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悪役令嬢ちょっと待て! こっちも命懸けだ!  作者: はなまる


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第十話 大講堂にて

 大講堂へと向かう人の波に乗る。紺色の制服姿の少年少女が、少人数で笑いさざめきながら歩いてゆく。


 私の中身は二十六歳なので、青春真っ只中の彼らの笑顔が眩しくて仕方がない。


 この学校で君たちは、自分の未来を選択してゆくんだよ。今なら、どんな荒唐無稽な夢だって、つかめる未来があるんだよ……。


 思わず脳内ポエムを紡いでしまう程に、若者たちの可能性に胸が熱くなる。完全に卒業式の保護者の心境だ。


「なんで泣いてるのよ……」


「だって……! みんな頑張ってって思うじゃない! 若いって素晴らしいなぁ!」

 

 ロズワール魔法学校は、三学年あわせても二百人程度。国の最高学府であり、入学には大きな才能と積み重ねた努力が必要なのだ。


 その歩んで来た道すじに……これから彼らが立ち向かう未来に、乾杯したい気分だ。


「みんなの夢が叶うと良いねぇ!」


 私が目頭を押さえて立ち止まると、エリィは『私の夢も叶って欲しいわ……』とボヤいてスタスタと先に行ってしまった。



   * * *



 さて、クラブ紹介・勧誘発表会である。


「エリィは前の時は、何のクラブに所属していたの?」


「美術部よ。現実でも絵を描くのが好きだったの」


「へぇ、良いなぁ。私は絵心がないから、絵が描ける人ってほんと尊敬する」


 これは本心だ。割と手先が器用で細かい作業が好きな割に、オリジナリティやセンスとは縁がない。


「あと……ライノルト殿下が美術部所属なの……」


 まるで塾をサボったことが親にバレた小学生のような顔をする。攻略よりも推し活を優先した自分を後悔しているのだろうか?


「あー、ライノルト殿下……美術部って感じ!」


 自画像描いてそう!


 私がカラカラと笑いながら言うと、エリィはわかりやすくムッとした。


「またそういう……! 殿下はナルシストな()()じゃないのよ」


 そこは『ナルシストじゃない』って言ってあげようよ!


 周囲のざわめきに紛れるようにエリィとやり取りしていると、司会進行らしき生徒が壇上に上がった。大講堂は発表会に相応しく立派な緞帳(どんちょう)付きの舞台があるのだ。


「新入生の諸君、入学おめでとう。これより代表者による各クラブの説明と勧誘発表会を開催する。クラブ活動は必須ではないが、有意義な学生生活を送るための大きな力となる。どうか、積極的に参加して欲しい」


 端的でありながら、説得力のある言葉。そしてそこはかとない上から目線。制服ネクタイは臙脂なので最上級生なのだろう。


「出たわ! メインヒーローよ!」


 エリィが声をひそめて、だが鋭く耳打ちする。


 言い方! そんなレアモンスター見つけた時みたいに……!


「第一王子、フェリクス・アルドバルド・カルディア殿下。王族としてのプライドと自信に溢れた、次代の君主様で……」


「あー、俺さま王子様ね……」


 ついついエリィの言葉を遮ってしまう。えばりんぼうは嫌いなのだ。


「まぁ、でも優秀な方なのよ」


 私の無作法に反論しないところを見ると、エリィもこのタイプには思うところがあるのだろう。


 現実世界でも、コレ系男子へは意見が極端に別れる。強引に攫って欲しいとか、モノ扱いされたいとかいう女子は意外にも多いのだ。

 だが一歩でもずれるとモラハラだし、よほど稼ぎが多くないと関係は破綻するので一生を共にするのは難しいタイプだ。俺さま夫が家事や育児を分担してくれる筈はないからね。


「まぁ、王族ならアリなのかも」


 財力も権力も申し分ないし、あれほどの美丈夫ならば、眺めているだけでも眼福だろう。いや……私は無理だな。


 うむうむと自分の中での答えを噛み締めながら、事前に配布されていたプリントを眺める。各クラブ名と発表内容が記されていている。


 最初の発表は『魔法植物栽培クラブ』だ。


「私たちは植物に魔法干渉を試みる研究をしています。種子に微弱な属性魔法を付与し、品種改良を重ねることでその属性を帯びる植物、又は耐性を持つ植物を作り出します。今は部員一丸となって、光魔法を付与して、様々な美しい植物を育てています」


 すごっ、えっ、すごくない? 初っ端からめっちゃ楽しそう!


「私たちが栽培した『灯り植物』を見て下さい。そして私たちと一緒に、植物と魔法の可能性に挑戦しませんか?」


 舞台の袖から、鉢植えやプランターを持った生徒が次々と現れる。淡く光る紫陽花(あじさい)鬼灯(ほおずき)、チカチカと点滅を繰り返す姫りんご、生徒の足元に小さなスポットライトを灯す鈴蘭……! トマトやピーマンなどの野菜も鮮やかな色彩の光を放っている。


「す、すごいね! ねぇ、エリィ、コレ普通なの? この世界だと割とよくある感じ?」


 いっそ立ち上がって『ブラボー!』と叫びたい。めっちゃ欲しいし、是非とも種から育てたい。けれど私にはこの世界の常識がわからない。学生が片手間で出来てしまうレベルなのだろうか?


「国の魔法植物の研究機関はあるの。でもこのアプローチは新しい。私も素晴らしいと思うわ」


 エリート学校クオリティだった。私は遠慮なく、全力で賞賛の拍手を贈った。


 その後は『歴史研究会』『星座鑑賞クラブ』『地図同好会』と続いた。どれも研究成果を発表していたが、そもそも私はこの世界の歴史も地理も星座も、何ひとつわかっていない。ちんぷんかんぷんだった。


 エリィはうんうんと聞いていたので、大発見なのかも知れない。あとで聞いてみようと思う。


「次は……」


「美術部よ……!」


 エリィが両手の平をぎゅっと握って言った。


 おおう……! 


 満を辞して、とうとうライノルト殿下が登場するらしい……!




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