6th Card 復讐者
前回の続きです。
攻撃を受けた木崎はどうなったのか。
どこからか飛んできた自動車にぶつかったが、なんとか無事でいた。正直なところ痛いことは痛いのだが、我慢できない痛みではなかった。絢十が発砲することで衝撃を殺してくれたおかげかもしれない。いや、そもそもそれ以前に、守護者の力のおかげだと考えたほうが妥当だ。
自動車を飛ばしてきたのは別のモンスターだった。やはり他にも近くにいたのだ。それが頭にあったはずなのに、敵の攻撃を受けてしまうとはなんとも情けない話だろう。
「木崎、大丈夫か」
絢十がおれのところへ駆けてくる。
「なんとかな。そっちのモンスターはお前に任せたぞ」
「おう」
自動車が飛んできた方向はどちらだろうかと思い、周囲を見回してみる。モンスターはすぐに見つかった。大きな一つ目が特徴的だ。加えて、見た目からして明らかにパワータイプなモンスターだ。見た目だけで判断してしまうのはよくないだろうか。
よし、人を守るためにマナを使おう。おれは絢十の得物、つまりは銃をコピーさせてもらった。刀と銃、これで近距離でも中距離でも戦うことができる。
モンスターが道にある自動車を棍棒で薙ぎ払いながら近づいてくる。動きは速くない。パワー重視のやつは、動きが遅くなってしまうのがお決まりのようだ。
そんなモンスターに向けて発砲する。攻撃は棍棒で防がれてしまった。その瞬間に、モンスターとの間合いを詰める。敵が攻撃態勢に入る前に、こちらから刀で攻撃。手応えあり。どうやらおれには、瞬間的速さなら負けない素質があるようだ。
だが休む間もなくモンスターが迫ってくる。距離を保つために狙撃するが、それでもやつは攻撃を耐えた。そして自身の武器であるはずの棍棒を投げてきたのだ。回転はないためかなりの重量があると見える。当たったら相当痛いだろう。しかしスピードに関しては決して速くはない。容易に避けることができた。
投げられた棍棒にばかり意識が向かい、モンスターが向かってきていることに気づかなかった。棍棒を持たないやつの動きは速かった。棍棒をかわしたままの体勢で、迫り来るモンスターへの反応が遅くなったおれはまんまと捕らわれてしまった。
なんて馬鹿力だ。全く抜け出せない。
意外な助太刀だった。おれを捕らえて放そうとしなかったモンスターの気をそらしてくれたのは、先ほどの警察官だった。彼の発砲のおかげでモンスターの意識がそちらに向かい、その隙におれは抜け出すことができた。
ありがたいことではあるが、守る側が助けられるというのもおかしな話だ。やはりおれはこの役割にふさわしくないのかもしれない。いや、そんなことを言うのはお門違いか。警察官はただ「市民を守る」という役割を果たしただけのことだ。
そんなことよりも、いまはとにかくこの警察官を逃がすために尽力しなくてはならない。モンスターに彼が狙われている。効果の時間切れのせいかコピーした絢十の銃が消えてしまったが、黒のカードを使うことにした。
この警察官を守りたい。おれの意志に応じてか、ついにカードが現れた。それをかざす。【瞬速斬】発動。
気がついたときには一太刀浴びせた後だった。しかし、モンスターはカードへと還元されていなかった。ダメージが充分ではなかったということか。全く攻撃が効いていないわけではない様子だが。
あと数撃で倒れるはずだ。ならばやるしかない。刀を振り上げる。そのときなにかが近づいてくるのを感じた。刀を振り下ろそうとする手を止める。見ると左側からやってくる女がいた。古代人ではない。そいつは金色の長刀を携えていた。
この前、絢十を見たときと同じ感覚がする。直感的にわかったのは、この女も守護者の役割を背負っているのだな、ということだ。女はこちらに目掛けて走ってくる。止まる気は全くなさそうだ。
「モンスターはわたしが倒す!」
彼女の薙刀でモンスターが薙ぎ払われた。こう思ってしまうのは失礼だが、女性なのになかなかなパワーの持ち主だ。守護者の力のおかげでもあるかもしれないが、それでもこのパワータイプなモンスターを地面に叩きつけるとは。
女は、叫び声と共にモンスターへ攻撃を続ける。これではどちらがモンスターなのかわからない。
最後の一撃を食らったためか、モンスターはカードへと姿を変えた。カードに近づいて、女はそれを拾い上げた。
「こいつじゃない」
女は低くつぶやいた。もしかすると、探しているモンスターがいるのかもしれない。
絢十がやってくる。どうやらモンスターを倒してきたようだ。やはりあのモンスターは絢十が相手をして正解だったというわけだ。
「そっちはどう、だ?」
言ってから、絢十はなにかを察した。説明は後でもいい気がしたので、おれは言った。
「ひとまずモンスターは彼女が倒してくれた。そんなことよりもあの警察官を安全なところへ連れていこう」
おれの提案に絢十はうなずいた。しかし、女は明後日の方向を向いている。
「君はどうする?」
「まだこの近くにモンスターがいるはずなの。わたしはそいつを倒すまではここから離れられない」
この女が一人でモンスターと戦いに行くことに、いささか不安を感じる。先ほどの戦いぶりを見れば任せられる気もするが、こいつは後先考えない戦いをしそうだった。
「ならオレ一人で運ぶから、木崎と、えーと……」
絢十が言葉に詰まった。その理由を察したのか、女は口を開く。
「瀬戸紫苑」
「……木崎と瀬戸さんはモンスターのほうをよろしく」
絢十はバイクに警察官を乗せて去っていった。それを見届けることなく、瀬戸は足を動かした。
「おい」
あとを追った。
人間を守るためにモンスターを倒すことは役割ではあるが、ここまで積極的に動けるだろうか。ましてや、先ほどのモンスターへの攻撃を見ると、どうも使命感に駆られての行動というふうには見えなかった。怒りによる行動だ。
瀬戸が足を止めるのを見て、おれも同じく足を止めた。ついにモンスターを見つけたのだ。
前方に立つモンスターは見覚えのあるやつだった。最初に出会した、オオカミの姿に似ているやつだ。
「あいつはわたしが倒す。君は手を出さないで」
先ほども似た台詞を聞いた気がする。
「どうしてそこまでこだわる」
「……あのモンスターは、仇。わたしの友だちや、家族、みんなの仇」
おれがあいつを逃がしてしまったために傷つく人を出してしまった。そういうことなのか。それはつまり、半ばおれが殺してしまったみたいなものだろう。彼女がモンスターへ過剰な攻撃をするのはおれへの恨みでもあるのだ。
モンスターが迫ってくる。特性がスピードであることは間違いない。おれはすぐさま距離を取る。素早く動くやつと戦うには、こちらがより素早く動くか、あるいはあいつの動きを抑えなければならない。敵の攻撃が速いのなら、一旦、こちらが様子を見るべきだろう。だが瀬戸はそうしなかった。感情のままに、モンスターの突撃へ突っ込んでいってしまったのだ。実に無鉄砲なことだ。
相手の武器は爪、それに対して瀬戸は長刀。リーチや破壊力では瀬戸のほうが勝っている。しかしながら、スピードでは決定的に負けてしまっているのだ。当然、モンスターは瀬戸の攻撃をかわして、隙を突いてくる。間一髪で攻撃を避けたが、瀬戸が何度も避けられそうには思えなかった。
「お前一人じゃ勝てない。おれもやる」
黙って見ているわけにはいかなかった。モンスターの、彼女への攻撃を防いでやる。
「邪魔しないで!」
「おれにもやらせてくれ。あいつはおれが逃がしちまったモンスターでもあるんだ」
そう言った瞬間、瀬戸の目の色が変わったのをおれは見逃さなかった。初めて、人からそんな眼差しを向けられたかもしれない。親の仇を見るような、そんな目だった。
「それならなおさら無理。そんな人の腕なんて信じられるわけない。いいから君はなにもしないで……」
瀬戸がモンスターに向かっていく。そんなふうに言われてしまっては、なにも言い返せなかった。
瀬戸は休むことなく、敵に攻撃を当てようとする。しかし、モンスターのスピードには全くついていけず、攻撃は虚しくも空中を斬ることくらいしかできていなかった。彼女の攻撃が当たらないだけならまだいいほうだが、敵の反撃を食らってしまうと、さすがにおれも動かずにはいられない。
敵の反撃が彼女に、すんでのところで当たりそうになった。おれはそれを捌いてやった。あれこれ文句を言われてしまうのだろうが、目の前で人が傷つくのを黙って見ているよりかは何倍もマシだ。
「なにもしないでって言ったでしょ……」
ぼろぼろになりながらも彼女は強がってみせた。大した威勢だ。
「なにか策はあるのかよ」
その問いかけに、すぐには返事ができない様子だった。
おれとしては、このモンスターを倒すのは誰であっても構わない。しかし倒すのならいましかない。瀬戸がこの調子では、それができるとは言い難いものがある。やつは自分一人の手で倒すことにばかり意識が向かい、敵に勝てるかどうか全く考えていない。
ではおれならできるのか。
残念ながら、その問いにも自信を持って「イエス」と答えることは難しい、先ほどのパワータイプのモンスターとの戦闘でマナのほとんどを使ってしまったのだ。青のカードは使えても黒のカードは使えないかもしれない。いま、マナを作ることも考えてはいたが、敵がスピードタイプとなるとそんな余裕はなかった。
残された選択肢は一つしかない。おれが彼女をサポートし、彼女がトドメを刺す。それがいまできる最善の一手だ。問題は彼女がこの作戦に乗るかどうかだが。
そんなことは気にしていられないか。不本意ではあるだろうが乗ってもらうしかない。
「おれがあんたをサポートする。だからあんたがトドメを刺してくれ」
「いや。わたし一人の手で……」
「いまここでやつを倒さないとおれの二の舞を演じることになるぞ」
要するに、彼女と同じ目に遭ってしまう人間を出してしまうということだ。しかも、彼女自身の手によって。それはおれも絶対に避けたい。
「……わかった」
渋々承知してくれた。
「トドメを刺すときは、あんたの強い意志に応じて出てくる黒いカードを使ってくれ」
「黒い、カード? さっきの青いカードじゃなくて?」
「まあ、青いカードも使ってみるといい。そのときになればわかるよ」
上手くは説明できない。感覚でわかってくれるだろうと信じている。
おれはモンスターに刃を向けた。二度目の戦い。速さが上の敵には先手必勝で攻める。瞬発力には自信があった。初速ならばおれのほうが敵より上だ。
攻撃が見事モンスターに当たる。続く二撃目を食らわせようとしたところで、向こうが本領を発揮してきた。自慢のスピードで距離を取られてしまう。
ところが、このモンスターの動きは速いが、頭の回転までもそうであるとは言い難いものがある。瀬戸は、モンスターがおれから離れるまさにそのタイミングを狙っていた。
いつの間にか彼女の手に握られていた、その黒のカードが消えた。得物である長刀が光をまとう。力が刀身一点に集中している。その状態で瀬戸はモンスターに襲いかかる。
たった一撃だった。それでも、とてつもなく重い一撃に感じられた。それはさながら巨人の一撃、【タイタンハンマー】とでも名づけようか。
攻撃を食らったモンスターは青白く光り、やがて青のカードとなって消えた。
「わたしが、倒したの?」
我に返った瀬戸は、やはり自分が倒したことを覚えていなかった。どういうわけかは知らないが、あの黒いカードと使うと意識がなくなるのだ。
「あの青いカードが、あんたが倒したっていう証拠だよ」
瀬戸は落ちている青のカードを拾い上げた。
「この二枚はどうすればいいの」
「あんたが持っていればいい。戦いはまだ続くんだ」
「やっぱり、役割っていうのは本当なんだ。これで終わり、というわけにはいかないんだね」
おれはうなずいた。モンスターはまだいる。守護者の役割を背負ってしまったからには、人間を守るために戦わなければならない。しかし、おれにはその資格が本当にあるのだろうか。
「木崎だっけ、君の名前」
「ああ」
どうしておれの名前を知っているのだろうかと思ったが、そういえば先ほど、絢十がおれの名前を呼んでいた。そのときに覚えられたのだろう。
「忘れないから」
怒りも憎しみも感じられる一言。それでいて、おれ自身の罪を確認させるものだった。おれはこれを背負って戦わなければならないのだ。




