一本の傘
戦いが終わった。1人の生き残った兵士は、恋人と交した約束を果たすために彼女の元へ戻り、愛を誓った。そして、守りたいその女のために、銃を売り払って一本の傘を買った。
傘は女を雨から守った。日差しから守った。雪から守った。女は頭の上で開くその傘を愛しげに眺め、愛を持って大切にした。やがてその傘は新たに生まれた息子を守るようになった。
息子が嫁を貰う時、母はその傘を譲った。傘は息子の嫁を守った。雨から。日差しから。雪から。
幾年月が経ち、再び戦いが始まった。
父が娘に言う。
「これを父さんだと思いなさい。きっと守ってあげるから」
そうして手渡された傘を握りしめ、小さな女の子は父を見送った。
町に降り注ぐ銃弾は、まるで雨のようだった。雨でさえ、その身一つで避けられる人間がいるだろうか。逃げ場すらない。
「守ってくれるの」
人々が泣き叫ぶ中、女の子は静かに微笑んで傘をさした。
雨でもない。日差しでもない。雪でもない。
地べたに落ちたその傘を、拾える者ももういない。
最後の銃声が鳴り響いた後、1人の兵士が瓦礫の中から立ち上がった。そして彼は力なく故郷へと戻ると、銃を売って一本の傘を買った。
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