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緑の勇者は世界樹の下で今日もおやすみ。 ~世界最強の少年は楽園から一歩も出たくない~  作者: ほうせんか
第1章 そして、 12歳の少年は心に誓った。
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004  「じゃん」が口癖の師匠の基礎魔法講座

ブックマークありがとうございます。


最新話の下にポイント評価欄がありますので、 よろしくおねがいします。


 しばらく秘密基地で僕ら5人はおしゃべりしたあと、 昼過ぎには解散していた。


 ゼガは村長である父親と稽古、 フミとテアは果樹園の手伝いが始まるからだ。



 僕もまた、 みんな働いているのにもかかわらずお昼寝というわけにもいかず、 フリュと共に師匠の下へ向かう。




「ところでフリュ。 魔法の勉強も大切だと思うけど、 『巫女』としてのお仕事はしなくてもいいの? 僕が知っている限りで『巫女』っぽいことしてるの年に1度の収穫祭か、 たまにある変な儀式のときだけだけど」


「んー……。 この村で『巫女』なのはわたしだけだけど、 そもそも『巫女』ってそんなにお仕事ないから毎日練習する必要ってないのね~」


 目が開いているんだか閉じているんだかわからないくらいふにゃふにゃしながらフリュは歩いている。


 眠いんだろうか。 眠いんだろうな。


 こんなにいいお天気で、 涼しくて、 森のいい香りがするんだから眠くない訳がない。


 いっぱい寝た僕ですら眠い。


 師匠に今日の修行はお昼寝対決にしようと提案してみようかな。



「シフィ~? さすがに師匠に怒られちゃうよ?」



 声に出していないのに思いっきりばれてしまった。


 というか、 フリュ。 その目で見えているのね、 僕の顔。


「フリュだって眠そうだし、 剣の修行も1日くらいサボったっていいんじゃ「いい度胸じゃん、 小僧……」


 いつのまにやら僕の真後ろに師匠がいた。


 白に近い金色の髪を短く切り、 いつも着ている()()()()()()()とかいう皮の服ていどの厚さしかないのに剣を弾くほど強靭な薄赤色の鎧を纏い、 健康的に日焼けした褐色の肌が見目麗しい僕の尊敬するお師匠様。


 今日もお美しくご機嫌遊ばされておりま────「いたたたたたたたたたたたた!!」


「ふざけたこと考えてるじゃん」



 ()()()()()()()()()()()()()は、 僕が振り向いたと同時にヘッドロックをかけてきた。


 師匠はスレンダー体形の多いエルフの中でも珍しく、 そこそこ豊満なお胸をしてらっしゃるのに、 鎧を着てヘッドロックはやめてほしい。


 僕としては鎧を脱いでヘッドロックしてほしかった。



「まだふざけたことを考えてんじゃん」

 ぎりぎりと締め付ける力が強くなった。


「痛い痛い痛いです師匠! ごめんなさい! ギブギブギブ!」



 なぜか師匠はよく僕の考えていることを言い当てるのが上手い。 フルウはそれこそ生まれたときから一緒に居るから考えていることがある程度、 通じることがあっても不思議じゃないのだけれど、 師匠は1年程度しか一緒に居ないのにフルウより僕の考えていることを言い当ててくる。



 「(わたし)(さま)修行(デート)を断る男はこの村はおろか『ユートピア』にもいないじゃん」


 『ユートピア』とはエルフの国で、 この『ラキュア』の村から馬で1週間程度の距離にある。 師匠はそこの元・師団長だったという。


 なぜその立場を捨て、 世界樹があるとはいえ辺境の村へ来たのかは謎である。



「師匠~。 それ以上シフィの頭をしめちゃうと、 また気絶しちゃうよ~」


 流石にこんな状態でも目を閉じているんだか開けているんだかという表情ではなく、 ちゃんと焦った顔をしている。


 僕のことを考えてくれるフリュに比べて、 師匠の手は緩まない。


「私様のような強いエルフに修行をつけてもらえるのに、 な・ま・い・き・じゃん小僧~」



 みしみしという頭蓋の音を最後に、 僕は意識を失った。



─・─・─・─・─・─・─・─・─



「えーっと、 今日はシフィの『天恵の日』ということで、 さすがの私様もいつものような修業はやめておこうかと思うじゃん」


 僕が気絶している間に村のはずれにある修練場についていた。


 多分、 というか間違いなくフルウがおんぶして連れてきてくれたのだろう。


 師匠は弟子が気絶したらそこに放置しておくタイプだから。



「今日は~お母さんに~天恵の日だから~家で大人しくしてなさいって~言われたんですけど~」


 ちょっと挑発的に言ってみる僕だった。


 嘘はついていない。「家で大人しくしていなさい」と確かに朝、 母に言われていた。


 返事を返したわけではないので、 それを了承したという事は決してないのだけれど、 言われたってことに嘘はない。



「大丈夫じゃん。 シフィの母君であるシレア殿には先に挨拶してあるじゃん」


 先手を打たれていた。


「師匠~? 今日はなんの魔法を教えてくれるんですか~」


 ふあぁあ、 と欠伸をしながらフルウは言った。



「今日はいつもみたいに実戦練習じゃなく、 魔法の基礎理論についておさらいする程度にしておこうと思うじゃん」


 めずらしい! あのパワープレイ実戦教の師匠の口から「理論」って言葉が出たぞ!


「シフィは後でヘッドロックじゃん」


 いつまでたっても学習しない僕だった。


 

─・─・─・─・─・─・─・─・─



 僕にとっての異世界であるこの世界では魔法を使える。


 赤魔法(レドウ)青魔法(ブルト)黄魔法(イエラ)と呼ばれる三原色の魔法に加えて、 光魔法(ライキ)闇魔法(ダミネ)の特殊な二色の魔法がある。


赤魔法(レドウ)は火属性の魔法じゃん。 ほかにも熱を加えたり、 ものを固形にしたりする魔法が属するじゃん」

青魔法(ブルト)は水属性の魔法じゃん。 温度を下げたり、 液状化させたりできるじゃん。 フルウが得意としてるじゃん」

黄魔法(イエラ)は雷属性の魔法じゃん。 身体能力を向上させたりできるじゃん。 私様の得意な系統じゃん」

光魔法(ライキ)は特殊な魔法じゃん。 人を治癒したり、 瞬間移動したりがここに属するじゃん」

闇魔法(ダミネ)も特殊な魔法じゃん。 薬や毒を調合したり、 呪いをかけたりできるじゃん」

「基本的にはこの5種類の魔法があって、 混ぜ合わせたり、 魔力を多めに使ったりしていろんな超常現象を起こせるのが『魔法』と呼ばれている技術じゃん」



 どこから持ってきたのか、 黒板のようなものに字を書きながら教えてくれる師匠。


 脳筋みたいなことをしなければ、 白金のショートカットに褐色の肌、 豊満な胸に健康的な筋肉をつけた長い脚のエルフなので、 まさに彼女こそ大人美人とよべるだろう。


 ただ口癖の「じゃん」が若干うっとうしがられるのか、 未婚であるらしい。


黄魔法(イエラ)8連“微雷”」

「いだだだだだだだだだだだだだだ」


 師匠がそう唱えると、 身体中がしびれた。


 雷に打たれたよう、 というより警察が犯人確保のためにつかうという電撃銃で撃たれたような感じだ。


 前世でも打たれたことは無いと思うけれど。


「師匠!僕は何も言ってないし、 ちゃんと講義を聞いているのにヒドイですよ!」

「邪悪な気配を感じたじゃん」


 むちゃくちゃな師匠だ!


「と、 こんな風に、 魔法は『(つら)ねる』ことができるじゃん。 今使ったのは黄魔法(イエラ)の魔法を8つ繋げるようにして発動させる“微雷”って魔法じゃん。 『ユートピア』ではたいていの場合、 犯罪者を無傷で拘束するための魔法として使われるじゃん」


「逮捕の魔法をまだ12歳の子供である弟子に使わないでください!」


「邪悪な気配を感じたじゃん」



 師匠はフフフと笑った。



「師匠~。 私の得意な青魔法(ブルト)“水の羽衣”や“海兎の加護”はどうなんですかー?」


「“水の羽衣”は青魔法7連、 “海兎の加護”は13連じゃん。 ちなみにフルウのオリジナル魔法とか言っていた“水聖連覇(フルウ・マジック)”は魔法学的に分析すると青魔法(ブルト)3連と光魔法(ライキ)18連の合成魔法じゃん」


 僕をいじめていたときの笑みではなく、 フルウには師匠として弟子に向ける笑みを浮かべるところに差別を感じる。


「合成魔法は生れつきの才能だといえるじゃん。 私様も一応全属性を使えるように訓練したけど、 それを混ぜるって器用なことは私様には向いてないじゃん」


「ふたつの属性を混ぜることのできる才能を持つのは、 全種族の中でも魔法適正が高いエルフでさえ大体100人にひとりくらい、 みっつの属性を混ぜる才能をもつのは2000人にひとりくらいじゃん。 『ユートピア』にいた魔法を得意とするエルフたちでも、 みっつの属性を混ぜることができたのは両手で足りるくらいしかいなかったじゃん」


「全種族の中で最も魔法適正の高い『妖精族』の中には5つの属性すべてを混ぜることができる奴がいるという噂もあるけど、 私様はみっつまでしか見たことないじゃん」


 そういうと再び黒板に向かう師匠。


「魔法を学術的に研究することもできるけど、 結局はかなり『感覚』によるものが大きいじゃん。 例えば赤魔法(レドウ)一連は“火”“灯”“照”など無数にあって、 いくつ連ねた、 というのがそのまま魔法として発現するわけじゃないし、 攻撃力という見方をしたとしても、 赤魔法(レドウ)一連“火”より赤魔法(レドウ)32連“火鼠”の方が殺傷能力は低いと言えるじゃん」


 カツカツカツ、と黒板に記していく。


「私様がさっきシフィに使った黄魔法(イエラ)8連“微雷”だって、 黄魔法(イエラ)5連“稲妻”より威力は弱いじゃん。 私様の魔力で子供に“稲妻”を使えば多分即死じゃん」


 恐ろしいことをいう師匠。


「こんな感じで魔法に規則性はほとんどないといえるじゃん。 ただ、 現象として観測したとき、 経験的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃん」


 カツ、 と一度板書を止める。


「私様が『ユートピア』で師団長をしていたとき、 魔法が得意なエルフが出した赤魔法(レドウ)57連“不死鳥の降誕”はフェニックスを召喚、 というより()()()()()()()()()ように見えたじゃん。 そのくらい『魔法を連ねる』というのは常識を超える現象を引き起こせるじゃん」



 くるりと振り向いた師匠の目は鋭かった。



「魔法は便利じゃん。 でもだからこそ危険じゃん。 それを絶対に忘れないでほしいと()()お前たちに伝えて()()()


 『私様』とも『じゃん』とも言わず、 僕らをみて強く話す師匠は何かを訴えるような瞳をしていた。




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