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デスゲーム

暗く周囲の様子が窺い知れない空間、その中央でスポットライトを浴びるように一筋の光に照らされた円卓。

空席が目立つ中の一席、必堕の魔神シャクナはクルクルと指先で朱い髪を弄びながら空いている手で使い魔である黒猫と戯れていた。


「暇だねぇ。ヴォルドスはいつも通り研究で引き篭もって、プルセレアは召集がないとどこにいるかも分からないし、ヘブラムとサージェリオはお出掛けかぁ…ボクだけ何も無しって、主様はボクをどうして使ってくれないのかな…」


シャクナに前足の肉球をプニプニと触られながらも使い魔の黒猫は冷静に回答する。


「シャクナ様、大主人様(おおあるじさま)にも何かお考えがあられるのでしょう。故に来たる時までは温存しておきたいのではないのでしょうか?」


「そうは言ってもさ、退屈なものは退屈だよ。あー退屈過ぎて溶けてバターになるぅ…」


「そう不貞腐れるでない、シャクナよ」


闇の中から現れたのは黒いローブを纏った長身の人物、声からして女性らしきその人物はシャクナの向かい側の席に腰掛けるとフードの端から覗く口元を笑みに歪ませる。


「主様…失礼致しました、まさかいらっしゃるとは思わず…」


「構わん、それよりも迦楼羅に潜り込ませた我の愛しの子供たちはどうしている?」


主…魔神ルキエルの突然の来訪に慌てた様子で席を離れて跪くシャクナ。

そんな彼女を手で制したルキエルは他の魔神の動向を尋ねてきた。


「はい、主様のご命令通りヘブラム、サージェリオ両名は無事迦楼羅に侵入。予め放っておいた信者たちにも準備を整えるよう通達しております」


「上々だ…唯一気掛かりとすればあの家族か…」


シャクナの報告に満足そうに頷いたルキエルが虚空を指でなぞると、空中に何かが浮かび上がる。

そこに映っているのはルキエルの封印されていた祠に上がり込んだ男が呼び寄せたとある一家の姿。

当の本人たちは覗き見られていることなど露知らず夕餉を楽しんでいる。

一方でシャクナもルキエル同様、空中に映像を映し出しており、こちらはラグ・バルに待機している家族の1人。


「主様、あの者たちは迦楼羅とラグ・バルの二手に分かれております。始末するならば先ずは独りきりになっているあの小娘かと。このシャクナ、主様の命とあればあの小娘の首をここに持って参りましょう」


「放って置け」


映像を指差しながら珍しくやる気を見せたシャクナはそう進言するがルキエルは間も置かず彼女の提案を一蹴する。


「何故ですか主様、理由をお聞かせください。……まさかとは思いますが、ボクでは役不足という事でしょうか?」


「我の産み出した最高傑作であるお前が役不足か…フフッ面白い冗談だ…」


「申し訳ありません、余計な事を…」


「……と言いたいところだが、あの小娘が本物であればお前では足元にも及ばぬだろうな。そうとすれば、何よりもこの我ですら今のままでは間違い無く持て余すシロモノよ」


思いもよらぬ主人からの一言にシャクナは目を細める。

決して未だ何の役割も与えられないことに不服を感じているワケではなく、ただ純粋に目の前に映し出されている少女の皮を纏った"何か"に対しての不気味さを顔に出さぬよう隠すためである。


「……彼女は一体何者なんですか?」


「時が来れば教えてやろう。その為にもヘブラムとサージェリオには仕事を成してもらわねばな」


そう言い残して闇に溶けるように姿を消したルキエル。

部屋には彼女の不気味な笑い声が谺していた。


「魔神教?」


夕飯として出された焼きそばのような麺料理を口に運んでいる零葉が斬葉の口から出た聞き慣れない単語を繰り返す。


「えぇ、近頃魔神教団と呼ばれる集団がこの国で活発に活動しているという話を聞きました。恐らく魔神の動きが活発化した事にも関係しているかと」


「旦那さま補足をさせて頂いても?」


斬葉の言葉に続いてセレナが零葉の顔を覗き込んでくる。

許可を求めているのだろう、わざわざ伺いを立てる辺り真面目な性格が表れている。


「あぁ、頼む」


「魔神教団は魔神を"世界の救済者"として崇め奉る者たちの集まりで、その起源は謎とされていますが一説では魔族が己が勢力を伸ばさんが為に他種族を取り込んで作ったとも言われています。また、魔神を奉るに伴いあらゆる犯罪を許容している、半ばテロ集団といっても過言ではない危険因子です」


セレネの補足を聞いて思い出したように昼間見た光景を口にするのは、フィーナを膝に乗せて撫でくっている狩葉。


「そう言えば今日街の西の方で"魔神様の為される全ての誅戮はこの世界への断罪、そして浄化である!"とか騒いでる変なヤツが居たわね」


「俺らの聞いた話と照らし合わせても魔神が何かしようとしてるのはほぼ間違い無しか」


魔神の話が出るにあたって今現在、シュラとイヅルには席を外してもらっている。

当然初めは自分たちを蚊帳の外にされることを不満に思っていた2人だったが、零葉の「余計な心配を掛けたくない」という一言に渋々従ったような形だ。


「その割には静かですね、魔神が入り込んだにしては何も起こらな過ぎます」


斬葉の一言に頷く零葉、彼の知っている魔神といえば好戦的な性格をしていたはず、そこで前提を変えてみる。


「となると、今回はヘブラムじゃない魔神か」


「なるほどねぇ、姉様の遭遇した別の魔神の事も考えると他にも何柱か居るって考えるのが妥当かしら」


零葉の考えに賛同する狩葉を見ていたヴァルが今更ながら事の発端を尋ねる。


「そもそも何でお前らは魔神に狙われてるんだ?いくら異世界からやって来たとしても不自然じゃないか?」


その一言にヴァルの方を見て固まる零葉、狩葉、斬葉の3人。

どうやら一度もそんな事を考えたことがないようで、暫しの間沈黙が流れる。


「姉さんは何でだと思う?」


「知るわけ無いじゃない、つーか気にした事もないわ」


「私は目の前で邪魔する者は敵と判断しただけですし」


もちろん3人とも魔神に狙われるような事をしでかした覚えも無く、ただ襲ってきたから退けるだけだったという。

相変わらず重要なところで適当な三姉弟である。


「そんな事より今はアイツらがこれからどう動くのかじゃない?」


そう言って対策案を考え始めるものの魔神たちが具体的な行動を起こしたワケでは無かった為、この日の話し合いは平行線で終わってしまう。

しかし、危惧されていた魔神の活動はなりを潜め、何事も無く迦楼羅に魔神が侵入してから一週間が経とうとしていた。


「そろそろフィーナの店が心配なんだが…」


「きっと大丈夫ですよ、行商人の方にもあの品薄になった日以来来る回数を増やしてもらいましたから品切れの心配はないはずです」


「いや、アタシたちの心配してるのはそういう事じゃ無くて…」


「あの飽きっぽいお母様の事ですから、今頃店をほっぽって何処かに行っているかもしれませんね」


その場にいない事をいい事にボロクソに言われてしまう百葉、しかしながら向こうの状況が確認できない今、彼女の性格を考えてもこう言われてしまう事は無理もなかった。


「それは置いておいて、ホントに魔神が来てるのかしら。その割には魔神教のショボい暴動が何回かあったくらいだけど」


文句を垂れる狩葉の言う通り、侵入したとされている最初の晩を最後に魔神の足取りがパッタリと途絶えているのだ。

その代わりなのか魔神教の教徒たちによると見られる小規模な暴動が頻発しており、ここ数日はその鎮圧に零葉たちも分散して手を貸していたのだ。

しかしこの暴動も嵐の前の静けさとしか思えず、不気味な事この上ないのだが、魔神の動向を掴めない以上考えを巡らせるだけに留まってしまう。


「でも零葉、少しずつだけど暴動の規模が大きくなってきてるのには気付いてるわよね?アイツらが動き出すならそろそろじゃないかしら」


狩葉が言うようにこれまでの暴動で徐々にではあるものの暴動に参加する教徒の数が増えてきているように見受けられたのだ。

今はまだ軍の侍や騎士たちで何とか鎮圧できているもののそれが今後困難なものになることは目に見えて明らか。

故にそれに乗じて魔神が動き出すのではないかと狩葉は考えていた。


「分かってるよ、でも目撃情報も無いんじゃ足取りは追えないし…」


その身を以て魔神の底知れぬ恐ろしさを体験し、彼女らを見つける決定打に欠けていることでいつになく慎重になっている零葉。

そしてすぐさまその不安が的中してしまう。


-レディィィィス・アンド・ジェントルメェェェン!ご注目ゥゥゥゥッ!虫ケラの人類(ヒューマン)どもは今日も生きるのに必死かなァァァ?-


その話し合いの翌朝、連日の様に二人一組で聞き込みを行なっていた零葉たちだったが、聞き慣れたくはなかった不快感に満ち何もかもを見下したような色を含んだ声が辺りに響く。

突然の事に周囲を見渡すが声の主は見つからない、しかしふと顔を上に向けると声の発信源と思われるそれが遥か頭上にあった。


-ハッロー零葉ァ、誰だか分かるかなァァァ?-


「ヘブラム…ッ!」


空に投影されたホログラムには魔神ヘブラムの胸から上の姿が映し出されており、零葉は苦々しげな表情を浮かべる。

すると、向こうにはこちらが見えているのかヘブラムが口角を吊り上げて不気味な笑みで呼び掛けてくる。


-覚えててくれて嬉しいねェ、さてと挨拶はこのくらいにしてそろそろ始めるかァ-


「何をする気だ!」


先ほどの笑みを消し去り無表情になったヘブラム、彼女が何かしようとしていることを理解した零葉は吠えるように叫ぶ。


-人類どもォ、今からお前らを生きるか死ぬかのゲームに参加させてやる。面倒くせぇルールを懇切丁寧に一から十まで説明してやるから一語一句聞き漏らすなよォ?………何とでも言いやがれ取り巻き風情が、ルールは簡単だ。コイツらを殺せ-


恐らく斬葉か狩葉のどちらかだろう、話を中断して悪態をつきながらもさして気にした様子もなくルールを説明し始めるヘブラム、彼女が指を鳴らすとホログラムの中に更にヴィジョンが現れる。

そこに映っていたのは他でも無い零葉たちだった。


「なっ…⁉︎」


-手段は問わない、とにかく主様の邪魔をするコイツらを殺せ。期限は明日の日没まで、クリアできなけりゃコイツら以外のこの国にいるお前ら人類の全てを殺す。零葉ァ、お前も死にたくなけりゃ殺すしかねぇぞ。キヘヘヘッ!-


「そんな事出来るワケ…」


ヘブラムの提示したゲームに絶句する零葉、これが本当ならばこれから自分たち以外の全ての迦楼羅国民が敵となる。

そんな恐ろしい状況の中、真っ先に口を開いたのはヴィジョンに映されている斬葉と狩葉だった。


-くだらない、その程度の戦力で本気で私たちが殺せるとでも?-


-こちとら人斬りなんて数える気も起こらなくなるくらいやってきたわよ。今更一人二人増えたとこで良心の呵責なんてありゃしないわ-


その言葉に零葉は戦慄する。

元の世界でも犯罪者とはいえ人を斬ることに対して既に何の躊躇いも持たなくなっている二人、その二人が罪も無い人が敵として向かってきた時には斬ることも厭わないと言い放ったのだ。


-キヘヘヘ、これから始まるのは一方的な惨殺ってか。見たい気もするがそれじゃツマらねぇ。つーわけで零葉ァ、お前らが無事でいられるクリアの条件を選ばせてやる。1.明日の日没まで隠れ通す。2.明日の日没まで人類どもを殺し続ける。3.明日の日没までにこのヘブラムちゃんを見つけて倒す。さぁ、選びな-


-…どーすんの零葉。普段のアタシと姉様なら迷わず2を選ぶけど、最近アンタのお人好しに感化され過ぎたみたいだからアンタに任せるわ-


「んなもん聞かなくても分かるだろ。3だ、ヘブラム…お前を見つけ出してブッ飛ばす」


-おーおー、威勢が良いねぇ嫌いじゃねーぞ。んじゃゲーム開始と行くかァ-


-ちょっと待ちなさいよ-


必要なことは伝え終えたのか早々に始めようとするヘブラムに狩葉が待ったを掛けると、心底面倒臭そうな表情を浮かべたヘブラムは舌打ちをすると狩葉を睨み手の動きだけで続きを促した。


-まず大前提としてアンタはこの国にいるのよね?明日の夕方になって別のとこに居ましたーなんてツマらないことしないわよね?-


-当然だ、ヘブラムちゃんはとーっても優しいからな。そんな興醒めするようなことしやしねーよ-


-そんな言葉を信じられるとでも?-


-信じるか信じないかはテメェら次第、せいぜい疑っていれば良いさ。んじゃ、ゲームスタートだ-


面倒そうに狩葉との会話を切り上げたヘブラム、彼女が開始を告げると零葉たちを映した3つの中継映像を残してホログラムは消滅してしまった。


「見つけたぞ、アイツらだ!」


そうなるや否や、街に建ち並ぶ平屋の陰から人影が飛び出してきて零葉たちを取り囲む。

それは武装した町民たちで、彼らは各々の手近にあった武器になりそうだったものを手にして明らかな敵意を零葉たちに向けて放っていた。


「お前らを殺せば俺たちは助かるんだ…大人しくやられてくれ」


懇願するように、そして自分達を正当化するため自身に言い聞かせるように訴える町民、その追い込まれた心境は計り知れないが零葉たちもむざむざやられるつもりなど毛頭なかった。


「アンタら魔神なんかの言いなりになっていいのかよ!」


「お前らがこの国に来なけりゃこんなことにはならなかったんだ!」


「…ッ!」


この世界に来て初めて自分たちの存在を否定された様な気持ちになりショックを隠せない零葉。

そんな言葉を搔き消す様に真っ先に否定したのは驚く事に大型ヴィジョンの一つを通して声を上げたフィーナだった。


-そんなハズありません!零葉さんたちがこの世界に来なければ良かったなんてこと絶対に無いんです!-


「フィーナ…」


-確かに今はこういった形で私たちは皆さん迷惑を掛けてしまっているかもしれません、でもこの人たちはどんなに困難な難題でも挫けず戦ってくれたんです!この人たちが頑張って全力で戦って救われた人が少なからずいるんです、だから明日の夕方まで信じて待って下さい、お願いします!-


取り囲む町民たちの言葉も尤もだと感じながらも零葉たちを近くで見てきたからこそ言える言葉で町民を説得しようと頭まで下げた獣人国の王女であるはずのフィーナ、涙を浮かべるほど気持ちを込めた彼女の言葉に町民たちにも戸惑いが生じるがどこからかそれを踏み躙る言葉が飛んでくる。


「獣人族の言葉なんか信用できるか!そもそもお前らみたいな子供が魔神に勝てるわけがないだろ!」


集団心理とは恐ろしいものでどこからか飛び出したその一言は瞬く間に武器を下ろしかけていた町民たちに伝播し再び敵意を漲らせることとなった。


「そうだ、他所(よそ)の種族の話なんて信用できたもんじゃねぇ!」


「そうだそうだ!」


-そん…な…聞いて…違うの…-


弱気になり今にも泣き出しそうなフィーナの言葉を遮ったのは意外にもセレネだった。


-フィーナさんが気に病む必要は1%たりともありません、ただ良い真実よりも悪い虚言の方が広まり易いというのが生き物の(さが)なだけです。ヴァルさん、論より証拠です-


「奇遇だな、俺も同じ事を考えてた」


セレネのフリに応えるヴァル、2人はそれぞれの本当の姿を見せる。


-全武装展開-


「これでも俺たちがただのガキに見えるか?」


機甲人(マキナ・ドール)龍族(ドラグール)…古の大戦の怪物どもがどうしてここに…」


書物や伝聞でしか知らない伝説の存在たちに戦慄した町民たちは思わず手にしていた武器を手放す。

そんな周囲を一瞥したヴァルは呼気に炎を混じえながら言い放った。


「正面切ってヒトを怪物呼ばわりとはいい度胸してるな。本当なら大事な仲間を傷付けられたんだ、お前ら全員焼き殺すところだが、ウチのリーダーは寛容でな。何が言いたいかは言わなくても分かるよな?」


「ひっ…ヒィィィッ!助けてくれぇ‼︎」


ヴァルの殺気をまともに浴びた町民たちは決死の覚悟でこの場に臨んでいたにも関わらず蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出し、ものの数十秒で2人の周囲には誰も寄り付かなくなっていた。

それはセレネたちも同様であり既に移動を開始していた。


「どうする零葉、アイツらと合流するか?」


人型に戻ったヴァルの問いかけを零葉は首を横に振って却下した。


「いや、このまま手分けしてヘブラムの居場所を探す。集まればその分不意打ちの危険は減るけど明日の夕方までにはとてもじゃないけど間に合わなくなる」


それを聞いたヴァルは顎に手をやる。


「それは構わないがどこから手をつける?この街は広くないにしても6人で探すには隠れられそうな場所が多過ぎるぞ」


「そこら辺は絞れるんじゃないか?アイツの性格からして民家とかは居なさそうだし、とりあえず人の出入りが少なそうな場所を重点的に探すべきだと思う」


-アンタが言うなら間違いなさそうね、分かったアタシも姉様もそういうとこを調べてみるわ-


-では、彼女を見つけ次第合流して一斉に突入という事で構いませんね?-


「うん、そうしてもらえると助かります」


そしてヘブラムの居場所を突き止めるべく零葉たちは行動を開始するのだった。



「ヘブラム、どうしてアイツらに有利なルールなんて追加したんだい?これでヒューマン共が彼らを襲う理由がなくなったんじゃないのか?」


迦楼羅のどこか、空に浮かぶ3つのヴィジョンを見ていたヘブラムの隣にサージェリオが腰掛ける。

彼は予定していなかったヘブラムの言動に懐疑の目を向ける。


「サージェリオ、バカだなオメーは。ハナから虫ケラどもに選択肢なんて用意してるわけねーだろ」


「?」


「察しが悪いなお前はそれでも元ヒューマンか?良いかさっきも見ただろアイツらの正体を理解してない虫ケラどもの行動を。ヒューマンが魔神に勝てるわけが無い、この世界の常識に染まりきったザコどもはたとえ逃げ道が提示されても少しでも確実なヒューマンによるヒューマン殺しを選ぶしか無いんだよ、そもそもたった今知り合ったような人間を信頼しろってのがそもそも無理な話だ…とまぁ、こんなもん誰でも思い付くような話だろ」


察しの悪いサージェリオに少し苛立ちながらも説明するヘブラム、狙い通りに動いているにも関わらず苛立っているのは不安があるからなのかそれとも…


「つまり放って置いても勝手に殺し合うと?」


「いんや、あのドラグールとマキナ・ドールが早々に正体をバラしたんだそうトントン拍子にはいかねぇだろうよ」


「…そこで信者たちを使うわけか」


「主様から頂いたオモチャを有効活用しない手は無いだろ」


そう言って不敵に笑むヘブラムにサージェリオは軽く肩を竦めるだけだった。



「まずはどこを探すんだ?」


「うーん…それなんだよな」


ヴァルが首を傾げて振り向くと零葉も唸っていた。


「おいおい、何のプランも無しかよ」


呆れ顔のヴァルに慌てた様子の零葉が必死に否定する。


「いや、別にノープランってワケじゃないぞ⁉︎ただ、この国って目立った建物が少ないだろ?そのアテが外れた時に早々に詰む可能性が無きにしも非ずだから怖いんだよ」


「確かに人の出入りが少なくてかつ、あの狂人が好きそうな場所っていえばそれだけで絞れそうだもんな」


-だったら早いとこそこに向かって可能性を潰すべきでしょ-


狩葉の一言に何故か渋る様子を見せる零葉。

その煮え切らない態度を一喝するのは斬葉、彼女は明らかに不機嫌な表情で優柔不断な弟に本来の目的を改めて確認させる。


-アテもなく探してタイムリミットギリギリでそこに行ったは良いものの、それすらアテが外れた時のリスクを考えたらどうです?私たちの選択にはこの国の人たちの命が懸かっていることを忘れないよう-


「で、お前はどこが怪しいと思ってんだ?」


「とりあえず候補は3つ、城と城壁の上、それからトツカの研究所だ」


-なるほど、彼女が魔神と手を組んでいる可能性もありますか…でしたら私とフィーナさんで研究所に、狩葉とセレネさんで城壁、貴方たちは城をお願いします。くれぐれも捜索だけで済ませるように、良いですね?-


--いやアンタが一番心配だよ!--


テキパキと配役を決める斬葉に異論の無い他のメンバーだったが、最後の一言に口には出さないものの、心の中で総ツッコミを入れるのだった。

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