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第14話「雷鳴」

「ん……んぐっ!」


 思わず、頬張ったばかりのパンを飲み込んだ。

 マルテさんが真剣な目で私を見ている。


「この旅が始まる前に、レオが言ったこと覚えてる?」


「わ、我々は、パーティなんですから……?」


「そう。彼らは、私達を旅の仲間だと考えてる。当然、食事だって一緒と考えてると思うわ」

 

「……で、ですよね」


 ということは、つまり。彼らの食事当番も、私ということだ。

 私が彼らのことを考えないといけないのだ。


「うん。だからハルには、これからレオたちの食事のことも考えてほしいの」


「は、はい」


「ごめんね、急にこんなことお願いして。でも、大丈夫。食事のことは私も手伝うから」


「はい……あっ! でも」


 食事を作るのはいい。でも、一つ懸念がある。


「でも?」


「……彼ら、何を食べるんでしょう?」


 そう聞くと、マルテさんはニッコリ笑った。


「それを今から聞きにいきましょ」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 おずおずと、中に呼びかけた。


「お、お邪魔しまーす……」


「ハル。この車両は私たちのものなんだから、そんなにかしこまらなくていいのよ」


「そ、そうでした」


「……おや? ハル様に、マルテさん。何か御用ですか?」


 レオさんが奥から顔を出す。

 私はこっそりと彼の後ろの方を見た。

 いた。大きな竜人が……や、やっぱりこわっ!


「何って、お昼よ。アナタたちも食べるでしょ?」


 レオさんの顔がパッと輝いた。


「おお! まさか、我々も? よろしいのですか?」


「ハッ。白々しいわね。こちらから言わなかったら、出る時みたいに文句を言ってきたくせに」


「い、いえいえ。そんなことは。滅相も」


 あ、目が泳いでる……図星か。


「で、ちょっと聞きたいんだけど。あなたたち、何を食べるの? 食事は一日三回?」


「ああ、これは伝え忘れており、失礼。意外かもしれませんが、竜人は美食家なのですよ。あなた方よりもね」


「ふーん。じゃあ、私たちと同じでいいわね」


「ええ。回数は人によって違いますが、彼らは私と同じように食べます。つまり、一日三回でいいです」


「そう。わかったわ。あと、聞くまでもないと思うけど、上の飛竜は?」


「はい。彼らは自分たちで勝手に食べます。御心配なく」


 ……竜人は美食家。食事は一日三回。ハル、わかった。

 でも、聞きたい。美食家なら……私の料理が口に合うかどうか。


「あ、あ、あ、あの、これ……」


 おずおずとバスケットを差し出した。

 レオさんが苦笑いする。


「ハル様。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。……むっ。この料理は私も初めて見ますね」


 まじまじとサンドイッチを見つめる。

 そして、勢いよくパクリ。


「……おお! これは、非常に美味」


 ……ホッ。一先ず、レオさんは大丈夫みたいだ。

 でも、問題は、後ろの竜人……!

 私が顔を上げたときだった。


 その、竜人の、顔が。二つ、間近で私のバスケットを覗き込んでいた。


「ギャ――――――ッッ!!」


 思わずバスケットを離す。レオさんが受け止める。

 そのままうずくまって頭を隠した。


「ははは。大げさですねえ、ハル様。彼らは竜の王族。竜の中でも、とびきり話のわかる奴らですよ」


「ハ、ハル、大丈夫よ。彼らから殺気は一切感じないわ。ほら」


 そ、そんなこと言ったって。顔、怖いし!!

 マルテさんに手を握られ、立ち上がる。


(うう、やってしまった……)


 怒ってないだろうか。こんな失礼なことして。

 恐る恐る、二人を見た。


(……あれ?)


 いない。

 ……と思ったら、車内の奥の方にいた。

 いつの間に。

 彼らは静かに腕を組んで佇んでいる。


 お、怒ってないのかな……?

 あ、でも、食事は?


「はい、ごちそうさまでした」


「え?」


 と、レオさんから空のバスケットを渡された。

 ……空?


「あれ?」


 見比べる。バスケットと、レオ。バスケットと、竜人。

 ……あ。ゼラさんかギラさんかどっちか分からないが、口の周りに何かついている。あの白いモノ。パンか。

 私がそれを見つけると、ペロリと伸びた舌がそれを舐めとった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「うーん……」


「どうしたんじゃ、ハル」


 車は軽快に道を進んでいる。

 ワースさんが助手席から話しかけてきた。


「……いえ、どうも私、何か誤解しているんじゃないかと……」


「誤解って、何をじゃ」


「竜の人達です」


 彼らは文句も言わず私の料理を食べた。

 しかも、ものすごい速さでだ。

 彼らの顔を覗き込んだ時。その目が、何かを訴えていた気がした。

 私の勘違いでなければ、「もっとくれ」と。


「もしかして、竜って……全然怖くない?」


 呪いだ戦争だと聞いてたから、滅茶苦茶恐怖を抱いてたんだけど。


「何を言っとる。ハルよ。竜は恐ろしいぞ。奴らは人より優れた身体能力を持っておる上に、魔法まで操りおる。知っとるか? アイツらが飛ぶのは、翼ではなくて魔法の力なんじゃ」


「え? そうなんですか?」


「当然じゃ。あの巨体が、あの程度の翼で飛べるわけがない」


「彼らにはね、噴気孔という器官が体に備わっているんだよ」


 ダンさんが会話に加わってきた。


「風魔法を使い、その噴気孔からものすごい勢いで風を噴射するんだ。それによって、あの巨体をものともせずに空を飛ぶ。翼は、風に乗ったり、方向を変えるための器官だね」


「左様。つまり、空を飛ぶ竜どもは皆魔法使いなのじゃ。恐ろしいじゃろう?」


「は、はい」


 じゃあ、戦うときはみんな魔法を使ってくるのか……それは、怖いな。


「ワース様」


「ん、なんじゃ、マルテ」


 マルテさんが双眼鏡を覗き込みながら言った。


「遠くで光るのが見えました。黒々とした雲も見えます。一雨きそうです」


「ほう、どれどれ。……あっ、光った! 確かに降りそうじゃのう」


「進路を変えるかい?」


「いや、それほどのことはないじゃろ……しかし、レオのヤツ。天気の変わり目がわかると言っておったが、これでは何の意味もないのう」


「何らかの連絡手段を持っておいた方が良さそうですね……あっ、待って!」


 マルテさんが叫んだ。

 全員がマルテさんを見るが、何も言い出さない。

 しばらく彼女を見守った。


「……遠くに、何かが、こう……ざわざわと動くような影が見えます」


「なんじゃ?」


 ワースさんも双眼鏡を取り出して、遠くを見た。

 私もちょっと見たい。

 でも、手元に双眼鏡がない。


「どれどれ……うーん……あ、アレか?」


「見えましたか」


「ああ、確認した。しかし……なんじゃアレ。自然現象……っぽくはないな」


「野生動物の群れとかじゃないかい?」


 ダンさんが運転しながら言った。


「……いえ。大きさからみて、動物の可能性は低いかと」


「ふうん? 確かに、結構大きいのう」


 しばらく、そうやって遠くを眺める二人を見守った。


「……っ。あの大きさ……もしや、地竜の群れでは?」


「何? 地竜じゃと?」


 ワースさんが身を乗り出して遠くを見た。


「……判然とせんな。そんな感じもするが。しかし、ここはまだゼルン国内じゃぞ。竜王国に入っとらんのに、竜がいることなどあるのか?」


「飛竜でしたら、彼らの支配圏ですから、たまに見ますが……地竜のほうは、確認されていません」


「じゃよな?」


「……私、レオたちに聞いてきます。彼らなら何か分かるかも」


「お、おお。そうか。では、頼む」


 車が制止する。

 マルテさんが降りようとする。

 その時、彼女に手を取られた。


「ハルもちょっと来てくれない? 食事のことについて、彼らに聞きたいから」


「えっ? は、はい」


 彼女と二人、車を降りた。

 後部車両に向かう途中、彼女が足を止める。


「マルテさん?」


「……ハル。私のこと、助けてくれないかな」


 と、ポツリと彼女が言った。


「た、助ける? 何をですか?」


「……竜と、人間の仲直りをしたいの」

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