1話 目が覚めるとそこは異世界だった
拝啓、お父さんにお母さん。それと妹。
桜も散り、徐々に夏の暑さを感じ始めた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
私は今、異世界にいます。
え?どこだって?
だから異世界だよ! いーせーかーい!
気づいたら全然知らない森の中だし! 軽く歩き回ってもみたことない植物ばっかりだし!
あ、ちなみに異世界って断定したのはそこら辺にあったデカい足跡からですね。平気で僕の身長超えた恐竜みたいな足跡あってビビった。
「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」なんて書き出しから始まる文学作品あったよね。その一節は有名だけど内容はみんな知らないやつ。
今の僕の状況に当てはめると「目が覚めるとそこは異世界だった」だけど、普通にラノベのタイトルでありそうだなチクショウ。
まずい。パニクって意味わからんこと1人で考えちゃってる。
よし、一旦状況整理しますか。
まずこの謎の場所に来る前にあったこと。
授業終わって放課後、教室で1人でぼーっと座ってた。クラスの中には学年屈指の一軍グループとこれまた学年屈指のヤンキーグループがたむろしていて、それぞれ「カラオケ行くべー」「俺部活だわー」とか話してたな。あと教室の隅っこにはいわゆるオタク君タイプの男子達が3人くらい固まってアニメ談義していた、はず。
あと入り口から幼馴染でマブダチなあいつも入ってきてたっけな。
放課後なのに20人弱はいたクラスメイトの人間観察をしながら、ぼんやりと過ごしてた。
んで気づいたら森の中でした。
以上ありのまま今起こったことですね。何を言っているのかわからねーと思うが、僕も何が起きているのかわからない。いや本当に。
夢かと思ってほっぺつねったりほっぺ叩いたりほっぺの内側噛んだりしたけど感覚しっかりあるし。ほっぺいじめすぎて結構ジンジンする。
もーわけわからん!
何ここ本当に異世界? うっかりアマゾンの奥地に入っちゃったよーとか富士樹海彷徨っちゃったよーとかじゃない?
足跡はドッキリとかない?
てか普通異世界転移ってさ、なんかもっとキッカケみたいなのあるじゃん?
ほら、魔法陣とか光とか天の声とかさ。「あなたは勇者に選ばれました」なんて脳内に直接語りかけられたり、鐘の音が聞こえたり、足元に魔法陣出たり、急に目の前が真っ白になったりさ。そういうテンション上がるイベントなーんにもなし!
放課後
↓
森の中(異世界)←イマココ!
てな感じだもんな〜。いくらなんでもフローチャート短すぎでしょ。せめて軽くでもいいから前フリ欲しかったわ。
しかも周りには人っこ1人いないガチ自然。生き物の痕跡はあるけど文化的な痕跡が一個もなし。
大体相場は神殿とかだろ! なんで人工物の一つもないんだよ! ガイドくれよガイド!
ん? ガイド?
……そうじゃんワンチャンあるじゃん! ゲームみたいにステータスがあって、それ開いて色々確認できるみたいなパターン!
思い立ったが吉日だ、いっちょやってみるか!
「ステータスオープン!」
……あぁ、木漏れ日が気持ちいいなぁ。
普段の街の喧騒から離れて静かな森の中に来るとすごい癒される。マイナスイオンっていいなぁ。
……。
……ええそうですよ現実逃避ですよ!
あ〜あ、ステータスがないパターンかぁ。
頭で念じたり指を振り下ろしたりもしてみたけどなんも出てこないし、多分ないんだろうな。あるんだったらきっと分かりやすい形式で表示できるだろうし。
よし切り替えてやって行きますか! と言いつつも何をすれば良いのか……。
某ゲームなら木をこって斧としゃべるとツルハシ作って夜になる前に拠点作るもんだけど、流石に道具が何もないのにそんなことできるはずもないし。てかよく考えたらあの世界素手で木を切り倒せるの正気じゃないな。
よーし切り替えていかないと! うだうだ悩んでても仕方ないし、とりま飲み水と食料の確保、それと雨風凌げる場所の確保からやって行きましょうかね!
……我ながら順応早いな。