表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/69

第19話「魔界顕現」

 空が塗りつぶされる。

 まるで絵具の黒をぶちまけたように、黒い雲が広がっていく。

 先ほどまではちっぽけな黒い点のようだったのものが、凄まじい速度でこちらに向かってきていた。


 ギャア! ギャア!

 飛竜たちが叫びながら降下してくる。

 彼らは何かを狩っているのではない。

 追われるように、私たちの傍に降りてきていた。


「ワース!」


 ダンさんが叫ぶ。


「一旦停止!! 軍の車両もじゃ!!」


 ワースさんの号令により、全車両が動きを止める。


「”光の壁よ、顕現せよ!!”」


 ワースさんが魔力結界を車両を覆う形で展開する。

 暖色の光が私たちを包んだ。

 ルゥとマルテさんが外に飛び出す。

 周囲を警戒するように構えた。


 全員が固唾をのんで空の変化を見守る。

 闇はやがて、私たちの頭上を覆い、通ってきた道の先まで染め上げていった。

 全員、頭上の変化に目を見張りながらも、周囲に異常が無いか警戒を続けた。


「……全員、無事か」


 ワースさんが言った。


「こちらマルテ、問題ありません」


「ルゥ、問題なし」


「ダン、車両に異常なしだ」


「リィです! 大丈夫です!」


「こちらラース中佐。異常はない」


「レオです。我々の方も、異常ありません。飛竜たちも、全員戻ってきました」


 無事を伝える声が次々と聞こえてくる。

 その声を聞きながら、私は……私は。


「……ハル? ハルは無事か!?」


 ワースさんが客室に乗り込んでくる。

 彼女の姿が目に映る。

 そして、私は……


「あ……あ……あ……」


 逃げ込むように、客室の端で震えていた。

 ただひたすら、空を見つめながら。


「ハル! どうした!? 大丈夫か!?」


 彼女の声が聴こえる。

 しかし、反応できなかった。

 私は……思い出していた。


 この世界に来る前。

 東京の空を覆った闇。

 その後に起こった出来事。


 全部が消えた。

 空も、家も、アキちゃんも。


 似ているのだ。あの時の空に。

 まるで、タールを落としたように、黒い空……


「いや……! いや……!!」


「ハル、大丈夫じゃ! しっかりせい!」


 ワースさんが私を抱きしめるも、震えは止まらない。

 寒い。ワースさんのからだが熱い。怖い。誰か。助けて。アキちゃん。


「どけっ!!」


 ルゥが車内に入ってくる。

 彼はワースさんをどかすと、私に触れた。


「”静寂の風よ、鎮めよ!!”」


 彼の手から優しい光が溢れてくる。

 光は私を包み、少しずつ恐怖を溶かしていった。


「あ……あぁ……」


 呼吸。

 激しく喘いでいたのが、徐々に治まる。

 動悸、汗、それらも引いていく。


「ハァ……ハァ……」


 ルゥの手を握る。

 暖かい。

 ……大丈夫だ。戻ってきた。

 いつもの、私だ。


「あ……ありがとう、ルゥ。もう、大丈夫……」


「本当か? 無理してないか?」


「本当だよ。ちょっと、怖いことを思い出しただけだから」


 と言って、微笑んで見せる。

 その様子に、車内流れていた緊迫した空気が収まっていった。

 ワースさんがホッと息をついた。


「ふぅ、ハルが無事で良かったわい。ナイスアシストじゃったな、ルゥ」


「……コイツにこの魔法を使うのは、よくあることだからな」


「ハルも無事じゃ! 全員、一旦状況を確認するぞ!」


 ワースさんが外に呼びかけると、全員が集まってきた。

 私、ワースさん、マルテさん、ダンさん、ルゥが車内に戻る。ドアを開けたままにし、外にいるレオさんやラースさん達と話し合いが行われた。


「一体なんじゃ、この空は?」


「普通の雲ではありません。動きが速すぎます。とても自然現象とは思えません」


「……わずかに魔力干渉を感じる。魔力を持っているのか? あの雲は」


「ああ、嫌な感じだ……雲からプレッシャーのようなものを感じるよ。まるで、雲そのものが生きているかのようだ」


「飛竜たちが怯えています。あの雲には近づきたくない、と言っています」


「……ふむ。やはりただの雲ではないようじゃな」


 全員が空を睨んだ。

 変わらない。

 真っ黒な雲が存在しているだけだ。


「……だが、今のところワシらに対して何か起きるようなことは無いな……無視して進んでいいと思うか?」


 ワースさんが思案するように顎に手を当てる。


「ワース様。選択の余地はないかもしれません」


 マルテさんが車内の機器を覗き込みながら言った。


「何、どうした? 何かあったのか?」


「……魔導院と連絡が取れません。ペンダントだけでなく、車内の通信機器からも」


「なにっ?」


 すかさずワースさんが魔導院のペンダントを起動する。


「こちらワース、魔導院本部! エア! 聞こえるか!?」


 だが、応答はなかった。

 彼女だけでなく、ルゥ、ダンさんもペンダントを起動していた。

 結果は同じようだった。


「くっ。これが、あの雲の魔力干渉による影響か……!?」


 ワースさんが呻く。


「待ってください。ワースさん」


 レオさんがワースさんに呼びかけた。


「何じゃ?」


「我々も、竜王国との通信手段を持っています。今、試しています」


「おお!? して、結果は?」


「ゼラ、ギラ。どうだ?」


 レオさんが竜人の二人に問いかける。

 全員が彼らを見つめる。


「……ダメだ。我らの信号も、届かない」


「向こうからの信号もない。途絶えてしまった」


 その言葉に、シン、と場が静まった。


「……我らは孤立無援、という訳か」


 呟くように、ワースさんが言った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「計器類は無事か?」


「ああ、一応方角はわかる……が、魔力を用いた物はダメだな。全ていかれてしまっている」


「どうする? この現象が収まるのを待つか?」


 ルゥがワースさんに訊いた。

 ワースさんはしばし目を閉じ、むむむ、と唸った後、


「……行こう!! もとより、魔力特異点周辺は激しい魔力嵐となっているという。ならば、この程度の異変で我らが怯むわけにもいくまい。時も食料も有限じゃ! 道を切り開こうぞ!」


「……わかった!」


 ダンさんが力強く頷き、全員がそれに続く。

 魔導装甲車に全員が乗り込み、軍の人たちは軍の車両に戻って行った。


「飛竜は少々低空を行くことになります。これまでのように遠くを見通せませんが、ご容赦を」


「構わん。助かったぞ」


 と、レオさんが後部車両に戻って行った。

 それを見送ると、私はコテン、と横になった。


「ハル、大丈夫? 無理しなくていいからね」


 マルテさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「はい、大丈夫です……少し、横になってていいですか?」


 ルゥに癒しの魔法をかけてもらったが、それとは別に妙にだるかった。旅の疲れが一気に出てきたのかもしれない。

 転がった私に、マルテさんが優しく毛布を掛けてくれる。


 横になって、思う。

 窓から見える空は真っ暗だ。先ほどまではあんなに明るかったというのに。

 これから先、何か不吉なことが起きなければいいが……


 魔導装甲車のライトが灯る。

 闇を切り裂くように、私たちは進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ