第8話 冒険者登録
──そして朝。
拓斗はふと、窓の外のやわらかな陽光で目を覚ました。
薄く開いたカーテン越しに、異世界の空がやさしく広がっている。
(うーん、良く寝た! これが異世界で迎える、初めての朝か……)
拓斗はベットから起こすと、両手を天井に向けてまっすぐ伸ばし、体をある程度ほぐす。
そのあと部屋の洗面所で顔を洗い、簡単に身支度を整えると、拓斗は宿のロビーへ向かった。
ソナタはすでに椅子に腰かけ、静かに待っていた。
「おはようございます、拓斗様。 昨日はお眠りなりましたか?」
「ああ……おはようソナタ。ちゃんと眠れたよ、ふわぁ~。」
拓斗はソナタへ返事をしたとき、少しだけあくびが漏らしてしまった。
その光景を見たソナタは「フフッ」と笑みをこぼし、
「拓斗様、あくびが少し漏れ出てますよ。」
ソナタはそうやんわりと口にした。
「‥‥朝食も食べたことですし、冒険者ギルドに赴きましょうか!」
宿の朝食を食べた二人は、時間をある程度過ごし、冒険者ギルドに行くことにした。
~ギルド前~
二人が和気あいあいと話し合ってギルドに向かうと、ギルド前の扉にカリーダが待っていた。
「あ、約束通りに来てくれましたね、二人とも!」
腕時計みたいなものを見ながらそう言った。その行動を見て拓斗は時間には厳しそうな人だとそう感じた。
「はい、約束通りに来ました。」「本日はよろしくお願いいたしますカリーダさん。」
拓斗は元気な返事をして、ソナタは丁寧な言葉をカリーダに向けて言った。
そんなやり取りをしながら、3人は昨日話したソファーのある部屋までゆっくりと歩いた。
部屋につくとテーブルには2枚ほどの書類が重なって置いてあった。
どうやら、昨日見た書類とはまた別の書類であった。
拓斗とソナタは「多分、昨日は説明用の書類だな(ですね)」と口に出した。
それで二人が昨日と同じソファーに座ったら、カリーダは
「これから、昨日説明をした冒険者登録をしていきますのでよろしくお願いいたします。」
と丁寧に一礼すると、手元の資料に視線を落とした。
「では、まずは名前、性別、生年月日と家族構成、冒険者になろうとしている理由を述べてください。」
まずは登録時に聞かれる面接が始まった。
「えっと、自分は夜空拓斗と申します。 性別は男性で〇〇年の10月25日生まれです。」
「家族構成は、父と母がいて今は遠いところでお仕事をしています。あと、2歳年下の妹がいます。」
拓斗は自分の素性をカリーダに話し始めた。もちろん、嘘はダメなので正直に丁寧に答えようとした。
拓斗の話を聞いたカリーダは「フムフム」とうなずき、手元の書類に記入をしていた。
ソナタは拓斗の素性を聞いて、興味深そうに聞いていた。そんなに他人のことが聞きたいと思うかねえと拓斗は思った。
「では、何故冒険者になろうとしたのですか? 自立のためですか、それとも家族の生活を楽にしようと思っているのですか。」
カリーダは冒険者になろうとしている理由を聞いてきた。
‥‥正直に言うと、家族や自分のためであって、そうでもないのが難しいところであった‥‥。
"天使エルラ"に家族を人質にされているため、仕方なくやっているだけで、それ以外の理由が拓斗には思いつかなかった‥‥。
拓斗は嘘をつけたらダメだと思い、何を言おうか悩んだけど、浮かばなかった。
「すみません、自分としては冒険者になろうとした理由がわからなくて、悩んでいるんですよ。」
拓斗は何も浮かばなかったのでそのことをカリーダに伝えた。
それを聞き、カリーダは「別に大丈夫ですよ、拓斗さん」と優しく答えた。
「冒険者になろうとしている理由は人それぞれです。 何も浮かばなかったから冒険者になってはダメってことはありませんので、安心してください。」
拓斗はカリーダの一言を聞くと、どこかホッと胸をなでおろすかのように息を吐いた。
「では、拓斗さんは冒険者になったら、どういった武器を使ってみたいとかあります?」
「ぶ、武器ですか‥‥。」
どういった武器を使ってみたいかの質問をされて、拓斗はその場で考え込んだ。
もちろん、そういった経験はないのだから、拓斗にとって非常に難しい質問であった。
「…和の国家の人ですから、刀とか弓なんかいいじゃないですか!」
横から、割り込んでソナタがそういった。
確かに日本人として、刀とか弓はなじみ深い武器だと思う。けど、それは戦国とかの遥か昔の話であり、現代の自分とは関係ない話だ!
「‥‥実際に冒険者になったあとで、決めてもいいですか。」
拓斗が恐る恐るそういうと、カリーダは先ほどと同じく「はい、大丈夫ですよ」とにこやかな笑みでそう答えた。
「これで、拓斗さんの話はいったん終わりです。では、次にソナタさんのことを教えてください。」
と拓斗のことを書類に書き終わったカリーダは、別の書類を持ちソナタへ話をふった。
「よろしくお願いいたします。名前はソナタ・ハルナーガと申します。性別は女性であり、〇〇年11月14日生まれです。」
ソナタは一礼をして、自分のことを丁寧に話し始めた。
「家族構成は父と母、それに2人の姉がいまして、私は3姉妹の三女です。‥‥あと、使用人が二人います。」
拓斗はソナタの家族構成を聞いて驚いた。 まさか使用人がいるなんて思わなかった。
まるで、どこかのお嬢様じゃないか‥‥と。
今までのソナタのお嬢様のようなしゃべり方をしていたけど、まさか本当のお嬢様ということだなんて…。
拓斗の驚いた顔を一瞬見たソナタは、顔を若干赤らめていた。まるで自分の秘密を聞かれたかのようだった。
「では、冒険者になろうとしている理由は何ですか、ソナタさん?」
「実は、家族の呪縛から自立したいのです‥‥。 ですので、家から出ていき、ここまで来ました!」
ソナタの衝撃な回答で拓斗は、目を見開き驚いた!?
確かにこの年頃になると、家族から自立して一人暮らしするようになる人が多い…。
でも、自立したい理由が家族からのしがらみから解放されたいというので、拓斗にとって衝撃的なことだった!
「‥‥なるほど、家族がらみのことから自立したいがために冒険者に‥‥。」
カリーダも冷静ではあったけど、少しの動揺したそぶりを一瞬見せたので驚いたことが拓斗にも分かった。
「でも、冒険者になって活躍をするとランクが上がります。それで有名になったらご家族の方の耳に入るのでは?」
「大丈夫です。そんなことも把握していましたので、対策はバッチリなのですよ♪」
ソナタが両腕を腰に当てて、「えっへん」としたポーズをカリーダと拓斗に堂々とみせた。
拓斗とカリーダは心の中で(いや、そういうことではない気がする)と同じ言葉をいった。本当に大丈夫なのか?
「ま、まあ、これで二人のことを知りえました‥‥。」
カリーダはソナタのことも書類に書き、2つの書類をソファーに置いてあった鞄の中に入れ、次に水晶を出した。
「それでは次の段階に入りましょう。 2人には今から水晶に手を当てていただきます。 その際に、水晶が光りますのでその色が使える魔法の属性となっています。」
「この水晶に手をかざしたら‥‥ですか‥‥」
「とても綺麗な水晶ですね。 私のお屋敷にはこれほどの綺麗な水晶はないので、神秘的です。」
「この水晶は、ある洞窟で見つけた特別な、鉱石を使っているのです。ですので、他の水晶にはないことがわかるのです。」
「それが人の魔力に反応して、属性がわかるってことなんですね。」
取り出した水晶を実際に見てみると、透き通るほどの透明感であり、どこか神秘的なものを感じた。
他の水晶とは違う、綺麗な水晶に話が弾んでしまった。
どうやら、その水晶は特別な鉱石を加工して作っていて、手をかざした人の魔力に反応して、どの属性の魔法が使えるかわかるという。
「では、最初にソナタさんがこの水晶に向かって手をかざしてください。」
「は、はい、わかりました。」
ソナタが返事をして、水晶に手をかざすと、水晶は最初に青色に光っていて、そのあと薄い緑色に光った。
色が溶け合っていて、まるで、自然そのものに愛されているような感じがした。
それを見たカリーダは、目を疑うほどの驚いた顔を二人に見せた!
「す、すごいですよソナタさん! 属性が2つなんて、10万人に1人の確率ですよ!」
「ほ、本当ですか‥‥私が2つの属性は持つなんて‥‥」
魔力の属性は火、水、風、雷、光、闇の6つあり、魔力を使える人のほとんどは1つの属性単体である。
で、その中でごくまれに2つの魔力を持つ人はいると‥‥
その確率は10万人に1人という非常に珍しい確率である。
「へえ、2属性の魔力を持つ人すごく珍しいんだ。」
「え、ええ‥‥ここ数十年働いていて、初めて見ました‥‥。 きっと、ソナタさんはとんでもない冒険者になるに違いありません!」
「ほ、ほえ~‥‥もう、驚きが勝手しまって、現実があんまり見えない状態です」
ソナタは結果を見て、少しふらふらと体がよろけだした。
(なんか、目の前ですごい結果を見せられたら自信をなくすなあ~)
と、拓斗はソナタの結果を見て少ししょぼんと肩が崩れそうになっていた。
「だ、大丈夫ですよ拓斗さん‥‥2つ以上の魔力を持つ人は奇跡レベルの人ですから‥‥」
「フォローのつもりなのは分かりますので‥‥」
正直に言って羨ましい気持ちはあるけど、心の中におさめとく拓斗だった‥‥。
「では、拓斗さんもやりましょうか。 水晶に手をかざしてください。」
「は、はい、わかりました‥‥。」
「拓斗様はどんな魔力属性を持っているのか、非常に興味があります。」
とソナタは目をキラキラにして、拓斗のほうを見た。 ちょっと気が散るのでやめてほしいと心の中で思った。
そんな拓斗が水晶に手をかざすと、眩しいぐらいに真っ白く光っていた。
「おお、眩しいぐらいに、すごく綺麗な白ですね。」
「‥‥光属性の魔力の持ち主ですね、それもこんなに純度が高い色になるのはすごいですよ!」
「そ、そうですか‥‥。」
「ええ、ここまで純度が高いと‥‥光の魔力に愛されているぐらい‥‥」
3人が話している次の瞬間、水晶は『パリーン』と砕けてしまった。水晶のかけらが部屋の勢い良く飛んでいった。
「「「く、砕けた!」」」と部屋にいた3人は驚いた!
どれだけ、拓斗の光属性魔力の性質が高かったのだろう‥‥今は誰にもわからない‥‥。
わかるとすれば、拓斗をこの異世界に来させた、狂った女性の天使だろう‥‥。