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第1話「教えてください」

 私の名前はハル。

 東京の高校に通う女子高生。

 家族構成は妹が一人に、父親一人。

 超能力で硬い石を粉々に砕くのが得意技である。

 友達にドン引きされ、今日も教室の端っこでおどおどしている。

 ……はずだった。


 ある日空から落ちてきた黒い波に飲みこまれ、私はこの世界にやってきた。

 ここには妹も父もいない。いるのは恐ろしい怪物たちだった。

 危ういところを、現地の魔法使い達に助けられる。

 私は彼らに助力を願い、妹を探す旅に出た。

 まだ妹は見つかっていない。


 ――魔法使い。

 そう、この世界には魔法がある。

 魔法もあれば、魔物もいる。

 となれば、誰もが夢想するだろう。

 自分も魔法を使い、魔物をバッタバッタと倒して無双したいと。

 私も少し期待した。


 だが、はっきり言ってこの世界の魔物は無茶苦茶だ。

 ここに、鍛えに鍛えた戦士や魔法使いのいるパーティがあるとする。


 ――戦士は魔物を攻撃した! しかし攻撃は当たらなかった!


 ――魔法使いは魔法を放った! しかし魔法はかき消された!

 

 ――魔物は口から闇のブレスを吐いた! パーティは全滅してしまった!


 これだ。

 大げさではない。全く嘘偽りのない現実である。

 体感としては、戦士や魔法使いのレベルが100とすると、それに対する魔物のレベルは1000だ。

 難易度設定が間違っている。いわゆるクソゲーである。戦ってはいけない。

 まあ、仲間になった魔法使い達がレベル800から900くらいありそうだから何とかなってるけど。


 そして、魔法。

 私も使いたいと思った。

 どうやって使えばいいと、魔法使いに訊いた。

 彼曰く、「まず、体の奥底に眠る魔力を感じろ」とのことだ。


 ……うん。眠ってない。

 そもそも魔力が無いと、魔法使い達に口々に言われた。

 どうも地球人には魔力が無いらしい。

 つまり、我々には魔法が使えないのだ。


 ――ゲームオーバー! ハルの挑戦はここで終わった!

 ハルは超能力を使って魔法使いのフリをして生きていくことにした!


 




 と、思っていた。ほんの数秒前までは。

 目の前に、輝く光球が浮かんでいる。

 光の精霊と呼ばれるものだ。


 紛れもない、魔法である。

 出来合いの物ではない。

 今、この場で作られた。

 そして、作り出したのは私だ。


「……できちゃいました」


「……できたのう」


 ワースさんはポカンとした顔で精霊を見ていた。

 私もポカンとしていた。

 ルゥを見る。口を半開きにして精霊を見つめている。


「できちゃった」


「……できたな」


 後ろの面々を見る。

 マルテさん、ダンさん、リィちゃん。

 みんな同じ顔をしていた。


「……え? なんでだ? なんでできたんだ?」


 最初にルゥが反応した。

 不思議そうに私と精霊を交互に見ている。

 意外だ。彼がこんな反応をするとは。


 ちょっと面白い。

 ふふ、どうだ。私も魔法が出来たよ!

 見直したか――って、え? え? え!?


 ルゥがペタペタと私に触ってきた。

 頬に触れ、引っ張り、手をニギニギしてくる。


「ある。わずかだが、確かに魔力を感じる」


 あッ!! こいつ、また魔力を確認するためにセクハラしやがったな!!

 と、私が睨んだところで、マルテさんがルゥをひっぱたいた。


「何をする!!」


「「何をするじゃないわ!!」」


 マルテさんとハモった。

 ルゥがたじろいだ。

 どうやら自分が悪いと認識したようだ。

 なぜ悪いのかは分かって無さそうだが。


「しかし、本当になんでじゃろうな? 急にじゃよな?」


「ハルは異世界の住人ですからね。何が起こるかわかりません。この後も、何か変化があるのかも」


 ギクリとする。

 変化。その言葉に恐怖を覚えた。


 この前、魔物は病気によって生物が変化した可能性があると聞いたばかりだ。

 魔法が使えるようになるのはいいが、魔物になってしまうのは怖い。


「も、もしかして、私も魔物になったりするんでしょうか……」


「ん――……全くないとは言い切れんが、どちらかというとそれはワシらの方が可能性高いんじゃないか? 魔物になっとるのは今のところ現地の生物じゃから」


「そうよ。魔物化するのなら、多分私たちの方が先よ」


 ワースさんとマルテさんが私をなだめるように言った。

 少しだけ不安が晴れるが、でも……


「そ、そんなこと言わないでください! みんなが魔物になったら、私……!!」


 ワースさんがニカッと笑った。


「安心せい! そうならないように、精いっぱい努力する! 魔導院は今も魔物について研究しておるし、議会にも魔物の危険性を認識させる。議会が先導すれば、国民も軍も協力してくれるじゃろう。ワシらだけの問題ではない。みんなで魔物と戦っていくのじゃ」


「は、はい!」


 そうだ。みんなで立ち向かうのだ。

 私はもう一人じゃない。助けてくれる仲間がいる。

 彼らと共に、この災厄を生き抜こう。

 そう思うと、不安はスッと消えた。


「よし、ワシはこれから議会に行って、魔力特異点へ行く許可を取り付ける。魔物の正体を明らかにするためには、魔力特異点との関係は必ず暴かねばならん。ハルの妹の行方を明らかにするためにもな」


「お願いします」


 ワースさんが力強く頷いた。

 やっぱり、ワースさんは頼りになる。


「ダン、ルゥ、マルテ。おぬしらはどうする?」


「私はしばらくリィと行動させてもらうよ。彼女も魔力特異点に連れていくことになったからね。それまでに、リィを鍛えないといけない。合間を見て、軍との協力の根回しをやっておこう」


「はい、ダン様!」


 ダンさんとリィちゃんは二人で修行か。

 修行……何か、心に引っ掛かりを感じた。


「……オレも、鍛えなおそうと思う。死竜兵との戦いで後れを取ったとき、今のままではダメだと再認識した」


 ルゥは一人で修行か。

 彼らしいな。

 ……一人か。


「私は出発の準備をしておくわ。装甲車とか、食料の手配とかね」


 マルテさんは裏方として色々動いてくれるようだ。

 地味だが、とても大事な仕事だと思う。


 ……私は?

 私は、どうする。

 何もしないのか?


 ……いや、私も彼らの仲間だ。

 みんなで戦う。その中には、当然私も含まれている。

 私だけが何もしなくていいわけがない。


 では、どうする。

 何ができる、この私に。

 旅の間は、料理を担当すればいい。

 今この瞬間に、私ができること。

 それは……


「……あの、お願いがあります」


 おずおずと口を開いた。

 みんなが私を振り向く。


「ルゥ。修行の合間でいいので、私に魔法を教えてください」


「あん?」


 ルゥが少々面食らったような顔をした。

 彼以外が口をあんぐりと開けている。さっきの光の精霊を呼び出した時より、よっぽど驚いていた。


「なんでだ? 超能力があればいいんじゃないのか?」


「ううん、あれだけじゃダメ。アレは強いけど、殴ったり、壊したり以外を制御するのは難しいの。今回のゼルンギアの戦いで、たくさんの人が傷つくのを見て、思った。魔法も使えないとダメだって」


 いったん区切り、胸元をみる。

 魔導院のペンダントが、光無く揺れていた。


「私は本当の魔法使いになりたい。魔法使いになって、みんなを癒したり、助けたりすることに使いたい。本当の意味で、魔導院の一員になりたいの。お願いします、ルゥ」


 偽らざる気持ちだった。

 以前は、うまく口にすることが出来なかったと思う。

 でも、彼らは仲間だ。

 願いを口にするのに、恐れることなんてない。

 うまく喋れなくても、きっと受け入れてもらえると思った。

 そう思うと、自然とうまく話せた。


 ルゥはいつもの仏頂面を崩して、僅かに微笑んだ。


「わかった。教えてやる。教えるのはあんまり上手くないけどな」


「……あ、ありがとう、ルゥ!!」


 様子を見守っていたルゥ以外の人が微笑んだ。

 ホッと胸をなでおろす。

 やっぱり、言って良かった。

 私のやることが決まった。


 よし、頑張ろう!

 意気込んで、ガッツポーズを作る。

 ……その時、気付いた。

 視界の端で、一人だけ口を開けたまま固まっている。

 マルテさんだ。


 彼女を見ると、視線に気付いたのか、ハッとして慌てだした。

 オロオロしている。

 どうしよう、どうしよう。やっぱり私も……という心の声が聞こえてくるようだ。いや、心の声じゃない。普通に言ってる。駄々洩れである。……これ、あの精神作用魔法の影響かなぁ。


 こういうとき、ひどく親近感を覚える。

 ああ、マルテさんも私と変わらないんだなぁって。

 ……大丈夫、マルテさん。心配しないで。


「マルテさん。マルテさんにも一緒に教えてもらいたいです。仕事の合間でいいので、教えてもらえませんか?」


「……え!? いいの!?」


 いいのって。いいに決まってますよ。

 私は三人一緒がいいんです。


「私、回復魔法が使えるようになりたいんです。ルゥもできるだろうけど、やっぱり、回復魔法ならマルテさんだろうって。ルゥとダンさんを治してるのを見て、思いました」


「……わ、わかったわ!! 任せて!! ルゥもいいわよね!?」


「ああ、別に構わんぞ。オレは正直教えるのは苦手だからな。全部マルテに任せたいくらいだ」


 ……おい。やっぱりこいつわかってないな。

 この前のマルテさんの告白、実は全く効いてないんじゃないか。

 早くなんとかしないと。


「わ、ワシもワシも!! ワシも一緒にハルに教える!!」


「え、ワースさん?」


 予想外の人物が割り込んできた。

 えっと、正直に言うと、ワースさんは計算に入ってないです。

 というかワースさん、さっきの意気込みはどこいったんですか?


「ワースさんは議会に行かないと行けないのでは?」


「あんなもんエアに任せとけばいいんじゃ!! こっちの方が断然おもしろ……」


「ワ~ス~?」


 ワースさんの後ろから間延びした声が聞こえた。

 いつの間にか、エアさんが立っている。

 びっくりしたぁ……本当に、名前の通り、空気みたいに存在感がなかった。


「ひぃッ!? エア!?」


 ワースさんが飛び上がって驚いた。

 なんか大げさだな。この前といい、どうもワースさんの様子がおかしい。


「ひどいよワース。僕を一人にしないでよ」


「う、うるさい! ワシはハルに魔法を教えるので忙しいんじゃ! ……あ、ちょっ!! 手を引っ張るな!!」


 ワースさんがエアさんの手を振りほどいた。


「なんで? この前は一緒に手をつな」


「だ――――ッッ!! 行く、行くから!!」


 ワースさんがエアさんの手を握る。

 そのままエアさんを引っ張って部屋を出て行った。

 出て行くまで、ずっとギャーギャー言っている。


 ……うーむ、怪しい。

総合評価100超えてました。ブックマークいただいた方、評価いただいた方、本当に嬉しいです。ありがとうございます。頑張って続き書きます。

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