第7話 冒険者ギルド
「……ここが、ギルドか……」
拓斗は、ギルドの扉をくぐるなり、飲み込まれそうな喧噪に立ちすくんだ。
肩を寄せてくるソナタの気配が、かえって場の騒がしさを引き立てる。
「とりあえず……登録しないと始まらない、か」「……そうですね。登録を早く済ませて、いきましょうか」
二人はさっそく登録をするために前にある受付みたいなところまで足を1歩、また1歩と進めようとする。
受付のカウンターにつくまでに、手前のテーブルでお酒を乾杯している屈強な二人の男性。
左の壁にある額縁をじっくり見て何かを悩んでいる眼鏡の男性。
背丈似合わない大太刀をブンブンと振り回す女性。
乾杯している二人とは違うテーブルでトランプみたいなカードをにらむように見て、何かを出そうか悩んでいる人たち。
2階には耳が人より明らかに長い人が何かを飲んでいたりといろんな人がワイワイしていて、とてもにぎやかだった。
「……すごいなあ。ソナタが言った通り、いろんな人がいるんだな!」
ギルドに入る前にソナタが淡々と話していたような、『ワイワイ、ガヤガヤ!』としたそんな光景が目の前に広がっていた。
拓斗はその光景が目に焼き付いていて、改めて胸の中の好奇心が騒いだかのように目を輝かせた。
「ええ、私も驚いています。 話に聞いていたことが実際に目の前に広がっているなんて本当にすごいところですね。 もう少しで転げそうになりました‥‥」
ソナタは目の前に広がっている光景に圧倒されて、思わず後ろに倒れそうになりそうなぐらいに2歩ほど足がさがっていた。
周りの風景に圧倒されながらも受付にたどり着いた拓斗とソナタ。
そこで待っていたのは、眼鏡をつけた男性、背丈は拓斗の身長より頭一個分高く、他の受付と同じ青い制服みたいな服を身にまとっていて、清潔感の良い成人男性が
「はい、冒険者ギルド受付となります。」
と二人ににこやかな笑顔で迎え入れてくれた。
「今回はどうしましたか。クエストの発注ですか、それとも冒険者になるために登録をしに来ましたか――?」
受付の男性がそう聞くと次に口を出したのはソナタであった。
「実はここの冒険者ギルドの登録をしようと思いまして、遥々遠くにある国からここ"エルド"に来たのです。」
ソナタはエルドの冒険者ギルドに来た理由を受け付けのお兄さんに伝えた。その姿を横目で見た拓斗はさっきまでギルド内の光景に思わず倒れそうになったとは別人みたいな雰囲気をただよらせているので、それに少々驚いていた。
「わかりました、冒険者登録ですね。登録には少々時間がかかりますので、あちらに案内をいたします。」
そう言って受付の男性は椅子から立ち上がると、もの静かな動きでカウンターから回ってきて前に出てきた。
その姿にここ数年ではとてもできないほどのきちんとした対応なので、きっと5年以上ここで勤務していたのだろうと拓斗とソナタはそう思った。
二人はそんな男性の案内に従い、カウンターの右にあるドアまで足を進ませた。
拓斗は冒険者登録がどんなことをやるのか疑問に持ちながら、それでも好奇心で期待に胸が膨らみわくわくさせを感じた。
ソナタはそんな拓斗を横目で見て、「クスッ」と手を口に押えながらにこやかな笑顔を見せた。その姿や立ち振る舞いを一部始終、見てた人は彼女はただものではない雰囲気を醸し出しているとそう感じたのであった。
受付の男性がドアをそっと開けて、中に二人を招く。その部屋にはソファーがテーブルをはさんで二つありその向こう側、窓側に偉い人が座るのであろうテーブルと椅子があった。
「しばらくここでお待ちください、登録の担当を今お呼びいたしますので。」
男性がそういうと、さっき通った道を通りドアを開け担当の人を呼ぶ名目で部屋を後にした。
それを見とどけた二人はソファーに隣同士で座り、登録担当の到着を待とうとした。
「やあ……実際に冒険者の登録ってどう進んでいくだろう――?」と拓斗が疑問をもちかねた時、
隣で座っていたソナタの目が『キラン!』と光った‥‥‥かのような感じがした。
「どうやって登録するかは話で聞いただけであり、実際には見たことはないのですけど‥‥教えてあげましょう!」
とソナタが淡々と冒険者登録の説明し始めた。
「冒険者登録は大きく3つの項目を検査して、最終的にその結果で出たレベルをライセンスというカードに記して初めて冒険者登録が完了するのです。」
冒険者登録の大きな3つの項目の検査はこうだ――。
まずは年齢、性別、生年月日、家族構成、何故冒険者になろうとしたのかを面接で聞かれる。担当員との面接を通してその人がどういう人か実際に見て判断する。まるでバイトや就活の面接そのものだ。
次に魔力の検査、特別な水晶で魔力の検査をする。その水晶に手をかざすと光って、その光っている色で魔力の属性がわかるとある。どうやら魔力がない人は他の人とは違って光らないようだ。
で、最後は担当の人の課題クエストを実際に挑戦してクリアすることだ。冒険者の仕事の一つ、困っているクライアントの依頼ごとをちゃんとクリアできるか確認のための最終検査。
これらの項目すべてやってA~Fランク冒険者を決めるということだ。
ソナタの冒険者登録の話を聞いた拓斗はまるで好奇心が胸から飛び出しそうな感じで目を光らせていた。
彼は生まれてこの方、今までテレビゲームや携帯ゲームといったいわゆるデジタルゲームとかやってなくて、そういうのはどちらかというと実際にやっていた妹が興奮する内容だと思われるけど、それでも初めてのことだからやはり好奇心が勝ってしまう節が拓斗には大いにあった。
それからしばらく二人で仲良く話していたら、『トントン』とドアをノックする音が聞こえた。
その音を聞いた二人は話を『ピタッ』と止めて、反射的に正面の壁を見た。
ノックされたドアの向こうから「失礼します」といって、さっきの男性の受付さんとは違う女性の人が入ってきた。眼鏡をかけていて犬や猫みたいな獣の耳をした誠実な女性の人だった。
「初めましてお二人方。今回冒険者登録の担当をします、獣人のカリーダともうします。 以後お見知りおきを。」
と、冒険者登録の担当の女性"カリーダ"さんが拓斗とソナタに丁寧に挨拶をして向かい側のソファーに座った。
「は、初めまして、夜空拓斗と申します……一般的なヒューマンです。」「ソナタ・ハルナーガと申します。拓斗様と同じくヒューマンです。」
二人がカリーダという獣人の丁寧なあいさつを見て、続くように自分らも丁寧語で自己紹介をした。
それを聞いて「拓斗さんとソナタさんですね、わかりました。」といい、持っていた書類を目の前のテーブルに出し、
「では、これから1時間ほどの時間をもらい、冒険者登録の説明と注意事項をお伝えします。」
「は、はい、わかりました。」「よろしくお願いいたしますカリーダさん。」
そのあと、二人はカリーダから冒険者登録の説明と注意事項をよく聞いていた。
ソナタが説明したことと同じような説明だったのである程度はわかっていたかのような心意気の拓斗だった。
1時間ほどの説明と注意事項を言い終わったころ、日が沈みかけているような時間であったがために実際の登録は明日以降になった。
「日が沈みかけている時間なので、実際の登録は明日の午前中に行います。 明日のご予定がなければ早い時間にここにお越しになってください――」
担当のカリーダの言葉に、拓斗はほっと息をついた。
ソナタもどこか安心したように微笑む。
冒険者ギルドから出ると日は落ち、すっかり真っ暗な夜だった。
空には満天の星々が数多くあり、元居た世界では見られないほどきれいだった。
もちろん、異世界で星を見るなんて初めてだった拓斗はその光景に思わず見惚れていた。
そんな姿を横で見たソナタはどこか儚げな表情を見せていた‥‥‥。