3話 走ってゴー!
意を決して獣道を進み数分。
なんと見つけました、臭いの元凶。
小柄な人型の体躯に、体格とは不釣り合いに大きい禿げた頭。耳の手前まで裂けた口と、薄汚れた黄褐色の肌を持った生物。
はい。どう見てもゴブリンですね。しかも3匹も。
獣道の途中のちょっと開けたところでたむろしてるみたいだ。
第一村人発見! と思ったら魔物でした、なんて笑い話にもならないよ。
しかしやっぱり異世界で確定かー。あんなファンタジーな生物は元の世界にいるわけないしな。
それにしても見れば見るほど気持ち悪いなあいつら。
下卑た表情で輪になってわちゃわちゃしてる。軽く5mは離れてる茂みで隠れてるのにこの距離で悪臭漂ってくるし、みるからに不潔そうだし。
わざわざ水場まで行っても水浴びとかしないのかね。
「グゲゲッ! ゲヒッ!」
「ガヒャッ!」
うわ、鳴き声まで気持ち悪い。
てか、ん? 待てよ?
あのゴブリンども、もしかして何かを囲って攻撃してるのか?
ぱっと見ただ踊ってるようにも見えたけど、よく観察すると叩いたり踏みつけたりしてるようにも思える。
何してるんだ……?
「ギャッギャッ! ギャハッ!」
「グヒッ、ヒヒッヒ!」
「ヒャハッ!」
……ちょっと待て! あいつらヘビいじめてやがる!
はじめは小さくてわからなかったけど、よくよく目を凝らしたらあれは間違いなくヘビだ。ゴブリンたちの足元には小さな白蛇が横たわってて、蹴られながら苦しそうにしてるのが見える。
逃げようにも3匹に囲われて逃げることもできず、ただ耐え忍んでるみたいだ。
おいおい許せねぇなこれは。
僕は動物全般好きだけど、特にヘビは大好きだ。
昔アニマルカフェに行った時に首に巻いてからどハマりして、去年から自分でも買い始めたくらい。ちなみに名前はスネ吉。
動物をいじめる奴、特にそれがヘビなら黙っていられない!
「うおぉーーー!!」
「ゲゲッ!!」
やべ、叫びながら飛び出しちゃった。
全くのノープラン、だけど構うか!
そのまま走ってゴー!
「おらぁ!」
バキッ!
「ゲブェ!?」
一番手前のゴブリンに渾身の右ストレート。
手応えあり! 人間相手でもやられたらだいぶ食らうくらいの勢いでクリーンヒットした。
急な展開でゴブリンたちも驚いてるみたい。
吹っ飛んだゴブリンAに他2匹が気を取られてるうちに……!
「大丈夫……かな?」
ヘビの様子を確認しないと!
近づいてみると、1mくらいの小柄な白蛇だった。
青くて透き通った綺麗な瞳で、ヨロヨロとこっちを見てくる。
か、かわいい………!
いや、そんなん言ってる暇ないわ。
しかしあれだけ蹴られてたのに全く外傷がない。せいぜい泥と砂埃に塗れてるくらい?
少し不思議だが、何はともあれとりあえず無事そう。よかった!
一旦抱き上げて首に掛けて……と。
「ゲゲッ、グゲギャ!!!」
「ガギャギャ!!」
おっとやばい、ゴブリンの皆様ブチギレでいらっしゃる。
いつのまにか3匹ともこっちに向き直って、露骨にお怒りのご様子にございます。
……ってあれ? ゴブリンBCはともかく、ゴブリンA全然ダメージ喰らってなくね?
痛がっている様子がないどころか、殴った顔面には跡の一つもない。
おかしい。いくらなんでもおかしい。
助走した上で思いっきり振り抜いた右ストレートだぞ? いくら格闘技未経験の僕だとしても、ゴブリンが吹っ飛ぶくらいの威力だったらダメージも相当なはず。
死ぬことはなくとも痛みや口内出血のひとつやふたつあってもおかしくないだろ!
なんで痛くも痒くもないみたいな顔でピンピンしてるんだ?
「グギギギギ……!」
「ゲヒッ! ゲヒッ! ゲヒッ!」
顔をゆがませてこっちをにらみつけてくるゴブリンズ。体を低くして今にも飛び掛かってきそうな姿勢になっている。
まずい、臨戦態勢だ。
なんでダメージがないかなんて考えてる暇ない、早く逃げないと!
そう思って振り向こうとしたその瞬間。
「ゲギャァッッ!!!」
ガブッ!!
「いっっっっっでぇ!」
猛スピードで顔に向けて飛んでくるゴブリンから身を守ろうととっさに挟んだ左腕の前腕に、思い切り噛みついてきた。
まずい、がっつり噛まれた!
いいいぃぃ、痛い痛い痛い!
小さいナイフ!? 万力!? 何て表現すればいいかわかんないけど、とにかく痛い!!
親父にも嚙まれたことないのに!
「こっ…………んのぉ!!」
噛みついてきたゴブリンを思いっきり振り払って地面に叩きつける。
ゴブリンたちが怯んだ隙に…………回れ右で逃走!!
「ゲギャアァ!!!」
「ギャッ!! ギャアッッッ!!」
叫びながら追ってきてるのが聞こえるけど、振り返って構ってる暇なんてない!
腕の痛みも気にしてる場合じゃない!
とにかく走れ、走れ、走れ僕!
止まったら死ぬかもしれん! 小学校のスポーツ大会でやった1000m走を思い出せ!
逃げるんだよォーーー!!!!