃん知ってる?」


「はい、"教会"は迦楼羅国にルーツを持つ自警団の通称です。支部数は全国に20以上あり総会員数は1000を超えるとも言われています。主に荒事の処理を生業としていて今回も恐らく住民からの依頼があってのことだと思います」


「なーるほど、教会とか穏やかそうな名前使ってるけど早い話が用心棒集団ってワケね、とするとあの2人も?」


「はい、恐らくはそうかと。能力や実力によって階級が分けられていまして、上から教皇(ポウプ)枢機卿(カーディナル)大司教(アークビショップ)司教(ビショップ)とされその下の階級は基本非戦闘員や能力があっても荒事には不向きな者で構成されています」


「つーことはあの子たちは少なくともビショップ以上の階級ってこと?んじゃ遠慮は要らなそう…ねッ!」


セレネの解説を聞き終えると狩葉は対岸まで数メートルはあろうかという距離を一気に飛び越えヴェロニカとレベッカに肉薄する。


「甘いです!」


「その言葉そっくりそのままお返しするわ!…グホッ…⁉︎」


「油断禁物ですわ、オ・バ・さ・ん」


それを防ぐためにレベッカが分銅を投げて対応してくるが狩葉も当然そこまで予測しており、軽く去なして刀を振りかぶる。

が、そんな彼女の脇腹に鈍い痛みと共に衝撃が襲い、堪らず吹き飛ばされ別の方向の壁に激突する。


「グゥッ…イッタぁ……何が起きたのよ…」


「狩葉さま避けてください、第二波来ます!」


「クッ…!」


崩れた壁の瓦礫を払いながら脇腹を押さえる狩葉だったがセレネの声にハッとしてすぐさまその場を飛び出すと今しがた彼女の立っていた場所が激しく破壊され土煙がさばけた後には壁にポッカリと大穴が開いてしまっていた。


「仕留めたと思ったんですけど、意外にしぶといですね」


柔らかな笑みを浮かべながら分銅を何度も放ってくるレベッカ、恐らく狩葉を吹き飛ばしたのも壁を粉砕したのも彼女の一撃だろう。

しかし、先程狩葉が吹き飛ばされた一撃に関しては直前に弾いていて複数の鎖分銅を所持していない限り繰り出すことは不可能な攻撃のはず、そこまで思考した狩葉はヴェロニカの存在を思い出す。


「そっか、アンタの能力があったわね。破壊力は多分純粋なもう1人の方の実力によるものだろうけど、弾かれた鎖分銅の行き先とアタシの脇腹に直撃する軌道を空間操作で繋ぎ合わせたのか…うん、前言撤回。アンタたち強いわ…出し惜しみして勝てる相手ではなさそうだし、仕方ない本気出すか…」


「レベッカ来ますわよ…」


「分かってますヴェロニカ」


「セレネちゃん、こっち来て!」


「承知!」


「「⁉︎」」


「飛ぶわよ!」


痛みに顔を歪めながらも真剣な表情になった狩葉は全身に殺気を漲らせる。

先ほどよりも明らかに変わった狩葉の雰囲気に身構えるレベッカとヴェロニカだったが、狩葉の次に取った行動は意外なものだった。

セレネを呼び寄せると先ほどレベッカの分銅の一撃で崩壊した階段の壁から地上に向かってダイブしたのである。

しかし、ここは城壁のちょうど中腹辺り、高さにして15m以上。

どう考えても無事に着地できる高さではないことは2人が飛び出す様を見ていたレベッカとヴェロニカも当然分かっていることである。

このままでは地面に激突しセレネもろともペシャンコになってしまう事は不可避だが、狩葉はもちろんそこまで想定済みで危険なダイビングに及んだのだ。


「こんな高さから落ちたら下手すれば死んじゃうのは分かっていて敢えて不利な狭いこの階段から脱出ですか、なかなか面白いこと考えますねあの人……ヴェロニカ、行きますよ」


レベッカは顔に笑みを浮かべながらも不愉快そうなの声色で自由落下する狩葉を目で追って、隣に立ち苛ついた様子で錫杖の先で床をコツコツと叩くヴェロニカを抱き寄せる。


「無駄にしぶといったらありゃしませんわ、でも狭いところが不利なのは実はワタクシたちも一緒でしたし次はワタクシたちの恐ろしさあの身に刻み込んで差し上げますわ」


腰に手を回されたヴェロニカは少し赤面しながらも口角を吊り上げて錫杖を持ち直すとその先端を床に突き刺し魔術を起動させた。


「狩葉さま!この後はどうするんですか⁉︎」


落下しながら次なる策を講じているのであろう狩葉に問いかけるセレネ。


「とりあえず、セレネちゃん、アタシを無事に地上に下ろして!」


「まさかのノープランでした⁉︎」


「そっ…そそそそそんなことなななないわよ⁉︎」


セレネからの鋭い指摘にあからさまに動揺する狩葉、ここまでの反応をされると逆に予定通りな気がしてきて安心してしまうが、とにかく彼女の手を取らなければ地面に激突してしまう、すぐに背中のブースターを起動して狩葉を捕まえると地面までの距離残り2mほどのところで上に向かって飛び落下の衝撃を抑えて無事に着陸する。


「助かったぁ…セレネちゃんじゃなかったら死んでたわ」


「無茶だけはくれぐれもしないで下さいね?」


安堵したのもつかの間、待機していたのだろう大勢の兵士たちが現れ2人をあっという間に取り囲んだ。


「よし、もう逃げられんぞ!」


「そういえば存在忘れてたわ」


武器を持った兵士に囲まれ下手な動きをすればあっという間に串刺しにされてしまうだろう状況にも関わらずゲンナリしたような表情を浮かべて頭を掻く狩葉。


「大人しく付いて来てもらおうか」


「邪魔ですわよ、そのオバさんはワタクシたちの獲物。横取りしないでいただけます?」


そう言って包囲網を狭めてきた兵士たちを押しのけるように現れたのはヴェロニカとレベッカ、彼女たちは兵士の男たちを穢らわしいものを見るかのように一瞥すると狩葉の前に立つ。


「あーら、思ったより早く追いついて来たわねガキンチョ」


「むしろあの程度でワタクシとレベッカから逃げられると本気でお思いでしたの?」


早くも火花を散らす狩葉とヴェロニカ、そんな2人の間に1人の若い兵士が割って入る。


「おいおい、お嬢さんここは危ないから早く逃げなさ…」


しかし兵士が言い終える前に別の中年兵士がその口を手で押さえる。


「バカ野郎、よく見ろあの女の子の服装!」


「服装って…修道服⁉︎」


「修道服を着てあの瓜二つな顔立ち…まさか大司教(アークビショップ)のケルニヒ姉妹か⁉︎」


どうやら兵士たちは彼女らのことを知っているようで途端にざわつき始め、それを聞いていたヴェロニカは胸を張って誇らしそうに鼻を鳴らす。


「ご理解頂けたようですわね、えぇえぇ、そうですともワタクシたちが崇敬してやまないかの有名な教皇より大司教の位を賜ったヴェロニカ・ケルニヒとレベッカ・ケルニヒですわ!」


「というわけです。彼女らはワタシたちが教会の名の下に処断致します。皆さんは近隣住民の避難を」


「分かりました!」


まるで爆発物でも扱うかのような対応に眉間に皺を寄せる狩葉だったが、彼女としてもあまり大勢を巻き込むのは本意ではなかった為ため息を吐くだけに留まる。


「危険物扱いとは徹底的に人をコケにするのが好きなのねアンタたち」


「そんなことありませんよ?必要な措置です」


「さてと、邪魔者もいなくなりましたし始めますわよ?」


会話が終わった途端、レベッカが分銅を投げつけきた為すぐに狩葉は回避を取るがヴェロニカの空間操作で繋げられた足元の死角から一撃を腹部に受けてしまう。


「ゴフッ…!うぐぅ…んぐっ…っはぁ…全方位から攻撃出来るって敵にすると厄介よね…」


巫女装束のお陰である程度は衝撃を吸収できるもののダメージは確実に受けており、せり上がってきた胃液を無理やり飲み下した狩葉は心底厄介そうに2人を見やる。


「休んでる暇は無くってよ?」


容赦無い鎖分銅の攻撃を必死に躱し、弾き、受け止めながら接近しようとする狩葉だが、刃が届く寸前に空間操作であっという間に距離を取られてしまい防戦一方になってしまっていた。


「ちょこまかとッ…」


「ハズレです」


幾度目かの狩葉の斬撃を掠ることもなく回避したレベッカが真横に現れ攻撃の直後ということもありガラ空きになっている脇腹に拳を叩き込む。

メキッという骨が軋む嫌な音と共に吹き飛ばされた狩葉は住民が避難済みの平屋に勢い良く突っ込み、柱を壊してしまったのか崩壊してしまう家屋。


「狩葉さま!」


「さーてと、次はアナタの番でしてよ?」


機甲人(マキナ・ドール)は初めてですけど抵抗しなければすぐにスクラップにしてあげますから安心してください」


「くっ…」


狩葉を始末し次はセレネにその矛先を向けた双子のシスター、ジリジリと距離を詰めて来る2人に武装を展開しようとするが瓦礫を押し退けて立ち上がった狩葉に再び双子が視線を向ける。


「あら、まだ生きていたのですねオバさん」


「大人しく潰れていた方が身の為だったと思いますが?」


異様なまでのしぶとさに最早呆れることを隠そうともしない双子に対し未だ衰えぬ戦意を剥き出しにする狩葉。


「セレネちゃん、ここで時間食ってる場合じゃないわ零葉のヤツのとこに行って。多分城には面倒なことがてんこ盛りだろうからさ」


「でも…」


「んじゃ、これは命令。アイツんとこ行ったげて。大丈夫よ、すぐ追い付くから」


「承知しました…ご武運を」


瓦礫で切れた額から流れる血を拭いこの場の離脱を促す狩葉。

当然そんなことは出来ないと食い下がろうとするセレネだが、彼女から発せられる覇気に不安めいたものを感じながらも命令を聞き入れる。

一方でヴェロニカとレベッカも離脱するセレネには目もくれず笑みを浮かべる。


「良かったんですの?わざわざ勝率を下げることなんてして」


「思い上がんじゃないわよ、アンタらなんてアタシ1人で相手してもお釣りが来るくらいだっての」


「その余裕はどこから来るのか気になりますがワタシたちには関係のないことです。ワタシたちはただ目の前の標的を撃滅するのみ」


誰が見ても旗色の悪い狩葉、どこからそんな自信が来るのかまだ彼女を完璧に理解していないケルニヒ姉妹には知る由もなく笑みを浮かべて再び鎖分銅による乱撃を繰り出してくるのだった。

長らくお待たせしました!

次回更新は今月末を予定してます

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