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創造がもたらすアルテ  作者: 菖蒲
第1章
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異世界の摂理

異世界の説明話です。

理解し難い部分もあるかとは思いますが、ご了承ください。

また、投稿が漏れていたプロローグを挿入しましたので、よろしければそちらも併せてお読みください。

 

 それから少し時間は進み、今はエミリーの住んでいる家のリビングに来ていた。



 「改めまして、私はエミリー。よろしくねナツメ、サツキ」


 「はい、宜しくお願いします。エミリーさん」


 (こくり)


 「もう、敬語はやめてよ。私たち同じ年でしょ」


 「いえ、そのような恐れ多いことは。私如きがエミリー様にタメ口だなんて」


 「そう、ならいいわ。そこにおなおりなさい、ナツメ。忘れたというならもう一度その身体に刻み込んであげる」



 そういってエミリーは黒いオーラを漂わせながら席を立つ。

 ナツメは血相を変えて謝罪を口にした。



 「ごめん!ごめんなさい!それだけは勘弁して!!」



 兄の威厳を保つことはできても、男としての威厳は皆無だ。

 だが、それも仕方の無いことといえば仕方の無いことだろう。つい先ほどエミリーに女性の恐怖というものを身をもって教えられたばかりなのだから。



 「まぁ私も少しやりすぎたとは思っているわよ......」



 誰にも聞こえないようにぼそっとエミリーは独り言のように呟いた。

 どうやらエミリー自身、ナツメに対してキツく当たってしまったことに少なからず罪悪感はあったようだ。それもそうだろう、ああいったナツメの態度はすべての原因はエミリーが泉で水浴びをしていたことなのだから。


 ナツメは一命を取り留めたのかと安堵し、一気にあがった心拍数を戻すように落ち着かせ、エミリーへと向き直る。



 「よろしく、エミリー。おれは鹿波ナツメ。こっちは妹のサツキだ」


 (ぺこり)


 「ええ、よろしく。サツキから少しだけだけど話は聞いているわ。それからエミでいいわよ」


 (こくり)

 


 どうやら先にサツキからこれまでの経緯を聞いていたみたいだ。

 サツキが小学生のときに両親を交通事故で亡くしたこと、その両親の死がキッカケで声が出せなくなったこと、それから今日まで兄であるナツメと2人で暮らしてきたこと。そして昨日になるだろうか、一冊の真っ黒い本が発した光に覆われ気がつけば大木の目の前にいたこと、その後に泉でエミに出会ったこと。

 サツキはなにからなにまで話したんだな...。まぁ隠すことでもないからいいか、と割り切り再度エミへ目線を配る。


 

 「たまに聞きなれない言葉とかあったけど、なんとなく事情は把握したわ」


 「聞きなれない言葉?」



 はて、そんな言葉がどこにあっただろうか。サツキが話せない以上、紙か何かに書いて経緯を説明しただろうが、その上で小難しい話でもしたのだろうか。

 

 

 「そうよ、しょうがくせい?とか、とらっく?とか、たしかに私の通うアカデミーでも奨学制度というのはあるけど、しょうがくせい......なんて言葉は聞いたことはないわ。それにとらっく......っていうのは、エンプティとかアルテか何かかしら?」


 「おいおい、何の冗談だよ。小学生だぞ?エミお前学校行ってるんじゃないのかよ」

 (こくこく)


 「もちろん行ってるわよ?そんな落ちこぼれではないもの」


 「だったら、なんで小学生がわからないんだよ」

 (こくこく)


 「そう、それよ。さっきサツキにも似たようなことを言われたけど、むしろこっちが聞きたいわよ。しょうがくせいて何なの?とらっくて何なの?」


 

 訝しそうな眼をキッと細め、さぁ教えてちょうだい!とでも言うようにテーブルに手をつき身を乗り出した。



 「何だと聞かれてもな。その前に逆に教えてくれ。さっきエミが言ったエンプティて何だ?」


 「質問に質問で返すなんて........まぁいいわ。って、えぇ!?エンプティを知らないの!?」


 「いや、意味はわかるよ。ただ、いきなりエンプティと言われても何を指しているのかサッパリだ」

 (こくり)


 「はぁ、頭痛がしてきたわ。あなたたち、よくそれで今まで生きてこれたわね」



 エミは眉間を指で押さえつつ、盛大なため息をついた。



 なんなのこの子たち、この世界での根源になるエンプティを知らないなんて。生まれてすぐに授かり一生を共にするものなのに......。あれ、でも待って。さっきサツキに聞いた話では大木の前に居たとか。あの辺にある大木といったら。それにサツキは声が出せないからって今時珍しい直筆なんて.....。いやいや、まさかね。こんな子たちがそんなわけ....。



 エミは一人で百面相を作り、う~ん、う~~んと唸っている。

 しばらくそんな光景が続き、少し落ち着いたのかはぁ......と深くため息をつく。



 「ねぇ、ナツメ。ひとつ聞きたいんだけど、いいかしら」


 「ひとつと言わず、納得のいくまでいくらでもいいぞ?」


 「ありがとう。でもひとつでいいわ」


 

 一言ナツメに断りを入れて、



 「まさかとは思うけど...あなた...頭強く打つなんてした?」


 「いや、大木の目の前に現れて着地したのは顔面だったから頭は打ってないな」


 「それよ!きっとそれよ!顔面を強打した衝撃できっと脳がやられちゃったんだわ!」



 それよ、そう、そうに違いないわ!エミは一人で納得がいったといった様子でテーブルに肘を付きその上に顎を乗せルンルンと顔を左右に振る。

 ナツメとサツキはそんなエミを痛いものを見たといった表情で見つめた。

 


 「な、なによ!私が間違っているとでも言うの!?」


 「まぁな。その間違いを指摘するには値しないほどに。そもそも、おれたちには共通の記憶があり、落下してくる前の記憶もある」


 「うっ、で!でもで!そうじゃないとなると他に考えられるのはひとつしか...ない、もん......」



 本当に理解していなかったのか、ナツメに自分の考えの過ちを指摘されると急にシュンとなり縮こまってしまった。

 エミもサツキほどの身長しかないため、その小柄な身体がいっそう小柄に見える。


 

 「他にってことは、まだあるんだな?教えてくれないか」


 「......ええ、でもこればかりは口で伝えるより、直接体感してもらったほうが早いと思うわ」



 そういって、部屋を出ようと扉を開け、肩越しに振り返り「ついてきて」と一言残し、リビングを出て行った。

 ナツメもサツキもその言葉に素直に従い、エミが出て行った扉から後を追うようにリビングを出た。


 リビングから出た先は螺旋状の階段になっており、地下深くへと伸びていた。

 ところどころに松明らしき明かりが見え、薄暗くはあるが足元が見えないほどではない。一つ一つ階段を踏みしめるように歩き、螺旋階段の終わりが見えてきた。



 「本当はこんなことしなくてもいいんだけどね」



 エミが小声でそう呟いたが、ナツメは何のことを言っているのか検討もつかなかった。

 その言葉に特に聞き返すことも無く、螺旋階段の最深部まで来た。


 エミが扉に手をかけそっと押すとギィと木材の擦れる音がし、扉を空けると光が差し込んだ。開扉されたその向こうには、ただただ広く広がる空間があった。

 優に50平方メートルはあるだろうか、1平方メートルの石材板がぎっしりと床に敷き詰められていた。



 「ここは私の家の訓練場。日ごろから鍛錬を惜しまないために自分で作ったの」


 自分で作った?ということは、数年掛かってこの施設と作り、これほどの土地と施設を作れるほどの資金を持っているエミって一体.....。そういえば口調がなんだかお嬢様っぽいような。


 「ナツメ、じっとしててね」



 そうナツメに言うとエミはナツメの胸元に手を置くと、瞳をそっと閉じ、瞑想するかのように小さく息を吐いた。



 「ふぅ...やっぱり。まさかとは思ったけど」



 エミはそっとナツメの胸元から手を離すと、小さく呟いた。思い当たる節があるらしく、少し目を伏せる仕草をみせると、意を決したように視線をナツメとサツキに向ける。



 「ナツメ、サツキ。あなたちこの世界の住人ではないのね」



 それはなんともファンタジーな一言だった。

 この世界の住人?はて、この子は何を言っているのだろうか。

 ナツメとサツキは互いに見合わせ、小さく「ぷっ」と小馬鹿にしたように吹き出した。



 「な、なによ!?また私の考えが間違っているとでも!?」



 さすがに自分が言っていることが正常でないことは理解しており、エミは顔を真っ赤にし反論する。



 「こ、この世界って、同じ地球人じゃないか」



 2人は笑いのツボに入ったらしく、ケラケラとお腹を押さえながら悶えていた。「ちきゅう?そんなの知らないわよ」そう不機嫌そうに呟きながら腕を組みそっぽを向くエミ。

 ずっとケラケラと笑い続ける2人にさすがに堪忍袋の緒が切れそうになったのか、目尻がピクピクと引きつる。



 「ナツメ、あなたは私を怒らせる天才のようね。いいわ、そんなに身をもって知りたいなら教えてあげる。始めからそのつもりだったしね。サツキは少し離れてなさい。」



 「あ、これはやばい...」ケラケラと笑っていたナツメはその笑顔がひきつり、冷や汗を垂らした。

 しかし、つい先ほどのオシオキが脳裏に焼き付いており、逃げるという選択肢は始めから存在しなかった。覚悟を決めたナツメはもう逃げも隠れもしないというように、サツキから少し離れた位置で身構えた。



 「あら、いい度胸ね。その勇姿に免じて手加減してあげるわ」 



 エミは口端をニィとつり上げると、自分の胸元に手を置きそっと息を吐いた。次第に胸元が僅かに発光し始め、その光が徐々に収まると、いつの間にかエミは右手に小太刀を逆手に持ち構えていた。



 「どこを見ているのかしら?」


 「なッッ!?」

 (!?)


 

 ナツメは首に冷たい鉄の嫌な感覚を覚えたと思ったら、エミの嫌みったらしい声が耳元で囁いた。



 「おいおい、なんだよそれ。縮地か?それにその短刀いつ出したんだよ」


 「あら、縮地法のことはご存じなのね」



 首筋に添えられた短刀を引きながら、満足そうにナツメから離れた。



 「これが、あなたたちの居た世界とここは違う世界という証拠よ」



 おもむろに放り投げられた短刀は空中で一回転すると、刀先から綻ぶようにサラサラと消えていった。 



 「どういうことだよ」


 「物わかりの悪い子ね、まぁ仕方ないか。いいわ、一から全部教えてあげる」



 エミが教えてくれたことを要約すると以下のとおりだ。

 人は生まれながらにしてエンプティと呼ばれる空の器を体内に宿している。エンプティに形はないが、確かに体内に存在していると伝えられている。そのエンプティとは別に、エタニティ(通称エタ)が体内を循環しており、そのエタを圧縮し、エンプティによって生成されるのがアルテ。アルテは生成者の意志で解除することができ、解除されたアルテはエンプティになり自然と生成者の元へと戻るという。先ほどエミが右手に構えていた短刀がそうだ。



 イメージとして、エタを空気、エンプティをバルーン風船、アルテを完成された動物のバルーン風船と考えると分かりやすいだろうか。エンプティにエタという名の空気を送り込み、空気が入りきったら口を縛り、生成者の手によってエンプティが形を変えたバルーン風船がアルテだ。アルテである完成されたバルーン風船が割れると空気であるエンプティに戻る。



 補足すると、エンプティは体内に1つしか存在せず、エンプティを分離させてアルテを2つ同時に生成することは可能だが、一度生成されたアルテとは別に追加でアルテを生成することは不可能とのことだ。また、アルテを生成する際には明確なイメージが必要になる。明確なイメージをすれば自分の身の回りに限られるが、生成する位置さえも意識した場所に展開することができる。逆にイメージが不安定だと生成されないし、生成されたとしても、不完全で使い物にならない。加えて、アルテの質量が多ければ多いほど、比例して消費するエタも多くなる。エタは個人差はあるものの、どの者にも限界量は存在し、多量に消費すれば体内のエタが枯渇し、明確なイメージが難しくなる。また、短時間に何度もアルテを生成するのは精神的負担に繋がり、エタの消費量が限界を迎えると、死に至ることもあるという。


 そして、先ほどエミがナツメを触れたときにエタの流れを全く感じなかったため、ナツメはこの世界とは別の世界から来たと考えたとのことだ。



 「なるほどな、けど突拍子なく異世界だと言われても、実感も湧かなければ、どうやって異世界に来たのか甚だ疑問だ」


 「それについては思い当たる節があるわ。あなたたちあのご神木の目の前に現れたのよね。となると、本に何かしらの仕掛けがしてあって、それが作動した結果この世界に迷い込んだと考えるのが妥当でしょうね」



 あの真っ黒い本は手に取ったときから少なからず違和感を覚えたが、まさかこんなことになろうとは...。あの古びた本屋にさえ入らなければ。

 過去の自分に幾度なく後悔するナツメ。そんなのは後の祭りだと理解しながらも、思わずにはいられない。


 

 「加えて、あなたたちが大木と呼んでいた木はこの世界のご神木に当たり、ご神木には文字通り神様が宿っていて、その周辺は神域の聖地になってるわ。だから、あそこに現れたってことは異世界から迷い込んだってことも理解できると思ったの。」 


 「身近に感じることができる神様っているのな...。日本では神様なんて縁のない虚空の存在だと思ってたぞ」


 「まぁ私も本当に見たことは無いし、どんな神様が宿っているのかも知らないわ。でも、神域があるのは確かよ。まぁ、この国では神様を信じない人が大半だけどね。それから、実感が湧かないって言ったけど、それを今から試してみましょ」



 エミはごそごそとポケットに手を入れ、何かを取り出しナツメたちに見せるように前に掲げる。その手には、2枚の白いプレートが握られていた。

説明話ということで、結構スムーズに書けました。

前回は5000字弱だったので、今回は少し多めに書きました。


次回は今回説明しきれなかった世界観とナツメとサツキのアルテについて触れます。

さてさて、ナツメは最強たる器なのか。わくわくです。

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