異世界転生した話
目を覚ますと、虹が見えた。
「あれっ、ここは・・・?」
見れば、俺は今雲の上に立っているようだ。近くには、どこへ続くのであろうか、白亜の階段があった。
(あれ、俺、なんでこんなところに・・・?さっき、何があったっけ・・・?)
俺は必死に思い出そうとするが、霧がかかったように──いや、まるで漆黒に塗りつぶされたように記憶を思い出せない。
俺が懸命に思い出そうとしていると、どこからか──
「こんにちは、と言うべきなのでしょうか・・・?」
へ、天使?
いや、それにしては人間味がありすぎる。こいつは、なんかこう、もっと・・・
(事務官、みたいな?)
まさにそれが相応しかった。
とりあえず、俺は事務官──いや、天使と思しき人(?)に聞いてみた。
「えっと、ここは・・・?俺は、一体・・・」
すると、事務官──おっと、天使の顔つきが急に鋭くなる。
「今から話すことは、本当に起こったことです。しっかりと聞いていてください」
え、え、えっ?どういうことだ?
動揺する俺に構わず、天使は続けた。
「まず、名乗っておきましょうか。
私の名はガブリエル。そちらの世界では色々ゲーム等に使用されている名前ですが、実際には私のことを指します──そう、私は『神の人』を意味する、大天使ガブリエルです」
えっ、おい、ちょっと待て。どういうことだよ、ガブリエルって!?
「何かと複雑ですが、しっかりと聞いていてくださいね。
まず、あなたは、先ほど謎の男に鈍器で頭を殴られました。そのまま意識はなくなり、たった今病院に運ばれているところです」
おい、待て待て待て。意識がないのなら、今こうして天使と話していることが色んな意味でおかしいし、俺は今ここにいる。つまり、病院へ運ばれている──すなわち、救急車の中にいるというのは矛盾している。もっとも、この現状自体がまずおかしいのだが。
「これが、今のあなたの状況です」
そう言って、ガブリエルは持っていた杖を使って俺の状況とやらを見せてくれた。
なるほど──たしかに救急車の中にいるな。・・・って、そうじゃなくって!
「おい、なら今ここにいる俺は・・・!?」
ガブリエルは、俺の質問を制止した。
「それは後でわかります、今は私の話を聞いてください」
はぁ・・・。何がどうなっているのやら・・・。
「それで、ここからが重要です」
え、あれ?ここまではさほど重要じゃなかったの?
「謎の男に殴られた衝撃で──かはわかりませんが、殴られた際に異世界にあなたの記憶が飛び散ってしまいました」
・・・ほぇ?
俺は、理解するのに数秒を要した。
ふんふん。
衝撃で、俺の記憶が、異世界に飛び散ってしまった、と。
ええ、はい。
・・・・・・ 。
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!????
「正確には、飛び散ってしまったのは──あなたの、」
続く言葉は最悪だった。
「意識です」
んみゃ。イシキ。イシキイシキイシキ・・・。
意識?──いや、まさかね。
「そのため、あなたは────」
その先は、もっと最悪だった。
「異世界から意識を取り戻さないと、永遠に目を覚ますことが出来なくなります」
ひゃーおそろしー。
なんかもうね、実感わかないよ。
俺、夢でも見てんのかな?
いや、夢じゃなくて地獄か・・・?
「飛び散った意識は、このように──」
ガブリエルは、そういって水晶玉のような、青い宝玉を見せる。
「欠片となって異世界に点在しています」
はあ、さいで。
「ですが、この話にはリスクがあります」
ふーん。
「もし、異世界で死んでしまったり、意識の宝玉──意識輝玉を誰かに破壊されてしまうと、現実世界のあなたに影響が及びます」
えーっと?
「あ、一つ言い忘れてました──ここから説明した方が良かったですね。
まず、地球と言ったでしょうか──あなたの世界には、当然あなたが存在します」
なんか、話がやばくなってきたぞ!?
まあ、ガブリエルが今言ったことは本当だ──というか、それ以外に他にどんな意味があるんだよ。
「そして、地球とは別の世界──つまり私たちの世界です、そこには俗にいう"魂"が別に存在しています」
はーん、魂ね。
「そして今、肉体を地球で損傷してしまったため──あなたの魂と会話しているのです」
魂と、会話ぁ?
なんか、頭がくらくらしてきたぞ。
俺は、ガブリエルが言うことを必死に理解せんと試みる。
えーっと・・・、俺は今地球の肉体を損傷した、と。そこまでは理解できる。
で、その際に異世界に俺の意識が飛び散ってしまった。それで、それを集めなければならない。
んーーーーちょっと待ってくれ。
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
なるほどね。まあ、現実味は果てしなく薄いが、一応、とりあえず、今は信じておこう。
そんでもって、俺たちの世界とは別の世界に、俺の魂が存在すると。そういうことだな。
──ふむ、魂ね。
何とも言えないな。
さらに、ガブリエルは続ける。
「ここまではいいでしょうか。
では、本題に戻ります。率直に言うと──その、あなたの魂で、異世界にある意識輝玉を集めなければなりません」
ほらね、やっぱり。そう言うと思ってたよ。さっき言った通りだよ。
「それで、さっきの現実世界への影響というのは───
前者なら、現実でも即死亡」
前者ってことは・・・異世界での死亡か。まあ、それは分かる。
「後者なら・・・その、破壊された意識輝玉に内蔵されたあなたの意識がなくなります」
うーーーどういうことだ?内蔵?なくなる?
「ご安心を、意識輝玉を全て破壊されない限りは死亡しませんので」
ということは、全て、そのコン何とかを破壊されると死ぬのか。
つまり、それには俺の一部に意識が入っていて、それがなくなるとその部分だけ記憶がなくなるのか──。
例えば、4歳の時の俺の意識が内蔵されたそれが破壊されると、俺から4歳の時の記憶がきれいさっぱりなくなるってことか。
・・・ちょっと待てよ?
「おい・・・ってことは、どうやったら現実世界に帰れるんだ?そもそも、魂だけでどうやって動くんだ──?」
ガブリエルは、丁寧に説明してくれた。
「現実世界に帰る方法、それは二つあります。
一つ目は、意識輝玉を全て集める。この場合、強制的に、即現実世界に意識が移されます」
つまり、集めた瞬間に俺は現実世界で目覚めるってことか。
「二つ目は、私の力で強制送還させる。
私に、好きなタイミングで『現実世界に帰りたい』と言ってくれれば、私の力を使いその時点で地球に戻ることができます」
なるほどね。
「ですがその場合、異世界に残っていた意識輝玉は全て消えてしまいます。それでもよければという感じですね」
ははーん、1歳の頃の記憶はいらないとか、そういう時に使えるのね。
「また、前者の場合。これは、集めた意識輝玉と破壊された意識輝玉の合計が総数──つまり全てに達した場合にも適用されます」
ああ、破壊されても大丈夫ってことね。
「それと、動く方法ですが──これも私の力を使い、"仮の体"を生成し、あなたの魂と当てはめます」
ならよかった。どうするのかと思ったよ。
「あと、これも一応説明しておきます。
異世界で意識輝玉を集めないという選択肢もありますが──その場合、一生覚醒することができませんので」
なら、まずその選択肢はないな。
だがガブリエルはそれを見越したのか、さらに説明した。
「加えてもう一つ。異世界に意識輝玉があると言いましたが──ほとんどは異世界にいる凶竜が持っています。そのため、意識輝玉が欲しければ力ずくで奪うしかないでしょう」
うわぁ。
「もちろん、そのための装備等はこちらで用意しますが──」
ガブリエルはいくらか溜めて、言った。
おそらく、俺の運命を変えるであろう言葉を。
「───どうしますか?」
どうするか、だって?
そんなの、決まっているだろう?
「─────」
俺は、ガブリエルに一つのことを伝えた。
ガブリエルは頷き、俺を異世界へと送りこんだ。
今日はここまでにします。
ルビ改訂作業だけなので、明日同じ時間にも更新できると思います。