姫と巫女
芝浦埠頭に辿り着いた斬葉が腕時計を見ると零時十分前、ここからそれぞれの倉庫を探すとなるとかなりギリギリの時間だった。
「川間さんすぐにこの一帯の立入制限をお願いします。ここからは私1人で向かうので…あ、車ありがとうございました」
「黒姫、本当に1人で行くつもりか?恐らく相手は…」
「えぇ、最悪の場合として悪魔と再契約しているでしょうね。ですが、今回ばかりは悠長に他を待っていられない事情があるので」
斬葉の言葉に川間が不安を募らせるが彼女の瞳に過ぎる殺意を目にして口を噤んだ。
「分かった…でもやり過ぎるなよ、それから絶対に帰って来いよ…」
「死亡フラグを立てないでください…多分帰ってきます」
何とか絞り出した川間の一言に斬葉はようやく知らずのうちに大切な妹を攫った犯人たちへの憎悪に呑まれかけていた自身に気付くと、苦笑を浮かべて背を向ける。
一方、狩葉はというと現在は何処かの倉庫の中で柱に縛り付けられていた。
犯人に気付かれない程度で脱出を試みるが固く縛られた縄が緩むことは無く、むしろ彼女の手首をさらに締め付けるだけだった。
「で、アンタらはアタシをどうしたいワケ?人質って言ってたけど目的はお金じゃないんでしょ?」
手首が締まる僅かな痛みに少し表情を曇らせる狩葉だが、倉庫に着いてからは目隠しは外されていたので、目の前にいる3人の男たちを順繰りに眺めながら問い掛けると、その中の1人であるドレッドヘアの黒人が笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。
「おう、嬢ちゃん歳の割に察しが良くて良いねぇ。そうさ、アンタは俺らをブタ箱にぶち込んだ張本人を誘き出すためのエサってワケだ」
グイッとアゴを持ち上げられる不本意極まりないシチュエーションに不愉快そうな表情を浮かべる。
一切怯える事ない彼女の毅然とした態度に金髪を整髪料で固めオールバックにした男が近付いてくる。
「随分と落ち着いてんな。怯えてくれなきゃつまらねー、つーか例の手紙は出したんだろ。あのクソガキがここに来る理由は出来たんだ、こっちのガキは殺しても良いよな?」
金髪の男はヘビのように長い舌で手に持つバタフライナイフを舐める。
銀色に煌めくナイフの刃先が彼女の首元に当てられジワッと赤い血が滲んでくる。
その痛みに唇を噛んで意地でも弱音を零さないと決めていた狩葉。
すると突然金髪の男が見えない力に吹き飛ばされる。
咄嗟に男は空中で体勢を立て直して着地するが、さらに別の男、東洋系の顔立ちをした線の細い青年が金髪男を窘める。
「パイソン、オレたちの目的はあくまでもプリンセスだ。その為にオマエも連れて来てやったことを忘れるな」
青年の放つ殺気にパイソンは軽く舌打ちをするとナイフを納めた。
そのまま青年は狩葉の目線に合わせるようにしゃがむと首を伝う血を指先で掬い取り眺めた。
「手荒な事をしてすまない、全員キミのお姉さんに恨みがある者たちでね。見ての通り、無駄に血の気の多いヤツらで困ってるのさ……何か言いたげだね」
「やっぱりアイツが本当の目的だったのね。でも待ちぼうけ食らってるとこ悪いけどアイツなら来ないと思うわ。わざわざ罠に嵌りに行くような真似しないだろうし」
「そうか、それが本当ならとても残念だよ。キミなら彼女も動くかと思ったんだが見当違いだったようだ。パイソン、殺して構わないよ」
狩葉の言葉に肩を竦めた青年は懐からハンカチを取り出しながら興味の無くなった彼女に対してパイソンを嗾ける。
パイソンはというと待ち兼ねていたのかバタフライナイフだけでは無く様々な道具を持ち出してジリジリと彼女の元に寄っていく。
「どいつで拷問してやろうか、アイスピックで目ん玉抉り出すか?ペンチで生爪剥いで指先に針でもブッ刺すか?」
金髪の男は狩葉の身体で憂さ晴らしをするつもりなのか、想像することも恐ろしい拷問の数々を次々に並べ立ててゆく。
青年が指先に付いた彼女の血をハンカチで拭き取っていると、何も無い空間から滲み出すように現れた4人目の中東系の男が青年に耳打ちした。
途端に表情を変えた青年は手を打ち鳴らす。
「さぁ、待ちに待った今夜の主賓の到着だ。盛大に迎え入れてやろうじゃないか」
「嘘…でしょ…?」
それを聞いた男たちが一斉に倉庫の入り口に目を向ける。
ドレッドヘアの男は全身に魔法陣が浮かび上がりその体躯が真っ赤な炎に包まれ、パイソンは凶器を手で遊ばせ、青年が再び手を鳴らすと倉庫内の鉄筋や木材などのありとあらゆる無機物が宙に浮かぶ。
そんな中、狩葉は絶句していた。
目の前の光景では無く、来るはずがないと思っていた姉が現れたことに対する動揺からである。
数日前、アレだけ酷い言葉を浴びせた最低の妹を助ける為に、危険な罠にわざわざ飛び込んでくるとは想像していなかったからだ。
それでも倉庫の重い扉を開けて現れたのは紛う事なき姉、斬葉だった。
その姿を確認するや、4人の男たちから夥しい量の魔術や無機物が彼女に向かって降り注ぐ。
「邪魔をするな…『無限の武器庫』ッ!」
凶器の雨を目の前にしても斬葉は退くことなく、いつもの無表情ながら瞳の奥に憤怒の炎を宿していた。
語気を荒げながらダンッと地面を踏みつける彼女の周囲に無数の兵器や武器が出現する。
彼女の召喚した銃器が男たちの魔術を悉く粉砕していき、その余波が倉庫内の窓ガラスを割れんばかりに震わせた。
粉塵を撒き散らしながら斬葉が一歩踏み出し口を開く。
「やはり貴方が首謀者でしたか…理外者でありながら外道に身を堕とした魔導犯罪者、狂人の手」
「覚えていてくれて光栄だよプリンセス、あの時に受けた傷の借りを返しにきたよ」
斬葉の視線の先には青年の姿、彼は喉を鳴らして笑うと髪を搔き上げる。
そこには横一文字に刻み込まれた傷跡がハッキリと残っていた。
「喜ぶと良い、今日はキミへの恨みが特に深い3人を連れてきたんだ」
「『毒蛇』パイソン・ジェルド、『巨人の拳』ギガント・ルーデンス、『感知不可』インビジブル・ライル…いずれもS級犯罪者、束になるとこれ程にも面倒な相手になるとは思いもしませんでした」
「そういうワケだ、クソガキ。大切な妹がグチャグチャにされたくなけりゃ得物を捨てな」
忌々しそうに男たちを睨む斬葉にパイソンが狩葉の喉元にナイフを添える。
その行動に意外にも斬葉はアッサリと武装解除して黒椿と百葉から預かっていた包みを男たちの方へ投げ捨てた。
「何でよ…別にアタシなんか助ける必要無いじゃない!」
姉の行動が理解できない狩葉はパイソンのナイフが首筋に食い込むことも厭わず声を荒げるが斬葉は首を振ってこう答えた。
「大丈夫…必ず助ける…これ以上貴女を傷付けさせないから」
「美しい姉妹愛だね、壊してやりたくなるよ」
そこからは男たちの一方的な蹂躙だった。
目も当てられないほどズタボロにされていく姉を見て狩葉は目を背けることしかできない自分にもどかしさを感じながらも縛られていては文字通り手も足も出なかった。
「プリンセスも形無しだな、えぇ?」
「何でそんなになるまで…」
「私の命であの子が助かるなら…いくらでもこの命差し出しましょう…それがあの子への…私なりの恩返しなんです…あの子の願いがなければ今でも私はあの暗い牢獄の中だったから…」
斬葉のその一言に狩葉はハッとする。
幼い頃、同年代の子供たちが屋敷の外で仲良く遊んでいる姿を見て友達を欲しがった狩葉。
しかし彼女の家は代々討魔の一族、子供だけで居ては魔の物の格好の標的にされると考えて子供は屋敷から基本出してもらえる事はなかった。
故にいつも遊ぶときは屋敷内で1人か大人と一緒、そんな環境であった彼女は同年代の友達を欲しがったのだ。
それが彼女の解放とどう繋がったのかは狩葉の知るところではなかったが、突然姉として現れた少女、初めは友達が出来たと喜んだ狩葉だったが、いつの頃か完璧であるその存在が疎ましくなっていたのだ。
「バカ…ホントアンタはバカだよ…アンタにあんな酷いこと言ったアタシを助けるってボロボロになって…」
気が付くと狩葉の目からは涙が溢れていた。
いきなり現れて姉となった少女、ではなく狩葉の為に姉になろうとした少女。
確かに彼女は天才かもしれない、それでも姉になるという慣れないことに彼女なりの葛藤があったに違いない
「なんだ、自分と大して変わらないじゃないか」そのことに気付いた狩葉は溢れる涙を拭いながら笑みを浮かべた。
「どうしようもなくバカだけど…そんなバカなとこ尊敬するよ…お姉ちゃん」
いつの間にか手首を縛っていた縄が緩んでいる、解いた縄を見ると少し焼け焦げた跡と魔力の痕跡が見て取れた。
どうやら斬葉が袋叩きにされながらも妹だけは逃がそうとピンポイントの遠距離魔法で燃やしたらしい。
幸いにも男たちは斬葉に掛かりきりで狩葉の方など見向きもしていなかった。
縄を抜け出した狩葉が斬葉の投げ捨てていた包みを拾い上げ広げると、そこには二振りの日本刀。
紅と蒼の装飾が施されたそれを抜き放つと自然と体が動いた。
もちろん斬葉とは違って狩葉は真剣など手にした事はない。
「いつもより身体が軽い…」
男たちに向かって走る中、彼女は体の変調に気付いた。
しかしそんなことに構っている暇はなかった。
寸前に迫った時、ギガントが狩葉の行動を察知し拳を振り上げた。
「何だ嬢ちゃん、ジッとしてれば何もしなかったのに死にたいみたいだな!」
ギガントの魔術で巨大化した拳が狩葉に容赦無く振り下ろされ、彼女は刀を頭上で交差させそれを受け止めるが、その衝撃で狩葉の足が地面にめり込んだ。
「どけぇぇぇぇ!」
気迫一閃、狩葉が刀を振り抜くと彼女よりも二回り以上巨大なギガントの拳が弾かれ、これには誰もが予想外だったのか狩葉を除く全員が目を見開いて動きを止めた。
その間にも狩葉は動き始め紅い刀を逆手に持ち一閃する。
「燃え尽きろ、炎爆斬!」
「ぐぉっ…あ…ガァァァァ⁉︎」
ギガントを切り裂いた傷口から炎が噴き出し彼の体を蛇のように這い回るそれはあっという間に全身に燃え広がり火だるまに変えた。
「このクソガキ!」
「凍てつけ、氷閃!」
激怒したパイソンが両手に持つジャックナイフで切り裂こうと振り回すがそれを華麗な体捌きで躱すと蒼い刀で肩口から腰にかけて一撃加える。
それと同時に今度は傷口が凍りつき瞬く間に氷漬けにされたパイソン。
「これで…2対1…形勢逆転ですねマッドハンド」
その声のする方へ目を向けると血塗れの斬葉がインビジブルの腹部に強烈な打拳を浴びせ卒倒させているところだった。
「素晴らしい…S級を不意打ちとはいえ、こうもアッサリ撃破するとは。プリンセス、君の妹はなかなかの逸材じゃないか」
仲間がやられたというのに一切動じないマッドハンド、笑みさえ見せる余裕のある彼の姿に狩葉は目の前の青年に恐れを抱く。
マッドハンドの賞賛に斬葉は目を閉じて首を振る。
「この子はこちらの世界に来たがらないでしょう。いいえ、業を背負うのはもう私1人で十分です」
その言葉に食って掛かったのは意外にも狩葉だった。
「はぁ⁉︎今更何言ってんのよ、遅いっつーの!それにアタシはもう戻るつもりもないわ、この世界でアンタを超える。そんな目標が出来ちゃったのよ!」
意外過ぎる狩葉の一言に斬葉もプッと吹き出してしまった。
「アハッ…アハハハッ!やっぱり貴女も私もお母様の子どもなんですね。後悔しても知りませんよ?」
「後悔なんてアンタの妹になった時点で腐る程したっつーの!」
数十分後、倉庫内には静寂が戻っていた。
聞こえるのは2人の少女が息を整える呼吸音だけである。
あの後マッドハンドをギリギリのところで撃破した2人、魔術や能力を封印した上で川間たち魔導課の人間に引き渡しており今は迎えを待っている状況だった。
「さっすがアンタと同じ世界の人間ね…タフ過ぎるわよ…」
「アレでも弱い方ですよ…貴女が踏み込んだ世界はこんな怪物がいくらでもいるような世界です」
「やば、やっぱり人生で一番の後悔するかも…」
地面に大の字に寝転ぶ2人は倉庫の天井を見上げながらそんな他愛ない会話を始める。
「バケモノだらけの世界へようこそ」
「出来れば願い下げたい歓迎ね…こんな世界でアンタは戦ってたなんて…やっぱりバカだよ…」
「…褒め言葉として受け取っておきましょう…」
「ねぇ…まだ動ける?」
「…もちろん、あの程度で動けなくなるようなヤワな鍛え方してませんよ」
その言葉に狩葉が跳ね起きる。
斬葉もこの後に彼女が何を言おうとしているのか理解しているようでゆっくりと起き上がる。
「これからアタシはアンタに言いたい事全部ブチ撒けるわ。だからアンタも全部ブチ撒けなさい」
紅い刀を手にして軽く振るうと、剣閃が炎になって怪しく揺らめいている。
斬葉も妹の細やかなワガママに答えるように黒い刀を手にした。
「ケンカしようか。私も貴女に言いたい事が山ほどあるの」
その一言をキッカケに狩葉はあっという間に肉薄して懐に潜り込むと紅い刀を振り下ろす。
想像以上のスピードに斬葉も目を丸くし、すぐさま刀を横薙ぎに振って牽制しようとするが、遅れて迫って来た蒼い刀でそれも防がれてしまう。
「いつもいつもアタシの前ばっかり走って迷惑なのよ!」
咄嗟に防御魔法を展開するが、急拵えの障壁では防ぎ切れず襲ってきた衝撃に僅かによろめく。
峰で打ち込んできているとはいえ一撃貰えば再起不能に陥るであろう妹の感情の篭った一振りは油断できないものだった。
「『無限の武器庫』!」
本気で掛からねば不味いと確信した斬葉は問答無用でスキルを発動させた。
展開された銃火器の砲門が狩葉に狙いを定め、一斉に火を噴くが、危険を察知した狩葉は地面に突き刺した刀を踏み台にして高く跳び上がる。
「私だって貴女が自慢できるような姉になろうって必死だったの、少しでも使えなければあの牢獄に戻されるかもしれないっていう恐怖、それも知らないクセに偉そうに言わないでよ!」
斬葉も狩葉の行動を読んでいたのか今度は自らも刀を銃に持ち替えて自分の頭上、狩葉の跳んだ先を目掛けて一斉掃射する。
もちろん今放たれている弾は実弾ではなくゴム弾なのだがそれでも華奢な狩葉を無力化するには充分な威力を一発一発が備えており、避ける余地も無い弾幕が容赦無くヒットする。
「ガッ⁉︎」
撃ち落とされて背中から地面に叩きつけられた狩葉だが、跳ね起きて地面を蹴る。
「だったら少しでも良いから相談してくれれば良かったじゃない、何の為の姉妹なのよ!」
狩葉が肉薄しながら吐き出したその言葉に驚きの表情を浮かべた斬葉の横っ面を殴り飛ばし後退りさせるが、姉も姉とて易々とは倒れずそれどころかすぐさま脚を振り上げて妹の側頭部にハイキックを浴びせる。
「そんな事出来るわけないじゃない!少しでも弱いところを見せたら周囲がそこに付け入るに決まってる、そういう世界なのよ!」
「ヴッ⁉︎…ッざけんな!散々姉妹だの何だの言ってたクセに結局アンタは妹のアタシすら信用してなかったのか!」
斬葉の言葉が余程ショックだったのか顔を真っ赤にして飛び掛かる狩葉は、肩を掴むとそのまま押し倒して馬乗りになる。
「妹だからこそ言えないのよ、全部完璧な姉でいるために必要な事だったの!」
「完璧な人間なんてこの世に存在するはずないじゃん!どこか欠けてるからこそ人は人でいられるの、そうじゃないならそれはタダのマシンと同じだよ!」
姉の胸ぐらを掴むと彼女の抱いている理想の姉の姿に、それは間違いだと声を上げる妹、その目は痛みからなのか姉から何かを感じたのかは定かではないが薄っすらと涙で潤んでいた。
「じゃあ私はどうしたら良いの⁉︎」
「そんなの決まってる、アタシを…アタシたち家族を頼ってよ!さっきも言ったけど、何の為の姉妹なの?何の為の家族なの?家族はお互い迷惑をかけて、助け合って、寄り添っていくものでしょ?」
「そんな事許されるはずが…」
狩葉の「家族」という一言にこれまでになく動揺している様子の斬葉、それを見て彼女を孤独から救えるのは自分だと思った狩葉が馬乗りになるのを止めて立ち上がり手を差し出す。
「許さないって誰がよ…お爺様?それとも宗家の人たち?関係無いわよ、あの人たちとアタシたちは違うんだから」
その手を躊躇いがちに掴む斬葉、その手を引いて姉を立ち上がらせた狩葉はニッコリと笑みを浮かべる。
「誰が何を言おうがアタシはアンタの妹でアンタはアタシのお姉ちゃんなの、アタシの前を走るつもりならもっと堂々としてくれないかしら?」
「狩葉…」
「つーか、ハイキック痛かったのよ…ねッ!」
微笑みを浮かべていた狩葉は頭を大きく振りかぶると斬葉の額に向けて全力の頭突きをかます。
プシューっと額から煙を上げながら不敵に笑む狩葉。
「アガッ⁉︎」
「フフーン、ざまぁ見なさい」
「やっ…たわね⁉︎」
いつの間にか本気の殴り合いは終わっていて、どこの姉妹でもやるような取っ組み合いに変わっていた。
川間が救急隊員を引き連れて2人を止めるまでの数十分間、延々とお互いの胸の内を曝け出しながらケンカし続けた姉妹だった。
「おはよー…」
「おはようございます…」
「あら、狩ちゃん斬ちゃんおはよう…って2人とも酷い顔ね」
翌朝、いつもと変わらない朝の魔殺家の光景。
しかし、いつもと違うのは斬葉と狩葉の顔がお互いに青タンや擦り傷だらけになっているところである。
「「それは狩葉(姉様)が…」」
「2人ともすっかり仲直りしたみたいでお母さん安心したわ。それよりどっちもお嫁さんに行く前なんだから、やんちゃも程々にね」
「というか狩葉、何ですその姉様って」
「別にぃ、これと言って意味はないですよーだ」
呼称が変わった事に腫れぼったくなっている目を向けて睨む斬葉だが、当の狩葉は気にする様子も無くいつも通り自分の席に座る。
斬葉も別段不自由する訳でも無いので放っておく事にした。
-なんだかんだで尊敬してるって事だよ、お姉ちゃん-
「とまぁ、なし崩し的に姉様にこの世界に引きずり込まれたのよねー。ホント迷惑しちゃうわよ」
「何を言っているんです?貴女の方がノリノリだったでしょう」
「いやいや、姉様が」
「狩葉が」
「「あの日の決着今日こそは」」
「ストーップ、ストップです!」
全裸のままバチバチと火花を散らす2人の間にフィーナが割って入る。
「お二人の仲が良いのは十分伝わりましたから、ここお風呂ですし、ね、ね?」
壁を挟んだ向こう側では零葉とヴァルが湯船に浸かっていた。
普段の姉妹の様子からは想像できなかった過去の出来事に若干顔が引きつっている。
「あの2人って意外と仲悪かったんだな」
「俺も知らねー話だわ、気付いた時には今みたいな感じの関係だったし」
その言葉にヴァルは、この家族にはまだお互いが知らない事が山ほどあるのではと勘繰ってしまうのだった。
今回は狩葉の過去編という事で主に斬葉と狩葉の姉妹2人の視点で書きました。
物語の進行上、実在の地名等を挙げましたが実際のそれとは関係ございません。
というテンプレを述べたところで、今年の更新はここで終わりとなります。
次回は1月の下旬を目標としておりますが、進捗度によって遅くなる可能性もあります。
本年はたくさんの閲覧、宣伝ツイートの拡散、アカウントのフォローありがとうございました。
来年からも更に皆様に楽しんでいただける作品を目指して精進していきたいと思います。
短いですが2016年最後の挨拶とさせていただきます。