1、夏休みの始まり
「はい、これでホームルーム終わり。皆さん、夏休み怪我には十分注意してね。それと宿題を忘れずにね」
クラスの担任の女教師、蒼井 雪25歳が教室に響き渡るような大声で言った。
クラスの30人弱の生徒達は嬉しさを声に滲ませ一斉に「はーい」と応える。
クラスから続々と教室の外へ吐き出されていく人々を見ながら、僕は一人窓の外の景色を感慨深げに眺める。
「これからの約一ヶ月間、自由だー」
僕は不意に叫び右手を天高くかざす。
ポンポンと後ろから肩を叩かれ僕は顔を向けた。
「嬉しい気持ちは分かるけど、テンション高すぎだよ」
声の主は担任の蒼井 雪だった。
「はい、すみません」
僕は平謝りをした。
ランドセルの中に荷物をしまい、1年2組の教室を後にした。
家へ帰る途中で、他の家から流れて来る夕飯の匂いに、僕のお腹の虫が鳴いた。今日のご飯は何だろう。
僕の名前は鋼 棘矢。僕の家は暗殺一家だ。先祖代々人殺しをして、生計を立てている。僕自身、人を千人は殺した。凄腕なのだ。
「ただいまー」
家の玄関を開けると夕飯の香ばしい匂いが玄関まで、漂っていた。
「おかえり。棘矢」
ママは玄関まで来ると、出刃包丁を舐めながら不気味な笑顔で僕に言う。
僕はママの笑顔に幸せになった。
「今日も、殺ったの?」
「もちろんよ。棘矢
」ママは軽快な声で呟く。
玄関を上がり、リビングに着くと溢れんばかりの、色とりどりの豪華な料理が並んでいた。僕は背もたれの付いていない丸椅子に座った。
「おいしそう。パパはまだ帰ってこない?」
僕がママに言うと包丁が僕の顔の前を凄まじい勢いで飛んで行き壁に刺さった。
「そんな忍耐力じゃ、真の暗殺者にはなれないよ」
ママはドスの効いた声で言った。
「はい。ママ」
僕はママに敬礼して答えた。
僕は神経を集中してパパの帰りを待った。
ふいに背中に何か感触があり、後ろに振り向いて見ると、僕の背中にナイフが突きつけられていた。
パパがいつの間にか帰って来ていたのだ。
「ただいま、棘矢。まだまだ隙だらけだな」
パパは無精ひげをさすりながら僕に言う。さすがパパだ。気配がまったくない。
「夏休みはお婆ちゃんの家で過ごすぞ」
食事中、パパが不意にそう言ったので、僕の箸が途中で止まる。
「お婆ちゃん家? 僕お婆ちゃんに会ったことないよ」
「修行の為だ。お前をもっと鍛える為に明後日出発する」
修行とはいえ僕は初めてお婆ちゃんに会えるということで、心が弾んだ。
食事を終えると風呂に入り、夏休みの宿題を夏休み前に瞬時に終わらせ自分の部屋に行き、もう寝ることにした。
部屋の電気を消し、僕は人差し指一本で逆立ちし、そのまま深い眠りについた。




