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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

虫戸の導き

掲載日:2026/03/16

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 集まり、というのはものすごい力を持っていると思う。

 ひとりよりふたり、ふたりより大勢。きれいごとじゃなく、シンプルに力の総量を考えたとき、数にまさる武器はない。

 それがときに感情その他もろもろで、スペック以上に高まったり、逆に著しい低下を見せてしまったり……計算通りにはいかないから、生き物というのはまだまだ面白い。

 人間もいろいろと研究を進め、少しでもその現象を理解し調整せんとしているが、まだまだすべてを知ったなどとはいえない。いや、むしろ社会の変化などによって新しく増え続け、とうてい追いつけるものでないのかもしれない。

 それが人間以外となったら、もうね……数少ない例は言い伝えていくしかないかもだね。

 最近、またひとつネタになるかもしれない話を聞いたよ。よかったら耳に入れて見ないかい?


 うちのおじさんが、教えてくれた話さ。

 学生だった当時、クラスメートにあばた顔の子がいたのだそうだ。もう顔面の大半を覆っているほどで、初見ではなかなかインパクトがある。

 本人も気にしているみたいでね。小学校の高学年あたりから急激に数を増してしまい、ほとほと困っていたようだ。

 自らネタにしていたとのことだが、そのようなことは自虐ゆえ耐えられるのであって、他人から指摘されるのはムッとしていたとのこと。

 この顔をどうにかしたい、とはぽつぽつ漏らしていたそうだ。でもこの歳で整形とか、お金も心情的にも気が進まない。だけれどこのあばたを無くして、他のみんなと同じレベルになりたい……とね。

 皆と違うものでありたいと思っても、それはスキルや才能であるところ。生活するベースのところは皆と同じレベルでいたい。難しいところだな。


 手厳しいが、ひたすら愚痴るばかりでは絵に描いた餅に過ぎない。おじさんは聞いていてそう思ったらしい。

 が、ある時を境に、その子の顔のあばたが少しずつ減っているのを、おじさんは気づいたらしい。

 はじめは気のせいかと思うほど、じわじわとした進み。それが日が経つにつれて、目減りしていくのを確認して、おじさんはいよいよ尋ねてみたらしい。


「ちょうどいいところを見つけた」


 彼はニコニコしながら笑っていたらしい。

 まさか法に触れることじゃあるまいな……と一抹の不安を抱きながらも、方法までおじさんは突っ込んだらしい。

 彼自身も、これまでいじられたうっぷんが溜まっていたのか。放課後にはおじさんを、とあるところへ案内してくれる運びとなった。


 どこか病院などへ行くのではないかと思っていたおじさんだけど、友達の足の向かう先はむしろ街中とは逆。

 家も道も寂しくなっていき、たどり着いたのはとあるガード下。背の高い人は頭上を注意しなくてはいけないほど低く、自転車二台がようやくすれ違える程度に狭い。長さこそそこそこあるが、好んでとどまりたいとは思わない場所。

 おじさんを案内する友達は、そのガード下トンネルの中央あたりでぴたりと足を止めた。

 すっと指を指されるがまま、壁へ目を向けて、おじさんはちょっと顔をしかめる。


 虫がたかっていたからだ。

 数えられる匹数じゃない。カブトムシとよく似た形の虫が、天井から足元にいたるまで、身体を寄せ合って壁にとりついている。

 奇妙なのはそれが乱れることなく、一本の直線としてそこに浮かんでいる点。まるで見えないレールにはさまれているかのごとく、彼らは列を外れる様子を見せない。


「これならうまくいくな」


 友達はカブトムシたちに近づくと、その列の真ん中あたりへ手を伸ばしていく。

 普通ならば、せいぜい虫たちの数匹を払ったりつぶしたりするのがせいぜいだっただろう。しかし、友達の指先は特に彼らをどける様子もなく、まっすぐと突き進んでいく。

 虫たちの下、本来あるべきトンネルの壁の位置さえ越えて、手のひらから手首、二の腕、ひじとどんどんと飲み込まれていってしまう。


 勢いのまま、友達の全身はトンネルの向こうへ隠れてしまって、おじさんは目をぱちくりさせた。

 試しに木の枝を拾い、友達が消えたあたりの虫の列へ差し入れてみるも、枝はたやすく壁にぶつかってしまい、そこから先へ進めない。それどころか、たむろしている虫たちが枝にどんどんまとわりついてくるものだから、あわてて放り出してしまった。

 枝は投げ出されたついでに、列の虫たちをいくぶん弾き飛ばしたが、それによってあらわになったトンネルの壁面は、やはりここの左右と同じコンクリートが広がっている。

 割れ目ひとつない。ましてや、人ひとりが入り込めるような穴などは。だとすると友達はどこへ消えてしまったのか。


 いぶかしく思っているおじさんの前で、やがて散った虫たちが再びもぞもぞとうごめきながら列へ戻っていく。

 先と同じように、コンクリートの壁面が虫によって塞ぎきられたとき。

 その列から、ぬっと友達が姿を見せたらしいんだ。壁でしかなかったところからだ。

 変わったところもすぐ分かる。顔のあばたが、ぐっと数を減らしていた。壁に入る前と後とでは雲泥の差だ。

 友達はある日の帰り、偶然にここを見つけて効用を確かめて以来、自分の願いをかなえてくれる場所として重宝しているようだった。どうしてああなると壁の中に入れるかはわからず、中で何があったかも教えてくれなかったとのことだけど。


 だが、その友達の思いも長くは続かなかった。

 当時、地域を襲った大きめの地震により、件のガード下は潰れてしまい、長く通行止めとなってしまったんだ。

 その際、ガード下から大量の虫が逃げ出したのを見た人がいたとか、少し噂になったとのこと。そして友達のあばたは、のぞかれていったときと同じように、またじわじわ顔へ浮かんで元通りになってしまったとか。

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