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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

相喰

「ちょっと耳貸して」



居間で二人でテレビを視て居る時に、僕はそう断ると弟の耳に唇を付けた


弟は「んっ…」と一瞬だけ眼を閉じたが、そこまで気にはして居ない

吸い込むと、甘くてすっきりした匂いが鼻腔を包んだ

僕はそれを無心に吸い込む

弟の眼が、とろんとし始めた



端的に説明すると、僕は定期的に弟の記憶や感情───要するに、或る意味での『脳』を食べている


別に、漫画とかみたいに「それを食べ続けないと死ぬ」とかでは無い

自分が気持ち良いからやっているのだ


とても気持ちの良い食事だが、耳を吸わないといけない都合から、誰のものでも簡単に食べられる訳では無い


それに、汚い人のなんて僕は吸いたくない

そういう意味では、弟は僕にとって最適の食餌だった



「ねぇ……」


「えっ、また?」


僕が弟の躰にしがみつくと、彼は呆れた様な声を上げながら、呆れた様な顔でその場に寝転んで、僕が覆いかぶさりやすい様に力無く両手を投げ出した



「好きにすれば………」


弟が僕の躰の下で、面倒そうに僕から視線を逸らす

僕は弟を組み敷くと、その耳に舌を差し込んだ



「んっ……」


また弟が高い声を出す


美味しい

弟の心は、記憶は、感情は、とても美味だった


弟の側でも、吸い取られて何も解らなくなっていく感覚が気持ち良いらしかった


一度、弟が白痴にでもなってしまうかと思った時が有る

弟が泣きながら殴って必死で抵抗しなければ、僕は彼が悦んでいるのだと思って続けてしまっていたと思う


危険な行為をして居るのだな、とは思うが、僕も弟もこれを止める事が出来なかった



「ねえ」


時折吐息を漏らしながら、僕の下で弟が言う



「今日は、ぼくも吸っても良い………?」


僕は恐慌を起こした様に弟の耳を吸い続けていたが、考えた事も無い申し出に動きを止めた

弟の手が、ゆっくりと僕を押し退ける

床に押し倒されると、僕は弟に手首を掴まれ、組み敷かれていた



首に刺す様な痛み

眼を閉じると真暗な中で、感覚で弟の歯と唇の存在が感じられた


そして、それらが僕を貪って居る事も



弟は僕の血を吸っているらしく、接吻の様な音が聴こえると共に、軽く意識が薄れる感覚が在る

必死で押さえ付けて、僕が抵抗すると思ってるんだろうか


僕だって、今とても気持ちが良いと言うのに




結局、弟は30分程に亘って僕の血を飲み続けた


終わる頃には二人ともぐっしょりと汗をかいていて、僕はとても空腹で、逆に弟はお腹がいっぱいの様だった

時計を視れば、夕飯の時間が近付いている



「お前さ」


「吸血鬼じゃないだろ、別に」


さすがの僕も、ぐったりとして床から起き上がれない

弟は「バレた?」と僕を視降ろしながら、妖しく笑った

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