初戦闘
ザッ。
俺は、見渡す限り果てしなく続く大草原に、足を踏み入れた。
さて───
都市拠点とやらは、どこにあるのだろうか。
とりあえず、進んでみるか。
俺はそう決めて、まっすぐ進んでみた。
何かしらの街に着けば、都市拠点の場所も教えてくれるだろう。
(それにしても・・・ほんとに何もないな・・・)
ただ一面に草が生えているだけで、他には何もない。岩のひとつも、川のひとつもない。
(俺の意識───いったいどこに?)
あの出来事から、昔のことを思い出そうとしても、黒いもやのようなものがかかって全く思い出せない。名前や言葉など、生活に必要不可欠なものははっきりと覚えているが、それ以外の記憶は全くない。記憶喪失ともまた違ったものだ───
俺は危険を察知した。
「!!」
慌てて後ろを振り返る。
すると、眼前には剣が───
すんでのところで、俺はバックステップで避けられた。
(っ・・・こいつは・・・)
ゴブリン、とも言えない。
姿かたちは人型だが、外見は生き物から遠く離れているような──そんな恐ろしい見た目だった。
「敵かっ!?」
その生物──仮にゴブリンと呼んでおこう、ゴブリンは俺を目掛けて剣を振り回してくる。
(な・・・なんだなんだなんだ!?)
一応もらった装備はあるが、全く使い方がわからない。もらったのは金属にしてはなぜか軽い防具と、ダイヤモンド(?)製の二本の剣だった。ただ普通に振り回すのでは重すぎるし、第一俺は"戦い方"というのが全くわからない。なにしろ現実世界ではそういうことは全くないのだから───
(せ、せめて何かしら対抗手段があれば・・・)
そう考えているうちにも、ゴブリンは俺に突進してくる。
「ガアアアッ!」
相当剣の扱いに慣れているのか、遠心力や反作用までも味方につけて斬りかかってくる。いまは避け続けているが、当たるのは時間の問題だ。
(くそっ・・・どうすりゃいいんだよっ!)
後ろに何もないのが救いではあるが、それを生かせるかどうかは定かではない。
「ガアアアッ!」
再び雄叫びを上げ、俺に突進する。
くそっ、攻撃手段はないのかよ!?
格闘───?
え?
俺は、二本の剣を投げ捨てた。
「そおおおおらっ!」
ゴブリンの顔目掛けて、俺は思いっきり拳を振るった。
「グガアアァッッッ・・・!」
よし、怯んだ!
この隙に───
カラン。
俺は剣を拾う。
・・・・。
って、重おおおお───────っ!!!!!???
あっ、あっ、せっかくの隙が!
ゴブリンは顔についた血を払い、ものすごい形相で俺を睨んでくる。
・・・まあ、さすがに怒るよな。
もう一度やらせてくれるほどやさしくはないだろう。
「っておいいい─────っっ!?」
さっきよりもスピードがアップしている。怒りで殺意が増したからだろう。
くそ、どうすんだよどうすんだよどうすんだよガブリエル!
(あ、苦戦してるみたいですね)
なんだよ、声は届くのか。
・・・って、そんなのんきなこと言ってる場合じゃなくて!
「そうだよ、こいつどうすりゃいいんだよ!?もらった剣は重すぎるし」
避けるのと喋るのと聞くのを同時に行うというのは、相当大変だ。だから早く応答してくれ。
(えっ、まさか剣で戦うつもりなんですか?)
は?
(あれはまだあなたの筋力では使いこなせません、だから剣で戦うのは非常に難しいですよ?)
先に言え─────っっっっ!!!!
「じゃあどうすりゃいいんだ?俺もう保たないぞ!?」
ゴブリンの剣は俺の体ギリギリを通り過ぎていく。つまり、おれが余裕を持って避けることができなくなっているということだ。
(落ち着いてください───まず、指を敵に向かって突き出してください)
んな、危険なこと───!?だかやるしかないのか──!
「こ、これでいいのかっ」
(はい、次に"何で"倒したいのか考えてください)
な・・・"何で"!?
「そりゃ、いったいどういうことだ!?武器は剣しか持ってないぞ」
おれはうろたえる。
(誰が武器で戦うと言ったのですか。魔法ですよ、魔法)
魔法?
あの、ファンタジーの?
───アホか。
「魔法って・・・あの唱えると発動するやつか」
(それ以外に何があるのですか。まあ、こちらの世界では詠唱超術と言うのですが)
んなことどうでもいい!
「それより、魔法の使い方を教えてくれ!」
(ですからまずは、何で倒したいのかを考えてください。炎か、雷か、氷か)
なんだよ、「何で」ってそういうことか!
正直今は倒せるならなんでもいいが、将来性のことを考えると───
「風だ」
ガブリエルは、数秒考え込んだ。
(風、ですか・・・。はい、いいでしょう。では、ゴブリンに向かって───)
向かって・・・?
(~~~~と唱えてください)
なるほど、この指の指す方向に魔法が発動するのか。
よし───
(~~~~!)
その瞬間、俺の指先から荒れ狂う風が吹き出し、それがゴブリンに襲いかかりゴブリンの体が大きくのけぞった。
おお・・・。
・・・って、何か重要なことを──
(あ、ひとつ言い忘れました、それには決定力はありませんから)
それだ─────っ!!
だが、ゴブリンが地に倒れている今、絶好の攻撃チャンスと言えよう。
俺は、先ほど投げ捨てた剣を拾う。
「そぉらああああぁぁぁ・・・!」
そして、ゴブリンの体に剣を突き刺す。
その瞬間。
パァァァァァン!
ゴブリンの体は光の粒子となって、その場に四散した。
「なんだ・・・今の・・・」
それはゴブリンの禍々しい体からは想像もつかない、とても綺麗なものだった。
(この世界では、絶命したモンスターは"光の元素"となってその場に消えるのです)
へぇー。
俺は、しばらくその場に残る光の残滓を眺め続けた。
追記・傍点振れました。
触るの字間違ってましたね。
どうでもいいですけど。
「あの出来事」のところが、傍点を触れなかったため傍点なしになっています。
ご了承ください。