9月11日(月)・神宮司パーティー・3
「はーい、じゃあ始めますねーー!」
螺旋階段の一番上に神宮司さくらが立っている。これもいつもの開始合図だ。
「今日は全員参加ということで、さくらは嬉しいです。それとーー、親友の七海と諒真くんが付き合い始めたということでーー!」
おおおお……と声が上がり、俺たちの周りに人垣が出来た。みんな俺たちを囲んで拍手を始めた。マジやめてくれ恥ずかしすぎる……。
でも今回はそんなこと言ってられない。
「ありがとうございます」と軽く頭をさげた。
「そんな幸せ一杯の七海から、提案を頂ました。今日はプリンセススペシャル! 女の子は全員ドレス着用だよ? 男はどうでもいい~~」
会場から笑いが上がる。見渡すと女のクラスメイトは全員何かしらのドレスを着ていた。
これが新鮮で、俺は少し好きなんだ。服装とメイクを変えると人は簡単に別人になると思う。
男はスパダーマンから五人戦隊系、それに執事系まで揃っている。あの一番奥の片眼鏡、コスプレ力高すぎて、誰だか……
「え?」
俺は思わず言った。七海がどうしたの? と俺の腕を引っ張った。俺は目線だけで、その片眼鏡の男をさした。
「? スタッフさん? カッコイイねえ」
七海は普通の反応だ。カッコイイ? 俺も片眼鏡しようかな……じゃなくて。
「あれ、椎名の所の従者、榊だろ。忍者の」
「えっ?!」
七海が俺の腕にしがみついた。そしてマジマジと見た。クラスメイトに混じって、普通に立っているが……間違いなく榊だ。
俺はあの細い目が苦手で、それだけでよく分かる。蛇のように鋭くて、細いからどこを見てるのかよく分からないし。
「ごめん、私全然わからないや」
えへへと七海は笑った。んだよ、見分けができないヤツだなあ……と思ったが、俺は絵を書くので、人を記号としてみるクセがある気がする。
目のパーツ、顔の形、鼻の形、身長。それを脳内に記号として入れてるから、人の顔を覚えるのは得意だ。
「あれは榊だ。間違いない」
来られないかわりに榊を送り込んでるのか。ひょっとして毎回? ……椎名ならやりかねないなあと思う。
榊さんの目線は、こっちを見ていない。ひとりをずっと見ている。視線を追うと
「げ」
俺は思わず七海を引き寄せた。
榊さんの視線の奥に立っていたのは、カビゴンこと、三本亜佳音だった。
今日は真っ黄色のドレスで、その色たるや、狐のようで……。
「あ、カビゴンさん」
七海が失礼だけど正解を口にした。
「なあ、前も居たか」
俺は耳元で聞いた。
「前も……そうだ、居たかも知れない」
七海は唇に触れながら呟いた。
神宮司の親会社が三本地所なのだ。パーティーに参加していても、何もおかしくない。
でもナノマシンの食べものを、あの子は食べなかったのか? だったら入れる可能性は多いにある。俺は二人を遠目で見た。
神宮司は階段の上で演説を続けていた。
「今回はプリンセススペシャルということで、じゃじゃーん、景品に本物のガラスの靴を準備しましたーー!」
螺旋階段の一番上で神宮司が深紅の布を引くと、そこには光輝く靴が置いてあった。透けていて、本当にガラスの靴だ。
「片方じゃなくて、両方作らせました。サイズは24。本当に履けるよーー!」
神宮司の煽りに女子がみんな「履きたい-!」と声を上げた。横をみると七海も「すごーい、本当にスペシャルだね!」と目を輝かせていた。
女子は本当にこういうのが好きだよな……と男性側を見ると「履いたら割れるんじゃね?」と普通のコメントをしていた。正直俺も同意見だ。
「今回はゲームをして、最後に残った人にこの靴をプレゼントしたいと思います。男性が買ったら、好きな女性にプレゼントしてみたら?」
会場からきゃーっと悲鳴が上がった。
でもその瞬間に、俺の頭にアイデアが閃いた。
そして七海と繋いでいる手を上げて、大きな声を出した。
「なあ、秘密ゲームしないか」
「おっと、七海と手を繋いだままの諒真くんから、秘密ゲームにしないかという提案がありました」
周りから拍手が上がった。俺はゴクンと唾を飲んで続けた。
「それで悪いんだけど、俺と七海を王様にしてくれないか?」
えーー? と周りからブーイングが上がる。
俺は再び繋いだままの手を上げた。その手に注目が集まり、静まった。
「俺たちを王様にしてくれたら、勝者には俺たちの秘密……昨日の夜のことを……話す」
「おおおおおおお!!!」
叫び声を上げたのは男子生徒だ。
なんだよお前ら、そんなにネタに飢えてたのか。
グッ……と腕を引っ張られて横をみると、七海がまっ赤な茹でタコのような表情で俺にしがみついていた。
俺は繋いだままの手に力を入れた。
「超、エロイぞ!!!!」
開き直って叫んだ。
「おおおおおおおおお!!」
「当てつけんなーーーー!!」
両方の叫び声が響いていたが、俺たちは王様として螺旋階段を上れることになった。
秘密ゲームとは、俺たちの中で流行っているゲームだ。
王様が選択肢を用意する。そしてAかBに別れていく。最後の選択肢を正しく選べた人間の勝利だ。
その人だけに王様の秘密を明かす。だから秘密ゲーム。
俺はここで、犯人をあぶり出せるような質問をしようと決めた。
もうパーティーは始まるのだ。
犯人も今更何か出来ないだろう。
入れるならもう手に持っているし、それをどうでも良い調理人に任せると思えない。
きっと今、自分の手で持っている。俺はその可能性に賭けた。
「会場にいらっしゃる方……そうですね、神宮司のスタッフの方も、ぜひ一緒にどうですか」
そう声をかけることで、片眼鏡の榊も、三本亜佳音も参加せざるを得ない状態になった。
七海が不安そうに俺の方を見る。
「お手並み拝見?」
俺の横で神宮司が笑っていたので
「お前も当然参加だろ!」
と笑った。マジでーー?と良いながら神宮司は螺旋階段を下りていった。
ふと見ると、廊下に朝倉先輩の姿見えた。こっちを見ている。
「朝倉先輩!」
俺は螺旋階段の上から声を張り上げた。朝倉先輩が驚いたように、こっちを見た。
「参加しませんか」
俺は真っ直ぐに見て言った。
朝倉先輩は迷わずに廊下から中に入ってきた。
これで役者は揃った。俺は唇を噛んだ。




