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悪いのはワシじゃない

「おぉ、見よっ。あの勇者共が魔物討伐の為の組織を作りおったぞ」


勇者一向は冒険者ギルドを設立し、対人では無く、対魔物に力を注ぐようになっていった。


「うむうむ、では少し時間を・・・」


ピピピピっ


「のーっ!また勇者が召喚されておるではないかっっ。ミーシャよ、しばし待っておれ」


魔族の国に進行した勇者に同じように説得を試みるドン爺。


「うっせぇぞくそじじいっ!」


「なんじゃとーーっ」


シパッ


「痛った!こいつ痛った!」


ドン爺は勇者に斬られてしまった。


「神に向かって何をしおるかーーーっ!」


神を斬り付けた事によって勇者の魂は一気に汚れ真っ黒に。


ゲイルは汚れた魂を汚魂と言っておったな。それは駆除して構わないと。


「ええーーいっ、お前みたいなやつはこうじゃ」


プチっ


「ぎゃぁぁぁぁぁあっ」


ドン爺が魂をプチっとしたことで勇者は断末魔を上げた。


ドン爺が見えない他のパーティーメンバーは何が起こったかわからない。


「くそっ!何をやったのだ魔王っ!」


「えっ?」


そこには自ら勇者と対決しようとしに来た魔王が居た。


ムホホホホッ。間近で見るとなんとまぁ見事な・・・。いや、それどころでは無い。こいつらから魔王を守らねば。


「貴様らっ!このままここから立ち去れっ」


「ひぃぃぃぃぃっ」


何もさせてもらえず勇者を殺されたと思ったパーティーメンバーは魔王の威圧にあっさりと屈し、尻尾を巻いて逃げて言った。


ドン爺は魔王を見て惚れ惚れした。


「何と気高く美しいのじゃ・・・」


ドン爺は強い者が好きだった。アーノルドしかりディノしかり、ゲイルしかり。強いものには独特の魅力がある。しかも魔王は自分より格下であると悟ったら、ただ追い払うだけだったのだ。


(ワシは守らねばならん。この気高く美しい魔王を!)


ドン爺は魔王の魂に触り損ねたことを残念に思いながら自分の世界に帰った。



「陛下っ、勇者がやられましたっ」


「何っ?ワシの勇者がやられただとっ?他のパーティーメンバーはどうしたっ」


「は、魔王に恐れを無し逃げ帰って参りました」


「くそぉっ!召喚者のみでパーティーを組ませろっ。一人では足らん」


「しかし、そのような事をすれば他国との協定がっ」


「構わんっ。魔王を倒した国が覇を唱えられるのじゃ。召喚の順番なんて待っておれるかっ。直ちに全魔力を王都に集めて召喚を行えっ」



現在、大国と呼ばれる国が3つ。ここはその中でも最大のマナーカ王国。それに次ぐミギー王国とヒダリン王国がこの大陸で覇を争っていた。戦争になるとすぐに魔族がやって来て邪魔をする。そこで3国はまず魔族を滅ぼす事にしたのだ。


魔王を倒すことは覇を唱えることに繋がるため、各国は魔王を倒せる勇者召喚を行うことにした。しかし、勇者同士がかち合えば魔王より先に勇者同士の戦いになる可能性があるため、順に勇者を召喚することになっていたのだ。


ミギー王国の勇者はなぜか魔王討伐を諦め、国の為に働きだして冒険者ギルドなるものを作り、魔物から国を守る仕組みを作り、マナーカ王国に匹敵する国になっていた。


今回の勇者はマナーカ王国が召喚した勇者。しかしあっさりと負けてしまったのだ。


次の勇者召喚の順番はヒダリン王国。それが万が一魔王討伐に成功したなら、両サイドの王国から攻められてもおかしくはない。マナーカ国王はなりふり構わずすぐさま勇者召喚に取り組んだのであった。



「王様どうでしたか?」


「勇者の奴がいきなりワシを斬り付けて来おっての、汚魂じゃったからプチっとしてやったわい。しかし、これでしばらくは問題ないじゃろ」


「じゃあ、お肉ももうすぐ届きますかねー?」


「ふむ、どうやったら届くようになるんじゃろな?」


「ぼっちゃまはお供えって言ってましたから、星の人達がお供えしてくれるようになればいいんじゃないですか?」


「ふむ、神への捧げ物が届くと言うことか。ではそろそろ届くかもしれんのぅ」



と、二人は楽しみに待っていたが一向に届く気配がない。試しにゲイルが居たところを見に行くとわんさかとお供えが届いていた。


「何が違うのじゃろな?」


「なんでしょうねぇ。もう少し時間進めてみます?」


ピピピピ


「あーーっ!また魔族の所に攻め込んでおるではないかっ」


しかし、その勇者は魔王に倒された。


「おぉ、魔王は強いのう。それにムホホホホッ」


「王様?」


「いや、もうこれで安心・・・」


なっ!


「また勇者が現れおったぞ。しかも今回は桁外れに強いではないかっ。ミーシャ、また行って来るぞっ。このままでは魔王が倒されてしまうやもしれん」



ドン爺はまた魔族の国へ向かい勇者を説得する・・・


「痛った!やめっ やめっ かーーーっ!何をしおるかーーっええいっ」


プチプチプチプチプチプチっ


今回のパーティーは全員が召喚者だった。全員の魂を触ってみた所、全員から一斉に攻撃を食らったのであった。


そして、今度こそと近くに居た魔王の魂を触ってみる。ムホホホホッ


「むっ、誰だ貴様は?」


「ワシは神じゃ。お前を守るためにやって来てのじゃ。怪我はないかの?」


「神様だと?」


「そうじゃ。どこの馬鹿か知らんが魔王討伐の為に勇者を召喚しよるんじゃ。ちゃんとワシがお主を守ってやるからの」


そう言うと魔王はポロポロと泣き出した。


うむうむ、自分を守る為に颯爽と顕れた神に感動したのじゃろう。なかなか可愛げあって堪らんのぅ。守ってやるからのぅではなく、俺がお前を守るっ!みたいに言えばよかったかの?いや、魔王と神など禁断の愛じゃ。


「なぜだ・・・?」


「許せ、神と魔王は禁断の愛じゃ、ワシはいつまでもお前を守って・・・」


「なぜ我らは人間から嫌われねばならんっ。な、何も悪い事を ヒック・・してヒックないのに・・・」


「いや、その、魔族は人間の共通の敵として存在するもので・・・」


「なぜ、神は我々にそのような役割を与えたのだ・・・・あんまりではないかっ」


「えっ、いやその・・・。すまん」


「もういいっ!」


バッ


魔王はもういいと言い残して飛んで行ってしまった。



お気に入りの魔王とすこし仲良くなれるのではとウキウキしていたドン爺の浮かれ気分はふっ飛び、なぜ人間から嫌われる役目を与えたのかと泣かれてしまったことに一気に気分が落ちてしまった。



「お帰りなさい王様。どうでした?」


「すまぬ、ミーシャよ。少し一人にしてはくれぬか?お供えが届くようになったら呼びに行くゆえ・・・」


「分かりました。ぼっちゃまが居た所にいますので何かあったら呼んで下さいね」



ミーシャはいきなり暗くなってしまったドン爺を気にしながらその場を去って行った。


すまぬなミーシャよ。今ちょっとワシは泣いてしまいそうなのじゃ。


「なぜその様な役割を与えたのだっ」


魔王の心のそこから漏れた辛い気持ちがこもった声が耳から離れない。


そうじゃよな・・・。魔王とはいえ感情はあるのじゃ。それを何も考えずにワシは役割じゃから当たり前だと思うておった。


どうしてこうなった?


ワシはミーシャに旨い肉が届くようになって喜ばしてやりたかっただけなのじゃ。しかし、あの魔王を悲しませるのは本意ではないのじゃ。


誰じゃ? 誰が悪いのじゃ?ワシか?ワシが悪いのか?


いや、争う奴等が悪いのじゃ。人間が争うから魔族が争いに出向いて嫌われ役にならねばならんのじゃっ。しかもポコポコ勇者を召喚して罪のない魔王を倒そうとする奴等が悪いのじゃっ!


そうじゃっ!ワシが直接介入して争いの無い世界を作ればいいのじゃっ。そして魔王に言うてやろう。ワシはお前の為に平和をもたらす。もう嫌われる心配はせんでええとな。


「魔王っ!ワシはお前の為に平和な世の中を作るっ!」


いや、これでは心に響かんな。押し付けがましくとられるかもしれん。


「お前の為にワシは戦おう!」


いや、戦いを無くすために行くのに戦ってどうするのじゃ。


「ワシの全てはお前の為に!」


いやいや、これではプロポーズみたいではないか。


「神様、私の為に・・・」


とかなったらどうするんじゃ?神と魔王じゃぞ?神と魔王がそんな・・・


いや、ゲイルは神と同等の存在なのに魔王を嫁にしたんじゃったな。それならばワシも・・・


ドン爺は王家に生まれ、まともな恋愛をしたことがなかった。ミーシャの子供として生まれて結婚した記憶もあるがその意識は薄かった。王として生きた記憶と思いの方がより強く残っている。


ふっ、この歳でおなごにドキドキするとは思わなんだの。


よしっ、魔王への言葉はあとじゃ。事を成してから魔王に会いに行こう。


「ワシがお前をずっと守る。お前の心を!」


よし、これじゃ。これで行くぞっ。そしてその暁には・・・ムホホホホッ



ドン爺は悪いのは自分ではなく、争いを起こす人間が悪いのじゃと結論付けて、直接介入することを決めたのであった。








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