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俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。  作者: 薪槻 暁
第1章~これから小説家人生が始まるのだろうか~
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07.わざとらしいのですが……?

 俺の記念すべき高校一年の担任は女教師だった。キャラメル色のロングヘア、クラス内の男子と同等の身長といった特徴を挙げるとまるでマスコットキャラか何かに見間違えてしまう。



「今日の連絡事項は、んーーと無いかな」



 ごそごそと手さぐりに持ってきた書類に目を通す姿は先生に思えないほどだ。一般的な男子高校生よりも低いだろう背丈だけでなく年齢に似つかない言葉遣いがその由来である。


 教卓の前、すぐそこの席の生徒が書類の最後の一枚を指差した。



「先生、これは?」


「ああーーそうだ思い出したよ~~。放課後に部活会があるらしくてなんか予算がどうとかこうとか話すみたいだけど、君たち一年生だからあんまり関係ないよねーー。もうそんな話意味ないなら話すなよって話ぃーー」



 お硬い話なら俺はすぐにでもこの部屋を退出して屋上でもいいから外で缶コーヒー片手に休みたいほどだ。


 が、物腰柔らかで落ち着くこのやる気なさに担任らしからぬ新鮮さがあるので俺はそのまま頬杖をつきながら見守る。


 どうやらこれはこれで鬱憤晴らしにもなるかもしれない、そう高校生活にも良い面があるのかと考えを改めようとした時だ。



 突然、横の席に座っていた女が立ち上がった。


 何事もなく平然と予想だにしていないなどと言えないほど速く教室後方のドアへと向かっていく。


 ふわりと長髪を巻き上げて俺に背を見せつけ、世話の焼けるヤンキー学生が「お前の話なんて興味ねえ」なんて背中で語るように彼女ーー如月桜は不躾に教室を後にした。



 結局のところ、それから教室に姿を現したのは帰りの挨拶をした直後だった。他人とのコミュニケーションを積極的に、活発に執り行うのは俺のモットーに反する。


 しかし、「何をしていたのか」や、「何処にいたのか」などの単純な興味が降り積もり、俺はその積もった雪を溶かしてやらなくてはならないという義務感を背負いながら聞くことにした。



「どうして抜け出したんだ?」



 よりによって聞いてしまってはならないワースト一位の質問だったと後で後悔した。


 隣の女はたいして入れていないはずの教科書を机の中から引っ張っては鞄に詰めていく。



「どうしても何も私がそうしたかったらそうしただけよ。あの人の話を聞きたくなかった、それだけよ」


「あの人?性に合わない人がこの教室にいるのか?」


「それとはまた違うわよ。性に合わないのではなくてただ話を聞きたくなかったの、あの話し方で……」



 話し方とはいったいどういうことなのだろうか、まるで初めて会ったあの担任のことを前々から知っているような口だが。俺はそんな横から棒な問いを投げると、



「あなたには関係ない話よ」


 と突き放すように外に広がる田園風景に視線を逸らすと、窓から流れ込む風が追い風となって髪をなびかせながら、如月は俺との会話(いや会話じゃないかもしれないが)から退場した。




 その数分後のことだった。事の終始を教室の片隅で一瞥していた「まこっち」こと俺の担任、掛依真珠(かけよりまこ)は俺の方へとまるでハムスターの如くとことこと歩み寄ってきた。



「どうしたんですか?」



 話しかけようか話しかけまいか、小動物が様子を窺うように俺の方を見ていたので俺は先手を切った。



「いやねえ、隣の席の子のことなんだけど…」



 やはり教師から見てもこいつの言動や行動には問題があるということなのか。にしても入学して二日目だぞ、早くも問題児扱いなのか。



「如月のことですか……」


「うん?まあそうなんだけどね。いつも学校に来ては何処か行っちゃうの。これって私の教育のせいなのかな?」



 話し始めに戸惑いを見せたのは少々気になったが、この人は自分のやり方に間違っていないかどうか考えて欲しいというのが先決なのだろう。


 無論、こういうケースは自分に非がないということを誰かに認めて欲しい、あるいは共感してくれる人を見つけ出すというのが何よりも先なのだ。うん、これも俺の(かず)数無い人生経験の賜物だ。



「そうではないと思いますが……」



 俺が彼女とこれからどう接するのか模索しようとするとこの人は、



「そう?ありがとうーー!やっぱり男の子は頼りになれるねーー」



 さらりと俺の名前すら言わずにこいつらと一括りにされるのは気にくわなかったが、それよりも、



「でも……私とあの子との間に何かありそうだったら、その時は教えてね」 



 と一瞬見せた不安な表情がまったくもって意外だった。


 それにしても何かありそう、とは一体どういうことだろうかともうすでに面倒事を押し付けられたように思えてならなかった。

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