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創造がもたらすアルテ  作者: 菖蒲
第1章
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天賦の才

前回に引き続き、異世界の説明話と、タイトルのとおりナツメとサツキの天賦の才についての話です。


ツッコミどころが多々あるかとおもいますが、その際は遠慮なく言ってください!

 

 「その前に、2人ともこの薬を飲んでちょうだい」



 ナツメとサツキは1枚の白いプレートと1粒の錠剤をそれぞれ手渡された。

 紅白の錠剤で市販でも良く目にするカプセルだ。


 

 「これは?」


 「エンプティを呼び起こす薬よ。生まれた赤子が稀にエンプティを自生させていないことがあるの。その際に飲ませる薬だから、たぶんあなたたちでも作用すると思うわ」



 通常であれば、生まれたばかりの赤子は、生と共にエンプティを授かり自生させるが、稀に自生させていない赤子がおり、その際は強制的に体内に生成させるために紅白の錠剤を飲ませるとのことだ。

 そうすることによって、体内に眠っていたエンプティを呼び起こし、生成させるのだという。

 要するに異世界からやってきたナツメたちも、その薬を服用すればエンプティが生成されるのではとエミは考えた。

 特に副作用もないとのことならばと、2人は錠剤を飲み込んだ。



 「どんな感じ?なにか感じるかしら」



 エミにとってエンプティは物心がついた頃には既に体内に生成されていたため、エンプティが体内に存在していない感覚を知らない。エンプティを生成されていないナツメたちにとって、生成された瞬間というのはまた違う感覚なのだろうかと少し興味があった。



 「変な感じだ。全身の皮膚を包み込むように薄い膜を張り巡らされたような.....けど、悪い気分じゃない」

 (こくこく)


 「どうやら上手くいったようね」



 紅白の錠剤は、異世界からきた人間に対してもちゃんと作用したようだ。

 体内にエンプティが生成され、エタが身体を巡る感覚に慣れないナツメとサツキは、胸元に手を当てたり、お互いの身体に触れ合ったりしていた。

 生成される前と後ではやはり感覚は違うものなのかと、そんな2人をエミは興味深そうに眺める。



 「さて、無事にエンプティが生成されたことで本題よ。2人ともさっき渡したプレートを手にとってちょうだい」



 いまだ慣れない感覚に戸惑うナツメたちは、たどたどしい動きで先ほど手渡された白いプレートを手に取る。



 「その白いプレートはあなたたち2人の天賦の才と力量を測るものよ。また、測定後のプレートは上部に使用者の名前が刻まれ、以降この国では自分の存在意義の証とも成るものだから、肌身離さず持ち歩きなさい」


 

 エミの説明によると、白いプレートは人の才を表すものだという。プレートの表面に色が配色され、裏面には力量が表示される。

 生まれながらにしてエンプティを体内に生成すると、それと同時に技能、才能といった天職の才まで定められるとのことだ。

 表面の配色は、紫ならば才を持たない者、藍色なら製造に長ける才を持つ者、青色なら構築に長ける才を持つ者、緑色なら勤勉に長ける才を持つ者、黄色なら教授に長ける才を持つ者、橙色なら指揮に長ける才を持つ者、赤色なら武術に長ける才を持つ者。


 裏面の力量は表面に配色された色と同じ色の円型が表示され、その円形が大きければ大きいほど力量があると判断される。


 補足になるが、この白いプレートは幾世紀も前に、一人の科学者によって作られた。当時、試作段階で万人の協力を得て、実験を行った。その結果、7色が確認されたという。赤橙黄緑青藍紫の順に色の割合が少ないことから、赤が一番重宝されたことは言うまでもないだろう。また、当時の実験では万人の中から1人だけが赤色のプレートになったというほど赤の武術の才は希少価値が高い。当時から現在に至るまでその秩序は変わらず受け継がれている。そして、エミは「ちなみに私は赤色よ」と加えて得意気に話す。



 「説明は以上よ。何か質問はある?」


 「ひとついいか、天賦の才は必ずそれに関係することに身をおかなければならないのか?」


 「いいえ、そうではないわ。あくまで定められた才を示すのがプレートであって、やりたい仕事や学びたいことがあれば、その道に進むこともできるわ」


 「要はプレートに拘束力はないってことか」


 「そういうこと。サツキは何か質問はあるかしら?」


 (ふるふる)


 「そう、それじゃ始めましょうか。まず右手を真っ直ぐ前に差しだして、プレートをそっと空中に立てかけるように置いてちょうだい」



 空中に置くという、ファンタジーな言葉に若干戸惑いながらも、言われたとおりプレートの表面が自身の目の前に来るように持って来てそっと手を離す。


 すると天井からワイヤーなどで吊されるていないにも関わらず、プレートは空中でピタリと止まった。



 「お、おっおぉ!」

 (ぱちぱちぱち)



 非現実的な現象が目の前で起きたことに、本当に異世界に来たんだと実感し、興奮するナツメとサツキ。

 

 

 「次にエタを右手の手のひらに集中させてみて」



 全身を纏う薄い膜を右手だけに集中させる。そうすることによって、エタが徐々に全身から吸い上げられるように右手へ集まると僅かに右手が輝き始めた。

 それを確認したエミは最後の指示を出す。

 

 

 「集まったエタを目の前のプレートにぐっと押しつけるイメージで放出しなさい」



 右手に溢れんばかりに集まったエタを白いプレートへと押しつけた。

 徐々に身体からエタが抜けていくのを感じ、それに応えるようにプレートの色が変色し始めた。


 カッ!とプレートが光り輝くと、次の瞬間には白いプレートが別の色へと変色していた。



 「よし、できたわね。さて、サツキのプレートの色は....」



 サツキが変色したプレートを手に取り、エミに向けて見せる。その手には鮮やかな赤色に染まったプレートが握られていた。



 「まぁ!赤色ね!それに裏面にはギリギリまで円形が現れているじゃない!すごいわ、サツキ!」



 赤色は武術に長けた才を持つ者の証。万人に1人と言われる赤は、現代の世界でも特に重宝されるということから、サツキは一瞬にしてこの世界の勝ち組と認定されたといっても過言ではない。



 「ご両親は武道とかしてたの?」


 (お母さんが古武道の師範だった)


 「こぶどう?よく分からないけど、きっとそれはお母さんから譲り受けた才なのね!」



 同じ赤色同士、キャッキャッと2人の美少女が喜びを分かち合っているのを遠目に、ナツメは羨ましそうに見つめていた。



 「そういえば、ナツメはどうだった?サツキが赤なら、もしかしたらナツメも」 


 「どうせ.......どうせ、おれなんて、どこにいっても平凡なんだ.......ちくせう」



 ぶつぶつと独り言を呟き、うちひしがれたように頭を垂れているナツメの手元には、紫色に変色したプレートが転がっていた。



 「あ....ま、まぁそいうこともあるわよ」


 (ごしごし...じー...ごしごし)



 エミは乾いた声で慰め、サツキは見間違いかな?と何度も目を擦っては紫色のプレートを見直す。しまいには叩いたり、光に透かしたりするが、当然色が変色することはない。



 「ねぇサツキ、お父さんは何か得意分野はあった?」

 

 (......ふるふる)


 「ということは...ナツメの”それ”はそういうことでしょうね」


 「あんのぉ、おやじぃぃいいいい!!」



 妹のサツキは母親の武術の才を受け継ぎ、兄であるサツキは父親の平凡を受け継いだことが、プレートによって証明された。

 元居た世界では、記憶力と料理の腕前を除ければ全て平凡のナツメは、どうやらこの世界に来ても平凡という名のレッテルはついて回ることになりそうだ。

 ナツメも思春期の男子ゆえに、人より優れた”力”というものには憧れている。注目の的とまではいかなくとも、人より秀でた何かが欲しいと思い、願うが現実はそんなに甘くない。しかもそれは一番かけ離れた結果となって現実を目の当たりにした。


 その後、妹のサツキにあれやこれやと励まされどうにかナツメは立ち直ることができた。



 「さて、エンプティも生成できたし、己の才と力量も知ることができたところで、作ってみましょうか。アルテを」


 「いきなり作れるのか?」


 「ちょっとしたコツが必要だけど、明確なイメージができればある程度補填できるわ。大丈夫、ちゃんと助言はしてあげるから、ほらほら物は試しよ。」



エミに促され、ナツメは重い腰を上げる。



 「はいはい、プレートは服に仕舞って、ナツメはこっち。サツキはこっちね。こら、いつまでもしょぼくれてないでシャキシャキ歩く!」



 立ち直ったとはいえ、自分の平凡さを改めて証明され、どうにもやる気にならないナツメは表裏一面紫色になったプレートを胸に仕舞いながらエミに引っ張られる。傍から見れば、世話の焼ける弟と、面倒見のいい姉にも見えるかもしれない。もっとも、身長差は歴然としているが。

 

 

 「最初は私の見よう見まねでしてみて。手始めに包丁を生成してみましょうか。まず右手を胸元に添えるように置いてみて」


 

 本日何度目かになるエミの指導を仰ぎ、ナツメとサツキは言われたとおりに自分の胸元に手を添える。



 「次にエタを先ほどと同じように手のひらに集中させて。エタの使用量は手のひらくらいでいいわ」



 プレートのときとは違い、全身からではなく手のひらだけに集中させる。エタが徐々に一点に集まると僅かに右手が輝き始める。



 「いい調子よ。エタの使用量は少ないと生成されないから注意してね。次に明確なイメージをするわ。今回はまず柄尻の部分から、次に柄元、刃元、刃先、そして最後に切っ先」



 サツキは普段料理をしていないため、細かなイメージは浮かばない。しかしそれはサツキにとって些細なアドバンテージに過ぎなかった。何せサツキは才色兼備、英俊豪傑の人間、故に「これくらい造作もないこと」と内心嗤った。

 そして瞬く間に柄元から切っ先を生成してみせた。



 「はぁ~...すごいわね。初めてのアルテが完璧に生成できる人なんて、そうそういないわよ」


 (コツはつかめた)



 ぐっ!とサムズアップするサツキ。その常人離れに感服すると、エミは横目にナツメをみた。



 さて、サツキはだいたい予想できていたけど、問題はナツメのほうね。



 サツキが完璧に包丁を生成させ終えたのに対して、ナツメは未だに柄元さえも生成できていなかった。否、生成していなかった。



 イメージっていったってなぁ、包丁の種類はあじ切や、小出刃、貝裂鎌型薄刃、麺切etc.......たくさんありすぎて困る



 どうやら、イメージする包丁が多すぎて生成するまでに至っていなかったようだ。



 まぁ何でもいいか。とりあえず小出刃で



 イメージする包丁が決まり、柄元から明確に脳内でイメージする。



 柄尻.......柄尻、よし。茎....よし。次に柄元、刃元....次、平。次、刃先



 ナツメの記憶に刻まれた情報は本物同様、何から何まで正確にインプットされている。ゆえに、ナツメにとってイメージに対して明確という言葉は存在せず、ただ単に記憶の引き出しを開けたらそこに在るというものだった。



 順調順調.....最後にきっさ...き............



 順調に生成されていた包丁は、刃先を生成した段階で制止した。

 そんな光景を見ていたエミは訝しげな顔をする。


 

 「どうしたのかしら?もう少しで完全に生成できるのに」



 サツキに問いかけるが、小首を傾げるだけ、サツキにも理解できないみたいだ。



 ...なんだ、この感じ........どこかで感じたことが....................なんか良くわからないが、少し落ち着いた。



 春の日に照らされて凍りついた氷が溶けるように、ナツメはリラックスできた。そして、瞬く間に最後の切っ先をしっかりと生成した。



 「おめでとうっ、ちゃんと生成できたじゃない!時間は少しかかったけど、完璧に生成できなんてすごいわ。明確なイメージができればできるほど、生成する時間もそれだけ短縮されるから、そこは要練習ね」


 (なでなで)



 サツキは良く頑張りました。と背伸びしナツメの頭を頑張って撫でてくれた。



 「ふぅ...なんとかな。イメージはすんなりできるんだが、選ぶのに時間がかかってしまった」


 「選ぶ?」


 「あぁ、ほら包丁っていっても種類がいろいろあるだろ?どれを生成しようかと躊躇った」



 エミはナツメの言葉に呆気に取られ、そんな微細なイメージができるのかと驚愕した。つまりは、生成しようとすれば、瞬時に生成できたと言うことだ。

 見た目はそこらへんにいる人にしか見えないのに...人は見かけによらないのね。なんて、失礼極まりないことを思うエミであった。

 


 そのあと更にいくつかのアルテを生成する練習をしたナツメたちは「一休みしましょう」というエミの提案により、街へと来ていた。



 「私の行き付けのお店があるの。そこへ行きましょう」


 

 そういって道案内をしてくれるようにエミは前を歩く。

 そんなエミの背中姿を見つつ、異世界の街並みをナツメは見渡す。


 

 「なんだかおれたちが居た世界と少し似ているな」


 「そうなの?そういえば、縮地法のことも知っていたし、もうしかしたら色んな接点があるのかもしれないわね」



 ナツメたちが歩いていた街並は西洋の街並みに似ていた。ルネッサンス様式の柱と梁の装飾と屋根はドーム場になっている家や、バロック様式の派手な装飾と、凸凹の強調がされた建物が多く見受けられた。

 

 そんな他愛もない話をしながら歩くこと15分、エミの行き付けの店である、看板に小鳥の木彫りが飾られた小戯れた喫茶店へと着いた。

主人公(妹)最強の始まりか!?


残念ながらナツメには秀でた才能はなかったみたいです。

しかし、安心してください。主人公最強は外しません、外せません。


無数の知識はこの世界ではある意味最強となり得るものになりそうな予感がする!


私事ですが、最近仕事中に小説のことばかり考えてしまい、仕事に集中できません...。なんてこったい。


さて、今後の予定についてですが、明日はいつもどおり更新する予定です。そして、土曜日はこの先の話を大まかに決めて、可能であれば2話更新しようかと考えております。


毎週更新が、いつの間にか毎日更新になっている...。


次回はアカデミーの説明話となる予定です。

もうしばらく、説明話が続きます。

よろしければ、次回もご愛読いただければ幸いです。

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