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運命の株価

新たな舞台、運命の代行者たち


競馬場の熱狂から一転、俺とカオリは東京の中心にそびえる証券取引所の前で立ち尽くしていた。老人が手配したリムジンから降りると、見上げるほどの高層ビルが俺たちを威圧するようにそびえ立っていた。


「いいか、カオリ。俺は必ず勝つ。それだけだ」


俺がそう言い放つと、カオリは俺の顔を見上げ、力強く頷いた。その瞳に宿る、かすかな光が、俺の心を支えていた。俺たちは、多額の借金を背負い、このゲームに参加せざるを得なかった。勝てば、人生をやり直せる。負ければ、すべてが終わる。そんな、絶望的な状況だった。


最上階にある特別室の扉を開けると、そこは豪華な調度品に囲まれた別世界だった。巨大な円形のテーブルを囲んで、俺以外に47人の男女が座っていた。彼らは皆、日本の各界で名を馳せる著名人ばかりだった。


「ようこそ、ユウキ君。そして、その隣にいるのが、君のパートナー、カオリさんだね」


老人が、にこやかに俺たちを迎え入れた。その声は、どこか楽しそうに響いていた。


「君たちが、最後の参加者だ。さあ、自己紹介を」


老人の言葉に、俺は顔を強張らせた。俺たち以外に、まだ参加者がいるのか?


「俺は、IT企業の社長、ケンジ・ホリエだ。カネとロケットと、そしてこのゲームのルール、全部俺が変えてやる」


不敵な笑みを浮かべた男が、俺をじっと見つめて言った。その声は、テレビで何度も聞いたことがあった。ホリエモ…いや、ケンジ・ホリエ。しかし、俺にはわかった。彼の目には、焦燥と、隠しきれない借金の影が宿っていた。その存在感は、部屋の空気を一変させた。


「私は、国民的アイドルのユイ。私のファンは、この勝負を勝利へと導いてくれるはずよ」


可愛らしい顔立ちに、意志の強そうな瞳を持つ女性が、俺に微笑みかけた。彼女は、日本中の若者から絶大な支持を得ている、国民的アイドルだった。だが、彼女の瞳の奥には、莫大な違約金という、巨大な借金の影が見えた。


「俺は、カリスマプロゲーマーのアキラだ。俺は、勝つために生まれてきた。このゲームも、俺が必ず勝つ」


大柄な男が、俺を睨みつけて言った。彼は、eスポーツ企業からスポンサードされ、世界中で名を馳せる、カリスマプロゲーマーだった。だが、彼の顔には、ギャンブルで作った借金返済の焦りが、はっきりと刻まれていた。彼は、勝利のためなら手段を選ばず、そのギャンブルに狂った眼差しは、常軌を逸していた。


そして、その奥には、日本古来の財閥系企業の若き社長、マサトが座っていた。東大卒のエリートだという噂だったが、その顔には、名門の看板を背負い、しかし潰れかけている会社の命運を一身に背負った、深い疲労の色が滲んでいた。


「…マサトです。私は、日本の伝統と文化、そして、この国を支えてきた老舗の力を信じています。このゲームでも、その力を証明してみせます」


マサトは、俺たちに一瞥もくれず、静かに言った。その言葉には、ユイやアキラのような焦りや、ケンジ・ホリエのようなギラギラした欲望はなかった。ただ、古き良き日本の、確固たる信念と、そして、家族の期待という重圧が感じられた。


彼らは、それぞれが、日本の経済を動かす存在だと、老人は言った。彼らは、俺と同じように、自分の**『運』の代行者**だった。そして、俺たちは、それぞれの人生を背負い、借金を抱え、あるいはギャンブルに狂い、このゲームに参加していたのだ。


俺は、頭が真っ白になった。競馬場での賭けは、俺個人の問題だと思っていた。しかし、このゲームは、俺一人の問題ではなく、彼らの人生、そして、日本の運命がかかっているのだ。


「なぜなら、このゲームは、表向きは個人間の投資競争だが、その実態は、日本の未来を決定する『国家プロジェクト』だ」


老人の言葉は、俺の頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。


「この特別室は、日本の経済中枢に直結している。君たちが投資した企業の株価は、ただの数字ではない。それは、日本中の企業、そして、この国の経済そのものの『運』を代行する指標となる」


「勝者が投資した企業の株価が上昇すれば、その企業は国の基幹産業として国から全面的な支援を受け、日本経済を牽引していく。逆に、敗者が投資した企業の株価は強制的にゼロにされ、市場から完全に消滅する。その企業の従業員、取引先、関連企業、すべてが連鎖的に破綻し、敗者もろともこの国から『消える』のだ」


「このゲームは、日本の未来を左右する、生き残りゲーム。勝てば、国の英雄。負ければ、この国から存在を抹消される。それが、この『運命の株価』の全貌だ」


老人の言葉は、俺の心臓を鷲掴みにした。このゲームは、ただの賭けではない。俺が勝てば、日本の未来を変えられる。だが、俺が負ければ、日本の運命は、このゲームの支配者、老人の手に委ねられるのだ。


「ルールは簡単だ。これから、君たちに、いくつかの企業の情報を提示する。君たちは、それぞれが、自分の人生を代表して、その企業に投資する」


老人が、そう言って、俺たちの前に、一台のタブレットを置いた。画面には、数千の企業の株価がリアルタイムで表示されていた。


「君には特別に、私の**『運』の代行者**である証として、このリストを授けよう」


老人は、他の参加者たちには聞こえないように、俺にだけ小さな声で囁いた。


「このリストの企業は、すべて私が所有している。このゲームの勝敗は、君の『運』と私の『企業』にかかっているのだ」


老人は、そう言って、俺のタブレットに特別なコードを入力した。画面には、膨大な企業群の中から、老人が選んだ特別な企業名だけがハイライトされていく。それは、老人が俺に授けた、特別なリストだった。


「そして、取引終了のサイレンが鳴り響く頃には、君たちが投資した企業の株価が、最も高い上昇率を記録していた者が、勝者となる。ただし、外れた場合は…」


老人は、俺たちをじっと見つめ、静かに笑った。


「…君たちの人生は、終焉を迎えるだろう」


その言葉に、俺たちの顔から血の気が引いていくのを感じた。


「さあ、始めようか」


老人の言葉を合図に、取引が開始された。


参加者と企業の運命共同体、そしてシンシアとの共闘


俺は、老人から授けられた特別なリストに目を通した。その瞬間、俺の頭の中に、再び、あの閃きが駆け巡った。それは、リストの中にある、とある企業の名前と、株価のグラフだった。


「ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ」


その企業は、防災用品の開発や、災害時の情報提供サービスを手がける、まだ上場したばかりの小さな会社だった。俺の直感は、この会社の株価が、これから数時間で、信じられないほどの高騰を遂げる、と囁いていた。


俺は、迷うことなく、その企業に投資した。俺の決断に、カオリは何も言わず、ただ静かに頷いた。


その時、一人の女性が、俺の前に現れた。彼女は、このゲームの参加者ではなく、ゲストとして招待を受けていた。鋭い眼差しを持つ、美しい女性。


「はじめまして、ユウキさん。私は、シンシア。中国の金融界を代表し、このゲームのゲストとして招かれました」


彼女は俺の運に興味を抱いているようだった。その視線に、俺は一縷の光を見出した。このゲームを生き残るには、カオリの温室育ちの運じゃ足りねぇ。もっと力が必要だ。


「面白い運を持っている。その能力と私の人脈が合わされば、きっとすごいことになるわよ」


シンシアはそう言って、俺の腕を掴み、その身体を俺に引き寄せた。


「テメェの人脈、貸せ。俺の能力で**『ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ』**の株価は必ずぶち上げる。だが、そのタイミングが掴みにくい。だから、俺がGOサインを出したら、テメェの力で全力で買い支えろ。莫大な利益になる。テメェもウィンウィンだ。このゲームの支配者になれる。こんなクソゲーム、俺が終わりにしてやるよ」


俺の言葉に、シンシアは俺の顔を覗き込むようにして、蠱惑的な笑みを浮かべた。


「…面白い提案ね。あなたの運と私の人脈、試してみる価値はありそうだわ。さあ、私をもっと使って、このゲームを壊しちゃいましょ?」


俺とシンシアは、互いの利益のためだけの、冷たい握手を交わした。それは、互いの人生を賭けた、危険な共犯関係の始まりだった。


しかし、他の参加者たちは、俺とは全く違う企業に投資していた。彼らがそれぞれの企業を選んだのには、明確な理由があった。


ユイは、直感を信じ、**「ファンタジー・エンターテイメント」**という、彼女が所属するアイドル会社の株に投資していた。彼女はタブレットを操作し、自身のSNSアカウントにログインすると、ファンに向けてリアルタイムでメッセージを発信し始めた。


「みんなー!今から私が出演する映画の公開を記念して、私の事務所の株を買ってくれた人に抽選でサイン入りグッズをプレゼントしちゃうよ!一緒に世界一のアイドル事務所を目指そうね!」


彼女の呼びかけに、株価は急上昇を始めた。彼女は、国民的アイドルとしての影響力を最大限に利用し、このゲームをリードしようと目論んでいた。


一方、アキラは、力こそがすべてだと信じ、**「バーチャル・スポーツ・リーグ」**という、eスポーツ企業に投資していた。彼は、自身の操縦するドローンを特別室の中に飛ばし、リアルタイムでゲームの様子を配信し始めた。ドローンの画面には、アキラが投資した企業の株価グラフが大きく映し出されていた。


「お前ら!俺の力を見せてやる!俺に付いて来い!このゲーム、俺が必ず勝つ!」


アキラの言葉に、世界中のeスポーツファンが呼応し、彼の投資した企業の株価は、ユイの株価を上回る勢いで急上昇を始めた。


そして、マサトは、**「老舗旅館・日本文化振興会」**という、日本の伝統的な観光業を束ねる企業に投資していた。彼の会社は関西に拠点を置いていた。彼は、タブレットの画面に、自社が運営するSNSアカウントを表示させると、静かに言った。


「…我々の先代が築き上げてきた、この国が誇る文化と伝統。今こそ、その価値が問われている。世界中の富裕層が、日本の真の価値を理解してくれるだろう」


彼の言葉に、株価は緩やかに上昇し始めた。派手な上昇ではないが、その堅実な上昇率は、他の参加者たちに不気味なほどのプレッシャーを与えていた。


ユイ、アキラ、マサトの三人が、それぞれのやり方でゲームの序盤をリードしていた。しかし、上昇が鈍化し始めると、ユイの顔に焦りの色が浮かび、モニターを見つめながら、さらに過激な発言をツイートした。


「もっと、もっと、ユイの運を上げて!この勝負に勝つためなら…みんなのために…脱いじゃおうかしら!?」


彼女の言葉は、日本中のファンを熱狂させ、株価は再び急上昇を始めた。ユイは、自分の体を賭けることで、アキラを抜き去り、一時的にトップへと躍り出た。


その時、突如、アキラが操縦していたドローンが、老人の顔めがけて突っ込んできた。


「お前だろ、こんなクソゲーを仕組んだのは!俺は運命に逆らう!勝つためなら、手段は選ばねぇんだよ!」


アキラは、叫びながら、ドローンを老人の顔にぶつけようとした。老人は、それを手で払いのけようとするが、ドローンの鋭利なプロペラが、老人の頬を深く切り裂いた。老人の顔から血が流れ、彼はその場に膝をついた。


「…無駄なことを…」


老人は、そう言って、血を流しながら、アキラを冷たい目で見つめた。しかし、アキラは、老人のその隙を逃さなかった。彼は、ドローンを老人の喉元に突きつけ、特別室にいる全員に聞こえるように叫んだ。


「このクソゲーを、今すぐ終わらせろ!俺と俺の借金を、すべてチャラにしろ!さもなくば、このジジイの首を、ドローンで切り裂いてやる!」


アキラは、老人を盾に、このゲームの支配者との交渉に臨んだ。彼の顔には、ギャンブルに狂った男の、獰猛な笑みが浮かんでいた。しかし、老人は、アキラの脅しに動じなかった。


「…いいだろう。そのドローンで、私を殺せばいい。だが、その瞬間、君の投資した企業の株価は、強制的にゼロにされる。そして、君は、この国から『消える』のだ」


老人は、アキラの顔をまっすぐに見つめ、静かに言った。その言葉に、アキラの顔から血の気が引いていくのを感じた。


「…まさか…!」


アキラは、ドローンを構えたまま、動けなくなった。老人の言葉は、嘘ではなかった。このゲームのルールは、それほどまでに絶対的なものだった。アキラの交渉は、あっけなく決裂した。


その時、特別室に、取引終了を告げるサイレンが鳴り響いた。アキラが投資した企業の株価は、彼の交渉決裂と同時に急落し、最終的に強制的にゼロになった。アキラの全身から力が抜け、その場に崩れ落ちた。


「…う、嘘だ…!」


アキラは、床に這いつくばり、絶望的な表情で叫んだ。彼の魂が、肉体から分離していくかのような、奇妙な感覚に襲われた。この国から存在を抹消されるという老人の言葉は、肉体の死ではなく、社会的な死、つまり「存在しない者」として扱われることを意味していたのだ。


「…このゲームは、ルールに逆らった者を、容赦なく社会から粛清する」


老人は、倒れこんだアキラを見つめ、静かに言った。その言葉に、俺たち参加者全員の顔から血の気が引いた。


俺が投資した「ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ」の株価は、取引開始とともに、信じられないほどの勢いで上昇を始めた。それは、俺の能力が、現実世界に影響を及ぼしていることを示していた。だが、株価の上昇と比例して、俺の体は悲鳴を上げ始めた。血を吐き、視界は真っ赤に染まる。


「ユウキ!もうやめて!あなたの体が持たないわ!」


カオリが、俺の異変に気づいて叫んだ。俺は意識が朦朧とする中、彼女の顔を見た。その時、カオリが俺の右手を強く握りしめた。その瞬間、俺の体に宿っていた激痛が、嘘のように消えていった。


「ユウキ…!私の**『運』は、あなたの運命を安定させる力**よ。あなたが力を使うたびに、私の力が、あなたの体を守ってくれる。だから、安心して…」


カオリはそう言って、俺の顔をまっすぐに見つめた。俺は、彼女の瞳に、俺の運命が重なり合っているのを感じた。


絶望と再起、そして逆転


しかし、その瞬間、巨大なモニターに、俺の投資した「ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ」の株価が、信じられないほどの勢いで急落していくグラフが映し出された。


「…クソ…!」


俺が叫ぶと、ケンジ・ホリエが不敵な笑みを浮かべ、タブレットに表示された株価をじっと見つめている。そして、手元のスマートフォンで、誰かに向かって囁くように言った。


「…トランプ大統領のツイート、来たぜ。予定通り、北朝鮮のミサイル発射基地を攻撃すると発言させろ。そして、ロケット開発の必要性を訴えさせろ。これで、ロケット関連企業の株価は確実に上がる。トランプは、俺の最高のトランプカードだ」


ケンジ・ホリエは、トランプ大統領を使い、株価を釣り上げて優位に立っていたのだ。彼のロケット開発企業「スペース・フロンティア・カンパニー」の株価が、急上昇を始めた。そして、彼の力で、ユイとマサトの株価は急落し始めた。


「…ちくしょう…!」


俺は、絶望的な状況に追い込まれた。俺の能力は、ケンジ・ホリエの権力には敵わない。俺は、このゲームに負ける。カオリを救えない。その絶望が、俺の心を支配した。


「カオリ…!」


俺は、最後に残された力、そしてカオリが与えてくれた運の力を、すべて使い果たそうと決めた。ただ、カオリを救うためだけに。俺は、自分自身の運命を犠牲にしてでも、このゲームを終わらせるために、最後の賭けに出た。


俺の意識が、現実世界に影響を及ぼし始める。その瞬間、東京の空が、真っ赤に染まり、地面が激しく揺れ始めた。遠くから、サイレンの音が鳴り響く。


「…な…!富士山…!?」


ケンジ・ホリエが、驚愕の表情で叫んだ。


俺の能力が、現実世界に影響を及ぼし、富士山の噴火を引き起こしたのだ。噴火が発生した瞬間、日本の株価は、一斉に暴落を始めた。しかし、俺が投資した「ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ」の株価は、急落することなく、むしろ、信じられないほどの勢いで高騰を始めた。人々がパニックに陥る中、この企業の防災用品を買い漁り、その情報サービスに殺到し始めたからだ。


「…まさか…!大災害を利用して、株価を操作するなんて…!」


ケンジ・ホリエが、驚愕の表情で俺を見つめた。


その時、シンシアは俺に微笑みかけると、手元のタブレットで何かを操作し、静かに電話をかけ始めた。


「…ええ、指示通りに。今すぐ全財産を『ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ』に投資してください。中国政府の支援を確約します」


シンシアは、俺の耳元で囁いた。「あなたの運を信じて、私の人脈が動く。これが、私たち二人の勝利の鍵よ」


シンシアの言葉が、俺の頭の中で響いていた。彼女は、俺が引き起こした大災害によって、俺の勝利が確実なものになったと判断し、協力を決めたのだ。


そして、取引終了のサイレンが鳴り響く頃には、俺たちが投資した「ジャパニーズ・セーフティ・ソリューションズ」の株価は、破格の値をつけ、俺たちの勝利は確定した。


衝撃の真実と、新たな使命


俺は、安堵の表情を浮かべていたカオリを強く抱きしめた。このゲームから、カオリを救った。俺はそう信じていた。老人が、勝利を告げる言葉を口にする。


「おめでとう、ユウキ君。君は、見事な勝利を収めた。借金も消え、君が望んだ莫大な大金も手にした。これでカオリと一緒に解放されても良かったのだがな…」


俺は、ホッとした。カオリも、俺の胸に顔を埋め、静かに震えていた。俺は、このゲームから、カオリを救ったのだとそう信じていた。しかし、老人の言葉は、そこで終わらなかった。


「…だが、残念なことに、君のその勝利は、日本経済を壊滅させてしまった」


老人の言葉に、俺は言葉を失った。俺が、人生を賭けて戦ったこのゲームは、より大きな舞台への、ただの予選だったというのか。


「君は、カオリを救うために、日本を奈落の底に突き落としてしまった。君が引き起こした大災害によって、日本の経済は壊滅状態だ。これでは、解放されたとしても、君たちが生きる場所は、この国にはもうない」


老人の言葉が、俺の頭を殴りつける。俺が、カオリを救うために必死で掴んだ勝利は、日本を破滅に導き、俺に新たな使命を課すものだった。


「…このゲームは、『運命の株価』という名だが、本当は次に待ち受ける世界大会の日本代表選考を兼ねていたのだ。そして、次に待ち受けているのは、株ではない。『運』そのものを賭けた、本当の勝負だ」


老人は、そう言って、姿を消した。その時、俺の肩に、ケンジ・ホリエが手を置いた。


「ユウキ…俺の負けだ」


ケンジ・ホリエは、俺の顔をまっすぐに見つめ、静かに言った。彼の表情には、今までの不敵な笑みは消え、ただ、深い絶望と、そして、かすかな希望が宿っていた。


「俺は、全てを失った。会社も、ロケットも、何もかも、何もかもだ」


ケンジ・ホリエは、そう言って、自嘲気味に笑った。彼の目から、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。


「だが、お前は違う。お前は、まだ、このゲームを降りていない。次の舞台はアメリカだ。俺は、お前に一つ、とっておきの情報をくれてやる」


ケンジ・ホリエは、そう言って、俺にUSBメモリを手渡した。


「これは、俺がこの日のために開発した、極秘のロケット技術データだ。そして、アメリカの政財界に、俺が作った人脈のリストも入っている。俺はもう、何もできない。だが、お前なら…」


ケンジ・ホリエは、俺の顔を見つめ、静かに微笑んだ。


「…俺の敗北は、お前の勝利だ。俺は、このゲームを終わらせるために、お前を助けてやる。お前が、日本代表として、この破滅した日本を救ってほしい。俺の夢を、日本の未来を、託した」


ケンジ・ホリエの言葉に、俺は言葉を失った。俺が、彼の人生を、そして、彼の夢を奪ってしまった。その罪悪感が、俺の胸に深く突き刺さる。


「…俺は、ロケットを飛ばすのが夢だった。カネや、権力じゃない。ただ、宇宙に行きたかった。だが、このゲームは、俺の夢を奪った。だから、俺は、お前を助ける。お前が、このゲームを終わらせて、俺たちの夢を、この世界に繋いでほしい」


ケンジ・ホリエの言葉に、俺は、ただ静かに頷いた。俺の隣にはカオリがいた。そして、シンシアが、再び俺に歩み寄ってきた。


「約束は果たしました。私はあなたの『運』を信じ、勝利への道を開いた。そして、あなたの力と私の人脈が合わさった時、このゲームの支配者になれる。そう、あなたも言いましたね」


彼女は、冷たい眼差しで俺を見つめる。それは、もはや単なる協力関係ではなく、利害が一致した、強固なパートナーシップの始まりを意味していた。


「次の舞台は、アメリカ。この老人の言葉を信じるなら、世界の運を支配する者が集う場所。行くべきよ、ユウキさん。日本代表として、この破滅した日本を救うために、私たち二人で」


シンシアは俺の肩に手を置くと、その身体を俺にもたれさせた。


「ユウキさん…私を使ってもっと強くなって。あなたが、このゲームの支配者になるために、私をあなたの運の女神にしてほしい」


シンシアの言葉に、カオリも力強く頷いた。俺は、彼女たちの顔を交互に見つめ、強く頷いた。


「ああ、行くぜ、シンシア。俺たちの戦いは、今から始まるんだ。このゲームの、いや、世界の支配者になってやる。」


その時、地球の裏側、アメリカの大統領執務室では、トランプ大統領が歓喜の声を上げていた。彼は、日本の富士山噴火と株価暴落のニュースを、満面の笑みで見ていた。


「…ハハハ!見ろ!日本の株価が、またもや暴落だ!そして、ケンジ・ホリエの会社を乗っ取った!これは、俺たちの株価をさらに押し上げる、最高のサプライズだ!」


トランプ大統領は、そう言って、高笑いした。彼の背後には、彼が投資したロケット開発企業の株価が、天井知らずに上昇していくグラフが映し出されていた。


「…日本の未来など、どうでもいい。俺が望むのは、俺の『運』だ!」


トランプ大統領は、そう言って、満面の笑みを浮かべていた。彼は、このゲームの裏で、日本経済を食い物にする、もう一人の黒幕だったのだ。


俺の戦いは、まだ終わらない。次の舞台俺の、そして日本の将来を賭けた、本当の勝負だ。


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