プロローグ
―俺は、一体何をしていたんだろう―
最近、こんなことを思う日がよくある。一種の記憶喪失のようなものなのかもしれない。
でも、俺にはなんとなく分かる。こんなことを思うようになったのは、すべてあの日のせいなんだと。
俺の名前は竹内亮介、ごく普通の中学2年生だ。友達もたくさんいるし、成績もぼちぼちといったところ。何気ない日常を過ごしていた。
しかしある日、俺の人生は変わった。しかもほんの些細なことで。
その日は、いつもと同じように、予鈴ギリギリで登校し、半分寝ながら授業を聞き、給食を食べ、いつもと変わらないような生活をしていた。ここまでだったら何の問題もないのだが、ここからなんだ。
その日の放課後、校門から出ようとした時、向こうの木の裏のほうで数人のグループが固まって何かしていた。
「何してんだろう」
俺はその方向をじっと見つめていた。すると、そのリーダーっぽい奴が気弱そうな一人を突然殴り始めた。その直後、リーダーが周りの奴らに合図をすると、全員でその気弱そうなやつを殴り始めた。
俺はそんな光景を見ているにもかかわらず、普通に帰ろうとしてしまった。しかし、時すでに遅し。俺の足はそいつらの方向にむかって走り始めていた。
気が付くと、俺は木の下で倒れていた。なんでこんな事になったのかを思い出そうとするが、頭が痛くて思い出せない。すると、右のほうから声がした。
「大丈夫?」
俺は痛い頭をゆっくりと右に向けた。すると、俺と同じようにして倒れてるやつがいた。
「ごめん、僕のせいで…」
俺はその言葉を聞き取る前に、意識がなくなった。
目が覚めると、俺は保健室のベッドで横になっていた。
「やっと目が覚めたわね。」
声が聞こえた方向に目をやると、学校で一番可愛い保健室の山崎先生がにっこり微笑んでいた。
「俺は、いったい何を…」
「1時間くらい前、傷だらけの男子、えーっと名前なんだったけ、まあいいわ、とにかくその男子が、『助けてください!』って保健室に駆け込んできたわけ。それで急いでその男子についていくと、あなたが倒れていたの。」
「そうですか。なんで僕は倒れていたんでしょう?」
「それについてはその男子から聞いて。いま横で眠ってるから。」
横を見ると、さっき倒れてたやつが隣で寝ていた。
「分かりました。後で聞いてみます。」
少し変な間が開いた。なんか話を繋げないと…と思っていると、山崎先生が、
「そういえば、あなたの名前なんだったけ?」
と聞いてきた。
「竹内亮介です。」
「たけうち、りょうすけくんね。また後で担任の先生に言っておくわ。」
「ありがとうございます。」と軽く会釈をして、その日は下校した。
「まったく、俺はなんで倒れていたんだろう…」その時、今日あった出来事を少しだけ思い出した。
「俺は、下校しようとして、気が付いたら木に向かって走ってて、それで…」
気が付いたら寝ていた。
この一連の出来事で、俺は人生が変わることになる――。