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プロローグ

どうも、初めましての方は初めまして。

ご存知の方は、お久しぶりです。

前書きの煉獄です。


今回は異世界ファンタジーものをコンセプトに、小説を書き始めた頃からずっと温めていた作品となっていますが、自分の文章力が足らぬ故にお見苦しい点が幾つかあると思います。

大小関わらず、指摘していただければ直ちに修正致します。


それでは、「アウトルーラーズ 第一部『チート家族の異世界英雄譚』」をお楽しみください。

「じゃあ、また明日いつもの時間に行くからね」


「だからガキじゃあるまいし、迎えなんてもう要らないっての!」


陽も傾き影伸びる夕暮れ時、1組の男女が家の軒先で軽い口論を繰り広げている。

男の方はまだ幼さの残る顔立ちと変声期の終えた声質、黒髪に一筋銀髪の混じる髪色と赤い瞳が特徴の少年。

一方の言い争っている相手は少年の小学校からの幼馴染で茶色がかった髪を一つに括り、クリッとした黒い瞳が可愛らしい少女。

そんな控えめに言っても美少女と呼べる幼馴染の少女が毎朝決まった時間に家まで迎えに来ることに対して少年が拒絶の意を表したからである。

すると少女は肩を竦めて少年の些細な反抗に意見する。


「そんな事言ったってダメだよ、アタシが迎えに行かないと絶対ギリギリになるんだから」


「うぐ…るせーよ…」


少女の的を得た反論に口籠ってしまう少年。

彼女の言う通り、少年は毎日遅刻ギリギリで登校する遅刻常習犯予備軍なのである。

図星なのか言葉に詰まる少年の様子を見て、言い負かしてやったと勝ち誇る少女。


「ほーら返す言葉もないんじゃない。いつだって言葉に詰まるとすぐうるさいって言うし、そもそもね…」


「いいからさっさと家入れよ!」


「きゃー怒ったー」


長々と勝利の余韻に浸っている少女に鬱陶しさを覚えた少年が声を荒げると、彼女は棒読みの悲鳴を上げながらそそくさと家に逃げ込んだ。

当然本気で少年は怒ったわけではなく、少女もそれを分かっている。

いつものやり取りのあとにはポツンと残された少年が1人、自分をからかう彼女に常日頃から振り回されていることにはいい加減慣れつつあるがふと、こんな日常がいつまで続けることが出来るのかと考えてしまうが、らしくないとかぶりを振ってその考えを吹き飛ばす。


「まったく…」


そんなこんなで少女の背中を見届けた少年は1人になると深い溜息をついて家への帰り道をゆっくり歩き始めた。

どこにでもあるような光景、こんな平和な日常の広がる地球。

それとは別の次元に存在する地球によく似た星。

惑星「クロミュエル」と呼ばれる星には太古、巨大な大陸が存在していた。

その名は「超大陸エルゲニア」、その地には人類や獣人、…果てはドラゴンと多くの知的生命体が時には争いながらも共に生活していた。

そんなある日、そんな超大陸が文字通り大きく揺れた。

突如として起きた大規模な地殻変動によって星は悲鳴を上げながらエルゲニアをいくつもの大地に引き裂いたのである。

分裂したある地域は地盤が耐え切れず瞬く間に海の底に沈み、またある地域は地殻変動に誘発された火山の噴火により噴き出した溶岩に飲み込まれ草木も生えぬ焦土と化した。

更に地殻変動が引き起こしたのは大地の変形だけに止まらず、昔から住んでいた人類を含む生き物たちの生活手段や状況を一変させる事となった。

当然、その変化に適応できなかった生き物は死に絶えて夥しい骸の山を築き上げたが、適応することに成功した生き物も存在した。

しかしそんな生き物たちは新たな問題に直面していた。

特に酷かったのは地盤が隆起したエルゲニア中央域である。

必然的に標高が上がり、作物や植物が育ちにくい環境になった中央域は地盤隆起に連鎖して食料確保の困難化や有限資源の大幅な減少が起こった。

特に他の種族よりも脆弱な人類はギリギリの状況に(おちい)ったことで生物としての生存本能が目覚めたのか、そこからの進歩は目まぐるしいものだった。

人類の間で太古から研究され続けてきた錬金術、一時は実現は不可能とされ(すた)れた技術であったが、そんなものでも生きる為には活用できるものはするべきだと考えたのだろう。

その根幹に存在していた魔術、これを1から研究し、試すという繰り返しはムダではなく、結果的に人類は誰しも魔術を使うことのできる力を僅かながらでも持っているという研究結果に至らせた。

他の種族も各々に適した進化、進歩をして、人類が魔術を再発見してから数百年後、人類だけでなく大陸に住む生命の殆どが生活を魔法や魔術によって支えられた大地は、魔法大陸「レイドラル」と呼ばれることになった。

この星の生態系全てに劇的な変化をもたらした地殻変動から千と数年後…レイドラルの中心。

文字通り天を穿つその荘厳な姿から天穿山(てんせんざん)と名付けられた、空を支える柱のようにも見受けられる巨大な山。

その地下深くに存在する巨大な空洞には城にも(ほこら)にも見える石造りの人工物が(そび)え立っており、その中で何かが起ころうとしていた。


「チクショウ!何がどうなって…ガッ⁉︎」


ゴッという鈍い音と共に大柄な男性の身体が力無く崩れ落ちる。

余程強い衝撃を頭上から受けたのかその頭頂部は兜諸共グニャリと歪んでおり、男は表情に恐怖の色を遺して絶命していた。


「ゴドリフ!よくも彼を、出てこい卑怯者!……え?」


男の死を目の当たりにして、持っていた猟銃を所構わず撃ちまくる青い獣耳を生やした女性だったが、ザシュッという切断音が聞こえると同時に女性の頸部(けいぶ)から鮮血が飛び散る。

しばらくの間、声にならない声を上げ首を掻き毟りながら悶絶するとそのまま息絶えてしまう。

姿のなき狩人は獲物の最期を見て嘲るように嗤うが建物内に反響するその声は不気味そのものだった。


「ジェナまで…クソッ!アイラ、ヤツは見えるか⁉︎」


「クロヴィスさん、ダメです。ワタシの探知にも引っかかりませ……ん……?」


命を落とした男女の仲間なのか騎士風の男性が本を抱えた魔導士のような出で立ちの女性を護るように剣を構える。

しかし次の瞬間、2人の腹部を何かが通り過ぎたかのようにポッカリと風穴が開いていた。

一瞬己の身に何が起きたのか理解ができない様子の騎士と魔導士だったが、次の瞬間には2人の上半身が跡形もなく消え去っていた。


「こりゃ…想像以上だ…クロヴィス、ジェナ、ゴドリフ、アイラ…いにしえの救世主の子孫が一斉に掛かっても太刀打ちできねえなんてどんなチートだよ…」


王城にあるような巨大な玉座の間のような場所、その中央で残された1人の男性が口内に溜まった血を吐き出しながら悪態をつく。

周囲の惨状を見て小さく舌打つと、羽織っていた黒いロングコートの袖で唇の端に付いた血を拭い、フラフラになった両脚を奮い立たせるべく手でパンッと叩いて周囲を見回す。

年齢は三十代後半から四十代前半ほどであろうかという男性。

だが、多くの修羅場や経験を重ねた事を示すような老成した雰囲気と、手入れされていない中途半端に伸びた無精髭が男の容姿をより老けて見せていた。


「あー血が足らねえ…ご先祖様はとんでもなく厄介な仕事を遺してくれやがったもんだぜ」


今やその顔は疲労に染まっており、更には身体のあちこちから流れ出している血によって血の気が失せているのか顔色も悪くやつれていた。

なぜ、彼が何もない所で満身創痍になっているのか。

彼の仲間は一体何にやられてしまったのか。

その正体はこの祠の存在理由に大きく関わってくる。

長い間誰も訪れた形跡のない地下深くにどうしてこのような荘厳な祠が建っているのか、一体何を祀っているのか。

このレイドラルに残されている史実の中にその答えがある。

数百年前、大陸の環境変化に対応することができ、生き残った生物たちは、大陸を己の種族の手中に収めようと果てなき闘争を繰り返していた。

ある時、数ある種族の一つである魔族、その中で他の追随を許さない圧倒的な力を持つ、魔神(まじん)と後に呼ばれることとなる一体の魔族が現れたことで戦局は大きく変わることになった。

その後も続々と現れる神にさえ引けを取らない魔神の力は大半の種族が破滅の一歩手前まで追い詰められ、挙句にはレイドラルを崩壊寸前にまで追い込むほど。

そして刻々と滅亡へのタイムリミットが迫り、多くの種族が生きることを諦め始めた時、突如として現れた異世界人。

その異世界人と仲間たちによって残虐の限りを尽くした魔神は、見る影も無いほどに力を削がれ、最期はこの祠に封印されたという。

それでも魔神は滅んだというわけでは無く、いずれはその強大な力を利用しようと企む者が現れるかも知れないという可能性を危惧した先達(せんだつ)

彼らはその封印場所を仲間と自分の子孫にのみ口伝(くでん)でのみ受け継いでいくことを決め、封印を護るという役目を負うことにしたのである。

これが古くから伝わるお伽のような史実、そしてこの祠の存在理由である。

しかし、今になってその封印が何者かの手によって破られたという話を風の噂で聞きつけ、男は太古に魔神を封印した者たちの子孫の一人として、真偽を確かめるべく仲間を集めてこの祠を訪れたのである。

ようやく辿り着いたものの、そこには魔族の一匹はおろか、魔神の復活したような形跡なども全く残ってはいなかった。

男たちはこの部屋が最後と、玉座の間のようなこの場所に足を踏み入れたのだが、そこで突然襲われ、なす術もなく男たちの一団はあっという間に壊滅寸前までにされてしまったのである。

だが、本来いるべきである襲撃者の姿など何処にもなく、男の見つめる視線の先にも何も無いはずに思える。

素人であれば何も分からないままこの姿無き襲撃者に何も出来ぬまま蹂躙(じゅうりん)されてしまうであろう。

男がそうならなかったのは経験を積んだ玄人だからこそ分かる、底無しの闇のような何かの気配を感じ取ったからである。

実体は窺い知ることはできない、そもそもそれに実体があるのかどうかも謎であるが、確かに何者かの気配があった。

思った以上に深刻な傷を負ったらしく男が膝をつくと、闇の中の何者かが男か女かも分からぬような形容出来ない声で男に言い放つ。


「愚かなり…人の身如きで魔を司る者たちを統べる我に挑み、その程度の力で我を滅ぼすなどとぬかすとは片腹痛いわ。……それにしても貴様からは気に障る匂いがするな」


「やっぱりお前がそうだったか…魔神ルキエル…完全復活してなくてもこの力…ご先祖様はよくこんな化け物を封印できたもんだ…」


「そうか…貴様、我を封印した(おろ)か者共の末裔(まつえい)か…丁度いい、あの時の恨みを今ここで晴らしてくれようぞ」


魔神ルキエル…そう呼ばれた何かが不意に笑ったように見えた。

それを見て男は、口元を指で拭って「こうなりゃヤケだ、切り札を使わせてもらうぜ」と呟き、流した血で自身の足元の床に小さな魔法陣を描く。

そして、掌を押し付けて呪文を詠唱すると、魔法陣が僅かに光を放ち、指の隙間から輝きが漏れ出す。


「…こいつを止めなけりゃ、この世界は終わりだ…いや、もしかしたらこの世界どころか…俺だけじゃ力不足だったが…お前らならやってくれるはず…頼むぞ…」


男は誰かに語りかけるように魔法陣に可能な限りの魔力を注ぐが、彼の行動を不審に思ったルキエルがそれを許すはずもなく、一瞬で男に肉薄すると見えない力で男を吹き飛ばす。

そして、男が柱に叩きつけられると同時に、魔法陣の弱々しい淡い輝きは消えてしまった。


「何をしようとしていたか知らんが、とんだ無駄骨だったようだな。これで終わり…と言いたいところだが我も鬼ではない、最後に言い残したことがあれば聞いてやろう」


ルキエルが合成音声のような声で再び笑ったように見えたが、今度は男が目の前の何かに向かって弱々しく、しかし不敵に笑い返した。


「残念だったな…あの魔法陣はフェイクだ…本物はこっちにある…俺はここまでしかできないが…アイツらならお前を止められる筈だ…人間のズル賢さをナメてたのが祟ったな」


そう言って、男が握っていた拳を広げると、床に描かれていた魔法陣と全く同じものが彼の掌に描かれている。

否、同じように見えるが記号の羅列が少しばかり違っていた。


「貴様…いつの間に…」


ルキエルはそこまで言って、彼の掌の魔法陣を描くのに使われたのであろう血が少し掠れていることに気付いた。

それを見て一つの結論に至る。


「描いた時に使った血が乾ききる前に手をかざして写し取っていたとは…ゆっくり書いていたのは写し取る為に反転させて描いていたのか…あの一瞬で悪知恵がよく働いたではないか」


「ご丁寧に解説どうも…こっちもタダで負けて死ぬわけにはいかないんでね…」


彼が再び笑みを浮かべた直後、ルキエルに喉元を鷲掴みにされる。

自分がまんまと出し抜かれたのが腹立たしかったのか、隠しきれない苛立ちが微妙に声へと篭っていた。


「人の身如きで我を(あざむ)くとは見事だ…だが、図に乗るな…本来なればここで八つ裂きにされる宿命(さだめ)ぞ。とは言え、敵として殺すには口惜しい切れ者だ。ならば、(ぬし)の身体…朽ち果てるまで我の物として使うてやろうぞ」


そして、男の意識が暗転する間際、小さな声で呟く。

それは男が唯一、絶対的な信頼を置く者たちへの謝罪の言葉。


「……っ…そうかそういう事だったのか……丸投げですまない…あとは任せる…」


一瞬垣間見えた魔人の姿に驚愕の表情を浮かべながら男はもがこうとするが、ゆっくりと霞んでゆく視界、身体にも力が入らない。

そして男の意識は漆黒の闇に呑まれた。

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