職人と弟子
職人歴20年の作者が思うこと
職人と弟子
私は料理人です。職人でもあると自負しています。
職人と呼ばれる職業全般、就職先としては人気ありません。
長時間労働、薄給、パワハラなど良くないイメージを持つ人が多いでしょう。
料理の世界でも、寿司を握れるまで十年、天ぷら揚げ場に立つまで十年、厳しくて辛い修業が必要!
多くの人はこんなイメージではないでしょうか?
昔から伝わる伝統と言えば聞こえはいいが、古臭いものですね。
私から言わせてもらえば、いまだに上司のそのまた上の上司のハンコ決裁がないと何一つ話を進めることができない、大企業の方が余程古臭いと思いますが。
職人は昔は親方に弟子入りして、身の回りの世話をしながら技術を覚えていくものでした。その弟子というのは古くは住み込みであり、滅私奉公なんて言われるくらいの物だったとも聞きますが、果たしてそうなのでしょうか?
私は落語が好きです。それから永六輔さんのエッセイも好きです。江戸時代の文化を調べるのも好きです。和食の親方と話を聞く機会も多々あります。
そんな私は、昔の職人と弟子の関係が巷で滅私奉公と言われるような酷いものだった、という認識に疑問符を付けざるを得ません。
昔、職人に弟子入りというのは
、
大工なら大工職人。
装飾品なら飾り職人。
刀なら鍛冶職人。
着物なら裁縫職人。
というふうに、自分からやりたい職業をえらんで親方に弟子入りしていたわけではありません。そのほとんどは実家の口減らしや家への送金、借金による奉公といった物が理由で、職人の世界に入っていたのです。実家に残れるのは長男ぐらいのものでした。
早い話が身売りです。その奉公に来ていた奉公人が弟子であったわけです。
身売りだからと言って創作物にあるような、主人が弟子に対して強い権力を持つ奴隷制度とはわけが違います。
弟子の多くが住み込みのため、飯を食わせ、服を着せ、時には小遣いをやり、男の弟子なら女の面倒(今でいう風俗)を見てやり、女の弟子なら嫁入り先を探してやりと、まさに家族同然だったと言います。
それができないと、斡旋業者も紹介しなくなります。
少し近代化された日本では『野麦峠』や『おしん』に見るような厳しい面もあったのでしょう。
ですがまともなところは創作物や作品として残りづらいのでないか?と思っています。
日常のちょっとした笑いやほのぼのとした情景は古典落語に誇張され残っていたりします。
仕事ができずにいつもボケているヨタロウというキャラクターは落語の世界に必須な存在ですが、そんな彼は馬鹿にされながらも、主人に可愛がられ小遣いをもらい、お菓子を買っていたりします。
現代社会では、企業に属しても、薄給を渡され、住むところも、飯も、服も、嫁も、旦那も全部自分で探し用意しないといけません。
残業手当無しで薄給で休みも無く営業成績が悪ければボロクソ言われ最悪過労で死ぬという職場環境。
さて、人にもよるでしょうが、どっちがいい世界なのでしょうか?
串打ち三年焼き一生、これは鰻の世界です。寿司も十年、天ぷらも十年、そんな世界に誰が行くか?
料理をやってて思います。
ただ鰻を捌いて焼くだけなら、ただ寿司を握るだけなら、ただ天ぷら揚げるだけなら、三日も本腰入れて練習すればそれなりにできるようになります。
じゃあなぜそんな時間がかかるの?
この十年という数字は時間云々ではなく、それだけ奥深いんですよって言ってるだけです。十年修業しなきゃ客前に出しませんよ!なんて言ってたら人件費で潰れちゃいます。
ネットやSNSなどではこのことを、弟子を奴隷扱いするため、とか、早くできるようになったら親方が飯食えなくなるから、という意見を見ます。
人材を安くこき使うのは、はっきり言ってどこの職場でもやってます。
技術や知識、能力があるなら最初っからその人にスカウトが来ます。
能力が無いから、給与が安いのです。
弟子もそうです。
無いんです。
いろんなものが。
寿司握れたから、天ぷら揚げられるから店ができるわけじゃないんです。
もっというと料理全ジャンルがプロ級だったとしても、店はできないんです。
それがわかるようになるまで時間かかるんです。
お客様に自分が作った料理を自信もって出せるようになるまで時間がかかるのです。
ただ美味しいものをだすだけならコンビニでも冷凍食品でも今は高レベルなんですからね。
だからちゃんと修業して早く一人前になりましょうねってことです。
そんなこと言ってたらAIにとって代わられる?
馬鹿言ってんじゃないの、そうならないように、今も自分の技術を磨いているんですよ職人たちは。
料理を含めたモノ作りはこれから二極化していきます。
一人前の職人が作った高品質高価格な商品
工場で作った大衆向け商品
この中間がなくなっていきます。
全部AIを持ったロボットができてしまうんですから。
AIにも変わることができない技術を、これから磨いていこうと、私は思う次第です。
職人もそんな悪い世界じゃないんだよっと。




