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第三話 第三王子 ライノルト殿下

 乙女ゲームと呼ばれる女性向け恋愛シミュレーションゲームには、〇〇系と分類されるヒーローが複数人登場する。


 ユーザーは好みのタイプを選んでプレイし、そのヒーローとの恋愛模様を楽しむのだ。


 ヒーローのタイプには、ある程度のテンプレが存在する。


『俺様王子様』

 強引かつ積極的で、絶大な自信とそれを頷かせる実力を併せ持つリーダータイプ。傲慢で空気を読まないことから苦手とする女子も多いが、頼り甲斐がありカリスマ性もある。『壁ドン』が得意技で手が早く、メインヒーローに多い。


 派生で『ちょい悪系』『亭主関白系』がある。財力と権力と武力のある男性にモノのように扱われて囲われたい女性は意外に多いのだ。女性向け漫画でヤクザ者ヒーローが多いのは、この手のタイプの根強い人気を物語っている。

 戦隊モノでいうとレッド。


『氷の貴公子』

 クールで人を寄せ付けない孤高の天才タイプ。王族に次ぐ権力を有し、尚且(なおか)つ『天才魔法使い』『最年少で宰相に抜擢される』『国で唯一の属性剣の使い手』等の、比類なき才能を併せ持つ。


 女性に興味がなく、その氷点下の対応から『氷の……』と二つ名が付いている銀髪碧眼等の冴えた美貌で描かれ、陽のメインヒーローに対して、陰のサブヒーローの立ち位置となる。戦隊モノでいうとブルー。


『脳筋騎士』

 正義感が強く、騎士団に属している等の肉体派。ストイックで不器用なタイプか、裏表のない熱血タイプで好みが別れるところだ。

 どちらも年寄りや子供に人気があり、女性には免疫がない。戦隊モノでいうとイエロー。


 以上の三タイプが鉄板で、他はゲームにより『年下ワンコタイプ』『フェロモン系セクシータイプ』『腹黒メガネキャラ』『心配性な世話焼き従者』『ヤンデレ魔法使い』等が加わる。


 他にも、一定の条件を満たした場合に解放される『シークレットキャラ』が設定されていたりする。戦隊モノでいうと上半期終了後に現れるブラック。


 私が攻略しなければならないライノルト殿下は、その絵姿から察するに『フェロモン系』であり『フェミニスト』や『遊び人』などのオプションが付いていそうだ。


「ライノルト殿下は、メインヒーローである王太子フェリクス殿下の弟君。『剣のフェリクス殿下、魔法のライノルト殿下』と称されるくらいの魔術師よ」


「へぇ……」


 エリィは、私が現状を受け入れていないことを気にしないことにしたようだ。気のない返事をしても、表情を変えずに説明を続ける。


 それにしても……。


 あんなキラキラしいイケメンが、生身の人間として、本当に存在しているのだろうか? 絵姿のライノルト殿下の顔面偏差値は、とても現実的とは思えないレベルだ。


(まぁ……今の私も、ちょっとお目にかかったことのない美少女なんだけど……)


 美少女……。もう、それだけで恥ずかしい。中身は就職四年目にして既に疲れ果てた、二十六歳喪女だ。生足でのマイクロミニスカートも、白いニーハイソックスも、忘年会の余興のダシモノにしても無理がある。


(酷い罰ゲームみたいだよマジで……)


 強いて言うならば、すっぽりと頭から爪先までの『美少女のかぶり物』を着ているような感覚だろうか。とても今の姿を自分だとは思えない。


 私ごときがこんな格好で、キラキラ王子に近づくとか……滑稽だし、烏滸(おこ)がましい。


「ライノルト殿下の魔法は植物系で、主に薔薇を使うことが多いの。棘のある蔓薔薇(つるばら)で拘束したり、花びらで撹乱したりするわ」


「ええ……やり過ぎじゃない? ちょっとハズいよそれ……」


 確かにあの顔なら薔薇は似合うのだろう。だが成人に近い年齢の男性が、花びらを撒き散らしながら戦うのはさすがに痛いのではないだろうか? 下手をしたらお笑い担当だ。


「『おいで、僕の子猫ちゃん』とか言いそう……」


「ぷっ……」


 エリィが軽く吹き出して、それを誤魔化すように咳払いしてから言った。


「言うわよ。覚悟してね」


 えっ、言うの? マジで?



 本当にここが乙女ゲーム世界で、攻略キャラと恋仲にならなければ消えてしまう事態が現実だとするならば……。


 せめて、相手を選ばせて欲しかった!


 ちなみに私は、このゲームで攻略キャラたちに出逢うどころか、まだチュートリアルすら終わっていなかった。ゲームの中でもエリィに校内を案内してもらっていた。


(ダウンロード中の画面でキャラ紹介があったけど……)


 残念ながらよく覚えてはいない。確か趣味や攻略のヒント的なコメントの記載があった気がする。こんなことなら電車を一駅乗り過ごしてでも、しっかり把握しておくべきだった。


「攻略対象、変えられないの?」


「どうして? ライノルト殿下、好みじゃないの?」


 あら……あらあら。


 エリィの声に、不服そうな色が乗る。ここまで感情を顔に出すことを避けているように見えたのに、こんなにもわかりやすく隙を見せるなんて。


「だって頭悪そうじゃない? ナルシストとかキモいよ? 襟足、長いし」


 少し煽ってみる。


「ライノルト殿下は、そんな安っぽいお方じゃないわ!」



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