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9月11日(月)・神宮司パーティー・1

 姉貴に車を出してもらい、神宮司の屋敷に向かった。

 七海はアザを隠すためにハイネックのワンピース、俺はシャツにズボンというシンプルな服装だ。

「体調は? 大丈夫?」

「熱は下がったし、平気だ」

「諒真じゃないよ、七海ちゃん!」

 んだよ、俺じゃないのかよ……と思いつつ、確かに七海の体調は気になった。

「平気です。本当に何も変わらない感じ。でも……本当にありがとうございます。こんなすぐに作って貰えて……」

 姉貴は赤信号で車を止めて、バックミラー越しに後ろを見た。

「研究者として気になったことを続けていただけなんだけど、実験なしで飲ませるなんて怖すぎて、姉ちゃんパーティー一緒に行こうかな」

「変な動きして、犯人に警戒されたくないんだよ」

 俺はかぶせるように言った。

 七海もずっと気にしていたのはそれだ。

 二度目にループした時も、もっと調べたかったけど、事が大きくなって犯人がもっと広範囲に何かをする可能性を恐れていた。

 だって元々【なぜそんなことをするのか】分からないのだ。

「汐里さんって、ロマンチックなんですね」

 七海が俺と繋いだ手に、くっ……と力を入れた。

 姉貴は車を発進させながら、えー……と笑った。

「私、こんな状況じゃなかったら、三本地所の方の話、素敵だなって思えた」

「社長さんね。七海ちゃんのアザをみてすぐに行って確認したんだけど、全く開封せずに、瓶のまま。それに専用の入れ物まで作ってて……なんかただの遺伝子情報が入った粉なのに、私も感動したよ」

「お骨とかより、身近かもしれませんね」

 元々ロマンチックな七海は口元に手を置いて、ほんわりとした表情で語った。

 俺は今だ信じられないけど、研究者三人が雁首揃えて言うんだから、もうそれでいい。

 七海のアザはマウスの元と全く同じだった。

 事実だけは、信じられる。


 車が神宮司の屋敷についた。

 俺たちはキツく手を握り合った。さすがに出先で日本手ぬぐいで縛り付けるのは説明に困るので、クラスラインに「付き合うことになった」と流した。 

 さっきから俺たちのスマホはポンポンポンポン通知が止まらない。でもそんなのは良い。どれだけでも笑ってくれて構わない。

 一緒にいることに違和感を感じないでいてくれるなら、それで良いと思った。

 もう開きなおって「一瞬でも離れたくないから、お前ら邪魔すんなよ!」と俺の部屋で手を繋いでる写真までアップしてやった。

 ヤケクソだ。

 少し違う通知音が鳴った。

 椎名だ。

【ちょっと待てよ、今日神宮司のパーティーだろ。俺も行こうかな】 

 背中にヒヤリと冷たい汗が流れた。

「なあ、七海」

 俺はその画面を七海に見せた。

「神宮司のパーティーに、椎名くんは一度も来てない。前々回も、前回も。……何もしらない諒真が答えるように、答えるのがいいよ」

 七海が固い表情で言う。

 何も知らない俺……。そうか、七海はいつもそうやって頑張ってきたんだよな。

 何も知らなかったら、俺はこの文章にどうやって反応するだろう。

【来られるもんなら、来てみろよ】……かな?

 七海に画面を見せると、薄く微笑んで頷いた。

 すぐに返信が来た。

【……行かねえ】

 やっぱり! すぐに文章が続く。

【なんだよ、運動会の後に消えたのは、こういうこと? 俺の応援合戦も見ないでさー】

 そうだった。俺たちは運動会のあと、クラスラインを全て無視して部屋に閉じこもり、突然コレだった。

 ……聞きたい。椎名に色々聞きたい、話したい。毎日何時間も話してられて、俺の一番の親友なのに。

 椎名がナノマシンまき散らすなんて、そんなバカなことしないだろ?!

 俺は胸がキツく締め付けられて、苦しくなった。

 でも、前々回も前回も椎名は居ないなら、今回もそのほうが良いだろう。

【ごめん。明日ゆっくり話すわ】

【パーティー終わったら来いよ】

 恐ろしい速度でレスがくる。いつもどれだけ待っても返信がこない椎名にしては珍しい。

 でも今日は……。俺は七海の手を握った。

 七海の体のアザの進行も気になるし、七海と少しでも一緒に居たかった。

【考えとく】

 骸骨が考え込むスタンプと共に送りつけた。

 既読のみついて、返信は途絶えた。ごめん椎名。

 俺はスマホをポケットにねじ込んだ。

「……行こう」

 俺と七海は手を繋いだまま、車から降りた。そして姉貴に手を振った。

「終わり次第迎えにくるから」

「お願いします」

 車が去って行く向こう側に、もう一台の車……。

 俺たちは息を飲んだ。そこから下りてきたのは、朝倉先輩だった。

 チラリと七海を見たが、七海は静かに首を振っている。前は居なかった朝倉先輩……あの運命の日に学校にいた朝倉先輩が神宮司のパーティーに来ている。

 ……おかしいだろ。 

 俺は眉をひそめた。

 だって神宮司と朝倉は敵対してるはずだ。神宮司もスーパーを持っていて、派閥争いもあるし、朝倉は椎名が側だろ?

 なんで朝倉先輩が神宮司の家に来てるんだよ。立ち尽くしている俺たちを朝倉先輩が見た。そして軽くお辞儀して、中に入っていった。他人行儀……と思ったが、思い出した。

 俺が椎名に朝倉先輩を紹介してもらったのは【このパーティーの後】なんだ。前回で言うと【明日】。

 だから朝倉先輩は、俺を知らないんだ。

 いや、名前だけ知ってるって言ってたかな……椎名に聞いて。

「なあ、前も朝倉先輩は神宮司のパーティーに居たのか?」

「見てない。音も聞いて無い……と思う」

「じゃあなんで今回は……?」

「そんなのわかんないよ」

 俺たちは強く手を握った。

「なあ、ひとつ聞かせてくれ。七海は前々回教室から逃げ出した時と、前回と、今回で、このパーティーは三回目なんだろ。こうやって、来てる人が違うとか、状況が違うことは、沢山あったのか」

「今回は前々回と前回と、全然違うから、ちょっと比較にならないね。前々回と前回を比べても、結構あった。とくに汐里さん関連で……」

「姉貴?」

「諒真は全然気が付いて無いかも知れないけど、汐里さんって一度帰宅してから、深夜に何度も出掛けてるの。 バイクの音で分かるんだけど」

「え? 夜中に? 全然知らなかったな」

「前回すごく多かったよ。それに前々回は諒真に告白してなかったけど、前回から……彼女だし……そこも全然ちがう、かなあ……」

 七海は握っていた手を緩くして、指先を摘まんだ。

 俺はフワフワと動かされている七海の掌をキツく握った。

「俺、何も分かってなくて、ごめんな。七海は一生懸命だったのに……ごめん。酷い事も沢山言ったよな」

「何も知らないんだもん、当たり前の態度だよ。でも……今はもう全部嘘も秘密もないの」

 七海は目に光る涙を指先で拭いた。

 その手も握る。

 そのまま抱き寄せた。

 七海の小さな耳が口元にあって、唇をすり寄せた。

「ちょっと……諒真……何してんの!!」

 七海が俺の胸元で逃げだそうとする。

「心拍数上げてる……アザが消えるように……」

「何ソレ!」

「自律神経を整えてる……」

「乱れてる気がする!!」

 俺は頭をずらして、オデコとオデコをぶつけた。

「愛でしょ?」

「……なんなのあんた、誰なの、キャラ変わってる」

 七海に冷たく言われて、俺は爆笑してしまった。そう、俺はただ、七海と笑いたかっただけなんだ。

 それに七海と時を戻って全てを理解してから、七海が可愛くて我慢できない。


「……わあ……すごいものを見せつけられた……」


 振向くと浜島が立っていた。今日も右手にはうまい棒を持っている。

 これから美味しいものが食べられるのに、また駄菓子かよ。

 そこまで思って、今日の料理は食べないほうが良いことを思い出した。駄菓子をたらふく食えよ浜島。

 高い音を立ててうまい棒を食べている浜島を、マジマジと見てしまう。

 正直俺はその姿に、胸が痛くなる。

 最後に浜島を見たのは、教室で七海に殴られて床に沈んだ姿だ。

 もうあんな姿を見たくないと、強く、強く思った。

 七海も同じ思いなのか、いや、七海はもっとキツい。だって浜島を殴り殺したのは、七海なのだ。

 繋いでいる手が小さく震えている。

 

「マジで付き合いはじめたの? どっちから告ったのー?」

 浜島は食べ終わったうまい棒のゴミをズボンのポケットに入れて言った。

「俺から」

 俺は七海と手を繋いだまま、強く握った。

 七海がツイ……と俺の方を見る。前回は七海が恥ずかしい思いをして、俺を守ってくれたんだ。今回は俺の番だと、素直に思える。

「お前らほんと……やっとかよ」

 浜島は、うまい棒臭い息をはー……と吐いて言った。

「そんなに長く変な距離だった?」

「早く付き合っちまえって、クラス中が思ってたぞ」

 マジか? ツイと浜島が近づいてきて、俺のズボンのポケットに何かを入れた。チラリと見るとリバーサイドラブホテルの割引券だった。

「お前!」

 俺はそれを見て叫んだ。

「三番館に来てくれたら、俺今日当番だから、タダのしてやるよ!」

「超悪趣味だな、すさまじいな」

 俺たちは笑いながら神宮司の屋敷の中に入っていった。

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