7話 え、この人親バカなの?
今の状況を整理しよう。
目が覚める前から考えると信じられないけど、現在は体調全回復。助けた白蛇「サペ太郎」とともにウィリアムの屋敷でかくまってもらってる状態だ。
体感あっという間なのに、異世界に来てから少なくとも4~5日は経過してるってマジ?
「さて! ちょうど朝食の時間だし、広間で一緒に食べようじゃないか。……そういえば君の名前を聞いていなかったな。教えてくれないかい?」
「ありがとうございます! すみません、僕は和代累那って言います。ファーストネームは累那です」
「ほう、ルイナか。珍しい名前だね、改めてよろしく! じゃあさっそくだけどついてきてくれ。きっとお腹も空いてるだろうしね」
ウィリアムがウインクしながら付いてくるように促す。
言われてから気づいたけど、確かにとんでもなく腹減ってるわ。
そういえばこっちに来てから一回もご飯食べていないんだもんな。水は飲んでたとはいえ、胃の中は間違いなく空っぽだ。
もう僕ちゃんおなかペコペコ! せっかくだし甘えておこう!
「はい! ほら、サペ太郎もおいで」
「(チロン♪)」
ベッドから降りて手を伸ばすと、サペ太郎は慣れた様子で腕を登ってきた。
広間へ移動する間、ウィリアムが話しかけてきた。
「その子はサペ太郎っていうのか。君が名付けたのかい?」
「そうですね。ゴブリンに囲われていたところを助けたんですけど、反撃されてあの有様でした」
「なるほどゴブリンに。それは大変だったね……。……しかしサペ太郎とはまたユニークなネーミングセンスだ……」
同情の表情を浮かべつつも、何やらぼやいている。
オイ、僕のネーミングセンスに文句があるなら聞こうじゃないか。
「ここが広間だ。ルイナ君はそっちに座るといい。すぐに君の分の食事も用意するよ」
おお……大きな屋敷だと思っていたけど、想像以上の広さだ。日本の一般家庭のリビングの3倍は軽く超えてるんじゃないか?
壁にかかっている大きな絵画や長テーブルの先にある暖炉がそれっぽさを醸し出している。
ちなみにすでにウィリアムの分の食事は並んでいた。内容はスープとバケット、フルーツ。それにあれは、何かの肉のロースト? 最高じゃないすか! 早く食べたい。
あまりきょろきょろし続けてるのも恥ずかしいし、勧められた席に座るか……と、ん?
テーブルの向かい合わせに4対並んでいる椅子の一番端っこに、女の子が座っていた。
僕のほうを不思議そうな顔で見詰めてくる。だいたい10歳くらい? あどけないながらも端正な顔立ちで、ウィリアムそっくりのつぶらな翠の瞳が輝いている。ふわふわとカールした茶髪の髪の毛が良くお似合いですこと。
「ああ。その子はリナ、私の娘だよ。いつもなら妻のルイーザもいるんだが、1か月ほど仕事で王都に行っているんだ。そのうち戻ってくるからその時はよろしくね」
僕の表情から察してくれたのか、ウィリアムがそう紹介してくれた。
なるほど、納得だ。娘のリナはウィリアムにそっくりだし、こんなにかわいい子が娘なら奥さんもさぞかし美人なのだろう。会うのが楽しみだなぁ。
いや、もちろん変な意味はないですよ?
リナに向かって笑顔で会釈をすると、少し緊張した面持ちでお辞儀を返してから廊下のほうへ行ってしまった。テーブルの上の空の食器を見るに、僕らが来る前に先に食事を済ませていたらしい。
「すまない、あの子はシャイなんだ。そのうち慣れるさ。しかし全く、ご飯はみんなで食べようといつも言っているのに先に食べてしまうとは……」
そう言ってため息をつきながら頭を抱えるウィリアム。でもお兄さん、口角が上がってますよ。
さぞかし愛娘を溺愛してるんだろうな。ちょっとほっこりする。
「可愛い娘さんでs……」
「そうだろう! とても賢く魔力も高い、才能にあふれた子なんだ! 普段はお転婆なんだが初対面の相手には少し引っ込み思案なところがあるのがまたなんとも……おっとすまない。食事も来たことだし早速食べようか」
「……は、はい」
お、おう。ちょっと面食らったじゃねぇかコノヤロー。
え、この人親バカなの? さっきまで落ち着いてたのに急に食い気味で話し出すし、娘のこと大好きすぎだろ。ボルテージの上がり方がジェットコースター並みでビビっちまうぜ……。
完璧聖人かと思ったけど意外と人間味ある人だな、ウィリアム。
ここにきてようやく主人公の名前「和代累那」が初登場ですね。
ちなみに累那という名前は、彼の親が「生まれてきた子の性別が男女どちらでも問題ないように」という理由で中性的なものに決めたそうです。