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6、夏休み最後の日

 お婆ちゃんの家へ来てからここまでの間、様々な修行をした。

 川や山や洞窟で僕は毎日、お婆ちゃんの凄まじい特訓を何とか耐え抜いて来た。

 そして今日は修行最後の日。8月30日だ。

「今日だ、今日を耐えれば僕は一皮も二皮も剥けた暗殺者になれる」

 僕はボロボロになった自分の体を見つめ自分を鼓舞するかのように言った。

 するとお婆ちゃんが近づいてきて言った。

「今日が、修行の最後の日じゃ。今日は海に行く」

「海ですか? 海でどんな修行をするんですか?」

 僕はかすれた声でお婆ちゃんに聞く。

「うむ、秘密の場所に海の主が住んでいるのじゃ。大きなサメじゃ」

「それを、退治すればいいんですね」

「その通りじゃ」

 僕はお婆ちゃんに連れられ船に乗った。

 しばらく海を進んでいると海面から十mぐらい突き出している尖った岩があった。

「あれが、目印じゃ」

 お婆ちゃんは少し、冷や汗をかきながら言う。

 お婆ちゃんが緊張するなんて、よほどの強敵だな。

「行ってくるよ」

 僕は意を決して海に入り、岩へと近づいて行った。

 僕が岩の周りを泳いでいると、ゴゴゴゴッと地響きのような音が聞こえてきた。来たな。

 僕は今までの修行を思い出し、30メートルはあろうかというサメの攻撃をかわしつづけた。そして、隙を見てサメに攻撃を加えた。

 あと少しで、サメを仕留められるという時に、不意に力が抜けた。今までの修行による疲れが一気に襲って来たのだ。

 その一瞬の隙を付かれ、僕は巨大ザメに丸呑みされ海の底へと連れ去られてしまった。

 …………。うっ、ゴホゴホッ。

「おや、気づいたかい? もう少しで死ぬ所じゃったの」お婆ちゃんが優しい目で僕に言った。

「僕、生きてるの? お婆ちゃんが、巨大ザメから僕を救ってくれたの?」僕はお婆ちゃんに聞き返す。

「ああ、そうじゃ。よく頑張ったの。お前はわしの誇りじゃ」

 僕は、腰の曲がったお婆ちゃんの背中に乗り、お婆ちゃんの家まで帰った。

 玄関を開けると、パパとママが優しく迎えてくれた。僕はすぐに寝室に横になり眠った。

 体力がある程度回復して起きると、僕は3人がいるリビングに足を引きずりながら行った。窓から外を見てみる。もうすっかり日は暮れていた。

「もう、大丈夫かい?」皆、僕に優しく声をかけてくれる。

 僕は聞きたいことがあったので、皆に聞いてみた。

「どうやって、巨大ザメのお腹の中から、僕を救出したの?」

 お婆ちゃんは、仕方がないといった顔でパパとママを見る。そして語り始めた。

「実はわし達一族は人造ロボットなんじゃ。体内に機械が埋められている」 お婆ちゃんが申し訳なさそうに僕に言う。

「そんな訳ないだろ。X線でも機械なんかなかったよ」

「X線を使っても、発見できないような科学技術が使われておる」

 お婆ちゃんが言う。

「でも、ご飯とか普通に食べるし、血だって出るし、痛みも感じるよ」

「人造ロボットじゃからな。ほとんど人間と変わらん」

「そんな、信じられないよ。証拠は? 証拠もないのにロボットだなんて嘘言わないでくれる?」

 すると、パパとママは顔を見合わせた後、パパが言った。

「親不知を抜いてみろ」

「親不知?」

 僕はこないだ親不知が痛んだ時のことを思い出した。あの時の2人の様子は確かにどこかおかしかった。親不知が痛いので歯医者に行くと言ったら、物凄い剣幕で怒られた。

 僕は嫌な予感がしながらも親不知を力いっぱい抜いた。

 洗面所で流れ出す血をゆすぎ血が止まるのを待って鏡で親不知があった所を見てみた。

 ボタンがあった。

 僕は3人の所に急いで戻る。

「これ、何? このボタン何?」

「押してみろ」

 パパが言うので、僕は悔しい気持ちを噛み締めながらボタンを押した。

 ウイィーン。

 機械音がして、僕の体が観音開きした。その扉の中には無数のボタンが規則正しく並べられていた。

「そういうことだ」

 パパが悲しそうな顔で僕に言う。

「なんで、なんでこうなるの? なんで僕がロボットなの? 僕はこれからどうすればいいの?」

「お前にはこれからも暗殺者としてより一層活躍してもらわなくちゃ」ママが言う。

「そんな、じゃあ僕の幸せは? 僕は大人になったら誰と結婚すればいいの?」

「大人になったら、出会いのボタンを押せばいい。そのボタンを押せば、世界にいる数少ない女の人造ロボットを発見できる」

 お婆ちゃんが言う。

「そんな、僕の意思は? 僕の意思は無関係なの? 僕には好きな人がいるのに……」

「好きな人? 誰だね」

 パパは心配そうに言い親不知の所にあった自分のボタンを押す。そしてパパは開いたお腹から読心術のボタンを押した。たちまちパパの顔が険しくなった。

「お前が好きな人というのは、クラスの担任の蒼井 雪か。断じて許さん」 パパの顔が見る見るうちに怒りの顔へと変化する。

「パパ、やめてよ。そんなに怒らないでよ」

 僕はパパをなだめようとしたが無駄だった。

「人間と結婚するなんて、許さん。私が今すぐ暗殺してやる」

 パパはスクッと椅子から立ち上がった。

「パパ、冗談でしょ」

 僕はパパの服を掴んだが、振り払われ僕は壁に打ち付けられた。

 パパは玄関へと無音で歩いて行く。

「やめろー」

 僕は叫んだ。

「先生を殺すことは僕が許さない。たとえパパでもだ」

 僕は自分のお腹の中を見回し[至近距離無差別破壊ボタン]を押した。

「そのボタンはだめだ!!」

 3人は同時に言った。

 その後のことは記憶にない。バラバラになった、パパ、ママ、お婆ちゃんの残骸があるだけだ。

 あのボタンは近くにいる人や物を無意識で無差別に破壊するボタンらしい。

 どうやら、僕は3人を破壊してしまったようだ。

 ちくしょー、ちくしょー。僕は悔し涙を流した。そして、自分の体を見まわし、ステルス飛行ボタンを見つけたので迷わず押した。

 僕の両足から、勢い良くジェットが噴出し宙に浮かんだ。

 そして僕は屋根を突き破り高度2000メートル辺りまで上昇した。

 そして加速ボタンを押して音速を越す速度まで加速し、怒りに任せて無我夢中で空を飛んだ。気づけば夏休み最後の日になっていた。

 ステルス機能を使っていたので、見つからないと思っていたが運悪く訓練中の戦闘機に見つかり、地球を1周ほど飛んだところで僕は米軍に迎撃された。

 花火機能も付いていたらしく、爆発した僕のかけらは色鮮やかな無数の光と共に世界中に降り注いだ。

 夏休み最後の夜、彼氏とキラキラと輝く星空を見ていた蒼井 雪は降り注いできた光を見て、それがクラスの生徒の残骸とも知らず「わー、綺麗な花火」などと呑気に呟いていた。

 

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