都市拠点
「おお・・・」
そこは、まさに大都市だった。
現実世界での東京のような───ビルが立ち並ぶ、なんとも賑やかな街だった。
「・・・?ユウト、ここに来るの初めてなの?」
ああ、そうだ。初めてだということを、伝え忘れていた。
「まあな。ずっとアーテルにいたからな」
「えー!?は、初めて!・・・まあ、いいや。ならついでだし、案内したげるよ」
「え、さすがにそれは悪い」
だがアルカはいいのいいのといった様子で答えた。
「いいよ。・・・あとで代償払ってもらうから」
「はっ、代償?」
「さ、まずはギルドに行ってみよ」
「サラッとスルーしたな」
「あそこらへんかなー?でっかいタワーになってるんだよ」
まあ、代償(?)の話は置いといて、タワーとはね。ギルドというもんだから、てっきり酒場みたいなものかと。
「高いのか?」
「うん、すごく。聞いた話だと、350階まであるらしいよ」
さ、350階!
現実世界にももちろん超高層ビルはあるけれど、そんなに高いものはないはずだ。第一、一階分3メートルとしたら、1キロ超えるじゃないか。
「そ、そりゃ高いな・・・」
俺はここで、ある疑問を持った。
「・・・そういや、それだけ高いのに、なんでこっからは見えないんだ?」
するとアルカはふふふと笑って、
「ギルドのまわりには結界が張ってあってね、まわりからは見えないようになってるんだよー。あ、でも結界の中から外は覗けるけどね」
と答えた。
へー、なんとも高性能な。
たがうなずける話でもあった。もし万が一街の中に凶竜が入ってきたら、真っ先に馬鹿でかい建物を狙うだろうから。
「そりゃ不思議だな。で、あとどれくらいでつくんだ?」
「んー、そろそろかな?だけどここらへんは道が複雑でねー・・・」
そう言ったアルカの顔は、だんだん引きつっていく。
───もしや。
「・・・迷子、か?」
するとアルカはあわててこっちを振り向き、
「ばっ、んなんじゃないわよ!ただ、これからの未来に繋がる・・・そう、わたしたちの新たなる扉を探し求め・・・」
「ようは迷子ってことだろ」
「うっ、うううっ!迷子じゃ・・・迷子なんかじゃ・・・っ!」
アルカは否定しようとするが、真っ赤になった顔では説得力は皆無だ。俺は追及をやめ、ギルドにたどり着ける方法を模索し始めた。
「んで・・・まず、方角はどっちなんだ?」
「え?・・・それは、こっちの方だけど」
そう言ってアルカは右側を指差す。
「いやっ、待って、こっちだったかも」
そう言って指差したのは、左側。
「んーー?いやいや、それともこっち・・・?」
今度は斜め後ろ。
「おいおい、どっちなんだよ・・・。案内されてる側の俺が言うのもなんだけどさ・・・」
「い・・・や・・・こっち、だっ!うん、よし、こっちに行ってみよう。うん、きっと、そこが正解だ、うん」
「『うん』多くないか?」
「いや、そんなことないって、うん」
・・・・・。
返す言葉を無くした俺は、とりあえずアルカが最後に指差した方向に歩き始める。
とことことこ。
しばらく、無言で歩いていた。
そして思ったのだが・・・
「車、少なくね?」
もうそこは先ほどの大都会というイメージとはかけ離れた、古ぼけた一軒家ばっかりの住宅街だった。
「・・・まあ、大丈夫。きっと」
「その安全性は何が保証する?」
「わたしの勘」
ならだめだ。出会って数十分だが、わかりきっている。
「いや、これ本当に着くのか?なんかもう、都市拠点を抜けそうな気も───」
言い終えぬうちに、俺を不思議な感覚が襲った。
ぐにゃりと、一瞬視界が揺れる。そして、体がスウウッと緑色の光に包まれ、無重力をも感じた。
「おわっ!?」
なんだこの感覚は、と言いかけたになったところで、アルカが言った。
「やった、結界の中だ!」
「はぁ!?」
「うん、わたしの勘は間違ってなかった!ほらユウト、着いたじゃん」
・・・何も言い返せない。
だがまあ、ここまで連れてきてくれたのはアルカの厚意というものだろう、それには感謝しなければならない。
「ま、まあアルカ、ありがとう」
するとアルカは微かに笑って、こう答えるのだ。
「さ、行こう?・・・わたしたちの、"たったひとつの家"へ」
俺は、次なる一歩を踏み出した。




