俺が殴られた話
「いやー、雄人、今日はすごかったな」
俺の親友である、田中正人が俺に言った。
「サンキューな。あの時は俺も必死でさー・・・いや、必死なのは当たり前なんだけどさ」
今日は、俺たちが所属するサッカー部の大会があった。
前半、1ー1の同点になってから後半どちらも一点も決められず、結局延長戦となった。
延長戦開始早々、俺たちのチームは一点を失った。
もうだめだと、誰もが諦める中、俺は無我夢中でボールを追いかけ、グラウンドを走り抜け、そして二点を取り返した。
2ー3──俺たちのチームは、見事優勝を遂げた。
「わかってるさ。だけど、みんな諦めてる中、お前だけすごかったぜー」
「いや、褒めても何も出ねーよ。だって決勝戦まで行ったんだから、優勝しないと嘘だろ?」
俺は、笑って言う。これが俗に言う、微笑むってやつか。
「全く、お前はすげーよ・・・。ま、県大会出場だし、頑張ろーな」
俺と正人は家が別方向なので、ここで別れる。
「じゃな。また明日」
ふう・・・。
いやー、今日は疲れた!
我ながら、よく頑張ったとは思う。何せ、四ヶ月前まで補欠だったんだからな。
ザッザッザッ・・・。
俺は道を歩いていた。
だが──例えるなら、それは地獄へのレッドカーペットか──
いや、レッドカーペットという言い方はよそう。これだと、いいこともありそうに聞こえるからな。
なぜ、地獄かって?
それは、その時の俺に聞かれても分からない。この1分後に、あれが起きるんだからな。
ふわーと、大きな欠伸をした。
すると、道端から──
「ハッ!」
後ろから、短い呼気が聞こえた。
何かと思って後ろを振り向くと・・・
振り下ろされる鈍器。
(え・・・?)
ガアアァァァァァン・・・という音が、俺の頭の中に響く。
その次に見たものは──
血だった。
(うっ・・・)
頭から流れる血と共に、俺の意識も薄くなっていく。
そのまま、そこにドサッと倒れる。
「・・・」
俺を殴った謎の男──男とは分かった──は、無言でその場を離れた。
少なくとも、俺はそう感じた。