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俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。  作者: 薪槻 暁
第1章~これから小説家人生が始まるのだろうか~
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03.普通の入部ではないのですが……?

 

 青く澄み渡る空に泡のような雲が散らかっている。直線に伸びている白い線から少なくとも飛行機が通過したのだと予測する。


 午前中で終えるはずの授業にすでに飽きていた俺は青雲に広がる綿あめの存在に見惚れていた。


 この何もない青空に轟くような雷鳴みたいな出来事が起きないだろうかと期待を寄せるのだが、そんな恋物語の主人公のような出会いなんて現実そうはない。



「青天の霹靂みたいなこと、起きねえかな……」



 言っておくがわざわざ人生のゲリライベントを期待しているほど関係を持ちたい人柄ではない。 


 かといって陰湿な奴に成り下がるのも……といった具合だが、とにもかくにも俺はそうしなくてはならない訳があるのだ。



「ネタだ。俺にはネタが必要だ」



 新しいストーリーを考案し描くのは本当に楽しいものだ。だがそれは始めのうちと限られるのは作者側の暗黙の了解なのだ。


 例えばよくある話で、一話、二話と書き進めていけるがそれもいつしか体力が尽きて、いつの間にか過去の作品として埋没していくのだ。


 もっともさらに酷いケースはエタる、つまり作品がエターナル(永眠)するということも多々ある。


 席の前の方からプリントが流れてくる。



「じゃあ、次の授業でこの範囲について小テストやるから、お前ら復習しておけよーー」



 右上にはHe、左上にはHという文字。どうやら基礎化学における原子番号が羅列している表。つまり世に言う周期表という化学を習う者にとっては一度はお目にかかるであろう代物だ。



「こんなの覚えて何になるってんだよ、だったら創造する力を寄こせって話だろ」



 今でも語り継がれる有名な科学者はどれをとっても新しい発見をしているもの。それには既定の知識も必要だが、もっともその次の「何かを創り出す根柢の力」が重要なのではないだろうか。



「授業でやるもんじゃねえだろうよ」



 後頭部で手を組みながら愚痴を言うと忌まわしい時間も終わったようであっという間の如く今日一日の仕事を成し遂げた……つもりだったが、未だに成すべきことが一つだけ存在する。



「なあなあ、この後どうする?」


「んーー新歓かなあ、それともどっか遊びに行く?」



 この忌々しい時間から解き放たれた囚人の如く四方八方に散らばる人の群れは放課後、授業という課題を終え、放たれた後ということか、納得がいく。

 

 しかし授業という監禁される時間は長いものだ。午前授業なのに既に肩こりという名の重石が体に乗せられている俺はもうすでに華の高校生活というやつに乗り遅れているのだろうか。



 そんな中で今の俺はあの監禁場所か知らんが教室から抜け出し、本館から別棟へと繋がる渡り廊下を歩いている。


 渡り廊下には別棟へと向かう最中にあらゆる校内情報が掲載されている掲示板を確認できる。


 わざわざ見たいわけでもなくそこを通ったので、何の気もなくそこに目をやると、やはりだ。あらゆる部活動の新入生歓迎会の日程が埋め尽くされている。



「うっわ、こんな情報量じゃ何を見ればいいかって話だろ……」


「だが、俺には広告なんて関係ないがな」



 そうさ、俺はもうすでに入部する部活動は決まっている。だから、今ここでこの廊下をぼっちを極めながら歩みを進めているのだ。


 渡り廊下を抜け、突き当りにある階段をさらに二階上る。ようやく到着したこの場所は昇降口から対角線上に引いた最も遠い場所に位置する四階、別棟の教室。


 錆びれた金属板に白い文字で書きこまれた部活名を表すネームプレートを見れば、



『文芸部』



 俺が訪れるであろう、予想しえた場所だ。


 念のために礼儀を正し、ドアを三回ノックする。すると部屋の中から「ふぁーーい」という何とも風船から空気が抜けるような声が返ってきた。



「失礼します……」


「きみはーー、新入生かいーー?」



 なんと眠たそうな部員だ。自分専用の寝袋用ブランケットを持ち込んでいるようで声の主の横に当たり前のように置いてある。



「そうですが……ここは文芸部で合っているでしょうか?」


「文芸部って言えばそうだしねーー。じゃじゃ、この紙に名前書いてーー」



 よく会議で使うような木製の長机で四角形をかたどるように配置。その声の主はどうやら部長らしく、俺と対をなすように教室の入り口の反対側に座っている。そしてもう一人ノートパソコンの画面を凝視する部員のみでそれ以外にこの部屋には誰もいない。


 俺はわざわざ部長が座る場所まで行き、横に置いてあるボールペンで名前を何の躊躇もなく書く。


 なぜ、俺はここで気付かなかったのだろうか、自分の過ちを犯してしまった後に後悔する俺がそこにはいた。


 よーく分かった、知らない人に出会ってすぐさま署名するという行為は危険だと。



「はあい、ありがとねーー。これで君も晴れて私らの部員だねえーー」



 そして先ほどまで眠気眼に惑わされる猫のような外見だったこの女性は飛び起きるように動き始め、近くの棚へと手を動かした。


 埃に埋もれた棚から取り出したのはおおよそ厚さ30センチはあるだろう書類。机の上に威勢よく乗っかる衝撃は俺にも伝わった。



「これは……なんですか?」


「なにって……書類だよーー」


「いや分かりますよそんなの、誰が見たって紙の束なのは一目瞭然でしょうが」


「うーーん。詳しく言えば文芸部のお仕事ね」



 俺はまるでブラック企業に移籍され、上司に脅されている気分だ。



「で、これをどうすればいいんですか?」



 さあ、次の発言で俺の人生の分岐ルートが大方決まる……



「どうすればいいもなにも、これを作るのが私たちの仕事、文芸部の活動内容、あなたに課せられた使命、課題そのものよーー」



 ここまで燃やしたいものが目の前にあるとライターが欲しくなるな。



「燃やしたい……」


「んっなにか言った?」



 危ない危ない、危うく俺の安寧に過ごすはずの部活動が壊れてしまうところだった。ん?いやもう手遅れか。



「この量の資料を読んで、内容を模倣する感じですか?」


「そうね、方法はだいたいそんな感じじゃないかな?まあなるようにはなるわよ~~」


「ちょっと待ってください。先輩はどんな感じに作ってきたんですか?」



 やけに他人事のような口ぶりなのでさらに不安になってくる。



「私?私はやってないわよ?」


「え?どういうこ……」



 俺が問おうとするのを瞬時に止めにかかろうとしたのか、いや普通に面倒だからだろうな、



「んじゃああ、私は外でお昼寝タイムだからーー、さいならあーー」



 巨大なブランケットをずりずりと引き連れながら教室の外へと逃げ出してしまった。


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