悪魔な養父と天使な娘。のち、夫婦。
「私、桜木芽依は、おじさまを、一条明日太さんを、お慕いしています。好きです。愛しています。結婚してください」
18歳の誕生日を迎えた義理の娘、芽依が、お誕生日デートと称してお高い店で思い出に残りそうな食事をした帰り、自宅の玄関の前で、急に想いをうち明けてきた。
芽依が両親を亡くした5歳の頃に明日太のもとに引き取られ、以来13年間手塩にかけて育てられてきた愛娘の芽依。
母親譲りの美しくも幼さが垣間見える顔立ち。
ほどよく大きく形も美しい豊かな胸。
抱けば折れそうな細い腰のくびれに、バランスの良い肉付きの足。
長く艷やかな黒髪は絹糸のようで。
見るものすべてを安堵させるような穏やかな双眸は、愛情に濡れ、不安に揺れている。
差し出した細い手指は、肌と同じ透き通るような白さで。
積年の想いをうち明けた緊張で、ほの朱く染まる頬。
やがてその赤みは、頬にとどまらず耳や首や指先にまで達する。
その頃には、義理とはいえ愛娘から想いをうち明けられたまま微動だにしない明日太の反応があまりにもなさ過ぎて、指も、手も、それどころか全身プルプル震えていた。
「………………お、おじさま…………。せめて、なにか一言を…………」
せっかく想いをうち明けたというのに、反応がない明日太に、目に涙を溜めて訴えかける芽依。
「…………いやはや、これはすまないね。さすがの僕も驚いてしまって、どう反応したものやらと悩んでしまったよ」
見るものすべてを信用させる微笑を貼り付けて、なんとか返事を絞り出す明日太。
その、心の内は。
「……芽依、本気なんだね。分かるよ。ずっと一緒に暮らしてきたから。……嬉しいよ、芽依。必ず幸せにしてあげるからね」
歓喜だった。
…………邪悪なまでの、歓喜、だった。
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一条明日太は、悪魔だ。
比喩的表現ではなく、事実として、人間社会に潜んでいる悪魔だ。
芽依の両親は、普通の会社に務めていた普通の会社員だった。
穏やかで優しい美人の母と、寡黙で平凡な優しい父のもとで産まれ育った芽依は、誰にでも笑顔を向ける可愛らしい子どもだった。
一条明日太は、悪魔として、桜木夫妻と娘の芽依の魂を欲した。
それと同時に、桜木夫妻と芽依から明日太に向けられる感情を嗜好品として味わっていた。
信頼や友情は、悪魔にとって劇薬に近い。
甘美な愉悦と共に、痒みのような不快感と棘で刺されているような痛みももたらしてくる。
しかし、その信頼や友情が、絶望や憎悪へと変わると、気が狂いそうになるほどの快楽を得ることができる。
その、わずかなひとときのために、長い年月をかけて信頼を築くことは、悪魔たる明日太にとっては報酬を得るための仕事のようなものだった。
絶望は、苦味の効いた酒のようで。
憎悪は、血の滴るレアステーキのようで。
憤怒は、スパイスの効いた肉料理のようで。
人の放つ負の感情こそが、明日太にとっては代えがたい至高の嗜好品だった。
桜木夫妻は、明日太によって追い詰められ、自ら死を選んだ。
あらゆる嫌がらせ行為によって心身ともに傷つき疲れ果てていく桜木夫妻を、励まし、ともに涙を流し、解決の手段を探るべく駆けずり回った明日太。
しかし、桜木夫妻への嫌がらせ行為は、すべて明日太が仕組んだもので、明日太によって追い詰められていく夫妻から感謝と信頼を向けられながら、日々やつれていく夫妻を心の中では邪悪なまでに嘲笑っていた。
架空請求詐欺というありもしない借金を返済しようと日々すり減っていく夫妻が、それでも明日太には信頼や感謝を向ける。
その事実が可笑しくて、笑いをこらえるのに必死な日々の明日太は、やがて夫妻から、娘の芽依を託されるに至る。
膝をついて頭を下げる夫妻を、見下し、嘲笑い、これまでの不幸はすべて自分が仕組んだとうち明けた。
そうすることで、明日太へ向ける信頼が絶望に変わる瞬間の感情を味わうことができるから。
……しかし、夫妻が向ける感情は、絶望ではなく。
信頼と、未来への希望だった。
そして、娘の芽依が、幸せに生きてほしいと願う、ひたむきな祈りだった。
悪魔にとっては、胸焼けするような、正の感情。
それは、夫の前で妻を陵辱してもさほど変わらなかった。
悲しみが少し足されただけで、夫妻は、明日太なら芽依を正しく優しく幸せに育ててくれると確信していた。
心の底から。
夫妻の心は、ズタズタに傷つけられたはずだった。明日太の価値観から考えれば。
しかし、夫妻から向けられる感情は、変わらぬ信頼と、少しのいたずら心。
これを見てくれ、と夫は書類を差し出す。
生命保険の受取人の変更手続きの書類だった。
契約しよう。破滅させられた夫は明日太にそう訴えかけた。
保険の受取人を明日太にする代わりに、芽依が大人になるまで面倒を見てほしいと、陵辱された妻が訴えかけた。
それは、悪魔の明日太がゾッとするほどの、理解不能な感情だった。
明日太としては、契約を結ぶ必要はないほどまでに夫妻は追い詰められていた。
しかし、娘の芽依の未来は、確定していない。
どう育つかなど、悪魔の明日太であっても断言はできないのが現状。
それゆえ、夫妻と契約を交わした。
夫妻の死後の魂をもらい受ける代わりに、娘の芽依が大人になるまで正しく優しく愛らしく育てるという契約を。
契約を交わせば、夫妻は心底ホッとして、心安らかに命を絶った。
娘の成長を見届けられないことを、至極残念に思いながら。
娘の将来が幸せなものになるよう祈りながら。
夫妻の生命保険を受け取り、娘の芽依を引き取った明日太は、夫妻の自宅に居を移し、芽依が以前と変わらない生活ができるように取り計らった。
夫妻はもういないが、芽依が明日太をお父さんと呼ぶようになり、本当の家族のように仲睦まじく過ごしていった。
朝は朝食の支度をして、優しく起こし、幼稚園への送迎をした。
芽依が幼稚園で過ごす間に、掃除と洗濯と買い物を済ませ、家に帰ればおやつを用意した。市販のものと手作りのものを交互に出すという手間ひまもかけて。
夜には一緒に夕食を食べ、一緒に風呂に入り、同じベッドで眠り、また次の朝を迎えた。
芽依が小学校に上がれば、朝食の支度と送迎は変わらず行っていたが、芽依が自分で起きられるようになって、感動したと抱きしめ頬にキスをした。
宿題が分からなければ一緒に問題を解いたし、授業参観には欠かさず駆けつけたし、成長に伴い服のサイズが合わなくなれば一緒に選び買ったし、年齢や身長体重に適した栄養が摂れるように食事を工夫するようになったし、髪型や髪の長さでうんうんうなる芽依の髪をブラシで梳いてあげたし、イジワルする男子の親には殴り込みをかけた。
また、性徴を経て不安になる芽依に、優しく言葉をかけ寄り添い励ました。
芽依が中学校に上がれば、すでに清楚な印象で将来有望な美少女になっていたため、女子校に通わせることにした。
それに合わせるように、同じ部屋の同じベッドで眠ることがなくなり、これも成長かと隠れて泣いた。
女子校の制服を着て微笑む芽依は、いまだ蕾でありながらも、咲いた花の美しさを想像できるものであり、この年頃の男子と同じ学び舎で過ごさせるのは、オオカミの群れに子猫を放り込むようなものだと女子校に通わせた自身の判断が正しかったと一人確信していた。
また、この頃から芽依が料理を作るようになってきたため、料理を当番制にしたらみるみるうちに腕を上げて、1年しないうちに芽依の料理の方が上手くなってしまった。
それにわずかな寂しさと確かな満足感を覚え、芽依の成長を実感する日々だった。
高校への進学を間近に控えた芽依の誕生日。
15歳になり花が咲いたような美しさと幼さが混じるいまだ青い果実の頃。
芽依に明日太が実の父親ではないことを告げた。
明日太の予想に反し、芽依は実の両親のことを覚えており、幼い頃の疑問は胸にしまったまま明日太と同じ時を過ごしていたという。
明日太自身が地獄に叩き落とした両親の死の真相は伏せて、保険金を託すという死別の経緯だけを芽依に告げると、どこか嬉しそうに、いたずらっぽく、言った。
もう、お父さんとは呼べないね。と。
その時の衝撃たるや、悪魔の身なれど、絶望すら感じ崩れ落ちかけた。
しかし、芽依はさらに追い討ちをかけてきた。
おじさま、と呼んでもいい? と。
その時の衝撃たるや、悪魔の身なれど、天に召される心地だった。
明日太と芽依が、親子ではなく男性と少女になった瞬間でもあった。
芽依が高校に上がれば、もはや誰もが振り向くような可憐な少女となっており、一人で外を歩かせると不安を覚えるようになった。
毎日の送迎も断るようになり、友人と遊んでくると連絡し帰りが遅くなる日も出てきた。
そういうときは、必ず迎えに行く明日太。
その都度、微笑みを返し信頼と親愛の情を向けてくる芽依。
この頃になると、明日太は芽依からの全幅の信頼が心地よく感じるようになっていた。
ある日、芽依が珍しく申し訳なさそうな顔をして帰ってくる。
当然気づいた明日太は、悩み事があれば言いなさいと抱きしめ頬を撫でる。
しばし言いづらそうにしていた芽依は、珍しく明日太から目を逸らして言う。
クラスの男子に告白された、と。
それも、何度断っても都合よく解釈されて何故か付き合っていることになっている、と。
そして、迷惑だとはっきり言った。
……俺の芽依に、なにしてくれてんだ?
悪魔の力をもってすれば、迷惑な男子を誰にも知られずに抹殺することはたやすい。
しかしそれでは気が済まないので、社会的に抹殺することにした。
たとえば、ありもしない不正の証拠をしかるべきところに届けてみるとか。
たとえば、ありもしない被害者の証言をしかるべきところに届けてみるとか。
たとえば、ありもしない……いや、実際にあってむしろ驚いたが、親兄弟親類縁者の不倫の証拠をしかるべきところに届けてみるとか。
様々な手段でもって、芽依に近づく男を排除し続けた。
……その事に気づいた芽依が、どう思うかなどは、意識の外にあった。
高校も卒業間近の芽依の誕生日。
予約が取れないと有名なお高く雰囲気の良い店でディナーをプレゼントした。
二人で食べる本格的なコース料理は初めてなはずの芽依は、緊張しながらも間違いのないマナーを披露し明日太を感心させた。
中学の頃に受けたマナーの授業をしっかりと覚えていて、実践したのだという。
緊張はしていたがブランクを感じさせない所作に、明日太はとても感心して、丁寧に褒めた。
……そして、その日帰宅した時の、告白。
打ち明けられた想いは受け止めたが、誕生日プレゼントに評判のお店でディナーをサプライズした明日太は、サプライズで告白してきた芽依に応えることが今すぐにはできない。
入籍して挙式して蜜月をそのプランをと頭を高速回転させた明日太は、苦笑する芽依に促され自宅に入り、芽依の考えを聞いた。
盛大な式は要らない。
ご馳走も要らない。
ドレスも要らない。
指輪も要らない。
友達も呼ばない。
なんなら神父さんも要らない。
ただ明日太さんと二人で愛を誓えればそれでいいと。
頬を赤く染め語る芽依の想いを形にするべく、式のプランを練り場所を探す明日太。
並行して、芽依の指輪のサイズを密かに調べ、ドレスを超特急で作るよう手配した。
卒業式の日に届け出を役所に提出し、その足で式場に、ドレスを着せ指輪を贈り愛を誓ってと準備してきたのに、養父と養女の関係性が問題になりかけた。
しかしそこは、悪魔パワーで手早く乗り切った。
芽依にもまだ教えていない悪魔の力を、今この形で芽依には教えたくない明日太はハラハラしたが、杞憂で済み心の中でホッとしていた。
人気の少ない小さな教会で、
純白のドレスに身を包んだ芽依と腕を組み、
明日太的に信用できる筋から引っ張ってきた自称神父に(若干嫌そうに)祝福され、
急いで仕立てた指輪を芽依の指にはめて、
頬を引きつらせる自称神父の前で愛を誓い、
口づけを交わした。
これにて、契約は成立した。
晴れて、芽依は名実ともに明日太のものに。
誰にもはばかることなく、誰を寄せ付けることもなく、芽依を独り占めできる。
慈愛と歓喜の表情を貼り付けて、内心でほくそ笑んだ。
二人で夕食を作り、食べて、
聖書の一節を諳んじ、ぶどう酒に興味を示す芽依に、二十歳までお預けだよと優しく諭し、
二人で一緒に身を清め、
無垢な娘を陵辱した。
初夜を済ませた明くる朝。
鳥のさえずりで目を覚ました芽依に、両親の死の真相を洗いざらいぶちまけた。
苦しみ抜いてやつれていく様子を、
罠に嵌めた側の明日太に娘を託す滑稽さを、
夫の目の前で妻を陵辱した事実を、
そして、何も知らずに親の仇に育てられた憐れな娘のことを。
そして、自身は悪魔で人間ではないということを。
両親と娘の魂を捕らえ死後の安寧すら汚す存在なのだと。
挙式と初夜を済ませたばかりの女に。
さあ、絶望しろ。
幸せの絶頂から地獄へ堕ちろ。
泣いて苦しみ悶える姿を見せてみろ。
衝撃の事実を告げられたはずの芽依は、きょとん、と不思議そうに首を傾げていた。
そして、手を伸ばし、明日太の頬に触れた。
「おじさま、明日太さん、どうして泣いているの?」
とても不思議そうに、明日太の頬を伝う涙を拭った。
「変なおじさま。そんな作り話をして、どうしたの? お父さんとお母さんに、悪いと思っているの?」
述べた事実を全否定という想定外の返しをされて、動揺する明日太。
明日太から嘘を吐かれたことがないと信じる芽依は、真相と称して語られた内容を、愛する人から語られたブラックジョークの類だと思っていた。
結婚したことで、緊張したり関係が変わることを危惧したおじさまが、珍しく似合いもしないことをやってみせたのだと。
芽依にしてみれば、優しく正しく愛情込めて育ててくれた養父が、両親の尊厳を踏みつけるような内容を、泣きながら語る様子がまるで一致せず。
二人で築き上げた幸せが、もし壊れたらと想像して、怖くなってしまったのかと解釈した。
では、夫となった男性を安心させるためには、妻として何をすればいいのか?
語られた話を信じるか、否か。
そんなことよりも、もっと、分かりやすくシンプルに。
「おじさま。……ううん、明日太さん。そんなこと言って、私が拗ねたらどうするんです?」
頬を膨らませた養女で妻。その姿にその言葉に、信じられないほど動揺する明日太。
新妻が、拗ねて明日太から離れてしまったとしたら……。
「私が作った料理をいつも美味しいと言ってくれたでしょう? 私の笑顔を見ると胸が温かくなると言ってくれたでしょう? 私がそばにいないと不安になると言ってくれたでしょう? そんな私が、いなくなったらどうするの?」
眉を寄せた、困り顔の妻を見て、
妻が語ったようになってしまったときを想像して、
絶望した。
もしそうなったなら、生きてはいけないと、思ってしまった。
それは、表情や仕草にもはっきりと分かるくらいで、その様子を見た芽依が心配になってしまうほど。
さめざめと泣く明日太を引き寄せ胸に抱き、頭を撫でて告げる芽依。
「いつか、死が二人を分かつそのときまで、幾久しく共にありましょう。そして、二人で、永遠の幸福に包まれましょう」
芽依の胸から顔を離し、見上げる明日太に、慈母のごとく微笑み、告げた。
「改めて、今後とも、よろしくお願いしますね。明日太さん」
自身に依存させ、幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とすことで、絶望を与え魂を汚し愉悦に浸るはずだったのに。
まるで、神や天使に罪を赦された心地。
ふと、小耳に挟んだ噂を思い出す。
神の御許で永遠の愛を誓った悪魔は、角も翼も尾も、悪魔としての力も失い、人に成る。
そんな、デタラメな噂。
悪魔としての明日太の力は、いまだ健在。
角も翼も尾も、人間社会には不都合なため封印しており、正規の手順を踏まないと顕現できないようにしてある。
見た目は人間と変わらないが、その在り方は悪魔そのもの。
…………なれど、結ばれたばかりの妻から向けられる無垢な愛情と確かな信頼と堅い絆は、今の明日太にはとても心地良いもので。
抱きしめた腕の中で微笑む女性には、愛しさと独占欲という、人間として当たり前の情ばかりが溢れてくる。
今このときにおいては、なにもかもがどうでもよくなり。
愛する妻を愛する一人の男として、妻を愛するのだった。
「おい、お前、俺になにやらせてくれてんだよ。嫁を見せつけるとか嫌がらせか?」
「うるせえぞ報酬は払っただろ。引き受けたくせに文句言うんじゃねえ」
「悪魔が教会で式を挙げるとか、どうかしてるぞおい。神父役を悪魔にやらせるのもだいぶ頭おかしいがなっ!」
「ははっ、オレの嫁可愛かったろ。綺麗だっただろ。あの嫁オレが育てたんだぜ」
「うっせえ、地獄に堕ちろバーカ」
「初夜も最高だったぜ。無理やり汚すのもいいが、真っ当な手段で育てた果実を味わうのは、格別だ」
「…………ほーん。その果実、お前が悪魔だってこと知ってんのかよ?」
「………………信じてくれなかった」
「……なんて?」
「ちゃんと言ったけど、信じてくれなかったんだよ!」
「ぎゃっはっはっ! 日頃の行いが善かったんだろ!」
「うるせえぞアホが!」
「アホはお前だっ! 無垢な魂に純粋な愛情を込めて幸せに育てて、天使に成りかけてるじゃねえか! 悪魔が天使を育てるとか、どんな喜劇だよバーカバーカっ!」
「…………なんだとっ!? オレの嫁は確かに天使のような淑女に育ったが、それを喜劇扱いするとか頭おかしいぞてめえっ!」
「これが喜劇でなくてなにが喜劇だっつーの! 両親の心も体も陵辱して汚し魂を捕らえたとか以前自慢していたが、その魂はどうしたよ!?」
「…………なくした」
「……は? なんて?」
「うるっせえよ失くしたんだよ! ちゃんと確保していたのに、いつの間にか勝手にどっかいってたんだよクソがっ!」
「ぎゃっはっはっ! こりゃ傑作だ! 罠に嵌めた両親の魂をどっかに失くして、娘は天使に育てるとか! 悪魔のくせに! どんな喜劇よりよほど喜劇だぜ!」
「…………ぐっ」
「…………あー笑った笑った。ところで提案なんだが、嫁の魂を汚したいなら、俺に3日ほど貸してくれよ。きっちり堕落させてやるぜ?」
「うるせえ黙れ殺すぞクソが芽依はオレの嫁だぞ誰にも渡すわけねえだろうがケンカ売ってんのかコラ」
「おーこわ。じゃあそろそろ帰るわ。子どもが産まれたら呼べや。祝福してやるからよ」
「うっせえよ二度と呼ぶかバカ」
「(告解…………。罪の告白をして、赦された悪魔、か。…………面白すぎんだろ。破滅させた両親からは娘を託されて、愛情を注いで育てた娘からは愛の告白をされて夫婦になって。捕らえたはずの両親の魂は、とっくに天に召されてて。娘が天に召されたら天使に成ることが決まってて。堕天させるような外的要因は、悪魔が排除する、か。面白すぎんだろ。たまに遊びに行こう。夫婦に娘が産まれたら、天使な母に育てられて天使に育つだろうし、いつか俺の嫁にできるかもしれねえしな。未来が楽しみだぜ)」