憂鬱なレディ・ライラックと世話焼きなブーゲンビリア
「憂鬱なレディ・ライラックの悩み事」
私の名前は花箸紫
胡蝶高校2年3組
好きなものは読書と白米、あと寝る事
苦手ものは早起きと珈琲、辛いもの
あと、それから……人間関係
私はどうも、感情とやらに疎いらしい。
人の感情をなんとなくでも察することが出来ないし、周りに合わせて感情を共有することも苦手。
別に感情が無いわけじゃないけど、顔に感情が出にくくて無表情、喋る事もあんまり得意じゃない事もプラスして周りに馴染めない。
私の人生16年、友達ができたことはない、そう、筋金入りのぼっち。
自慢じゃないけど。
小学校では不気味がられて体育とか行事ごとじゃあ組む相手が居なくて一人、教師に言われて漸くひと段落。
中学校でも勿論ぼっち、もう慣れたからそこは兎も角、ただ困ったのは私物を隠されたりした事。(今思えばいじめだったのかもしれない、いや、どうだろう)
教師は私にどうして馴染めないのと聞いてきた、そんなもん私が知りたい。
こっちだって馴染みたくなくて馴染んでないんじゃない。
家族は昔からこうだった私に慣れてるし、こんな私を捨てたりせずちゃんと育ててくれたから、荒んだり不良になったりはしなかったけど。
だって分からない、人が考えてる事を察せない、どうも私は普通じゃないらしい。
表情から察そうとしても、笑いながら泣いてたり泣きながら笑ったり怒りながら泣いたり笑ったり……どんな行動が正解なのか分からない。
共感してそうだねって言えばいいの、大丈夫って言えばいいの、良かったねって言えばいいの、難しい、どれが正解なのか選択肢でもあればいいのに。
無表情が不気味と言われるけど、嬉しくても悲しくても表情が顔に出ない、頑張って笑顔の練習したりもしたけれど、私からすればそのぎこちない笑顔の方が不気味だった。
口下手っていうか、どうも声にすら感情がこもりにくいらしい私の喋り方すら抑揚がない、声に抑揚なり感情なりどうやって込めればいいんだ、何故みんな普通にできる……
人とまともに関わった事なんて家族以外ないから距離感も掴めない、“みんな”が可笑しいと言う事もよくわからないしそもそも“みんな”の普通も共有出来ない。
……あ、いや、1人だけ、一回だけ中学でとある男子生徒と喋ったことはある。
手先が器用な人で、フード被ってたから顔はあんまり分からないけど……あっ、でもなんか、途中変な空気になった……
だから高校でも、頑張ろうとか思ったけど(所謂高校デビュー?)、結局一年の間一人も仲良い子なんてできなかった、二年に上がった時に諦めた。
「先輩、お弁当作ってきたっすよ。はい、あーん」
……
「ん?どうしたんすか、そんな俺のこと見つめて……照れるんすけど」
……あきらめ、
「もしかして体調とか悪かったりします?おでこ出してください……んー、熱はないっぽいっすね」
……はて、この状況は何なんだろうか、一体どうしてこうなった?
分からない、やっぱり人間関係は苦手だ。
そう、基本的に人を不気味がらせたりする私の前でにこにこ笑って作ってきたというお弁当(美味しそうっていうか実際美味しい)を広げて、今さっきおでこ同士をひっつけて熱を測るという行動を起こした1つ下の後輩である彼の名は九重葛。
わたしが二年生になって、暫くした(大体一ヶ月弱)時に突然教室にやって来て私に向かって「俺、九重葛っていいます」と一方的に自己紹介してきた謎の人物。
それから毎日……ほぼ毎休み時間やってきていつからかお弁当も作ってきてくれ始めた。
後輩なのに面倒見られまくっている私、どうかと思うよ私、いくら九重のご飯が美味しいからって世話かけすぎじゃない私。
いやいや言い訳を聞いてほしい、流れるように面倒を見てくれるんだよ九重、流れるように「明日からお弁当作ってきますね」って約束が出来てたんだよ九重。
流石にただじゃ申し訳ないから材料費出すって言ったら「じゃあ一緒に帰らせてください毎日」って、無理やり受け取らせようとしたら「俺が好きでやってるんですからやめて下さい」って梃子でも受け取らなかったんだよ。
……いや、九重自身は良い人なんだけどな、面倒見いいし九重は興味ないだろうこんな私の話でもにこにこ笑って聞いてくれるし、お弁当美味いし。
「?どうしたんすか先輩、ほんとに……もしかして寝不足とかですか?いくら好きな本の新刊が出たからって夜遅くまで見ちゃダメっすよ」
「そんなに、夜遅くまでは起きてない。いつもよりは、遅かったけど、寝不足じゃない…………あれ、九重ってあの本読んでたっけ」
「え?俺が先輩のことで知らないことある訳ないじゃないっスか」
「え、そうなの、凄いな」
「そうっすよぉ」
九重は謎だ。
顔はイケメンに当て嵌まるだろうし、身長もそこそこ高い。
けど面倒いいし料理から裁縫とかも出来る、細かいとこもよく気づくし、どーでもいい話でもちゃんと覚えててくれる。
勉強だって上位(前テストの時の順位10位だった)だし、運動神経いいし。
それなのに毎時間こんな私のとこに来て仲良くしてくれる。
前体育の授業をちらっと見た時、友達が居なかったって訳でもなかった(ちなみにその後気づいて手を振ってくれた)
九重はいっぱい良くしてくれるけど、私は迷惑しかかけないし、何にも返せない。
やっぱり人間関係は苦手だ。
九重の事は嫌いじゃないっていうかむしろすき、だってこんなに良くしてくれてるのに嫌いになる方が難しい。
でも、だから、どうやってこれからも一緒にいたいのに、何にも返せない。
面白い話だって出来ないし、まず笑顔とか苦手だし、無表情に磨きがかかってるし。
……いつか、九重が離れてしまったら、それが、とっても怖い、こんな私が九重に何が出来るんだろう。
……どうしよう、これじゃあ九重に依存してるみたいだ。
一緒にいたい、大好き、離れて欲しくない。
あぁ難しい、今迄ぼっちだった私の一番の困難だこれは。
………………くそー、なんで九重なんでもできるんだー!
---視点切り替え---.
「世話焼きなブーゲンビリアの独白」
俺の名前は九重葛
胡蝶高校1年2組
嫌いなものは夏と匂いのきついもの
好きなものは甘いものと可愛いもの、料理
それから、可愛いかわいい俺の先輩
俺は多分、こと人間関係においては器用な方だと思う。
他人の感情を読むのが得意っていうか、へらへら笑って周りに合わせるのが得意だ、クソめんどくさいけど、処世術ってやつ。
だから、俺の趣味っていうか好きなものは誰にも言わなかった。
似合わないだとかで俺の好きなものが馬鹿にされるのは絶対に嫌だったから。
俺の家は父親は仕事であんまし帰ってこなかったから(父と母はうざいくらいバカップルだけど)、姉2人と母と一緒にいることのほうが長かった。
姉やら母やらの影響で料理は得意だし甘いものと可愛いものが好き、まぁつまるところ少女趣味って訳。
俺はそーいうのが似合う可愛らしい女の子みたいな男の子とかじゃない。
身長はデカイ方だし筋肉もそこそこついてる、あと顔つきは格好いい方らしい、まぁ、少女趣味は似合わない図体。
周りの人間は俺がそーいうの似合わないとか勝手に決めつけやがるから、俺の好きなものを馬鹿にされたくなくて、別に共感して欲しい訳でもないから誰にも打ち明けたことはない。
「九重、今日もお弁当ありがとう、おいしかった」
……まぁそんな過去話は一旦置いておいて、この人は俺の先輩、花箸紫さん。
一言で言えば超かわいい俺の大好きな先輩、あぁ勿論Loveの方で。
あんまり感情が表情とか声に出ないらしくて無表情がデフォルト、不気味だって先輩は気にしてるみたいだけど俺からすればいつもニコニコしてる方が不気味だと思う。
ていうかちゃんと見てれば嬉しい時はちょっと口角上がって目尻も下がってるし、悲しい時は眉も下がってる、“普通”より分かりにくいだけ。
先輩は人の感情を察せないって気にしてるけど、観察が上手か苦手かなだけで確実に人の心を読めたりする訳じゃないんだから、たかがそれくらいで離れていく奴らなんか気にしなくていいんすよ、先輩は優しいから気にしちゃうんだろうけど。
「じゃこ入りの卵焼き、美味しかった、私あれ、好きだ」
「じゃあ次も作ってきます、先輩にそう言ってもらえた良かったっす」
「九重、あのな、九重は何か欲しいものとかして欲しいこととか、ないか」
「え?んー、そうっすね、先輩がずーっと俺と一緒にいてくれれば」
「……だめだ、それだとお礼にならない。それじゃ私は九重に貰ってばかりになる」
「俺からすればそれが一番嬉しいんすけどねぇ、それに俺は先輩に貰ったものを“返してる”だけなんで、気にしないでくださいよ」
実は俺は、先輩とはこの学校で初対面な訳じゃない、中学が一緒だった。
一年上の鉄仮面女っていう渾名の、小さくはあるけれど虐めすら受けていた人の事を噂だけでは知っていた。
それが先輩だった。
一年上だし特に興味も抱かなかった当時の俺は、何もかもがめんどくさくなっていた。
簡潔に説明すると、人間関係に疲れていた。
今の俺よりも上手くやれてなかった当時の俺は、周りに適度に合わせて好きなものとかも今よりずっと我慢して自分を押し込めていた。
虐めだとかそう言った事とは関わりは無かったのは不幸中の幸いだったけど、元々そんなテンションクソ高い訳でもないのに合わせてしんどかった。
気分転換に人が滅多に立ち寄らない中庭で1人で編み物なり縫い物なりするのが唯一息を抜ける時間、俺を取り戻せた。
隠しまくった少女趣味の反動みたいなもんだな。
……あぁ本当に、別に俺が似合わないだの言われるのはいいんだよ、ただ俺の好きなものが馬鹿にされるのが嫌なんだ、俺が少女趣味だろうと誰かに迷惑をかけるわけでもあるまいし。
そこに偶々通りかかったらしい先輩に見られて終わったと思った、しかもマフラーとかを編んでた訳じゃなくおもっくそ少女趣味丸出しのレースたっぷりの縫いぐるみにお人形。
引いた目で見られるか、馬鹿にしたような声を出されるか、あー最悪、パーカーのフード被ってるから、顔は見えてないのかな、どうだろう
先輩は俺を見て一言、今思えば少し声が弾んでた。
「凄いな、手先が器用なんだな。とても、かわいいぬいぐるみだ。これは服も貴方が作ったの?プロみたいだ、おぉ、細かいとこまで凄いな……」
「……は、へんとか、おもわないんすか」
「……?もしかしてどこか気に入らない出来だったのか、そういうのは作った人しかわからないというからな……ごめんなさい、気を悪くしたか?私、そういうの、察するのが苦手で」
「いやそうじゃなくて…………俺がこれ作ってるのとか、見て」
「……??えっと、何かへんなところがあるのか?えっと……えっと……ご、めんなさい、私、その、よくわからなくて、“ふつう”とか“へん”とか、その、基準が」
「あー、いや…………褒めてくれてありがとうございます、寧ろ嬉しかったんで、こっちこそ変な事言ってすんません」
丁度チャイムがなってそれっきり、その先輩とは別れて、直接的に関わることは終ぞなかった。
けど、遠目で見て、ちゃんと知って分かった。
先輩は世間一般の“ふつう”が分からない人、よく言えば偏見がない人、悪く言えば“ふつう”じゃない人。
図体のでかい男が少女趣味だろうと、女の子らしい男だろうと、女の子が好きな女だろうと、その人はそういうものなのだと、その人の個性として受け入れるひと。
はっきりと言おう、安直だし単純だし、他の人からすればたかがそれだけと言われるだろうけれど、あの時の誉め言葉、純粋なまでの言葉は俺にとっては救いと言っても過言じゃないくらいには嬉しかったものだった。
高校には狙って入った訳じゃなかった、ただ中学の奴らがいないところに行きたかっただけだったけど、まさかそこに先輩がいるなんて思わなかった。
これぞまさに運命ってやつ。
突撃かまして自己紹介して半ば付き纏うみたいに一緒にいて、時折害虫駆除しつつ、先輩は困惑してるみたいだったけど俺を迷惑には思ってはなかった。
人間関係レベル一桁の弊害であんまり距離感とかも分からないらしい純粋な先輩はあーんとかしてもそれが“ふつう”と勘違いして拒んだりしない、可愛い。
先輩は俺のことを覚えてないっていう訳じゃなかったらしい、ただあの時話した男子生徒イコール俺になってないみたいだった。(フード被ってて顔あんまし見えてなかったとのこと)
最初はただ、この人に一方的でも救われたから、先輩はそんなつもりはなかっただろうけど、だからその恩返しをしたかった。
「……?私の方が貰ってばかりだ、気にする」
「まさか。俺の方が貰ってばかりなんすよ、先輩が俺と一緒にいてくれるのが一番嬉しいんで、弁当とかはそれのお返しなんすよ」
けど、先輩と一緒にいるにつれて、恩返しとかじゃなくてずっと一緒にいたくなって、恋愛感情に変わった。
……あー、いや、もしかしたら、一目惚れから惚れ直したのかも、そこらへんはわかんないな。
一緒にいてほしい、俺から離れて欲しくない、俺がいなきゃ、だめになってほしい
「それは私の台詞だ、私だって九重が一緒に居てくれるのが何より嬉しい、一緒にいたい。だからこそ、何かしたいのに……」
「だから、さっきから何度も言ってるじゃないすか。俺の隣でいてくれればいいんです」
「……うぅ、じゃあ、今後何か欲しいものとかしてほしいことがあったら言ってくれ。私にできることならなんでもするからな!」
「あはは、わかりました。これからも、ずーっと、ずぅっと、俺の隣で一緒に居てくださいね、先輩」
ずっとずーっと、ずぅっと、俺と一緒にいてくださいね
俺はもう、先輩がいなきゃ、だめなんで
先輩も、俺がいなきゃダメになってくださいね?
:ライラック(紫)の花言葉
「初恋」「恋の芽生え」
:ブーゲンビリアの花言葉
「情熱」「あなたは魅力に満ちている」「あなた以外見えない」