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第15話「伝われ、心」

 マルテさんの、真剣な瞳。

 その眼が、私に何かを訴えていた。


「竜と、人間の仲直り……?」


「ハルも知っての通り、竜と人間はいがみ合っている。今は争いそのものはないとはいえ、常に相手の動向に気を張っている状態よ。それは私たちも例外じゃない」


 マルテさんが困ったような顔で言った。


「だから、ワース様たちも刺のある対応になってしまうの。このままじゃ、とてもレオの言う信頼関係なんて、築けないと思うわ」


「……確かに、口を開くたびに喧嘩みたいになってますもんね」


「そう。だから、あなたの力を貸してほしい。竜に偏見なく接することが出来るのは、あなただけ。お願い。一緒に、竜との仲を取り持って」


 ブルーの目が、私をジッと見つめた。


「……わかりました。私に、できることなら」


 私はマルテさんが好きだ。

 彼女の言うことならできるだけ聞いてあげたい。

 喧嘩の仲裁なんて、私には難しいかもしれないけど……できるだけ彼女の力になってみよう。


「んっ。ありがとう」


 マルテさんがいつものようにニコッと笑った。


「でも、マルテさん。どうして、竜のためにそこまで……?」


 前から不思議だった。

 彼女は依然、レオさんにひどいことを言われている。その彼女が、どうしてここまで積極的に彼らに関わろうとするんだろう。


「ん? あ、もしかして、この前言われたこと? 私、アレ、全然気にしてないから」


 彼女はあっけらかんと言った。


「そ、そうなんですか?」


「私、レオがああいった気持ちがわかるもの」


「えっ?」


「だって、この姿、彼らを倒すために作られたものなのよ? それも、人の体に一生消えない呪いの因子まで埋め込んで。竜にとって、醜い以外の何物でもないと思うわ」


「そ、そういうものですか」


「そうよ。考えてみて。彼らの手が、人間を殺すための剣の形をしていたら。そしてそれが、恨みのあまり体を改造してまで手に入れた力だったら。醜いと思わない?」


「……醜いというか、怖いと思います」


「そうよね。私も怖いわ。……そしてそれは、きっと竜も同じ」


 彼女の耳と尻尾が揺れる。

 私にはとても愛らしく見えるが、竜にとっては違うということか。


「今回の旅で、私はハッキリさせたい。私の体は、彼らを殺すためのモノじゃない。単に可愛いだけの飾り。それ以上の意味なんかないって、彼らに知ってもらいたいの。……だからハル、私に力を貸して」


 マルテさんが、私の手をとって縋った。


「……わかりました、マルテさん。一緒に、頑張りましょう」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「邪魔するわよ」


 マルテさんと二人、レオさん達のいる車両に乗り込む。


「おや? どうしました。停まってしまったようですが」


 レオさんが不思議そうに言った。

 ゼラさんとギラさんは静かに私たちの様子を見守っている。


「……その様子だと、知らないみたいね。ほら、北の方角を見て」


 マルテさんが双眼鏡を手渡し、遠くの雲のある辺りを指さした。

 レオさんが覗きこむ。


「なんでしょう?」


「何か見えない? 大きくて、ザワザワ動く何か」


「……むっ。これは……」


「見つけた? あなたの目には、何に見える?」


「……動物ではないですか。何か、大型の」


「ゼルンにあんな巨大な生き物はいないわ。……ハッキリ言うけど、私はアレは、地竜だと思うの」


「……地竜」


 レオさんが双眼鏡から目を離した。

 彼はいつものように笑っていない。

 鋭い目で思案するように窓の外を見ている。


「おい。ゼラ、ギラ」


 レオさんが後ろの竜人に話しかける。

 二人の竜人は静かに首を振った。


「……竜同士はある種の信号でやりとりができます。ゼラとギラは、何も受け取っていないようです」


「地竜じゃないってこと?」


「いえ……判然としないので、飛竜を向かわせましょう」


 レオは空に向かって指を何度か動かした。

 今ので飛竜に何かを伝えたのだろうか。

 その間に、マルテさんはペンダントでワースさんに経緯を報告していた。

 しばらく停車したまま、時が過ぎる。


 ……十分ほど経ったころ。

 レオさんがポツリと言った。


「……ダメだ。雲が厚く、嵐が渦巻いている。飛竜では近づけない」


「え? ダメなの?」


 マルテさんが訊いた。


「はい。あのまま近付けばこちらを見失ってしまう可能性があります。申し訳ありませんが、これ以上は何も」


 レオさんが頭を下げた。

 北に目をやると、黒い雲と雷が迸るのが見えた。

 嵐が来ると言うのは、本当のようだ。


「……そう。仕方ないわね。レオ、少し、これから先の打ち合わせをさせてもらっていいかしら」


 マルテさんはそう言いながら、私に目配せをしてきた。

 あ、これは。「仲良くなる作戦」の一環だな。

 よし、頑張るぞ。


「いえ。ここからは、少し私たちだけで話をさせてほしいです。申し訳ないのですが、外していただけないでしょうか」


 鋭い目をしたまま、レオさんが言った。


「え? で、でも……」


 マルテさんが食い下がろうとする。

 だが、レオさんは首を振り、


「××××××××××××××××」


 何やらうまく聞き取れない言葉でゼラさんとギラさんに話しかけた。

 さらによくわからない言葉でゼラさんが返す。

 彼らの会話が続く。

 私たちは完全に蚊帳の外に置かれてしまった。


「う……マルテさん……」


 彼女を見る。

 流石の彼女も打つ手がないようだった。


「……仕方がないわね。戻って、車両を進めることにしましょう」


 マルテさんが一礼して車両を降りる。

 私もペコリとお辞儀した。

 レオさんが私たちに向かって小さく頭を下げるのが見えた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 その後の旅程の進捗、すこぶる順調。

 夕食はカレーを作って見た。

 相変わらずワースさん達には好評だった。


 レオさん達は相変わらず後部車両に閉じこもって何か話している。

 やはり、私たちには何を言っているのか分からなかった。

 仕方がないので、料理を置いておくと、ペロリと平らげて返された。

 料理自体の評判は悪くないようだ。

 とりあえずホッとする。


 ……だが、問題は「仲良くなる作戦」。

 このままで、上手くいくのだろうか。

 レオさん達はこれまですごく友好的に見えたけど、今日の対応を見ると、一筋縄ではいかなそうだった。


 どうすればいいんだろう。

 車両の中で横になりながら、思う。

 装甲車の車内は広い。

 宿泊モードになれば、椅子などを倒して簡易的なベッドに変更可能だ。

 今も見回りのルゥ以外は寝転がっているが、割と快適だ。

 リィちゃんがむにゃむにゃ言っているのが可愛い。


 彼女の尻尾を見る。

 揺れる。ゆったりと。静かに……


 ……

 …………

 ………………


「よっしゃ! いよいよ、竜王国に突っ込むぜ!」


「はい、お父様!!」


 仁王立ちした男が目の前にいる。

 隣には、小さな人影が手を挙げながらぴょこぴょこと飛び回っていた。


「え?」


 私は二人を見つめた。

 唐突すぎる。


「んだよ、ノリ悪いな。お前もオー! とかイエー! とか言ってみろよ」


 と、言って杖で頬をぐりぐりされた。

 この粗暴な挙動、言動。悪ガキみたいな顔。

 覚えているぞ。


 前に、夢の中で見た男だ。

 確か、名前は……


「ジ、ジード?」


「おう! オレはジードだぜ! でも惜しいな! オレの名前の前には、『天才魔法使い』がつくんだ!」


 う、うざい。このうざさ、間違いなくジードだ。


「はいはい! 私は天才魔法使い、ミイスです!!」


 と、訊かれてもいないのに勝手に小さなブロンドの女の子が答えた。

 こっちも覚えてる。ワースさんそっくりな少女、ミイスちゃんだ。


「な、なんで私はここに……?」


 確か、私は魔導装甲車の中でリィちゃんの尻尾を見てたと思うんだけど。

 実は彼女に催眠術でもかけられているのか。

 でも、この頬をぐりぐりされる感覚。とても幻想とは思えない。


「だーかーら! 竜王国に行くっつってんだろ!」


「お父様とキア、三人で竜王国に向かうのです!」


「ええ……? 確かに、竜王国の方に行くところだったけど……?」


 でも、あなたたちとじゃないですよ。

 どっから出てきたんですか、あなたたち。

 魔法教室はもうやめちゃったの?


「ほら見ろ! わかってるじゃねえか。全く最初から変なヤツだな、おめえ」


「変なキアなのですー」


 うーん。この二人のペース。ついていけないというか、完全に飲み込まれてしまっているようだ。でも、夢ってこんなもんかな。自分ではどうしようもない情報の奔流に流される感じ。こいつらはさながら大河。または台風の日に荒れ狂う川の流れだ。


「んっ? あっと、待てよ。もしかしてまだ、準備が足りねえかもしれないな」


「ほえ? 何かありましたっけ、父さま」


「お前もだ、ミイス。よし、天才魔法使いジード様の魔法教室、野外授業だ!」


 あ、やっぱりやるのか。魔法教室。


「わーい! わーい!」


 無邪気に笑うミイスちゃん。

 と、笑いながら、魔法を使って椅子とテーブルを作り出した。

 す、すごい。本当に天才なのかもしれない、この子。

 私は前と同じようにミイスちゃんと並んで椅子に座った。


「よっしゃ! この世の中には魔法は数あれど、飛び切り恐ろしい魔法がある。それが何か分かるか?」


 すかさずミイスちゃんが手を挙げる。


「はい! お父様の、私のおやつを隠してしまう魔法です!!」


「なるほどな。確かに、お前にとっては一番恐ろしいのかもな」


 ふんふんと頷くジード。


「よし、キア! お前は何だと思う?」


「……え? え?」


 いきなり振られ、戸惑う私。

 でも気を付けろ。ちゃんと答えないと、杖が飛んでくるぞ。


「せ、精神作用系魔法?」


 と、答えてみた。

 これは、以前ルゥが言っていたことだ。精神作用系魔法は特に恐ろしいものが多く、ほとんどが禁忌の魔法となっているとか。

 すると、ジードがポカンとした顔で私を見た。


「……すげえな。よくわかったな、お前」


「え? あってました?」


「すごいのです! キア!!」


 当たってしまったようだ。

 ありがとうルゥ。授業が役に立ったよ。


「ご褒美に、精神作用系魔法の奥義を食らわせてやる」


「は? 食らう?」


 それは、私に使うということか。

 その、最も恐ろしいと今言った魔法を。

 何を。

 や、止めろ。その手はなんだ。掴むな、頭を掴むな。

 うああああああああああああ。


「食らえ、最大最強の精神作用系魔法――”伝心”!!」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ピチュピチュピチュピチュ。

 そんな鳥のさえずりが聞こえる。

 ――と、いう夢を見たわけだ。

 今、起きて気付いた。

 ああよかった。精神汚染されなくて。


 おはようと周りに挨拶しながら、朝の支度をする。

 ダンさんとルゥは車両を眺めながら何か話している。

 マルテさんはノートに何かを書き取り、ワースさんは地図とにらめっこだ。


 私は?

 私はみんなの朝ごはんだ。

 リィちゃんがそこら辺から食べられる野草を取ってきてくれた。

 なんだかよくわからないけど、スープにしてしまおう。味はちょっと怖いから、スパイス多めで。……うん、味見する限り問題なし。


 よし、今日も竜たちの所に持っていくぞ。

 なんか気の利いた挨拶でもした方がいいかな。

「ヘイ、ドラゴンズ! グッモーニン!」。通じるわけないか。


『……しかし、あんな場所に地竜がいるわけが……』


『”王の波動”はどうだった? 通じたか?』


『いや。全く反応がない。少し距離はあったが……』


 うんうん、今日もやってるね。

 私たちに分からない言葉で喧々諤々と。

 まことに壮健でよろしいようで。

 ……ん? 分からない言葉?


『なんにせよ、あの集団とははぐれてしまった。予想以上に移動が速いようだ』


『全く、何を考えている……この重要な時に……』


 あれ? 聞こえる。聞こえるよ?

 遅れてもいないし、片言でもないよ?

 どうしたのあなた達。色々機密っぽい話が駄々洩れですよ。いいんですかー……

 って違うな、コレ。私がおかしいんだ。


 聞き取れてる。竜の言葉が。

 どうしよう。コレ、聴いてていいのかな。

 なんか黙ってちゃまずい気がする。スープも冷めちゃうし。

 よし。


『ぐ、ぐっもーにーん』


 と、彼らの言葉で言ってみた。

 一斉に、彼らの目が私を振り返った。

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